Nippon Suisan Gakkaishi 77(5),822833 (2011)

琵琶湖におけるニゴロブナ auratus grandoculis 種苗の 放流水域としてのヨシ帯の重要性と放流事業の課題

藤原公一, 1,2a臼杵崇広, 1a 根本守仁, 1 松尾雅也, 3 竹岡昇一郎, 3 田中 満, 3 北田修一 2

(2011 年 2 月 23 日受付,2011 年 5 月 15 日受理)

1滋賀県水産試験場, 2東京海洋大学海洋科学部, 3琵琶湖栽培漁業センター

The importance of the reed zone as a release region for larval and/or juvenile nigorobuna Carassius auratus grandoculis in , and problems for stock enhancement

KOH-ICHI FUJIWARA,1,2aTAKAHIRO USUKI,1a MORIHITO NEMOTO,1 MASAYA MATSUO,3 SYOICHIRO TAKEOKA,3 MITSURU TANAKA3 AND SHUICHI KITADA2

1Shiga Prefecture Fisheries Experiment Station, Hikone, Shiga 5220057, 2Faculty of Marine Science, Tokyo University of Marine Science and Technology, Minato, Tokyo 1088477, 3Stock Enhancement Center of Lake Biwa, Kusatsu, Shiga 5250005, Japan

EŠective release strategies for nigorobuna Carassius auratus grandoculis in Lake Biwa were investigated by release-recapture experiments of otolith marked nigorobuna with ALC. As a result, nigorobuna arrived at the juvenile stage exceeding approximately 16 mm in standard length and released to the australis reed zone showed a rapid increase in survival rate. A remarkable decrease in the survival rate of stocked ˆsh in the lake was observed in cases of 1) releasetothereed-freelakeshore,2) reduction of the depth of ‰ooded reed zone ac- cording to draw down of water level by artiˆcial manipulation, 3) growthretardationofreedinspringbyexces- sive cutting management of reed in winter, and 4) excessive release of nigorobuna larvae to a limited reed zone. Larvae-release techniques which overcome the problems and reed zone-independent release methods for nigorobuna should be developed in the future.

キーワード ALC 耳石標識,再捕率,生残率,ニゴロブナ,標識放流,琵琶湖,放流効果,ヨシ帯

ニゴロブナ Carassius auratus grandoculis は,コイ科 ことが明らかになった。 6) また,ヨシ帯奥部は本種仔魚 フナ属に属する琵琶湖の固有亜種 13)で,滋賀県の食文 が好んで摂餌する微小甲殻類(ミジンコ亜綱 )69)が豊富 化を代表するフナズシ 4,5)の材料に用いられる。このた で,貴重な摂餌の場となっているが,溶存酸素濃度が著 め本種は琵琶湖漁業にとって非常に重要な漁獲対象とな しく低く,一般には魚類が生息しにくい環境にあること っており,琵琶湖ではその資源を積極的に増やすため, が判った。 6) しかし本種仔魚は生理的にそのような貧酸 琵琶湖栽培漁業センターと滋賀県漁業協同組合連合会に 素環境に適応しており,ヨシ帯奥部は本種仔魚にとって よって種苗放流事業が行われている。著者らは,この事 捕食者からの退避地として機能していると考えられ 業を効果的に進めるうえで必要な種苗放流適地について た。6,10) それでは,本種の仔魚や稚魚が琵琶湖で生き残 知見を得るため,本種の養成親魚から得た仔稚魚をよく るうえでヨシ帯は不可欠であろうか。この疑問を解決す 発達したヨシ帯に放流して初期生態を調査した。その結 るため著者らは, ALC(アリザリンコンプレクソン) 果,本種は仔魚期にはヨシ帯の岸辺付近(以下,奥部) で耳石に標識(以下, ALC 標識)11,12)を付けて識別した へ積極的に集まり,その水域を発育の場として利用する ニゴロブナ種苗を琵琶湖のヨシ帯,近隣の砂浜およびそ

Tel81749281611.Fax81749252461.Emailfujiwara-koichi@pref.shiga.lg.jp a 現所属滋賀県水産課( Fisheries Management Division, Otsu, Shiga 5208577, Japan) ニゴロブナ種苗放流の適地と課題 823

れらの沖合水域へ放流し,琵琶湖で再捕調査を行い,本 県水産試験場(以下,滋賀水試。滋賀県彦根市)へ搬入 種仔稚魚が琵琶湖で生き残るうえでヨシ帯が非常に重要 し,琵琶湖水を流したパンライト製または FRP 製の水 な役割を果たしていることを示した。また,ヨシ帯への 槽に収容管理して,数日後にふ化仔魚を得た。これら ALC 標識種苗の放流調査により,高い放流効果が期待 ふ化仔魚は藤原13)の手法に従って飼育した。種苗各群 できる種苗サイズ(発育段階)を明らかにし,併せて, の生産概要は Table 1 にまとめた。 ヨシ帯が持つ本種仔稚魚のナーサリー機能は,治水を目 標識 種苗の耳石(礫石)に藤原11)および藤原ら12) 的とした琵琶湖の人為的な水位低下やヨシ帯の管理を目 の方法で ALC 標識を付けた。なお,放流後に再捕され 的とした冬季のヨシ刈り取り,焼き払い,およびヨシ帯 る種苗の放流時の礫石の長径(以下,耳石長)を推定す への過度の種苗放流によって低下することを明らかにし るため,原則として最終の標識操作は各群とも放流する た。 前日から放流直前までの 24 時間かけて行い,放流時の 種苗の耳石外縁を ALC で染めた。Table 1 には種苗各 材料および方法 群へ付けた ALC 標識についても併せて示した。 供試魚 1992 年から 1995 年にかけて,毎年原則と ヨシ帯の重要性の検討 ニゴロブナの種苗放流適地と してニゴロブナの産卵盛期の 5 月上旬に,琵琶湖栽培 してのヨシ帯の重要性を検討するため,Fig. 1 に示した 漁業センター(以下,栽培漁業センター。滋賀県草津市) 滋賀県長浜市湖北町海老江(以下,海老江)の琵琶湖沿 のニゴロブナ親魚養成池へ人工産卵藻(キンラン,川島 岸のヨシ帯(Site E),近隣の同町尾上(以下,尾上) 商事)を設置して,ニゴロブナに自然産卵させた。産卵 の砂浜(Site O)およびそれらの沖合(竹生島の南方) 翌日には,卵が付着した人工産卵藻を活魚輸送車で滋賀 の水深約 80 m の水域(Site CS)へ本種種苗 94E 群,

Table 1 Details of the ALC marked1 nigorobuna Carassius auratus grandoculis released in Lake Biwa

Standard length Group Spawning Hatching Release Number Release Age at release ALC mark type2 name date date date released site 3 Mean±SD N 

