九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository

The Morphological Cognateship between Old Japanese and Austronesian (2)

板橋, 義三 九州大学言語文化部

https://doi.org/10.15017/5537

出版情報:言語文化論究. 11, pp.165-190, 2000-03-01. Institute of Languages and Cultures, Kyushu University バージョン: 権利関係: Studies in Languages and Cultures, No.11

「古代日本語と鋤彫ストロネシア諸言語における一形態の同源性(2)*」

(The Morphological Cognateship between Old Japa難ese and Austronesia難(2))

板 橋 義’三

§5 オーストロネシア(主にオセアニア)諸言語の1の様々な機能

これまでのオーストロネシア比較言語学の進展によりオセアニア祖語の自立的接辞*三 が復元されているが,これは主にインドネシアとメラネシア諸言語の接辞や名詞を基盤に して復元されたものである。またこの接辞は指示的な代名詞とも考えられ,文中での名詞 類と動詞類との関連において割に自由にその位置を変えることができる(崎山1990:206)。 この指示的代名詞は以下に示すようにオーストロネシア諸言語では様々な機能を発達させ ているが,この発達の方向性とその発達形は日本語のそれとあまりにも酷似しており,こ れは単なる偶然の一致でもなければ,借用でもないように思われる。それは以下で考察す ることにする。ここでの記述法は伝統的な記述方法で行う。

[13冠詞用法 [1」]定冠詞用法 この定冠詞用法はオーストロネシア諸言語にはあまり多く見られないが,、それでも指示 的代名詞*iから発達したものと見られる。この用法自体は本来のものではないが,それ でもその指示的面から分かるように,またその側面を直接残存させていることから,本来 の用法に最も近かった用法ではないかと思われる。 チャモロ語(Cha斑orro):i[Toppi登g 1973:132]

(1) まpatgon

l patgo難 [定冠詞]子供 「その子供」

(2)mag◎f i k◎raso澄一hu magof i k◎raso曲u うれしい[定冠詞]心一こ1単所有] 「私の心は嬉しい」

*:この表題の論文(1),(3)はそれぞれ九州大学大学院比較社会文化研究科紀要「比較社会文化第6巻」, 九州大学言語文化部紀要「言語科学No。34」に掲載されている。この論文は本来1998年「語源探究(6)」 に掲載される予定であったが,明治書院において1999年6月時点でその学術誌自体が急遽刊行見直しに なったため,ここに掲載するものである。

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ビアク語(Bねk):i[崎山1990:206] ωromawa i romawa 1 少年 [定冠詞] 「その少年」

◎以下言語の例文は二,三の例のみを挙げ,後は言語名とその引用先だけをあげる。

臼.2]人名冠詞 この機能は多分[1.肩の定冠詞用法から派生したものではないかと考えられる。それは 意味的分布の制約が定冠詞のどんな名詞にも使用できるより広い分布を示していたものか ら人名冠詞の生物,特に人間のみに使用できる冠詞になったからである。しかしながら, この機能はそれほど一般的ではなく非常に限られた言語に見られるのみである。それはも う一つの代名詞的用法をもつsiが主にこの人名冠詞的用法をうけもっているからであろ うと考えられる。ここでは1例文を示す。 モタ語(Mota):量[崎山1990:206] iVat i Vat [人冠]Vat 「ヴァト」

[2]人称代名詞用法 [2.1]一人称単数代名詞用法 1は一人称単数代名詞として使われるが,これはオーストロネシア語族の多くの言語で 三人称単数代名詞から派生している。次の例を見てみる。 ソンソロノレ言吾(SonsoroD:i [Capell l969:38-9]

(1) ibaむγφ [1969:38コ (2) i tei matakむ [ユ969:38コ

i ba償γφ i tei matak並 [1単]見る/見た [1単]ないこわい 「私は見る/た」 「私はこわくない/なかった」

トラック語(Trukese):i[Capd11969:55] (1)lfad甑ad並pφ1unりe.i (2)lbwe dta pφ1uη.om l fad道fadむPφ1燗e-i l bwe tita pφluり一・m 切情]かぶる帽子一[1単所有] [!単][未来]かぶる帽子一[2単所有]] 「私は帽子をかぶる」 「私は君の帽子をかぶる」

ギルバート語(Gilbertese):i[Cowe11195玉:9-31] (1)itaag辻a te amarake [1951:9]

i tangjぼa te amarake

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巨単]好む [定冠詞]食べ物 「食べ物がほしい」

(2) i重auia ataei [1951:9ユ

i £auia ataei [1単]もつ 子供達 ヂ私は子供達をもっている」

[2.2]二人称代名詞用法 iが二人称代名詞として使用されている言語は非常に少ないようである。ここでは例を 一つだけ挙げておくが,具体的な使用例はまだ見つからない。 サカオ語(Sakao):i[Guy 1974:41]

これは本来は三人称代名詞であり,一人称代名詞を経て二人称にあるものは移行したの ではないかと考えられている。それは以下に見るように,三人称代名詞の用法が主要な用 法の一つと考えられるからである。 古代日本語ではこの二人称代名詞の用法が主であり,それは一人称代名詞からの派生で はないかと言われている。さらに上述したように,本来は三人称代名詞の用法であり,そ こから一人称代名詞を経由して二人称代名詞へと移行したのではないかと言う説を提示し た。ここではオーストロネシア諸言語の具体例が少ないので確かなことは言えないが,そ れでもこの二人称代名詞の用法は両言語に共通して発達を遂げたものであると考えられる。

[2,3]三人称代名詞用法 本来の指示的名詞*iが三人称代名詞として使われるときはほとんどの場合単数として 表れ,複数として表れることはほとんど無い。これは後程見るが,この単数はより限定的, 特定的という範購を示すものに発達したのに対し,複数:はより非限定旧く一般的),不定 的と言う範躊を指すものに発達したと考えられる。これと似た用法として三人称代名詞接 辞iがあるが,これについては後節で取り扱う。まずいくつかの例文を見てみる。 トライ語(Tolai):i[Mosel 1984:93-U1]

