熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System
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熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System Title 膵癌におけるSerine protease inhibitor, Kazal type 1 の発現とその意義 Author(s) 尾﨑, 宣之 Citation Issue date 2009-03-25 Type Thesis or Dissertation URL http://hdl.handle.net/2298/16510 Right 学位論文 Doctor’s Thesis 膵癌における Serine protease inhibitor, Kazal type 1 の発現とその意義 (Expression and the significance of Serine protease inhibitor, Kazal type 1 in pancreatic cancer) 著者名: 尾﨑 宣之 Nobuyuki Ozaki 指導教員名: 熊本大学大学院医学教育部博士課程臨床医科学専攻消化器外科学 馬場秀夫 教授 熊本大学大学院薬学教育部博士課程生命薬科学専攻臓器形成学 山村研一 教授 審査委員名: 多能性幹細胞担当教授 粂 昭苑 分子遺伝学担当教授 尾池 雄一 消化器内科学担当教授 佐々木 裕 代謝内科学分野担当教授 荒木 栄一 2009 年 3月 目次 要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 発表論文リスト ・・・・・・・・ 6 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 略語一覧 ・・・・・・・・・・・・ 9 第一章 研究の背景と目的 ・・・・・・・・・・・・ 11 1-1. 膵癌の発生の動向と治療成績 1-2. 膵上皮内腫瘍性病変 (Pancreatic Intraepithelial Neoplasia ; PanIN) 1-3. Serine protease inhibitor, Kazal type 1(SPINK1) とは 1-4. SPINK1 の発現臓器 1-5. SPINK1 と様々な癌との関連 1-6. SPINK1 の細胞増殖促進活性 1-7. epidermal growth factor (EGF) と EGF receptor (EGFR) 1-8. SPINK1 と EGF の構造上の類似点 1 第二章 実験方法 ・・・・・・・・・・・・ 25 2-1. 使用した細胞株と切除標本 2-2. SPINK1 添加時の細胞増殖実験 2-3. 免疫沈降ウェスタンブロッティング 2-4. 水晶マイクロバランス法 (quartz-crystal microbalance; QCM) を用いた 2 分子間結合実験 2-5. EGFR とその下流のシグナル伝達分子のリン酸化解析 2-6. 細胞増殖阻害実験 2-7. 免疫組織化学的解析 2-8. 統計学的解析 第三章 実験結果・・・・・・・・・・・・ 34 3-1. SPINK1 添加時の細胞増殖実験 3-2. 免疫沈降ウェスタンブロッティングによる SPINK1 と EGFR の結合確認実験 3-3. QCM 法を用いた SPINK1 と EGFR を含む ErbB ファミリーの結合実験 2 3-4. SPINK1 刺激による EGFR のリン酸化の解析 3-5. SPINK1 刺激による EGFR の下流のカスケード分子のリン酸化・活性化の解析 3-6. SPINK1 添加時の EGFR 下流の細胞増殖に関わるカスケードの阻害実験 3-7. ヒト正常膵とヒト膵癌組織における SPINK1 と EGFR の発現 3-8. PanIN における SPINK1 と EGFR の発現 第四章 考察 ・・・・・・・・・・・・ 53 第五章 結語 ・・・・・・・・・・・・ 59 第六章 参考文献 ・・・・・・・・・・・・ 60 3 要旨 [背景・目的] Serine protease inhibitor, Kazal type 1 (SPINK1) は、膵腺房細胞で産 生され、膵内で活性化したトリプシンを阻害することにより、膵臓を自己消化から守る 役割を負っている。