ヒ ラ タケ を加 害 す る幼 生 生 殖 タ マ バ エmycophila Speyeri (Diptera
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日 本 応 用 動 物 昆 虫 学 会 誌(応 動 昆) 第40巻 第2号: 135-143 (1996) ヒ ラ タ ケ を 加 害 す る 幼 生 生 殖 タ マ バ エMycophila speyeri (Diptera: Cecidomyiidae)の 同 定 と わ が 国 へ の 人 為 的 持 ち 込 み の 可 能 性1) 湯 川 淳 一 鹿児島大学農学部 Identification of Paedogenetic Gall Midge, Mycophila speyeri (Diptera: Cecidomyiidae) and Possibility of Accidental Introduction to Japan. Junichi YUKAWA (Faculty of Agriculture, Kagoshima University, Kagoshima-shi 890, Japan). Jpn. J. Appl. Entomol. Zool. 40: 135-143 (1996) The paedogenetic gall midge found in 1984 at a factory for the oyster mushroom in Miyazaki Prefecture was identified as Mycophila speyeri by comparison with six known species of the genus Mycophila in the world. It is a known pest of mushrooms in Europe and Taiwan. To confirm whether or not M. speyeri was naturally distributed in Japan prior to the finding, the unsorted collections of the tribe Micromyini to which Mycophila belongs were examined at Kyushu and Kagoshima Universities. No Mycophila was found in 3,395 adult specimens collected in 1966-95 from various localities in Japan by sweeping possible habitats. A survey of 40 factories revealed that three indoor mushroom factories in Nagano Prefecture experienced an outbreak of the gall midge in 1983-84 while there was no sign of an attack in outdoor cultivation. The factories had all bought •gNameko•h Pholiota nameko spawns from the same source. These results suggest that larvae of M. speyeri reached to the factories in spawn introduced from overseas. Key words: identification, paedogenetic gall midge, Mycophila speyeri, edible fungi, accidental introduc- tion 井 ・湯 川,1986;湯 川,1986)。 そ の 栽 培 舎 で は1984年 緒 言 8月 に,薬 剤 を 使 用 し て 本 種 を 根 絶 し た が,そ の た め に 幼 生 生 殖 を す る タ マ バ エ は 世 界 で8属11種 の 記 録 が か な り の 期 間 余 儀 な く栽 培 を 停 止 し,経 済 的 な 損 害 を あ り,そ れ ら の 幼 虫 は 自 然 条 件 下 で は,通 常,朽 木 や 倒 被 っ た 。 当 時 の 研 究 か ら,本 種 は ヒ ラ タ ケ 以 外 に も ナ メ 木の樹皮下や腐植の中などで各種の菌糸を摂食 している コ や マ イ タ ケ,キ ク ラ ゲ,マ ン ネ ン タ ケ,マ ッ シ ュ ル ー (WYATT, 1967)。 こ れ ら11種 の う ち,Lestremiinae亜 科 ム な ど を 加 害 す る 可 能 性 が あ る こ と,12℃ 以 下 で は 幼 生 のHeteropezini族 に 属 す るHeteropeza pygmaea WINNERTZ, 生 殖 が ほ と ん ど 行 わ れ な い が,27℃ で 飼 育 す る と,幼 生 1846お よ びMicromyini族 に 属 す るMycophila speyeri 生 殖 が 盛 ん に な り,1匹 の 幼 虫 が3週 間 後 に は 約2,000 (BARNES, 1926), Mycophila barnesi EDWARDS, 1938の3種 は 匹 に 増 殖 す る こ と な ど が 判 明 し た(讃 井 ・湯 川,1986)。 ヨーロッパ各地でマッシュルームの害虫としてよく知ら このように大きな増殖能力を持つ幼生生殖 タマバエの再 れ て お り(WYATT, 1959),台 湾 に も侵 入 し て 大 き な 問 題 発 生 を 防 ぐ た め に は,本 種 の 同 定 を 早 急 に 行 い,本 種 が を 引 き 起 こ し て い る(林 ・倪,1974;林,1982)。 と こ 在 来 種 な の か,そ れ と も,外 来 種 で あ る の か と い う こ と ろ が,わ が 国 で は1984年 に 至 る ま で,幼 生 生 殖 を す る を明らかにすることが基本的に重要な課題である。 タ マ バ エ の 存 在 は 全 く知 ら れ て い な か っ た 。 