DAH4 mm 92M11 5/11/1992 5/17/1992 5/19/1992 2 Dot 5.53±0.32 124 1,074,000 M 92M12 5/11/1992 5/17/1992 5/27/1992 10 Dot and ring 7.61±0.95 100 295,000 M 92M13 5/11/1992 5/17/1992 6/ 6/1992 20 Dot and 2 rings 9.73±1.43 135 49,000 M 92M14 5/11/1992 5/17/1992 6/16/1992 30 Dot and 3 rings 15.12±2.47 113 26,000 M 92M15 5/11/1992 5/17/1992 6/26/1992 40 Dot and 4 rings 16.06±2.80 140 29,300 M 92M21 6/11/1992 6/15/1992 6/17/1992 2 Dot 5.74±0.42 112 313,000 M 92M22 6/11/1992 6/15/1992 6/23/1992 8 Dot and ring 6.99±0.47 129 193,000 M 92M23 6/11/1992 6/15/1992 7/ 1/1992 16 Dot and 2 rings 8.07±0.92 142 199,000 M 92M24 6/11/1992 6/15/1992 7/ 9/1992 24 Dot and 3 rings 10.67±1.48 180 91,000 M 92M25 6/11/1992 6/15/1992 7/17/1992 32 Dot and 4 rings 14.76±2.72 124 25,800 M 94E 5/ 9/1994 5/15/1994 6/26/1994 42 5 rings 16.63±3.65 250 132,000 E 94O 5/ 9/1994 5/15/1994 6/26/1994 42 4 rings 15.47±3.52 250 121,000 O 94CS 5/ 9/1994 5/15/1994 6/26/1994 42 3 rings 17.62±4.31 250 98,000 CS 94M 5/ 9/1994 5/15/1994 6/28/1994 44 3 rings 18.14±4.50 240 95,000 M 95M 4/29/1995 5/ 5/1995 7/ 6/1995 62 3 rings 20.62±3.62 244 30,000 M 95C1 5/25/1995 5/31/1995 7/ 6/1995 36 Dot and 2 rings 16.80±3.69 289 84,000 C 95C2 4/29/1995 5/ 5/1995 7/ 6/1995 62 2 rings 20.62±3.53 257 32,000 C 93E 5/12/1993 5/18/1993 7/ 1/1993 44 4 rings 16.22±3.30 203 194,000 E 95E 5/15/1995 5/20/1995 7/ 4/1995 45 3 rings 17.28±3.34 323 37,000 E 95CN1 5/15/1995 5/20/1995 8/ 1/1995 73 3 rings 23.30±6.06 218 17,000 CN 95CN2 5/4/1995 5/10/1995 8/ 1/1995 83 6 rings 25.52±6.14 200 66,000 CN 95H 5/15/1995 5/20/1995 7/11/1995 52 4 rings 15.97±3.37 314 120,0005 H 95A 5/15/1995 5/20/1995 7/11/1995 52 3 rings 16.47±3.71 323 109,0006 A

1 Refer to the text for ALC marking. 2 Except for the mark of only a dot, ALC marks were mutually discriminable from the size, interval, etc. of rings. 3 Refer to Fig. 1. 4 Days after hatching. 5 Non-marked ˆsh of 81,000 (23.21±SD3.70 mm in standard length) were released with marked group 95H. 6 Non-marked ˆsh of 506,000 (20.13±SD3.19 mm in standard length) were released with marked group 95A. 824 藤原,臼杵,根本,松尾,竹岡,田中,北田

94O 群および 94CS 群を,ともに 1994 年 6 月 26 日に 放流した。沿岸部への放流種苗(94E 群,94O 群)は, 滋賀水試から活魚輸送車で群毎に放流水域付近まで運搬 し,バケツリレーして放流した。沖合への放流種苗 (94CS 群)は,尾上にある朝日漁港で活魚輸送車から 漁船の活魚水槽へ移し替えて沖合まで運搬して放流し た。なお,放流時に各群から 250 尾を無作為抽出して 冷凍保存し,後日,解凍後,これら全個体の標準体長 (以下,体長)を測定して群毎に平均値と SD を計算す るとともに,体長 2mm間隔の相対度数を求め,同群の 放流尾数にこれを乗じて,体長 2mm間隔毎の放流尾数 を推定した。同年 11 月 5 日から翌年 4 月 15 日には, 琵琶湖の北湖盆(北湖)で小型機船底曳き網を用いてニ ゴロブナ標本を 13,525 尾採集した。その標本を冷凍保 存し,後日解凍して体長と体重を測定した後,耳石を調 べて標識魚を特定し,さらに各群を確定して,群毎の再 捕尾数を求めた。また,各群の耳石の最外部の ALC リ ングの長径(=放流時の耳石長)を蛍光顕微鏡(OP-

TIPHOT,XTEFD,ニコン)の接眼マイクロメータ Fig. 1 Release sites of nigorobuna Carassius auratus を用いて計測し,藤原らの方法12)で群毎の耳石長体長 grandoculis. Nigorobuna with diŠerent ALC mark shown in Table 1 were released in each site. 関係式から個体毎に放流時の体長を推定し(以下,この 体長を推定放流体長という。),推定放流体長 2mm間隔 で再捕尾数を求めた。これらのデータから,群毎および 定,標識確認を行い,92M12~92M15 群と 92M22~ 各群の推定放流体長 2mm間隔の再捕率(再捕尾数/放 92M25 群の群毎の再捕率を算出した。 流尾数×100,)を計算した。 また,これら放流種苗のうち,92M10 シリーズの放 ヨシ帯内での放流サイズ毎の生残率の推定 藤原ら6) 流魚は 92M14 群を放流した 8 日後の 1992 年 6 月 24 日 はヨシ帯におけるニゴロブナの初期生態を知るため,滋 以降に,92M20 シリーズの放流魚は 92M24 群を放流 賀県近江八幡市牧町(以下,牧,Fig. 1)の琵琶湖沿岸 した当日の 7 月 9 日以降に,同ヨシ帯の両端と中央部 に自生するヨシ帯(幅が概ね 150~160 m,奥行きが概 に岸辺から沖合にかけて設置した 3 枚のネットの先端 ね 45~50 m)に,ALC 標識を付けた 10 群のニゴロブ に設置したマス網で捕獲されるようになった。92M11 ナ仔稚魚を放流した。この内,5 群は 1992 年 5 月 17 ~92M14 群と 92M21~92M22 群は,それまでヨシ帯 日にふ化したもので,滋賀水試内で継続飼育しながら異 内部でタモ網で採集されたが,マス網では採集されなか なるパターンの ALC 標識を付けて,2 日齢,10 日齢, ったことから,それぞれ 6 月 23 日以前および 7 月 8 日 20 日齢,30 日齢および 40 日齢の時点で Table 1 に示 以前はそのヨシ帯内に限定して生息していたと考えられ したとおり順次放流した(本報では,それぞれ 92M11 ている(藤原ら6))。そこで,6 月 24 日時点で未放流の 群,92M12 群,92M13 群,92M14 群および92M15 92M15 群を除く 92M10 リーズおよび 7 月 9 日時点で 群。以下,92M10 シリーズ)。また,他の 5 群は同年 6 未放流の 92M25 群を除く 92M20 シリーズの各群の牧 月 15 日にふ化したもので,同様に ALC 標識を付けて 2 のヨシ帯内での生残率を,これらの採集尾数のデータを 日齢,8 日齢,16 日齢,24 日齢,32 日齢の時点で放流 用いて田中14),北田15)にならい,Fig. 2 に示したモデル