(1) ね 捻t iga kap ia [1984:94]

捻 ia宅 i ga kap ia [3単][強調詞][3単主格][時制]とる[3単] 「彼は自分でそれを取った」

(2) itangi [1984:108] (3) iga ruk. [1984=156] i tangi i ga 】ゴuk [3単主格]泣く [3単主格][時制]入る 「彼は泣いた」 「彼は入った」

シオ語(Sio) :i [霞野山 1990:206]

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マクラ語(Mak慧ra):i[崎山1990:206]

これらの例から分かるように,このiは単に三人称代名詞を示すだけでなく,主格とい う格をも示している。(1)では三人称単数は油で示されているが,これは本来*i÷*aから なるものであり,*iはここで問題となっているiの本来の形態である。

[3]述部導入詞用法 この用法は三人称代名詞主格から焦点を主格から述部に移行すると同時に述部直前に三 人称代名詞が必須的に存在することによって述部導入詞へと変化して行ったと考えられ る。即ち,一時的にはこの述部直前の三入称代名詞の存在が主格としての機能と述部導入 としての機能との両方が果たされた時期があり,その後,しだいにいつしか前者から後者 へと変化して行ったと考えられるのである。これは別な見方をすると,このiの直前の三 人称代名詞に付いた接辞という概念が軽薄化しその直後の述部に接頭したものという見方 に変化したということもできる。 この述部導λ詞はオセアニア祖語では一つの独立した機能として存在していたと言われ る(崎山1990:209)。いつくかの例文を見てみよう。 トライ語(Toiai):i[MoseH 984:36;92-3]

(1) a 宅翌taha i va難a. [1984:36]

a tutal}a i vana. [冠詞]男の人[述部導入]行く 「その男の人は行った」

(2)a£uta簸a i Inulm翌1疑m.[1984=92] at鷺ta簸a i muim縫hlm [冠詞]男の人[述部導入]空腹である 「その男の人は空腹である」

トク・ピシン語(T◎kPisin):i〔崎山1990:206]

(1) em ig◎ [1990:206]

em 三 90 [3単][述部導入]行く 「彼は行く」

古代日本語でもこの述部導入詞が見られ,その点では比較可能であると同時に,同起源 である蓋然性が非常に高い。それはこの導入詞が単に形態レベルの同源性ではなく統語レ ベルの同源性につながり,このような言語の中核の部分で共通なものが存在することはそ の同源性が極端に高いということを意味している。

[4]格不変化詞用法 この機能は強調用法から発達した, ある特定の状況においてある特定の格を示すことで

168 「古代日本語とオーストロネシア諸言語における一形態の同源性(2) 5

ある。この節では『格不変化詞』という用語を使うが,これは厳密に意味論上の問題とし て使っているのみで,問題となる言語において形式としての格体系をもっということを提 唱しているのではないことをここで断っておく。事実オーストロネシア諸言語では形式と しての格体系をもつ言語はほとんど存在しない。次にその例文をいくつか調べてみる。

[4.月呼格不変化詞用法 この格はこの[4]の範躊の中でたった一つしかない下位範躊である。これはこの用法が 前置詞,接辞などの範躊ではくくれないためである。 フィジー語(珊ia鍛):i[Sch乾1985:355-6]

(1) iF亜pe, 鍛a ve五_vale cava ga [1985:355] i F遜pe, 鷺a vei-vale cava ga [呼格⊃フィリペ[定冠詞][分布格ト家何 [限定詞〕 「オー,フィリペ, どの家Pj

(2)ltama-qu [1985=355] i tama-qa [呼格]お父さんイ1単所有] 「オー, お父さん」

(3) iSai! [1985:356] i Sai [呼格]サイ 「オー, サイ」

呼格不変化詞iは名前や肩書の直前に位置し,それが文中の主部に前置する。また呼格 句はイントネーションによって区別されるが,それは例文1と2に示されている。例文3 では相手に注意を促すために,呼格句だけで文が形成されている例である。

[5]前置詞用法 オーストロネシア諸言語の中には前置詞が色々な格を特定するのに使われる言語が数多 く存在する。下記のような前置詞が見られるが,実際にはここで挙げるよりもっと多くの 異なった前置詞が存在していることが考えられる。 上記の格不変化詞の節で述べたように,ここでの『主格』『対格』などの用語は全くの 意味論上の定義でもって使用しているのであり,その言語が形式上の格体系を保有してい るということを意味するものではない。

[5.1]主格用法 まず,次の例文を考える: プユマ語(Puyuma):i[土田1980] (1)iama li

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i ama li [主格]父/おじ口単所有] 「父/おじ[主格]」

例文では1が主格前置詞として使用されているが,人称代名詞や関係節[単数のみコが存 在しない場合であり,もしそれらが存在する場合にはその直前に来る。 古代日本語でも接尾辞であるが,同様な用法が存在しているが,その時代にはもう既に 化石化してしまったものであると考えられ,その意味ではこの用法は非常に古いものであ ると見られる。従って,この古代日本語の主格接尾辞がオーストロネジア諸言語の主格前 置詞と同起源である蓋然性は高いように思われる。オーストロネシア諸言語内でもある言 語の前置詞が他の言語の接辞に対応することなどは一般にあることなので,日本語の接尾 辞がオーストロネシア諸言語の前置詞に対応しても全く不思議はない。

[5.2]所有格/属格用法 まず次の例文を見てみる。 ラヴォンガイ語(Lavongai):i[S宅amm l 988:11-21

(1) a ri vap i r撫a ke [1988:11] a ri vap l 蜘a ke [定冠詞][複数]男の人達[属格]村 この 「この村の男の人達」