Mycophila属 の タ マ バ エ は,ヨ ー ロ ッ パ か らM. speyeri 1984年5月 に 宮 崎 県 児 湯 郡 の キ ノ コ 栽 培 舎(第4表, とM. barnesi, M. nikoleiiMOHN, 1960の3種,北 米 か ら 宮 崎III)で,ヒ ラ タ ケ,Pleurotus ostreatus (FR.) QUEL(商 品 M. fungicola FELT, 1911とM. lampra PRITCHARD, 1947の2 名:シ メ ジ)の 菌 糸 を 食 害 す る タ マ バ エ の1種,Mycophila 種,イ ン ドか らM. indica NAYAR, 1949の 合 計6種 が 記 載 sp.が 発 見 さ れ,そ れ ま で わ が 国 か ら は 記 録 の な か っ た さ れ て い る 。 そ れ ら の う ち,M. nikoleiiとM. indicaを 除 幼 生 生 殖 を す る タ マ バ エ で あ る こ と が 確 認 さ れ た(讃 く4種 の 標 本 は ロ ン ド ン の 自 然 史 博 物 館(旧 名:大 英 博 1) 本 研 究 は 文 部 省 科 学 研 究 費 補 助 金No.62560047に よ っ て 行 っ た 。 1995年10月23日 受 領 (Receivcd 23 October 1995) 1995年11月30日 登 載 決 定 (Accepted 30 November 1995) -135- 136 湯 川 淳 一 第1表 Mycophila speyeri:複眼橋 の 個 眼 数,額 頭 楯 刺 毛 数,鞭 節 数,お よ び 翅 長,翅 幅,小 腮 鬚 長,鞭 節 長(各 々 μm) 物 館 自然 史 部 門)に 保 存 さ れ て い る 。 そ こ で筆 者 は本 種 め に,1987年7月 か ら1989年2月 に か け て,新 潟 県 の 形 態 学 的 な特 徴 を調 べ,近 縁 種 と比 較 す る こ とに よ っ か ら沖 縄 県 に至 る11県 で,食 用 キ ノ コ類 の栽 培 舎(瓶 て,種 レベ ル で の 同 定 を行 っ た 。 ま た,1987年7月 か 栽 培 の 閉 鎖 環 境 栽 培 舎29か 所;屋 外 や ビニ ル ハ ウ ス ら1989年2月 にか け て,各 地 の キ ノ コ栽 培 舎 を調 査 す 内 で の袋,箱,ホ タ木 栽 培 な ど開 放 環 境 栽 培 舎17か 所; る と と もに,全 国 各 地 で採 集 したMicromyini族 タ マ バ 両 方 兼 ね る もの は 別 々 に数 え た)を 訪 れ た(第4, 5表)。 エ 類 の 成 虫 標 本 を検 鏡 す る こ と に よ って ,こ の タマ バ エ 舎 内 で の調 査 に先 だ っ て,各 栽 培 舎 で(1)栽 培 キ ノ コの が侵 入 害 虫 で あ る か ど う か を検 討 した 。 種 類;(2)栽 培 方 式;(3)経 験 年 数;(4)種 菌 の 入 手 先;(5) 過 去 に お け る 幼 生 生 殖 タマ バ エ の発 生 の 有 無 な ど につ い 材 料 お よ び 方 法 て,回 答 が 得 られ る範 囲 内 で,聞 き取 り調査 を行 っ た。 1. 分 類 学 的 お よ び 形 態 学 的 調 査 瓶 栽 培 の 舎 内 で の 調 査 で は,キ ノ コ発 生 室 や 培 養 室 な ど タマ バ エ の 同 定 に は,宮 崎 県 の 栽 培 舎(第4表;宮 崎 で,合 計100本 以 上 の 培 養 瓶 を任 意 に選 んで 幼 虫 の 有 無 III)で栽培 瓶 よ り直接 採 集 した 幼 虫 と,そ れ ら を 讃 井 ・ を調 べ る と と も に,室 内 の蛍 光 灯 や 窓 ガ ラス な どの 光 に 湯 川(1986)が 述 べ た 方 法 に よ りヒ ラ タ ケで 飼 育 して得 た 誘 引 され た り,粘 着 トラ ップ に張 り付 い て い る 成 虫 の 有 蛹 と成 虫 を用 い た 。 こ れ らの 標 本 は約3週 間75%の エ 無 を調 べ た 。 開 放 環 境 の 栽 培 舎 で は,袋 の 中 の 培 養 基 内 タノ ー ル で 保 存 した後,キ シ レ ン ・バル サ ム 法 で プ レパ の幼 虫 の 有 無 を確 認 す る と と もに,ホ タ木 や 袋 の 付 近 を ラ ー ト標本 と した 。 約2週 間 の 自然 乾 燥 後,40~600倍 ス ィー ピ ン グ し,成 虫 の 発 生 の 有 無 を調 べ た 。 の光 学 顕 微 鏡 で 検 鏡 し,形 態 学 的 な特 徴 を記 載 す る と と 3. 幼 虫 の 飼 育 もに,分 類 学 上 主 要 な部 分 に つ い て は 形 態 計 測 と作 図 を 今 回 の調 査 で 新 た に幼 生 生 殖 タ マバ エ の 成 虫 が 発 見 さ 行 い,刺 毛 数 を記 録 した。 作 図 に 当 た っ て は,拡 大 描 画 れ た 栽 培 舎(長 野I)か ら,1987年9月16日 に12本 の 装 置 を用 い た 。 こ れ ら の検 鏡 結 果 に基 づ い て,1984年 ナ メ コ栽 培 瓶 の 送 付 を受 け,15℃, 12L 12Dの イ ン 8月15日 と1986年9月9日 に ロ ン ドンの 自然 史 博 物 キ ュ ベ ー ター で飼 育 を始 め た 。 飼 育 開 始 後2週 間 は 何 の 館 を訪 れ,保 存 され て い る 本 属4既 知 種 の 完 模 式 お よ び 変 化 も な か っ た の で,10月2日 か ら温 度 を18℃ に 上 副 模 式 標 本 との 比 較 検 討 を行 っ た 。 ま た,模 式 標 本 の げ て観 察 を続 け,幼 虫 集 団 が 形 成 さ れ る か ど うか を確 認 保 存 さ れ て い な い2種 に つ い て は原 記 載 論 文(MOHN, した 。 また,こ れ らの 幼 虫 が 蛹 化 して成 虫 に な る か ど う 1960; NAYAR, 1949)を 参 考 に した 。 な お,作 成 した プ か を確 か め た 。 レパ ラ ー ト標本 は,九 州 大 学 農 学 部 昆 虫 学 教 室 に保 存 さ 4.