した(それぞれ92M21 群,92M22 群,92M23 群, にしたがって推定した。ここで Ri は,i 番目に放流した 92M24 群および 92M25 群。以下,92M20 シリーズ)。 92M10 シリーズまたは 92M20 シリーズの種苗の放流

このうち,92M11 群と 92M21 群の標識はともに卵段 尾数,Ei+1 は(i+1)番目に放流した 92M10 シリーズ 階で付けた耳石(礫石)の核部分が点状に発光する標識 または 92M20 シリーズの種苗の放流時点(i+1)にお であるため両者を識別ができないが,他の群の標識はそ ける i 番目の放流群の生残尾数である。ここで i 番目に れぞれ識別できる。そこで,今回の調査では 1992 年 10 放流した種苗と(i+1)番目に放流した種苗の(i+1) 月 15 日から翌年 4 月 6 日にかけて琵琶湖北湖で小型機 時点以降の生残率は等しく,それら種苗のマス網による 船底曳き網を用いて 21,459 尾のニゴロブナ標本を採集 捕獲割合も等しいと仮定して,i 番目に放流した 92M10 し,得られた標本を上記と同様に保存して,後日,測 シリーズまたは 92M20 シリーズの種苗の次の群の放流 ニゴロブナ種苗放流の適地と課題 825

Fig. 2 Schematic diagram of survival estimation of larval and juvenile nigorobuna Carassius auratus grandoculis in the reed zone (Site M in Fig. 1).

時点(i+1)の生残尾数を次式で求めた。なお,ci と た。 n ci+1 は,それぞれ 92M10 シリーズ(6 月 24 日以降)ま ÂS T, n+1=_ Âq i, i+1, (n=2, 3) たは 92M20 シリーズ(7 月 9 日以降)の i 番目と(i+ i=1 1)番目の放流群のマス網で再捕された尾数である。 この分散は,同様にデルタ法によって 2 2 Ri+1ci V ( ÂS T,3)q 23V ( Âq 12)+〈Âq 12V ( Âq 23) ÂE i+1= ci+1 +2 Âq 12 Âq 23 Cov ( Âq 12, Âq 23) これらの生残尾数から,i 番目に放流した 92M10 シ および 2 2 2 2 リーズまたは 92M20 シリーズの種苗の次の群の放流時 V ( ÂS T,4) Âq 23 Âq 34V ( Âq 12)+ Âq 12 Âq 34V ( Âq 23) 〈 2 2 2 点(i+1)の生残率 Âq i, i+1(以下,群間生残率)を次式 + Âq 12 Âq 23V ( Âq 34)〈+2 Âq 12 Âq 23 Âq 34 Cov ( Âq 12, Âq 23) 2 で計算した。 +2 Âq 12 Âq 23 Âq 34 Cov〈( Âq 12, Âq 34) 2 ÂE i+1 Ri+1ci +2 Âq 12 Âq 23 Âq 34 Cov ( Âq 23, Âq 34) Âq i, i+1= = Ri Rici+1 と推定される。ここでは,異なる期間の生残は互いに独 なお,群間生残率の漸近分散はデルタ法(例えば北田16) 立と仮定し,共分散の項を無視して分散を計算した。 を参照)によって一次の項まで展開して次式で推定した。 1992 年 5 月 11 日には,同ヨシ帯の中央において, 2 2 R i+1 V (ci) c i V (c i+1) 岸辺から沖合方向への距離と水深を実測し,その後の水 V ( Âq i, i+1) 2 2 + 4 R i [ c i+1 c i+1 位の変動に伴う水に浸かったヨシ帯(以下,水ヨシ帯) 〈 ci の奥行きの変化を計算した。 -2 3 Cov (ci, ci+1) c i+1 ] 効果的放流サイズの検討 琵琶湖での高い放流効果が

ここで,VÂ (ci)=Ripâ i(1-pâ i), pâ i=ci/Ri,〈VÂ (ci+1)=Ri+1 期待できる種苗サイズを検討するため,Fig. 1 に示した pâ i+1 ( 1 - pâ i+1 ) , pâ i+1 = ci+1 / Ri+1, Cov ( ci, ci+1 ) = r 琵琶湖沿岸のヨシ帯(Site M, E )とそれらの沖合

VÂ (ci)VÂ (ci+1) である。ただし,r は ci と ci+1 の相関係 (Site C, CN)へ Table 1 に示したとおり 94M~95CN2 数である。同一水域において同じ漁具で再捕されたこと〈 群の 8 群を 1993~1995 年に放流した。その後,琵琶湖

から r>0,すなわち Cov (ci, ci+1)>0 であることが期待 北湖で小型機船底曳き網を用いて 1993 年は 10 月 15 日 される。r は未知であるため,ここでは上記の分散式の から翌年 4 月 22 日に 24,337 尾,1994 年は上記のとお 3 項目を無視するが,3 項目は正の値をとるため,この り,1995 年は 10 月 30 日から翌年 3 月 3 日に 9,526 尾 分散の評価は安全なものになっている。この分散から群 のニゴロブナ標本を採集し,得られた標本を上記と同様 間生残率の標準誤差 SE を求めた。 に保存して,後日,測定,標識確認を行い,標本を各年 また,92M10 シリーズまたは 92M20 シリーズにお 10,000 尾サンプリングした場合の各群の推定放流体長 いて,1 番目に放流した種苗(92M11 群または 92M21 2mm間隔の再捕率を計算した。 群)の(n+1)番目の種苗放流時点(ただし n=2, 3) ヨシ帯における密度効果の評価 ヨシ帯単位面積当た

までの生残率 ÂS T(以下,通算生残率)を次式で推定し りに放流する尾数(以下,放流密度)の影響,すなわち 826 藤原,臼杵,根本,松尾,竹岡,田中,北田

密度効果を評価するため,1995 年には Fig. 1 に示した 昇する傾向がみられ,それよりも大きな体長では低下し 滋賀県高島市新旭町針江(以下,針江)と同町饗場(以 た。しかし 24 mm を超えた種苗の 2mm間隔の放流尾 下,饗場)の琵琶湖沿岸のヨシ帯(それぞれ Site H と Site A)へ Table 1 に示したとおり 95H 群と 95A 群を 放流した。放流時に巻き尺を用いて実測した水ヨシ帯の 面積は,Site H では11,671 m2 ,Site A では 9,702 m2 であった。なお,これらの放流に併せて,栽培漁業セン ターで生産した無標識のニゴロブナ種苗を,95H 群と ともに 81,000 尾,95A 群とともに 506,000 尾放流した (Table 1)。その後,琵琶湖北湖で小型機船底曳き網を 用いて上記のとおりニゴロブナを採集し,得られた標本 を上記と同様に保存し,後日,測定,標識確認を行い, 群毎および両群の推定放流体長 2mm間隔の再捕率を計 算した。 統計処理 2 群の体長,体重および肥満度の平均値の 差は,それらが F 検定により p>0.05 で等分散とみな された場合はスチューデントの t 検定で,そうでない場 合にはウェルチの t 検定で検定した。琵琶湖への種苗放 流実験における 2 群の再捕率の差は,二項分布の正規 近似による比率の差検定で検定した。