(2) a pat i 1積 [1988:11コ

a pat i 沁 [定冠詞]屋根[属格]家 「家の屋根」

(3)Marla,照Oai a ri鍛ana tatam l Deo.[1988:121 Maria, nuηai a rina-na ねねm l De◎ マリアこ2単][定冠詞]母親イ3単所有][2単所有][属格]神 「マリア,お前は本当の聖母です」

ブゴツ語(Bugotの:i[崎山1990:206]

(1) na h賢賢 i aho [1990:206]

na huu i aho [冠詞]沈み[属格]太陽 「日没」

(2) dathi i bo重he [1990:206]

dathi i bothe 小さい[所有]豚

170 「古代β本語とオーストロネシア諸言語における一形態の同源性(2) 7

「子豚」 フィジー語(珊ia難):i[SchUtz l 985:458-9]

(三) u1u 茎J◎ne 〔1985:458コ (2) v辻Laka ke 孟」◎ne[1985:458コ ulu i Jone v{naka ke i Jone 頭 〔所有]ジョン よい [分類詞][所有]ジョン 「ジョンの頭」 「ジョンの善良さ」

これらの例が示しているように,このiの用法は所有格か属格を示している。ラヴォン ガイ語ではiの用法は二つの名詞句の関係を示しているが,属格用法のみであり,所有格 は量では示さず前置詞si, ti, ke, kekeで示すようである(Stamm亙988=U)。 ブゴッ語では所有と属格の両方の名詞句の関係を示す前置詞iを取るようである。 フィジー語の例文1では前置詞1は不可分所有の塑に後続し固有名詞の趣に前置 している。このような句中でのiの位置は決定されており,それが前置詞iの設定条件に なっている。フィジー語の例文2では前置詞の直前に類別詞がある場合でこの類別詞はそ の直前の形容詞vi盤kaによって決定されているものであり,必須の品詞である。前置詞1 はその直後の固有名詞Jo鷺eに前置している統語的配置を取っている。このような形容詞 と名詞に挟まれたような前置詞は類別詞を必ず取る。

[5.3]対格用法 対格用法は一般に多くポリネシア諸言語に見られるとともに他の諸派にも数は少ないが いくつか見られる。次の例を見てみる。 フィジー語(珊ian):i[Sch就z l985:355〕

(1)A:au rai-ci Jone / au rai-ci Jone 「わたしはジョンを見た」 [1単]見る運他動]ジョン

B:iceip / i cei

「言餐圭…)」 こ:文寸格] 言佳

A:iJo勲e. / i Jo!}e ‘ジョン’ [対格]ジョン

ハワイ語(Hawa近a難):i[Elbert&Pukui l 979:52-3]

(1)komo i ka lole [1979:52] komo i ka lole 着る [対格][定冠詞]ドレス 「ドレスを着なさい」

マオリ語(Maori):i〔Biggs 1996:91] (ユ)Kei te t面aRewi i ngaa kaawhe.[1996:91] Kei te t面 a Rewi i ngaa kaawhe [現在頁不定]連れてくる[固有冠詞〕レウィ[対格][定冠詞]子牛 「レウィは子牛を連れて来ているところだ」

171 8 言語文化論究11

(2)Klei te patu a Tamahae i ngaa kau. [1996:9娼 Kei te patu a Ta搬ahae i ngaa kau [現在][不定]たたく [固有冠詞]タマハエ[対格][定冠詞複数〕牛 「タマハエは牛をたたいている」

フィジー語の対話文の例ではこの前置詞iは孤立した環境で対格を示している。この構 文はまれであると言われておりiの代わりに。が一般的に使われるという[Sch疲tz 1985: 355]。しかしながら,このiは改新的な要素ではなく,非常に古い痕跡を留めているも のであり,oは改新的要素であると考えられる。 ハワイ語とマオリ語ではこの対格前置詞iは非常に広範に使われており,この前置詞句 は行為の終点(〉対象)を示し,結果的には対格的用法を示している。iの他の用法はポリ ネシア諸言語ではこの対格用法と直接関係しており,究極的には指示的代名詞の機能に 遡る。 この用法も古代日本語しいては日本祖語の対格用法と完全に一致するが, これも対象 を指示し強調するという点において共通しているので,同起源ではないかと思われる。

[5.胡処格用法 処格用法はオーストロネシア諸言語では非常に一般的な用法の一つであるが,特にポリ ネシア諸言語では他の関連した用法とともに広く使用されている。この用法は空間におけ る指示を表す機能,即ち行為の空間的指示の機能を示しており,本来の機能に近い機能で はないかと見られる。次の見るのはそのいくつかの例である。 カロ・バタック語(Kar◎一Baねk):i[Woo11ams 1996:99]

(1) 三(童auh一(丑auh 聡ar重k破idah enggo r尋h beru GiRt溢9.[1996:99]

i dauh-dauh 難ah k鷺一idah e簸ggo rξ…h beru Ginting [処格]遠く一遠く [奪格][1単]一見るすでに来る女 ギンテン 「遠くからベル・ギンテンがくるのが見えた」

(2) i leb6-leb6 ke豆as [1996:99]

i lebξ…_leb6 kelas [処格]前一罪 授業 「授業の前に」

ギルバート語(Gilbertese):i[Cowe11!951:43-7]

(1) irak銭d-u [1951:44] (2) inako [1951:47] i rak面.u i nako [寺格]横一[1単所有] [処格]下 「私の横で/に」 「下で/に」

ハリア語(}{alia):1[A豆1en I987:14;21] (1)imam [1987:14] (2)ilehana koru[1987:14]