それとは別に SPINK1 は様々な癌で発現していることが知られて いるが、腫瘍での SPINK1 の役割はいまだに分かっていない。また、以前より SPINK1 と上皮成長因子 (epidermal growth factor ; EGF) 間の構造上の類似性があることが 指摘されていること、上皮成長因子レセプター (EGF receptor ; EGFR) は PanIN 病変 や膵癌、慢性膵炎で過剰発現しており、膵管上皮の異常増殖や反応性増殖において EGFR シグナルカスケードとの関与が示唆されている。今回、SPINK1 が EGFR のリガ ンドのひとつであると仮説を立て、特に膵癌において細胞増殖促進活性を示すことを 明らかにするために実験を行った。 [方法と結果] NIH3T3 fibroblast および 5 種類の癌細胞株を用いて、SPINK1 添加時 の細胞増殖促進活性を検討したところ、ほぼ濃度依存性に細胞増殖促進活性を示し た。免疫沈降ウェスタンブロッティングと水晶マイクロバランス法を用いて SPINK1 と EGFR の結合実験を行ったところ、SPINK1 と EGFR の結合を確認することができ、そ の結合力は EGF と EGFR との結合力の約半分であった。SPINK1 刺激時の EGFR の リン酸化、またその下流のカスケードのリン酸化・活性化をみるために、ウェスタンブロ ッティングを施行したところ、EGFR のリン酸化およびその下流のカスケードの活性化を 確認できた。EGFR とその下流の細胞増殖に関わるカスケードの阻害剤を添加したと ころ、EGFR の阻害により EGF/SPINK1 添加群で細胞増殖が阻害され、主に MAPK カスケードが細胞増殖に関わっていることが判明した。ヒト正常膵組織、ヒト膵癌組織、 ヒト膵上皮内腫瘍性病変 (Pancreatic Intraepithelial Neoplasia ; PanIN) を用いて抗 SPINK1 抗体と抗 EGFR 抗体による免疫組織染色を施行すると、膵癌で SPINK1 と EGFR が共発現していて、PanIN 病変でも SPINK1 と EGFR が共発現していた。EGFR に関しては PanIN となるその前段階の正常膵管上皮細胞にも発現していた。 [考察] SPINK1は癌細胞に対し細胞増殖促進活性を示すことが示唆された。 SPINK1 と EGFR は膵管状腺癌と PanIN 病変で共発現されていること、SPINK1 が EGFR のリガンドの一つとして作用することより、おそらくオートクリン、パラクリン的に EGFR、主に MAPK カスケードを介して膵癌の細胞増殖を促進し、癌の発育・進展に 関与していることが示唆された。 4 発表論文リスト 関連論文 Serine protease inhibitor, Kazal type 1, promotes proliferation of pancreatic cancer cells through the epidermal growth factor receptor Nobuyuki Ozaki, Masaki Ohmuraya, Masahiko Hirota, Satoshi Ida, Jun Wang, Hiroshi Takamori, Shigeki Higashiyama, Hideo Baba, Ken-ichi Yamamura C/EBP homologous protein is crucial for the acceleration of experimental pancreatitis. Suyama K, Ohmuraya M, Hirota M, Ozaki N, Ida S, Endo M, Araki K, Gotoh T, Baba H, Yamamura K. Biochem Biophys Res Commun. 2008 Feb 29;367(1):176-82. Epub 2007 Dec 31. Significance of endothelial molecular markers in the evaluation of the severity of acute pancreatitis. Ida S, Fujimura Y, Hirota M, Imamura Y, Ozaki N, Suyama K, Hashimoto D, Ohmuraya M, Tanaka H, Takamori H, Baba H. Surg Today. 