結果 Fig. 3 Standard length distributions of nigorobuna ニゴロブナ種苗の放流水域としてのヨシ帯の重要性 Carassius auratus grandoculis released to Site E (reed zone):group94E,SiteO(sandy beach):group94O 琵琶湖において,海老江のヨシ帯(Site E),尾上の砂 and Site CS (o‹ng):groupCSinLakeBiwa(lower 浜(Site O)およびそれら沖合(Site CS)へ放流した graph), and comparison of recapture rates for estimat- ニゴロブナ種苗(それぞれ 94E 群,94O 群,94CS 群) ed standard lengths at release (upper graph).Aster- isks indicate signiˆcant diŠerences between group の体長組成と 2mm間隔の推定放流体長毎の再捕率を 94E and 94O or group 94E and 94CS by a test of two Fig. 3 に示した。94E 群では再捕率は推定放流体長 14 proportions under normal approximation (p<0.05). mm を超えると 26 mmまで変動はあるものの次第に上 RefertoFig.1forthereleasesites.

Table 2 Comparison of recapture rates and growth of nigorobuna Carassius auratus grandoculis released to reed zone, sandy beach and its o‹ng

Release Recapture2

Estimated Group Standard Condition standard Release site1 Standard length Body weight name Number Number Recapture length factor4 length released recaptured rate3,7 at release5

Mean6±SD N Mean8±SD Mean9±SD Mean±SD Mean±SD

mm  mm g mm E 94E 132,000 16.56±3.47 249 176 0.133 90.58±10.91 24.78± 9.57 3.21±0.24 18.42±3.71 (Reed zone) O 94O 121,000 15.47±3.52 250 29 0.024 90.89± 9.87 24.21± 8.07 3.12±0.18 17.56±3.37 (Sandy beach) CS 94CS 98,000 17.26±3.71 244 26 0.027 105.08±10.70 38.68±13.86 3.23±0.24 18.94±4.34 (O‹ng)

1 Refer to Fig. 1. 2 Fish were released on 6/26, 1994 and recaptured from 132 to 293 days after release by small trawl net in the northern basin of Lake Biwa. 3 Number recaptured/number released×100. 4 Body weight/standard length3×105. 5 Refer to the text for standard length estimation. 6 Signiˆcant diŠerences 94E vs. 94O and 94CS by Student's ttest (p=0.0001 and 0.0292, respectively). 7 Signiˆcant diŠerences 94E vs. 94O and 94CS by a test of two proportions under normal approximation (both p=0.0000). 8 Signiˆcant diŠerence 94E vs. 94CS by Student's t-test (p=0.0000). 9 Signiˆcant diŠerence 94E vs. 94CS by Welch's t-test (p=0.0000). ニゴロブナ種苗放流の適地と課題 827

数は 1,590~2,120 尾と,それ以下の体長の種苗の放流 92M11 群から 92M12 群( Âq 12)に比べて 92M12 群から

尾数 5,301~33,398 尾に比べて少なかった。94O 群と 92M13 群( Âq 23 )が高かった。しかし92M13 群から

94CS 群では,推定放流体長の増大に伴う再捕率の大き 92M14 群( Âq 34)は,発育が進行しているにも関わらず な上昇はみられなかった。また 94E 群は,94O 群と 大きく低下した。このように生残率が比較的高かった 94CS 群に比べてほとんどの推定放流体長で再捕率が有 92M12 群を放流してから 92M13 群を放流するまでの 意(p<0.05)に高かった。 間は,琵琶湖の水位は低下したが水ヨシ帯の奥行きに大 94E~94CS 群の群毎の放流尾数と放流時の体長,再 きな変動はみられなかった。しかし,92M13 群を放流 捕尾数,再捕率,再捕魚の成長および推定放流体長を Table 2 に示した。放流時の平均体長は,94E 群に比べ て 94O 群が 1.08 mm 小さく,94CS 群が 0.71 mm 大き く,ともに有意差が認められた(それぞれ p=0.0001, 0.0292)。群毎の再捕率は,94E 群が 94O 群や 94CS 群 よりも有意に高かった(ともに p=0.0000)。再捕魚の 体長と体重は,94E 群に比べて 94CS 群が有意に大きか った(ともに p=0.0000)。しかし,推定放流体長に関 して,94E 群と 94O 群または 94CS 群との間に有意差 はみられなかった(p>0.05)。 ヨシ帯への放流効果が高い発育段階とヨシ帯内での生 残率の推移 牧の琵琶湖沿岸のヨシ帯(Site M)に放 流した 92M12~92M15 群および 92M22~92M25 群の 放流時の平均体長と再捕率との関係を Fig. 4 に示し た。再捕率は 92M10, 92M20 シリーズともに,体長が 概ね 16 mm に達すると著しく上昇する傾向がみられた。 また,同ヨシ帯へ順次放流(Table 1)した 92M11~ 92M14 群および 92M21~92M24 群は,ヨシ帯に設置 したネットの先端に設けたマス網で Table 3 に示した尾 Fig. 4 Relationships between standard length of nigorobuna Carassius auratus grandoculis released to 数が再捕された。このデータから求められた 92M10 シ the reed zone of Site M (refer to Fig. 1) and recapture リーズと 92M20 シリーズのそれぞれ発育段階が異なる rates. Horizontal bars indicate standard deviations. 放流群の通算生残率および群間生残率をともに百分率 Broken lines indicate regression curves. Developmen- tal stage: 92M12, 92M13, 92M22 and 92M23: pre- で,琵琶湖の水位変動に伴う水ヨシ帯の奥行きの変化と ‰exion larval stage, 92M14 and 92M24: ‰exion larval 併せて Fig. 5 に示した。群間生残率を比較すると, stage, 92M15 and 92M25: juvenile stage.