夏72 「古代巳本語とオーストロネシア諸言語における一形態の岡源性(2) 9

1 mam i 茎eha麺a koru [処格]前 l掌側]遠い 大変 「前(時間/空間)に」 「大変遠くに」

(3)larn e加s-u-m iki◎u i環1aha [1987:21] 1anユebus_u_m i kio疑 i u韮aha [1複除外][動詞化]走る一しまう一[挿入子音][方向] 洞穴[処格]薮 「私たち(除外)は薮の中の洞穴に逃げ込んだ」

ボーマ・フィジー語(Boumaa F”藤):雲[D姐◎麓1988:152-3] (1)avale l Waitabu[1988:153] a vale i Waitab猛 〔固有冠詞]家 [処格]ワイタブ 「ワイタブにある家」

(2) ile’utu [1988:153]

i le’utu [処格]森 「森で/に」

マオリ語(Maori):i[Biggs 1996:91] (1)ka noho teeraa ta燕ga宅a i too簸a whare.口996:122] ka n◎h◎宅eeraa伽gata i toona w蓋are [導入詞]住むあの 人 [処格]彼 家 「あの人はその家に住んでいる」

サモア語(Samoan):i[Mose1&H:◎vdhauge獄1992:144] ハワイ語(Hawa麺an):i[Elbe枕&Puk掘1979:122]

一般的にカロ・バタック語,バリア語,ボーマ・フィジー語が示すように空間だけでな く時間においても処格iが使用される。しかし,ギルバート語に見られるように空間だけ に限られる事があり,これはその派生方向から言えば,全く当然のことと思われる。 カロ・バタック語では処格前置詞iがある特定の重複語とともに使われるが,それはあ る意味での不定性,不確定性,一般性を表しているとも言える。問題となる場所がある特 定の場所を示すというより相対的,抽象的である場合,例2の1eb6「前」のような場所を 示す名詞が規則的に重複される[Woo11ams 1996:99]。 もしこのような前置詞や接辞がある言語に見られる場合,他の場所に関連する格前置詞 や格接辞が見られることが多い。それは本来の指示的な意味をもつ代名詞からの派生であ ると考えられる。多くのポリネシア諸言語ではこの斜格前置詞が見られる。 古代日本語には処格用法は見られないが,平安朝の経典に見られる。また,古代琉球語

173 10 言語文化論究11

にもこの用法が見られる。従って,日本祖語にはこの用法が存在していたのではないかと 思われる。このことはオーストロネシア諸言語の処格用法と完全に一致し,同起源である と考えられる。それを裏付けるものはその他の多くの用法が一致するということであり, 総じて体系全体の一致と言うことを意味し,同起源の信慧性を非常に高める。

[5.5コ方向格用法 方向格前置詞iは旧格前置詞同様に多くの言語で見られるが,行為の方向や終点を示す。 その例をいくつか挙げる。 バリア語(Halia):i〔A11錐1987:21]

(1) 夏a「織 e bus-u一!簸 i kiou i u茎aha [1987:21]

lam e bus.u.rn i kiou i ulaha [1複除外][動詞化]走る一しまうイ挿入子音][方向]洞穴[処格]薮 「私たち(除外)は薮の中の洞穴に逃げて行った」

ハワイ語(Hawa銭a簸):i[Elbert&Pukui 1979:122]

(1) hele i loko [1979:122]

hele i loko 行く[方向]本土 「本土へ行きなさい」

タヒチ語(Tahitian):i[Burbidge 1930:2121 (1)Ua haere matou i te anavai.[1930=212] Ua haere matG穏 i te anavai [時制]行く [1複] [方向][定冠詞]川 「私たちは川に行った」

サモア語(Samoa鍛):i[Mosel&Hovdhaugenエ992:i43-5コ (1)重。’imai loa{a’olo i samo,.. [1992=143]

郵0,i mai 10a ・ ia ,010 i SamO 帰る[方向]そして[絶対格]オロ[方向]サモア 「そしてオロはサモアに帰った」

トンガ語(Tonga盆):i[Churchward 1995:109-111]

これらの例は明らかにその前置詞iが方向格であることを示しているが,それは処格用 法と同じように本来の指示的代名詞からの派生である。

[5.6]奪格用法 前置詞iは奪格をも示す言語がいくつかある。その言語において一般に他の関連してい る前置詞によって指定されることもある。その点から見ると,この奪格前置詞iは古い痕

174 「古代臼本語とオーストロネシア諸言語における一形態の岡源性(2) u

跡として考えられる。この奪格前置詞iの例をいくつか見る。 バリア語(H:alia):1[A三1en 1987:32]

(1)Alia u lama i han [1987:32] Alia u ユama i ha簸 [1単1[動詞化コ来る[奪格]村 「私はその村から来た」

マオリ語(Maori):i[Biggs l 996:911 (1)鼠haere mai a簸ite whare. [1996:913 i haere mai au l te w薮are [処格過去]行く [方向][1単][奪格][定冠詞]家 「私はその家から来た」

バリア語における前置詞iは時間と空間における場所を示している。またマオリ語の例 はその前置詞童が動作動詞を伴った奪格であることを示している。どちらの言語でも明ら かに動作や行為の起点を示している。

[5.7]奪格用法 前置詞iはまた具格も示す。この用法は多くのオーストロネシア諸言語において見られ るが,特にポリネシア諸言語に多く見られるようである。次にその例をいくつか挙げる。 ハワイ語(Haw甜an):i[Elbe践&P縦kαi三979:134] (1)三ka’01elo ke ola, i ka’01e至。 ka make[1979:134] l ka ,ole}o ke oia, l ka ,◎1el◎ ka make [具格][冠詞]言葉 [冠詞]生 [具格〕[冠詞] 言葉 [冠詞]死 ヂ生は言葉にあり,死は言葉にあり」

ボーマ・フィジー語(B◎umaa珊ia簸):i〔Dixo簸1988=153-4]