2009;39(4):314-9. Epub 2009 Mar 25. その他の論文 膵癌に対する補助化学療法の有用性 坂本快郎, 高森啓史, 中原修, 橋本大輔, 赤星慎一, 尾﨑宣之, 古橋聡, 馬場秀夫 熊本大学大学院医学薬学研究部消化器外科学 臨外, 64(7) : 925-932, 2009. 5 急性膵炎重症化の分子機構 広田昌彦, 大村谷昌樹, 陶山浩一, 尾﨑宣之, 井田智, 田中洋, 高森啓史, 馬場秀夫 熊本大学大学院医学薬学研究部消化器外科学 胆と膵, 29(4) : 313-316, 2008. 6 謝辞 熊本大学大学院医学薬学研究部消化器外科学 馬場秀夫教授、熊本大学大学院 医学薬学研究部臓器形成学 山村研一教授のご指導の下、本研究を行いました。多 くのご指導を頂き、深く感謝いたします。 熊本大学発生医学研究センター器官形成部門臓器形成学 荒木喜美准教授、熊 本市医師会病院外科(前熊本大学大学院医学薬学研究部消化器外科学准教授) 廣田昌彦 先生には日々の実験手法から論文の指導まで幅広いご指導を頂きました。 深く感謝いたします。 愛媛大学大学院医学系研究科 システムバイオロジー部門 分子ネットワーク解析 学講座 生化学・分子遺伝学分野 東山繁樹教授には EGFR、HER2、HER3、HER4 細胞外ドメインとヒト IgG-Fc の融合タンパクを譲渡していただき、また、ErbB ファミリーと リガンドについての知識、結合実験に関する貴重なご意見を頂きました。熊本大学発 生医学研究センター器官形成部門臓器形成学 中田三千代実験補助員、太田家由 美実験補助員には病理組織検査の技術的なご指導を頂きました。 臓器形成学教室、消化器外科学教室の皆様には有形無形の多くのご協力とご指導 を頂きました。 最後に、熊本大学大学院先導機構 大村谷昌樹博士には研究のイロハから始まり、 各種の研究手法、論文の読み方、研究に対する姿勢など、直接的なご指導・ご鞭撻を 頂きました。 心から感謝いたします。 7 略語一覧 AKT, v-akt murine thymoma viral oncogene homolog 1 BPTI, basic pancreatic trypsin Inhibitar DMEM, Dulbecco's modified Eagle medium DNA, doexyribo nucleic acid EGF, epidermal growth factor EGFR, epidermal growth factor receptor ErbB2, v-erb-b2 erythroblastic leukemia viral oncogene homolog 2 ErbB3, v-erb-b2 erythroblastic leukemia viral oncogene homolog 3 ErbB4, v-erb-b2 erythroblastic leukemia viral oncogene homolog 4 FBS, fetal bovine serum HB-EGF, heparin-binding EGF-like growth factor HER2, human epidermal growth factor receptor 2 HER3, human epidermal growth factor receptor 3 HER4, human epidermal growth factor receptor 4 IPMA, intraductal papillary-mucinous adenoma IPMN, intraductal papillary-mucinous neoplasia IPMC, intraductal papillary-mucinous carcinoma JAK, janus kinase KRAS, v-Ki-ras2 Kirsten rat sarcoma viral oncogene homolog MAPK, mitogen-activated protein kinase NRG-1, neuregulin-1 PanIN, pancreatic intraepithelial neoplasia 8 PBS, phosphate buffered saline PI3K, phosphoinositide-3 kinase PSTI, pancreatic secretory trypsin inhibitor QCM, quartz-crystal microbalance SPINK1, serine protease inhibitor Kazal type 1 Spink3, serine protease inhibitor Kazal type 3 STAT, signal transducers and activator of transcription TATI, tumor associated trypsin inhibitor TBS, Tris buffered saline TGF-alpha, transforming growth factor alpha 9 第一章 研究の背景と目的 1-1. 