Table 3 Release and recapture of nigorobuna Carassius auratus grandoculis in the reed zone (Site 41) and estimated survival rates

Number Interval survival rate: Number Number survived at survival rate of a former Total survival rate S Group Age at Release ( T ) released recaptured time of release released group (qi, i+1 ) name release date 2 (Ri) (ci) of next group (Ei+1 ) Mean±SE Mean±SE DAH3  92M11 2 5/19/1992 1,074,000 31 268,971 100.00 92M12 10 5/27/1992 295,000 34 119,000 25.04± 6.22 25.04± 6.22 92M13 20 6/ 6/1992 49,000 14 2,411 40.34±12.81 10.10± 4.07 92M14 30 6/16/1992 26,000 151 4.92± 1.37 0.50± 0.24

92M21 2 6/17/1992 313,000 4 128,667 100.00 92M22 8 6/23/1992 193,000 6 37,313 41.11±26.53 41.11±26.53 92M23 16 7/ 1/1992 199,000 32 33,471 19.33± 8.60 7.95± 6.23 92M24 24 7/ 9/1992 91,000 87 16.82± 3.48 1.34± 1.08

1 Refer to Fig. 1. 2 Recaptured by traps set at the tip of three nets dividing the reed zone.6) 3 Days after hatching. 828 藤原,臼杵,根本,松尾,竹岡,田中,北田

もほとんど再捕されなかった。また,その沖合の水深 8.3 m の水域(Site C)へ 1995 年 7 月 6 日に放流した 95C1 群と 95C2 群は全く再捕されなかった。1993 年 7 月 1 日に海老江のヨシ帯(Site E)に放流した 93E 群 は,推定放流体長が概ね 16 mm を超えると体長の増加 とともに再捕率が大きく上昇する傾向を示した。しか し,同地点へ 1995 年 7 月 4 日に放流した 95E 群は,推 定放流体長が 16 mm を超えると再捕率が若干上昇した ものの,どの推定放流体長でも 93E 群に比べて著しく 低く推移した。また,その沖合の水深約 70 m の水域 (Site CN)へ 1995 年 8 月 1 日に放流した 95CN1 群と 95CN2 群はいずれの推定放流体長の種苗もほとんど再 捕されなかった。 ヨシ帯へ異なる密度で放流した種苗の再捕率 新旭町 のヨシ帯(Site H, A)へ放流密度を変えて放流したニ ゴロブナ種苗のうち,標識魚(95H 群と 95A 群)の体 長組成と 2mm間隔の推定放流体長毎の再捕率を Fig. 7 に示した。再捕率は,両群ともに推定放流体長が大きく なるに伴い上昇する傾向がみられたが,水ヨシ帯 1m2 当たりの放流流密度が 17.2 尾であった 95H 群が,放流 密度が同 63.4 尾であった 95A 群よりも高く推移した。 Fig. 5 Relationship between water height from Lake また,推定放流体長 14 mm以下では,再捕率に両群間 Biwa surface level (BSL) and depth of ‰ooded reed zone (upper graph) and transitions of survival rates of で有意差はみられなかった(p>0.05)が,同 14 mm を nigorobuna Carassius auratus grandoculis (lower two 超えて同 20 mm までは 95H 群が 95A 群よりも再捕率 graphs). Vertical bars indicate standard errors. Refer は有意に高かった(p<0.05)。放流尾数が少なかった同 to Table 1 for group names of 92M11 to 92M25, and developmental stage of each group for Fig. 4. 20 mm 以上では有意差がみられなかった。 両群の総放流尾数,放流時の体長,群毎の総再捕尾 数,総再捕率,再捕魚の成長および推定放流体長を してから 92M14 群を放流するまでの間は,琵琶湖の水 Table 4 に示した。放流時の平均体長は,両群間で有意 位低下に伴い水中にあったヨシ帯が干出して,その奥行 差がみられなかった(p>0.05)。総再捕率は,95H 群 きが大きく減少した。また,ヨシ帯奥部では,多くのニ が 95A 群よりも有意に高かった(p=0.0000)。再捕魚 ゴロブナ仔魚が干出部分に取り残されて死亡する現象が の体長と体重には,両群間で有意差はみられなかった 観察された。92M20 シリーズでは,群間生残率は次第 (p>0.05)が,肥満度と推定放流体長は,95H 群に比 に低下した。92M22 群や 92M23 群を放流した後,次 べて 95A 群が有意に大きかった(それぞれ p=0.0276, の群を放流するまでの間にはいったん琵琶湖水位が上昇 0.0013)。 してヨシ帯の奥行きが一時は増大したが,その後の水位 考察 低下に伴いいずれも水ヨシ帯の奥行きが減少した。 92M11 群から 92M14 群および 92M21 群から 92M24 ニゴロブナ種苗の放流水域としてのヨシ帯の重要性 群までの通算生残率は,それぞれ 0.50±0.24(平均 ニゴロブナ仔魚は,その餌となる微小甲殻類(ミジンコ ±SE)と1.34±1.08 であった。 亜綱)69)が豊富な良く発達したヨシ帯の奥部に積極的に 放流効果が向上する種苗サイズ 牧と海老江のヨシ帯 集まる。6) しかし,ヨシ帯奥部の溶存酸素濃度は低く,6) やその沖合へ放流したニゴロブナ種苗の推定放流体長と その水域は貧酸素環境に適応した本種仔魚の外敵からの 再捕率との関係を Fig. 6 に示した。1994 年 6 月 28 日 退避地として機能していると考えられており,6,10) 本種 に牧のヨシ帯(Site M)へ放流した 94M 群は,再捕率 仔魚が琵琶湖で生き残るうえでヨシ帯の奥部は非常に重 が推定放流体長 18 mm を超えると体長の増加とともに 要な水域と思われる。今回の標識種苗の放流再捕調査 上昇した。しかし,放流尾数が少ない同 24 mm を超え の結果,海老江のヨシ帯へ放流したニゴロブナ種苗の再 ると低下する傾向がみられた。しかし,同地点へ 1995 捕率(Fig. 3)は,推定放流体長 14 mm を超えると 26 年 7 月 6 日に放流した 95M 群は,いずれの体長の種苗 mm まで次第に上昇し,隣接する砂浜やそれらの沖合へ ニゴロブナ種苗放流の適地と課題 829

Fig. 6 Standard length distributions of nigorobuna Carassius auratus grandoculis released in Lake Biwa (Site M, C, E and CN, refer to Fig. 1), and relationships between estimated standard lengths at release and recapture rates. Refer to Table 1 for group names, and to the text for the estimation of standard lengths at release. In order to compare recapture rates between groups, recapture rates assuming 10,000 specimens are shown.