(1) au aa va’a-rna宅e-a a pua’a yai孟+・鍛a qo慧 da’ai [1988:153]

au aa va’a-mate-a a p譲a’a yai i+na [ユ単][過去][使役ト死ぬ一[他動][冠詞]豚 この[具格〕+〔冠詞] qou da’ai [類別詞1単]銃 「私はこの豚を銃で殺した」

(2) au na tali-a a dua a loga i+!}a voivoi yai[1988:154]

au na tali-a e dua a 互◎ga i一←鍛a [1単語[未来]紡ぐイ他動][3単]一[冠詞]マット[具格]+[冠詞]

vOユVOI ya1 パンダナスの葉この 「私はこのパンダナスの葉でマットを編む」

175 12 言語文化論究11

サモア語(Samoa難):i[Mose1&Hovdhauge獄1992=144] (1) tuli le pusi i le salu [1992:144] tu薮1e pusi i le sah 追う[冠詞]猫 [具格][冠詞]箒 「箒でその猫を追い払いなさい」

上例の中でもボーマ・フィジー語とサモア語の例が特にこの具格をよく表している。し かし,ハワイ語の例ではその訳からは具格が理解しにくいが,その用法が原文から理解で きるのではないかと思われる。この陸図用法は他の関連している格前置詞iとともに指示 的代名詞から他の関連前置詞を経由して発達してきたものと考えられる。 この用法は古代日本語の接尾辞一iの具格用法と軌を一にするものであり,日本祖語にお いては具格も存在していたのではないかと思われる。オーストロネシア諸言語では前置詞 であるとともにその直後に冠詞を伴っているのが特徴的であるが,これは古代日本語に冠 詞がなかったことを考えれば理解でき,その冠詞的意味は文から理解される。従って,こ の比較には問題はないと考える。

〔5.8〕原因/理由用法 この用法はあまり一般的な用法とは言えないかもしれないが,オーストロネシア諸言語 のいくつかに見られる。その例を見てみる。 ハワイ語(Hawaiia簸):i[E}be撹&Pukui l 979:134] (1)ma云ka’量ka wahine i ka難a mau ha獄a pon◎[1979:ユ341 maika’i ka wahi盤e i ka難a狙a覆 ha猛a p◎捻◎ よい [冠詞]女の人[理由][3単][複数]行い正しい 「その女の人は正しい行いをするのでよい人だ」

ボーマ・フィジー語(Bouma F緬ia盒):i[Dixon 1988:154]

(1)edat◎u sega簸i vina’a一二a, i+na 6-na boi caa[1988:154] eda亀ou sega ni幅a’a一ね, i翰a 6一聡 boまcaa [!双包括]ないそれほしい一[他動][理由]+[冠詞][類別詞]一[3単]匂う悪い 「それは臭いので私たちはほしくない」

サモア語(Salnoa鍛):i[M◎sel&H◎vdh徽ge鍛1992:623]. (i)01e難a麺faatoa aliaii manava is重ina olea talanoa se matai! [1992:623] 0 1e鷺a fOi faatOa aha蕪 mai IaVa iSi ina [現在]そのまたちょうど現れる[方向][強調]他人[特定複数][理由接続〕

01ea tala盒oa se 搬atai [未来〕話す [冠詞不定単]マタイ 「その悶悶の人達もちょうどきた,というのは我々がマタイの選挙のことを話そ うとしていたからだった」

正76 「古代日本語とオーストロネシア諸言語における一形態の同源性(2> 13

(2) sa faa貧oa丑oa lava Tavita 加a oiea alu ese。..[1992:623]

sa faa簸oa難oa lava Tavita 血a dea a沁 ese [過去]悲しい [強調〕タヴィタ[理由接続][未来]行くしまう 「タヴィタはとても悲しかった,というのは(そこを)去ってしまわなければな らなかったからだ」

この用法は上記の具格用法と関連が深いと考えるが,これは多分具格はより具体的な物 質を媒体とするのに対し原因/理由はより抽象的な状況や態度などが媒体となり,具格か ら原因/理由に意味が抽象的になって発達したとも考えられる。上記の具格の用法は原因/ 理由用法とその言語が一致するところがら,このことの裏付けとなる。 サモア語では理由用法のみがみられるが,蜘(<i[処格/方向格]翰a[冠詞])という形態 をもつ。またこの用法と関連する数多くの用法が見られ(M◎sd&猛◎v曲認g鎌ig92:583- 4,61餅26),これらはほとんどがハワイ語やボーマ・フィジー語と同形態のlna(<i[処格/ 方向格]繍a[冠詞1)をもち,時,目的,理由などを表す副詞節を形成するが,このiは処 格/方向格と同源の接続詞である(Mosel&H◎vdhaug鐙1992:583-4)。

[6コ連結詞用法 連結詞用法はあまり数多くの言語に見られないが,これは本来の指示的な用法が全く薄 れてしまい,単に語と語との連結のみの機能の低下に至ったものと考えられる。 プユマ語(Puyuma):i[崎山1990:206] (1)セui獄ap慧RaR [1990:206] セ鷺 i 鷺apuRaR それ[1ig,]ハプラー 「そのハプラー」

プユマ語のこの用法は改新的なものであろうが,本来の指示的な代名詞からの発達と考 えられる。これは所有格/属格の用法を更に一歩進めたようなものと考えれば,その機能 は容易に理解できるのではないかと思う。

[7]後置詞用法 この形態はオーストロネシア諸言語では見当たらない。おそらくこの形態より下節の接 辞という形態が最も一般的に発達した形態であろうと考えられる。

[8] 蚕妾養辛用,去 オセアニア祖語の指示的代名詞*iからの派生形が多くの言語で見られる。どちらの接 辞をとるかはその言語によって大きく異なるが,その機能に関してはあまり変化がない。