膵癌の発生の動向と治療成績 国立がんセンターによるがんの統計によれば、膵癌は本邦において粗罹患数が 2000 年度:20,045人と,胃癌:102,785人,大腸癌:92,137人,肺癌:67,890人,肝臓 癌:40,053人に次いで第5位,粗死亡数においては2000年度:19,094人と,肺癌: 53,722人,胃癌:50,647人,大腸癌:35,946人,肝臓癌:33,979人に次いで第5位となっ ている。5年相対生存率は5.5%と,大腸癌64.6%,胃癌58.8%,肺癌19.9%,肝臓癌 17.1% に比して極端に低い。罹患数は増加しており,この25年間に3倍強となってい る(1975年:6,075例,2000年:20,045例)。さらには,患者の平均余命は1年6カ月であ り,疼痛,黄疸,消化機能不全等を伴って,苦痛が極めて大きい。これらの事実は膵 癌が難治性癌として医学上極めて大きな問題であり、現在に至ってもなお予防,診断, 治療の何れに関しても効果的な方法が確立していないことを示しており,早期診断、 有効な治療方法の開発が急務である。 膵癌の原因や危険因子については数多くの疫学的研究がなされ、様々な因子が報 告されている (表 1)。 表 1 現在にまで報告されている膵癌のリスクファクター 嗜好品・・・喫煙、飲酒、コーヒー 食生活・・・肉類、高カロリー食、高脂肪食 既往症・・・糖尿病、胆石症、膵炎、膵石症、胃切除後、胆嚢摘除後 肥満 職業・・・化学物質の被爆 家族歴・・・家族性膵癌、遺伝性疾患 (inherited cancer symdrome) 10 この中で喫煙が最も重要な危険因子である。喫煙者のリスクは非喫煙者の約 2 倍であ り、膵癌症例の約 30%は喫煙との関連があるとされている。また食事においては肉食、 高脂肪食、高カロリー食などが膵癌のリスクを高めると報告されている。更に近年、肥 満や体重増加も膵癌の危険因子とされ、適度な運動が膵癌のリスク低下につながると の報告もある。食事の内容の欧米化とともに、今後も膵癌発生の増加が続くものと推 測されている。 表 2に、過去に集計された 18,495 例の膵癌の組織型分類を示す。膵癌は病理組織 学的に通常型膵癌、嚢胞腺癌、膵管内乳頭腫瘍、内分泌腫瘍、その他に分類される。 組織型不明の 8,722 例を除いた 9,773 例のうち 8,617 例 (88%) が通常型膵癌であり、 そのうち 7,205 例 (74%) が管状腺癌である。通常型膵癌は、膵癌例全体の 90%を占 め、治療成績は極めて悪く、最難治癌として知られている。実際、1998 年の膵癌全国 登録調査によると、通常型膵癌の 5 年無再発累積生存率は 9.3%と他の組織型に比 べて極めて不良であった。 表 2 組織型分類 11 表 3 に、膵癌取り扱い規約の進行度分類 (Stage) を示す。1999 年度症例の膵癌全国 登録調査の結果では、不明例を除き診断時に 90%以上が StageⅢ,Ⅳであり、高度進 行例では、切除不能症例も少なくない (表 4) 。StageⅠは、わずかに 2.1%で、近年 の画像診断技術の進歩にもかかわらず早期発見が非常に困難であることを示してい る。その原因として通常型膵癌は、特徴的症状に乏しいこと、更に膵臓が後腹膜臓器 であるという解剖学的特特徴が考えられる。また、たとえ小膵癌であっても、膵周囲組 織に浸潤し、血行性転移、リンパ行性転移、あるいは播種性転移が高率に見られる。 実際、膵癌全国登録調査報告において腫瘍径 2 cm 以下でリンパ節転移がなく、組織 学的な膵周囲浸潤もない StageⅠ症例ですら、5 年無再発累積生存率が 56.7%と、他 の消化器系の早期癌よりも極めて予後不良である(図 1)。これは、小さい通常型膵癌 でも漿膜を越えて膵外に浸潤したり、リンパ管侵襲、静脈侵襲、神経浸潤などの組織 学的な進展から、容易にリンパ節転移や肝転移を起こすためと考えられる。 