放流した種苗に比べて,ほとんどの体長で有意に高かっ また,これら 3 水域へ放流し,再捕された種苗の推 た。しかし,それ以上の体長では再捕率は低下したが, 定放流体長には差がみられなかった。しかし,沖合へ放 これはこの体長の放流尾数が少なく,誤差が大きかった 流した種苗の放流後の成長(体長および体重)は,ヨシ ためだと考えられる。また,放流時の平均体長には放流 帯へ放流したものよりも有意に良好であった(Table した群によって有意差がみられたものの,砂浜や沖合へ 2)。沖合へ放流して生き残った種苗が高成長を示した 放流した群とヨシ帯へ放流した群の体長差は 0.71~ ことは興味深い。ニゴロブナは概ね体長 16 mm で稚魚 1.08 mm と小さく,再捕率の比較には大きな影響は及 期を迎えるが,13) この沖合へ放流された種苗の推定放流 ぼさないと思われる。そこで,ヨシ帯へ放流した群と他 体長は 18.94±4.34 mm(平均値±SD,以下同様)で, の水域へ放流した群との間で,再捕率を比較すると,砂 稚魚期に達して間もない発育段階であった。この段階で 浜や沖合に放流した群に比べ,ヨシ帯へ放流した群の総 は,本種はまだ沿岸水域に依存していると考えられてお 再捕率は有意に高かった(Table 2)。これらの結果か り,6) 沖合放流後にたどり着いた沿岸は本種稚魚が成長 ら,琵琶湖でニゴロブナ仔稚魚が生き残るうえでヨシ帯 するうえで好適な環境であったものと思われる。 は非常に重要な水域であり,ニゴロブナの種苗放流事業 ヨシ帯への効果的な放流サイズと放流事業を実施する を効果的に進めるうえで,ヨシ帯への種苗放流は不可欠 うえでの課題 牧のヨシ帯へ継続飼育したニゴロブナ種 といえる。 苗に ALC 標識を付けて順次放流したところ,稚魚期に 830 藤原,臼杵,根本,松尾,竹岡,田中,北田

達した放流群の再捕率が著しく上昇し(Fig. 4),生残 率の急速な向上がうかがえた。本種は体長が概ね 16 mm を超えて稚魚期に達すると,鰭条や鱗,骨格がほぼ 完成するとともに,骨格筋および消化,呼吸,循環,感 覚,造血,排泄を司る各器官の急速な発達が観察されて いる。13) またこの体長を境に,魚類の遊泳速度のうち, 測定時間を 60 分間とした最大遊泳速度17)である巡航速 度が急速に増加するとともに,魚類の遊泳能力の指標と して用いられる SAI18)も,上昇率を増すことが確認さ れている。19) さらに,SAI を体長で除して求めた相対 SAI は,体長の大小間で遊泳能力を比較できる指標と なるが,稚魚期になるとこの値の上昇が観察されてい る。19) このように稚魚期に達すると天然環境下での生活 を支える機能や生き残る能力が格段に向上し,運動能力 も飛躍的に向上するため,生残率の急速な上昇に繋がっ たものと思われる。 魚類の初期生活史において,一般に初期減耗は発育初 期の内部栄養から外部栄養へ転換する時期に起こり,20) Fig. 7 Standard length distributions of ALC marked それには飢餓が強く関係する21)とされている。それ以 nigorobuna Carassius auratus grandoculis (group 95H and 95A, refer to Table 1) released to two neighbor- 降は格段に生残率が上昇すると考えられる。今回,牧の ingreedzones(Site H and A, refer to Fig. 1) in Lake ヨシ帯内で,ニゴロブナの発育に伴う生残率の変化を調 Biwa (lower graph) and comparison of recapture rates 査したが,発育が進んだ種苗の方が,生残率が大きく低 for estimated standard lengths at release (upper graph). Asterisks indicate signiˆcant diŠerences be- 下する現象が確認された(Fig. 5)。この時期には,琵 tween the two groups by a test of two proportions un- 琶湖の水位が低下し,水ヨシ帯の奥行きが減少するのが der normal approximation (p<0.05).Non-marked 特徴的であった。ヨシ帯の中央部に放流されたニゴロブ ˆsh were also released in both reed zones together with marked ˆsh. Densities of released ˆsh were 17.2/ ナ仔魚は,積極的にヨシ帯奥部へと蝟集する行動が確認 m2 at Site H and 63.4/m2 at Site A. されている。6) また,ニゴロブナの上屈前仔魚がヨシ帯

Table 4 Comparison of recapture rates and growth of nigorobuna Carassius auratus grandoculis released to reed zone with diŠerent density

Release Recapture of marked ˆsh2

Estimated Group Released Released Standard length of Standard Body weight Condition standard name site 1 density in marked ˆsh Number Recapture length factor 4 length at  Number released  ‰ooded recaptured rate3,6 release5 reed zone Mean±SD N Mean±SD Mean±SD Mean7±SD Mean8±SD

/m2 mm  mm g mm 201,000 Marked ˆsh: H 95H 120,000 17.2 15.97±3.37 314 111 0.093 81.64±6.12 17.08±4.25 3.09±0.21 17.77±3.14 (Reed zone) Non-marked ˆsh: 81,000 615,000 Marked ˆsh: A 95A 109,000 63.4 16.47±3.71 323 38 0.035 82.93±6.89 18.53±5.40 3.18±0.23 19.83±3.86 (Reed zone) Non-marked ˆsh: 506,000

1 Refer to Fig. 1. 2 These ˆsh were released on 7/11, 1995 and recaptured from 111 to 236 days after release by small trawl net in the northern basin of Lake Biwa. 3 Number recaptured/number released×100. 4 Body weight/standard length3×105. 5 Refer to the text for standard length estimation. 6 Signiˆcant diŠerence by a test of two proportions under normal approximation (p=0.0000). 7 Signiˆcant diŠerences by Student's t-test (p=0.0276). 8 Signiˆcant diŠerences by Student's t-test (p=0.0013). ニゴロブナ種苗放流の適地と課題 831