[8.1]接頭辞 オセアニア祖語の指示的代名詞*iから数多くの接頭辞が派生しているが,後に取り扱 う接尾辞と比べ,様々な機能をもつものが多いことが特徴である。

177 14 言語文化論究11

(a)三人称代名詞用法 三人称代名詞の用法としてのi一は多くのオーストロネシア諸言語に見られるが,特に西 部の諸派に広く見られるようである。いくつかの例を見てみる。 トキア語(Tokia):i一〔Ross l994:681-4]

(1) i一至unida [1994:681]

i_funi_da [3単]一たたく一[未完了] 「彼は(それを)たたいている」

(2) i-biseig y-aoda [1994:684]

i-bise重g y-ao-da [3単]一放す[3単]一行くイ未完了] 「彼は放している」(<「彼は放してそれが行く」)

キリヴィラ語(K通v最a):疑しawt◎簸1994:752-5]

(1) 三一yagi[エ994:752] (2) 茎詫am一βeka [1994:752]

i-yagi i-ta憩一βeka [3単ト揺する [3単ト急成長する一大きく 「彼は(それを)揺する」 「力強く急成長する」

(3) i-kam一’ko獄i [1994=754] (4) i-1agi [1994:755]

i-kam一’koni i-lagi [3単]一食べる一試みる [3単]一聞く 「彼は食べてみる」 「彼は(それが)聞こえる」

マキアン語(Mak抽):i一[Voorhoeve l982:12-3] (1)i-c6 こ1982:12] (2)i-naso Tema宅e [1982:13]

i_c6 i-naso Temate [3単]一見る [3単ト行くテルナテ 「彼は見える」 「彼はテルナテに行く」

ンブラ語(Mb登1a):i一[Salme&Bugenhagen l 994:697] タワラ語(Tawala):i一[Ezard&Yailo 1994:760-2] マナム語(Manamu):i一[Lichtenberk l 983:21,42-3,111-2]

接頭辞1一は例文では明らかに三人称代名詞の機能を果たしていることが分かる。またこ の入称代名詞は広範囲にオーストロネシア諸言語に見られる。トキア語の例文2ではこの 接頭辞が渡り音のy一に変化しているが,これはその直後が母音でありそのため渡り音に なったのである。従って,i一が本来の形態であろう。

178 「古代臼本語とオーストロネシア諸言語における一形態の同源性(2) 15

(b)指示代名詞用法 指示代名詞用法は三人称代名詞用法(a)に最も近いと見られる。これはどの語族にも当 てはまることであるが,一般に三人称代名詞が欠落している言語では指示代名詞がそれを 補充するということがおこることから,この二種類の代名詞(即ち,人称代名詞と指示代 名詞)の近さが窺える。さらにこの二種類の代名詞の境界が存在しない,即ち,一種類の 代名詞しか存在しない言語もあることからもそのことが言える。まずその例をいくつか見 てみる。 ウォレアイアン語(Woleaia無):i一[Soh無1975:72-31

(1) i_yee1 [1975:72] (2) i_茎aa1 [1975:73]

[指示代]一this [指示代コー癒at 「これ(ここにある)」 「あれ(むこうにある)」

この例の接頭辞はすべて指示代名詞とともに使用され指示代名詞が二重に重なり合い一 つの指示代名詞を形成している。これは二通り考えられると思うが,G)おそらく本来の 指示代名詞i一の意味が忘れられ,新しく補充的な指示代名詞が付けられたと考えられる; (2)指示代名詞yee1や1aa1に指示強調を示すi一が付いたとも考えられる。現代ウォレアイア ン語ではすでに接頭辞として認知されず単語の一部として考えられている。しかしなが ら,史的にはこの接頭辞i一は「そのもめ/それ」などを表し指示代名詞であったことが分かっ ている。このことからこの接頭辞i一は本来の指示代名詞であると考えられ,上記の(1)が より事実に沿った解釈であると思われる。

(c)名詞化用法 動詞類の名詞化用法はオーストロネシア諸言語では一般的であり,多くの言語で見られ る。次の例を見てみる。 モ難語(Mota):i一〔崎山1990:2071 (Di-sar 「槍」 <sar「突き刺す」

ヤミ語(Yami):i一[Asa重1936:34] (Di-1ulai「揺り籠」<1ulai揺らす」

レナケル語(Le鍛ake1):i-ILynch i g78:26]

(1)重.ak肇ha r盗人」<ak至ha r盗む」

(2)i-ahlg宝1「老人」<ahig宝1「老いる」 (3)i-a-v宝nhenap「もうろくした人」<vlnhenap「もうろくする」 (4)i-a-rou「追いかける人」 <rou「追いかける」

ボーマ・フィジー語(Boumaa F寿ian):i一[D敷on l988:191-5コ (1)i-sele rナイフ」 <sele(一ta)「切る,切り刻む」 (2)i-tui「金づち」 <tu’i Ca) 「打つ,倒す」

(3)i-ti’oti’o「住所,居住地」 くti’◎(一ra)「泊まる,住む」

179 16 言語文化論究11

(4) i-bulubuh三 「墓」 <bu1慧Cta)「土でかぶせる,埋める」 (5)i-vivi「巻いてある物」’ 〈vivi(一a)、r巻く,包む,縛る」 (6)i-vo!a「手紙,本」 <v◎la-ar書く」

(7)1-na’i(鶏a’i)「意図」 <簸a’i-ta「意図する」

(8)i-valu r戦争」 <valu-ta「戦争する」 (9)沁oir匂い」 くboi Cca)「匂いを放つ」 α0)i-9積u「精力」 <guu Cta)「~する力がある,~したがっている」

チャモロ語(Chamorro):i一[T◎ppi簸g 1973:132-3] レナケル語(Lenakd):i一[Ly鍛ch 1978:26]