表 3 進行度分類 (Stage) 膵癌取り扱い規約 『膵癌取扱い規約』 第 5 版 より引用 12 表 4 Stage 別頻度 図 1 図 1 膵癌全国登録における通常型膵癌の Surgical Stage と予後 13 1-2. 膵上皮内腫瘍性病変 (Pancreatic Intraepithelial Neoplasia ; PanIN) PanINは膵管内に生じる円柱上皮性の異型上皮病変を総合的にとらえる概念として、 2000 年にHrubanらにより提唱された (1)。その定義として、「膵上皮内腫瘍性病変 (PanIN)は膵管上皮より発生し、顕微鏡レベルで観察される乳頭状もしくは平坦な形 態をとる非浸潤性の上皮内腫瘍性病変である。PanINはさまざまな量の粘液を有し、さ まざまな程度の細胞異型や構造異形を示す円柱状から立方状の細胞で構成される。 PanINは通常直径 5 mm未満の膵管に認められる」とされている (2)。PanINはさまざ まな程度の異型を示す病変を含むが、異型度によりPanIN-1 (PanIN-1A / PanIN-1B) / PanIN-2 / PanIN-3の3段階に分けられる。それぞれ低異型度、中等度異型、高異型度 病変に相当する。Hrubanらの文献による分類基準概略を表5と図2に示す。 表 5 PanINの分類基準 正常膵管上皮 :正常上皮は立方から低円柱上皮細胞からなり、核の重層化や異型を 認めない。 PanIN-1A :平坦な構造で、胃の腺窩上皮様の高円柱上皮細胞で内腔を覆わ れ、核は球形から卵円形である。 PanIN-1B :円柱上皮細胞で覆われる低乳頭状の構造を示し、核は球形から卵円 形である。核の重層化や異型を認めない。乳頭状構造の基部で胃の 幽門腺様の構造を示すことがある。 PanIN-2 :異型を持つ円柱上皮が、平坦ないし乳頭状構造を示す。乳頭状構造 は線維性の間質を持つ。異型細胞は,長く延長した核を持ち、中には 偽重層化を示す部位を持つ。核分裂像はほとんどみられない。 PanIN-3 :著明な異型を示す円柱ないし立方上皮が低乳頭状から乳頭状構造、 稀に平坦構造を示す。核の極性は消失し明瞭な核小体を持つ。 Hruban RH, et al. Am J Surg Pathol 2004;28:977-87 14 図 2 Hruban RH, Progression model for pancreatic cancer. Clin Cancer Res 2000; 6: 2969-72. 図 2 PanINの分類 PanINのコンセプトにおいて最も重要な点は、形態像を基盤とした病変が特徴的分 子異常と関連しており、その結果、PanINが段階的に進行する一連の腫瘍性病変であ ることを明確にしたことにある (図 3) (3)。膵癌 (管状腺癌) ではKRASの体細胞性の 機能亢進性変異が90%以上の頻度で認められるが、PanINにおいては低異型度病変 のPanIN-1の段階で既にその変異が認められ、EGFR、ErbB2 においてはそれよりも 更に早期に活性化されている (3)。KRASの産物RASはGTP結合蛋白で増殖因子から の刺激を中継し、その信号を数々の下流のエフェクター分子につたえるメディエータ ーとして働いている。膵癌 (管状腺癌)およびPanINで検出されるKRASの異常のほと んどがコドン12の点突然変異であり、この変異はRASを恒常的に活性化する異常をも たらす。変異Krasを膵管上皮特異的に発現させるマウスモデルにおいて膵管上皮に PanIN-1類似の変化が高率に発生することが示され、さらにそれが経時的に異型の強 い病変に変化して、ついには浸潤癌発生に至るがごとく見受けられることから、 PanIN-1は浸潤性膵管癌発生に進展しうる初期変化に相当するものと考えられる (4)。 TP53/p53は浸潤性膵管癌の約50~70%程度で異常が認められるが、PanIN-1、-2に 15 おいてはp53の異常はほとんど認められない。PanIN-3になると40~50%でp53の発現 異常が認められる (5)。p53は転写因子として働き、主にDNA障害性の刺激に反応し て細胞回転を止め、DNA修復に向かわせる、あるいは細胞死を誘導する遺伝子群を 活性化するが、ここに異常を来たすと転写因子機能に必須であるDNA結合領域のア ミノ酸残基置換性(missense)変異が認められ、転写因子として機能できなくなる。変異 Krasに変異Trp53(マウスにおけるp53)を持ったマウスモデルにおいては、PanIN