の中央部から岸辺付近,それ以降の上屈後仔魚は岸辺付 近に多く分布するとの報告もある。22) 今回の調査時に は,琵琶湖水位の低下に伴い,ヨシ帯奥部で,多くのニ ゴロブナ仔魚の干出による死亡が観察された。発育が進 んだにもかかわらず生残率が低下したのは,この干出死 が大きな原因といえよう。琵琶湖の水位は 1992 年 3 月 に定められた瀬田川洗堰操作規則に基づいて調整されて いる。フナ類の繁殖期2,23)に当たる 6 月中旬以降,梅雨 期の増水に備えて治水上の理由から,毎年,琵琶湖の水 位は琵琶湖基準水位(BSL)よりも大きく下げられ る。24) このような水位調整によって,ニゴロブナ仔魚は 生残に大きな影響を受けている。 琵琶湖沿岸のヨシ帯やその沖合に放流したニゴロブナ 種苗の推定放流体長と再捕率との関係を調査したとこ ろ,牧のヨシ帯へ 1994 年(Fig. 6)に,海老江のヨシ Fig. 8 Comparison of growth of reed Phragmites austra- lis between (a) 5/30,1994 and (b) 5/26, 1995 in Lake 帯へ1993 年(Fig. 6)と 1994 年(Fig. 3)にそれぞれ Biwa coast of Maki Town (Site 4 M in Fig. 1). 放流した種苗の再捕率は,推定放流体長 14~18 mm を 超えてほぼ稚魚期に達した以降は成長とともに次第に上 昇した。さらに大きな体長 24~26 mm 以上の種苗では もなうヨシの発芽の遅れと成長遅滞を天然水域および実 再捕率が低下する場合もあったが,これは,これら大き 験池で実証している(藤原,未発表)。Fig. 8 に示した な種苗では放流尾数が少なく,誤差が大きくなったため 牧のヨシ帯をはじめ,海老江のヨシ帯でも,1994 年に だと考えられる。これらの結果からも,概ね体長 16 比べて 1995 年はヨシの出芽が遅れ,ヨシの成長が著し mm を超えて稚魚期に達した以降の種苗を,ヨシ帯へ放 く悪い状況にあった。また,ヨシ帯の奥部にはニゴロブ 流すると生残率が向上すると考えられる。 ナの初期餌料となる小型の甲殻類が多数分布することが しかし,1995 年に牧および海老江のヨシ帯へ放流し 知られているが,7,8,29) 1995 年に調査した牧のヨシ帯で た種苗(Fig. 6)は,どの体長でも前年に比べて再捕率 は,その発生が前年に比べて著しく少なかった。30) 1995 が著しく低かった。滋賀県では 1992 年から「滋賀県琵 年の牧や海老江のヨシ帯へ放流したニゴロブナ種苗の生 琶湖のヨシ群落の保全に関する条例」が施行され,同条 残率の著しい低下には,このヨシの成長遅滞が原因して 例に基づいてヨシ群落保全基本計画が策定されてヨシの いると思われる。今回の調査はニゴロブナを対象として 出芽を促すことを目的に,琵琶湖やその内湖の沿岸で冬 きたが,春季のヨシの成長の遅れは,ヨシ帯に依存する 季に枯れヨシの刈り取りや焼き払いの事業が行われてい 他の様々な生物にも影響を与えていると考えられる。こ る(滋賀県ホームページhttp:// www.pref.shiga.jp/d/ のため,ニゴロブナをはじめ,様々な生物を保全する観 shizenkankyo/yoshi/index.html)。この事業は,1992 点から,ヨシ帯を管理するための枯れヨシの刈り取り事 年は行われなかったが,1993 年には 1.5 ha,1994 年に 業は,春先に水面下になる場所を避けるなど,十分な検 は 43.5 ha,1995 年には 52.6 ha の規模で行われた。25) 討と予測を行い,注意を払って実施すべきである。 この事業が行われた 1~3 月の琵琶湖の平均水位は, 一方,牧や海老江の沿岸から離れた沖合へ放流したニ 1994 年は BSL+1.9 cm であったが,1995 年は BSL ゴロブナ種苗は,ヨシ帯へ放流したものよりも大きなサ 52.4 cm(国土交通近畿地方整備局琵琶湖河川事務所ホー イズであってもほとんど再捕されなかった(Fig. 6)。 ムページhttp: // www.biwakokasen.go.jp / graph2 / 特に海老江ヨシ帯の沖合に放流した種苗の体長は 25.52 csvlist.html の水位データから計算)で,1995 年は前年 ±6.14 mm (Table 1)で,大きいものは体長 30 mmを に比べて 50 cm 以上も水位が低かった。このため, 超えていたが再捕されなかったことから,このようなサ 1995 年は前年には水中にあったヨシまで刈り取られる イズであっても,ニゴロブナの沿岸への依存性は高いと 結果となった。4 月以降は,各年とも水位が BSL±0 いえよう。 cm よりも高く回復(同ホームページ)したため,1995 これらの結果から,ニゴロブナの種苗放流事業の効果 年は刈り取られた多くの枯れヨシの切り口が水面下にあ を高めるためには,概ね体長 16 mm を超えて稚魚期に った。ヨシの枯れた茎は地下茎に酸素を供給する役割を 達した以降の種苗を,十分に発達したヨシ帯へ放流する 担い,枯れヨシを水面下で刈り取ると成長が抑制される ことが不可欠といえよう。 と考えられている。2628) また,著者は切り口の冠水にと ヨシ帯の環境収容力 琵琶湖周辺において 1~3 月に 832 藤原,臼杵,根本,松尾,竹岡,田中,北田