モタ語とヤミ語に関してはそれぞれ例が一つずつなので動詞群がどのような名詞群にな るのか十分分からない。レネケル語では接頭辞i一(+V)またはFa一(+C)の形態が動詞群や 形容詞群を「その行為をする人」に換える機能をもつようである。i一とi-a一は互いに相補的 分布を示しているが,}が本来の形態であると思われる。それは他の言語も同様に接頭辞i一 を本来の形態としているからである。 上例のボーマ・フィジー語には次の五つの意味的に異なったタイプの名詞化した動詞群 がある(D蜘n1988:191-3)。それぞれ例を二つずつ挙げてある。 玉.名詞化した動詞群:上記(1)と(2):「道具」を示す 2.名詞化した動詞群:上記(3)と(4):「場所」を示す 3。名詞化した動詞群:上記(5)と(6):「結果」を示す 4。名詞化した動詞群:上記(7)と(8):「活動(形態)」を示す 5.名詞化した動詞群:上記(9)と(10):「一般的性質」を示す

このように名詞化でもいろいろなタイプのものがあり, ボーマ・フィジー語はその中で も最も多様化したものと考えられる。

(d)対格用法 接頭辞i一の対格用法はいくつかの言語に見いだされるが,これはこれまでに述べて来た 「行為の終点」と直接関係している。即ち,それは「行為の対象」となり,他の格,処格や 方向格などの格とこの対格接頭辞は直接的に関係しているのである。その例を次に挙げる。 ガダン語(Ga’da簸g):i一[Walr◎d 1976:31]

(1) 1_yufU1(k鷺 血◎ 1apis_k罷 [1976:31]

i-y翼fuk-k痕 血◎ 1apis-ku [対格]一使い尽す一[1単][冠詞]鉛筆イ!単所有] ヂ私は自分の鉛筆を使い尽くす」

(2)i.1etwan慧廻沁。 ahP [ig76:31]

14e宅wa簸.nu 血。 ah [対格ト倒す一[2単3[冠詞]支柱

180 「古代目本語とオーストロネシア諸書語における一形態の同源性(2) 17

「お前は支柱を倒したか」

カバンパンガン語くKapampa簸gan):i一[Formen l 971:1瑚

(1) i-qalb縫g mu reng malan. [1971:115]

i-qa夏b疲g mu reng m衰1a簸 [対格]一糊付けする[2単][普通複数名詞句]服 「服を糊付けしなさい」

(2) i_1ag衰 mu re簸g ξ…bu簸 [1971:115] i-lag含 mu re鍛9 εb脇 [対格]一煮る[2単][普通複数名詞句]卵 「卵を煮なさい」

ガダン語の例ではどちらも動詞句がイディオムとして使われており,この用法は生産的 ではない。それはこの用法が規則的な格のパターンに当てはまらないからである。このこ とはとりもなおさずこの用法が非常に古いものであり主格や方向格などとの関連もあり, 本来の指示的代名詞の形態と意味上の痕跡を留めているからではないかと考えられる。 カバンパンガン語の対格用法は接頭辞i一の典型的な用法の一つであり,上述のように他 の格用法と直接的に関連している。また,この対格用法は「動作や行為の終点」,即ち,「そ の対象」を示すことになり,これは「その対象の指示的用法」と言い換えてもよいと考えら れる。そしてその点においてオセアニア祖語の指示的代名詞からの意味的派生が見えるの である。 この点について全くと言っていいほど,古代日本語の対格用法と酷似している。古代臼 本語の場合には強調の意味が多分に入っているが,それでも解釈としては指示的な対格を 示す用法とも言える。

(e)処格用法 処格用法もまた対格用法とともに非常に一般的な用法であり,特に西側の言語ではよく 使われる用法である。次のような例が見られる。 レナケル語(Le蓑akeD:i一[Lynch 1978:24] (1)i.sfu[1978:24] (2)i-imwa [1978:24] [処/方向格ト湖 [処/方向格]一家 「湖で/に」 「家で/に」

(3) i-rhe [1978:24] (4) 1-aua無u [1978:243 [処/方向格ト海 [処/方向格]一村 晦で/に」 「村で/に」

アミ語(Ami):i一[He, et. al.1986:98]

(1) tajra i-1ial c沁ira a nikala夏〕 [1986:98]

!81 18 言語文化論究11

tajra茎一1ial cin辻a a I1簸(alag 行く [処格ト浜辺[3単] [不変化詞]かにを取る 「彼は蟹を捕りに浜辺に行く」

(2)i-1uma, aj ku wama aku [1986:98] i4umaフ aj ku wama aku [処格ト家[完了][不変化詞]父 [1複] 「父は家にいた」

:ボーマ・フィジー語(Boumaa F寿iaa):1一[Dixon 1988:152-3]

ブヌン語(B疑nu鍛) :i_[H:e, et. a1. 1986:101-3] ガダン語(Ga’da難g) :i一[Walrod 1996:30] ヒリガイノン語(H嚢igaynon) :i.[Wolfenden l 971:59-60] パイワン語(Paiwa登) :i一〔Dong&Ma豊986:17]

レナケル語では処格(と方向格)の接頭辞i一または1一を名詞類に付け処格(と方向格)名詞 をつくるが,現代レナケル語ではこの接頭辞は接頭辞として認知されておらず,単に処格 名詞類の単語の一部として認知されている。しかしながら,この格名詞類に対応する非格 名詞類の形態(例:捉sfu「湖」, n-imwa「家」)と比較すると分かるように,語頭のi一は接 頭辞の痕跡であると考えられ,それは場所を指示するものではないかと考えられる。 アミ語の接頭辞は明らかに処格は示しているが,方向格は示さないようである。以上の ことから本来の処格接頭辞は*i一であり,それはオセアニア祖語の指示を表す代名詞*iに 遡ると見られる。 古代日本語ではこの用法は見られないが,平安初期の経文文献に見られるだけである。 しかし,古代琉球語ではこの用法はみられるので,おそらくその用法は古代日本語にも生 産的ではなかったかもしれないが,存在していただろうと見られる。従って,日本祖語で は骨格用法が存在したと考えられるため,この用法はオ~ストロネシア諸言語と比較可能 であり,その同源性も高い。

(f)奪格用法 接頭辞i一の奪格用法はいくつかのオーストロネシア諸言語に見られるが,これは上述の ように「行為の終点」から派生した機能である。この例を一つ挙げる。 ガダン語(Ga’dang):i一[Walrod 1976:30]

(D i-dassangngu 血。 kargok so tarak. [三976:30]

i一(iassa鍛g一鷺g疑 ㎞o kargO-k sO 宅arak [奪格ト降ろす一[2単][不変化詞]荷物一[1単所有][不変化詞]トラック 「トラックから私の荷物を降しなさい」

上例から分かるように,この接頭辞i一は明らかに奪格を示している。前置詞用法の節で 見たように,この奪格用法はオセアニア祖語*iから発達したものである。

182 「古代B本語とオーストロネシア諸言語における一形態の同源性(2) 19

(g)具格用法 前置詞i一の電影用法は割に一般的であり,多くのオーストロネシア諸言語に見られる。 この用法も上述の用法と直接的に関連しており,「行為の終点」からの派生であると考えら れる。次の例がこの用法をよく物語っている。 タガログ語(Tagalog):i一[Schachter&OT餓es 1972:314コ

(1) 1-pampunas [1972:314] (2) 1-pans硬klay [1972:314] [適格]一拭くための [当年ト櫛けつるための 「~で拭く」 「~でくしけつる」

(3) i-pangguぬi記 [ig72:314] (4) i-pagwalis [1972:314]

[具格]一描くための [具格]一掃くための 「~で描く」 「~で掃く」

ガダン語(Ga’da難g):i一[wairod 1996:31]

(1) i詫abas-nu h1◎ t:abas-na [1996:31]

i_宅abas_r殿 塗。 tabas-na [具格]一刈るイ2単][冠詞]刈るイ3単所有3 「鎌で草を刈りなさい」

パラワン語(Palawan):i一[Tyron 1994:36]

上例はどれも明らかに具格用法であり,オセアニア祖語*iから派生である。 古代日本語の取回用法は上記の前置詞の具格用法のところで述べたので,また改めて述 べないが,この接頭辞の具格用法とも同起源と考えられる。

(h)受益者用法 接頭辞聾の受益者用法は行為の受益者を表し,「~のために~をする」という構文である。 次の例を見てみる。 カンパンパンガン語(Kapampangan):i-IFomle難1971:116-7] (1) 茎rkua meng dan丘m エLus. [1971:116] i-kua meng da磁m i Lus [受益]一得る[不変化詞]水 [終点]ルス 「ルスに水をあげて」

(2)i-salf mu k臨g t{nape[1971:U7]

i-salf mu ku無g t沁ape [受益]一買う[不変化詞][不定冠詞]bread 「パンを私に買って」

183 20 言語文化論究11

ピコル語(Bik◎1):i一[M{ntz 1971:234-5] ωP疑6deng 1-bakal mo ak6鷺i鍛宅am6ngP[1971:234]

PU6deng l-bakal mo ak6 n註} tam6簸9 [疑問] [受益]一買う[2単][!単]1不定冠詞]毛布 「私に毛布を買ってもらえませんか」

(2) Pu6deng i-hflig mo ak6 n血 s負ya~ [197i:234コ Pu6de鍛g l掘逡 mo ak6 nin s煮ya [疑問] [受益]一下にもってくる[2単][1単][不定冠詞]椅子 「椅子を下にもってきてくれませんか」

ガダン語(Ga’daag):i一[Walrod 1976:32]

(1) 茎一basa鷺一nu i Toby si leb磁rα. [亙976:32]

i-basan一簸廻 i T◎by s重 1eburu [受益〕一読むイ2単][冠詞1トビー[冠詞]本 「トビーに本を読んであげて」

(2)i-11etratuwa鍛g ku i Jua擁 泌磁atuwang ku i J殺ami [受益ト写真 D単1[冠詞]フアミ 「フアミに写真を撮ろう」

タガログ語(Taga1◎g):i一〔Schachter&0伽es 1972:310-3]

接頭辞i一は上例すべてにおいて受益者を表しているが,フィリピン諸派ではこの用法は 一般的なようである。この用法も上述の様々な格用法との関連が強く,「行為の終点」から の派生である。

(i)相互用法 接頭辞i一の相互用法はいくつかの言語に見られる。この用法は上記の他の用法と関連性 があるかどうかは確かではないが,接頭辞のこの用法と同様に,これに対応する接頭辞si一 の用法が見られるので,この用法も他の用法と関連があると考えてよいと思われる。ここ に例を一つ挙げる。 ギルバート語(Gilbertese):i一[Cowe111951二12-3]

(1) i-raorao [1951:12] [相互ト友好的な 「互いに友好的な」

(2) a i-tang貢:ang溢 [1951:13]

a i詫a貧gitangki

184 (3) a j-buobuoki [1951:13] a -buobuoki [ 3 $21 [$BZl-@ItJ6 r$E 5 t2mt3e 3 J

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This paper is an attempt to find out the cognateship of all the uses of the Old Japanese pronouns i/si and pronominal affixes i/si with various uses of the Oceanic deictic pronominals '%i/*si.In conclusion, we have found that these elements of both languages must be cognate with each other on the grounds that not only all the functions of both languages but the developments of these elemtents of both languages are extremely similar to each other. This is probably due to the fact that the pre-Proto-Japanese must have been some minimally maintained Austronesian (probably some ) possibly with some Austroasiatic elements, which later continually borrowed massive structural elements from Altaic, especially Tungusic languages (if we are permitted an oversimplification from chronologically layered Altaic, especially Tungusic contributions to the Japanese structure) .