ヨシの刈り取り事業が大規模に実施された 1995 年で 流尾数や天然よりも大きすぎないサイズの種苗放流につ も,針江や饗場のヨシの刈り取り規模は比較的少なく, いても十分に注意を払う必要がある。 春先のヨシの成長も大きな滞りがなかった。そのため 琵琶湖沿岸のヨシ帯は各種の開発行為等によってその 1995 年は,針江と饗場のヨシ帯での ALC 標識種苗放 面積の減少が続いたが,26) 近年ではニゴロブナ資源を増 流により,放流密度が放流後の種苗の生残等に与える影 大させるために,ニゴロブナの初期生態を考慮したヨシ 響を検討した。その結果,ヨシ帯 1m2 当たり 17.2 尾の 帯の造成事業33)や稚魚期種苗の放流事業が行われてい 密度で放流した群に比べて 63.4 尾の密度で放流した群 る。このような取り組みに加え,一層効果的にニゴロブ の再捕率は,推定放流体長 14~20 mm まで有意に低く ナ資源を回復させるためには,琵琶湖沿岸に依存しない (Fig. 7),群毎の再捕率にも有意差がみられた。近年, 種苗の放流技術の検討と事業の実施も重要といえよう。 琵琶湖近傍の水田にニゴロブナ仔魚を放流し,水田で育 文献 った種苗を琵琶湖へと流下させる形での種苗放流事業が 行われており,水田内におけるニゴロブナの日成長量 1) 宮地傳三郎,川那部浩哉,水野信彦.「原色日本淡水魚類 は,飼育下や琵琶湖沿岸のヨシ帯におけるそれらよりも 図鑑」保育社,大阪.1992. 2) 中村守純.「日本のコイ科魚類」資源科学研究所,東京. 31) 大きい傾向が確認されている。 しかし,このような水 1969. 田であっても,生残率は個体数密度が低い場合に高い傾 3) 川那部浩哉,水野信彦,細谷和海編.「山渓カラー名鑑日 向を示すことが指摘されている。31) また水田で発生する 本の淡水魚第 3 版」山と渓谷社,東京.2002. 4) 小島朝子,北村眞一,堀越昌子.なぜ琵琶湖で育った. 餌生物の量とニゴロブナの成長量から 30 日間で全長 44 「ふなずしの謎」(滋賀の食文化研究会編)サンライズ出 mm まで育成できるニゴロブナの最大尾数は水田 1m2 版,滋賀.1995; 933. 当たり 4.6 尾と見積もられている(和田ら,日本陸水学 5) 藤井建夫.すしの先祖は魚の漬け物.「魚の発酵食品」成 山堂書店,東京.2000; 7796. 会 72 回大会講演要旨,2007)。今回の放流実験で,琵 6) 藤原公一,臼杵崇広,根本守仁,北田修一.琵琶湖沿岸 琶湖沿岸のヨシ帯においても密度効果が確認され,ヨシ のヨシ帯におけるニゴロブナ Carassius auratus grandocu- 帯に環境収容力が存在することが示唆された。このた lis の初期生態とその環境への適応.日水誌 2011; 77: 387401. め,ニゴロブナ種苗放流事業を効果的に進めるうえで, 7) 平井賢一.びわ湖内湾の水生植物帯における仔稚魚の生 ヨシ帯への放流尾数が過度にならないように十分に注意 態  水生植物帯にすむ仔稚魚の食性について.金沢大 を払う必要があるといえよう。また,今回の放流実験で 学教育学部紀要自然科学編 1971; 20:5970. 8) 平井賢一.びわ湖内湾の水生植物帯における仔稚魚の生 2 は,水ヨシ帯 1m 当たりに 17.2 尾放流した群に比べて 態  ニゴロブナ仔稚魚の食性と生息域の関係.日本生 63.4 尾放流した群の再捕魚の肥満度と推定放流体長が 態学会誌 1972; 22:6993. 有意に大きかった。このことは,密度効果が現れる状況 9) 山本敏哉.微小甲殻類を摂餌したニゴロブナ仔魚の成 長.矢作川研究 2005; 9:8588. のヨシ帯では,大きなサイズのものが有意に生き残りや 10) Yamanaka H, Kohmatsu Y, Yuma M. DiŠerence in the すく,成長するうえで優位にあることを示している。 hypoxia tolerance of the round crucian carp and lar- 以上の結果から,体長が概ね 16 mm を超えて稚魚期 gemouth bass: implications for physiological refugia in themacrophyte zone. Ichthyol. Res. 2007; 54: 308312. に達したニゴロブナ種苗を琵琶湖沿岸の発達したヨシ帯 11) 藤原公一.アリザリンコンプレクソンを用いたニゴロ に放流することにより,高い放流効果が得られると考え ブナ,Carassius auratus grandoculisの耳石への標識装着 られる。しかし現状の琵琶湖では,ニゴロブナがその沿 条件.水産増殖 1999; 47:221228. 12) 藤原公一,臼杵崇広,根本守仁,北田修一.アリザリン 岸に依存する時期に人為的な琵琶湖水の放流操作により コンプレクソンを用いたニゴロブナ Carassius auratus 琵琶湖の水位が低下し,それに伴い発育初期のニゴロブ grandoculis の耳石への多重標識装着条件と放流サイズの ナはヨシ帯内での干出や生息場の喪失により致命的な影 推定方法.日水誌 2010; 76:637645. 13) 藤原公一.ニゴロブナ Carassius auratus grandoculis の飼 響を受ける。さらにヨシ帯の管理のために水位の低下す 育仔稚魚の発育と成長.日水誌 2010; 76: 894904. る冬季にヨシの刈り取りと焼き払いが行われ,ニゴロブ 14) 田中昌一 .標識放流.「水産資源学総論」恒星社厚生 ナがヨシ帯に依存する時期にヨシの成長が不十分な状況 閣,東京.1985; 284341. 15) 北田修一 .標識再捕による放流効果の評価.「資源評 もみられる。最近では地元住民やボランティア団体等が 価のための数値解析」(島津靖彦編)恒星社厚生閣,東京. 中心となり,参加型環境保全活動としてこの刈り取りと 1987; 102117. 焼き払いが行われている。32) ニゴロブナ資源を保全する 16) 北田修一「栽培漁業と統計モデル分析」共立出版,東京. 2001; 166168. 観点からは,このような人為的な行為の見直しについ 17) Brett JR. The respiratory metabolism and swimming per- て,関係部局へ働きかけていく必要がある。また,ヨシ formance of young sockeye salmon. J. Fish. Res. Bd. Can. 帯へニゴロブナ種苗を放流するに当たって,高い放流効 1964; 21: 11831226. 18) Tsukamoto K, Kajihara T, Nishiwaki M. Swimming abili- 果を維持し,併せて天然のニゴロブナの再生産を保護, ty of ˆsh. Bull. Japan. Soc. Sci. Fish. 1975; 41:167174. 助長する観点からは,ヨシ帯の環境収容力を考慮した放 19) 藤原公一,臼杵崇広,北田修一.成長および流水トレー ニゴロブナ種苗放流の適地と課題 833

ニングに伴うニゴロブナ Carassius auratus grandoculis 仔 26) 栗林 実.琵琶湖沿岸の植物の現状と保全.琵琶湖研究 稚魚の遊泳速度の変化.日水誌 2010; 76:10251034. 所所報 1999; 16:7885. 20) Heming TA, Buddington RK. Yolk absorption in em- 27) 西野麻知子,浜端悦治.ヨシ刈りのよしあし.「内湖から bryonic and larval ˆshes. In: Hoar WS, Randall DJ (eds). のメッセージ」(西野麻知子,浜端悦治編)サンライズ出 Fish Physiology Vol. XI. Academic Press, London. 1988; 版,滋賀.2005; 115116. 407446. 28) 吉良竜夫.ヨシの生態おぼえがき.琵琶湖研究所所報 21) 塚本勝巳..発育過程の生態学的側面.8. 魚類の初期 1991; 9:2937. 減耗過程とそのメカニズムに関する標識放流実験.「魚類 29) 山本敏哉.微小甲殻類を摂餌したニゴロブナ仔魚の成 の初期発育」(田中克編)恒星社厚生閣,東京.1991; 9 長.矢作川研究 2005; 9:8588. 20. 30) 臼杵崇広,小林 徹,藤原公一,的場 洋.異常渇水後 22) 鈴木誉士,永野 元,小林 徹,上野紘一.RAPD 分析 のヨシキシュウスズメノヒエ群落の水質餌料環境. による琵琶湖産フナ属魚類の種亜種判別およびヨシ帯 平成 7 年度滋賀水試事業報告 1996; 1011. に出現するフナ仔稚魚の季節変化.日水誌 2005; 71:10 31) 金尾滋史,大塚泰介,前畑政善,鈴木規慈,沢田裕一. 15. ニゴロブナ Carassius auratus grandoculis の初期成長の場 23) 松田尚一,前畑政善,秋山廣光.「湖国びわ湖の魚たち」 としての水田の有効性.日水誌 2009; 75: 191197. (滋賀県立琵琶湖文化館編)第一法規出版,東京.1986. 32) 牧野厚史.ヨシ帯保全における自然と人間との適度な関 24) Yamamoto T, Kohmatsu Y, Yuma M. EŠects of summer 係.滋賀大環境総合研究センター研究年報 2008; 5:1 drawdown on cyprinid ˆsh larvae in Lake Biwa, Japan. 12. Limnology 2006; 7:7582. 33) 滋賀県農政水産部水産課.ヨシ帯と砂地の造成.滋賀の 25) 平成 5 年版~7 年版環境白書(滋賀県生活環境部環境室 水産,滋賀県,大津.2009; 2324. 編).滋賀県,大津.19931995.