Virus Species Associated with Mosquito Culex Tritaeniorhynchus Giles
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〔Med. Entomol. Zool. Vol. 65 No. 1 p. 1‒11 2014〕 1 DOI: 10.7601/mez.65.1 日本脳炎媒介蚊コガタアカイエカが 保有・媒介するウイルス , 1), 2) 鍬田龍星* 1) 山口大学共同獣医学部獣医微生物学教室(〒753‒8511 山口県山口市吉田1677‒1) 2) 国立感染症研究所昆虫医科学部(〒162‒8746 東京都新宿区戸山1‒23‒1) ( 受 領: 2013年11月1日;登載決定: 2013年12月27日) Virus species associated with mosquito Culex tritaeniorhynchus Giles Ryusei Kuwata*, 1), 2) * Corresponding author: Laboratory of Veterinary Microbiology, Joint Faculty of Veterinary Medicine, Yamaguchi University, 1677‒1 Yoshida, Yamaguchi, 753‒8511, Japan; Department of Medical Entomology, National Institute of Infectious Disease, 1‒23‒1 Toyama, Shinjuku, Tokyo 162‒8746, Japan (E-mail: [email protected]) 1) Laboratory of Veterinary Microbiology, Joint Faculty of Veterinary Medicine, Yamaguchi University, 1677‒1 Yoshida, Yamaguchi 753‒8511, Japan 2) Department of Medical Entomology, National Institute of Infectious Disease, 1‒23‒1 Toyama, Shinjuku, Tokyo 162‒8746, Japan (Received: 1 November 2013; Accepted: 27 December 2013) Abstract: Culex tritaeniorhynchus Giles (Diptera: Culicidae) is one of the main vector mosquitoes of Japanese encephalitis virus, which cause severe encephalitis and death for human in Asian countries. Recent studies have revealed a biodiversity of virus species in wild mosquito populations, and thus far, 14 viruses belonging to eight virus families (Flaviviridae, Togaviridae, Mesoniviridae, Nodaviridae, Rhabdoviridae, Bunnyaviridae, Reoviridae, and Parvoviridae), have been found in Cx. tritaeniorhynchus and characterized them. In this review, I describe the 14 virus species associating with Cx. tritaeniorhynchus in the world, in the purpose of a deep understanding for mosquito-virus complexes. Key words: Culex tritaeniorhynchus, arbovirus, RNA virus, DNA virus 媒介者(ベクター)としての重要性から,分布域諸国におい は じ め に てウイルスの保有実態が比較的よく調べられている.その コガタアカイエカCulex tritaeniorhynchus Giles(Diptera: 結果,現在までにコガタアカイエカからJEV を含め8科に亘 Culicidae)はアジア諸国に広く分布し,日本脳炎ウイルス る14種の多様なウイルスが分離・報告されている(Table 1). Japanese encephalitis virus(JEV)を媒介する蚊として広く知 これらコガタアカイエカが保有・媒介するウイルスに関す られている衛生害虫である(Fig. 1a).コガタアカイエカは る知見は,野外における蚊‒JEV の監視を行う上での誤同定 ヒトや畜産動物に対する吸血嗜好性が高く,また,ウイルス を回避する点で重要であり,また,蚊ならびにJEV の生態に Fig. 1. Adult female of Cx. tritaeniorhynchus. Whole body (a) and enlarged view of mouthparts (b). 2 Med. Entomol. Zool. Table 1. List of virus species isolated from Cx. tritaeniorhynchus. Family and genus Genome form Species Abbreviation Distribution Human Pathogen References Flaviviridae Flavivirus ssRNA (+) Japanese Encephalitis JEV Asia Yes Many virus Bagaza virus BAGV Africa, Israel, Probably yes Digoutte (1978) Spain, India Tembusu virus TMUV China, Thailand Unknown Simpson et al. (1970) Malaysia, Culex avivirus CxFV Many Probably no Hoshino et al. (2007) Quang Binh virus QBV Vietnam, China Probably no Crabtree et al. (2009) Togaviridae Alphavirus ssRNA (+) Sindbis virus SINV Many Light symptoms Taylor et al. (1955) Getah virus GETV Many Probably no Berge (1975) Mesoniviridae Alphamesonivirus ssRNA (+) Alphamesonivirus 1 ― Côte d'Ivoire, Probably no Lauber et al. (2012) Vietnam, China Nodaviridae Alphanodavirus ssRNA (+) Nodamura virus NOV Japan Unknown Scherer and Hurlbut (1967) Rhabdoviridae Unclassied ssRNA (−) Culex CTRV Japan Probably no Kuwata et al. (2011) tritaeniorhynchus rhabodvirus Bunyaviridae Phlebovirus ssRNA (−) Ri Valley fever virus RVF Africa, Mideast Yes Daubney et al. (1931) Reoviridae Seadornavirus dsRNA Banna virus BAV China, Vietnam, Yes Xu et al. (1990) Indonesia Orbivirus Yunnan orbivirus YUOV China, Peru, Unknown Attoui et al. (2005b) Australia Parvoviridae Brevidensovirus ssDNA Culex pipiens CppDNV ? Probably no Zhai et al. (2008) densovirus 与える影響や,蚊とウイルスの多様性,進化などを考える上 で,非常に示唆に富んだ考察を我々に与えてくれる.そこで 本稿では,コガタアカイエカのウイルスに関する見知の普及 を目的とし,先ず日本におけるコガタアカイエカの生態につ いて簡単に述べ,次にコガタアカイエカから分離されたウイ ルスの種類と性状等について解説する. 1. コガタアカイエカについて コガタアカイエカは,分類学上,昆虫綱ハエ目カ科イエカ 属のうち,口針に明瞭な白帯を有するCulex vishnui subgroup に属する(Fig. 1b).吸血対象動物は,ヒトを始め,鳥類や Fig. 2. Seasonal activities of adult females of Cx. 畜産動物,野生動物や愛玩動物など多岐に亘るが,コガタア tritaeniorhynchus in Japan. カイエカが水田などの開けた留まり水を好んで産卵すること などから,郊外の穀倉地帯における畜舎(ウシ,ブタ)での いては,長年,多くの研究者が取り組んできたが,その実態 吸血が際立つ. は明らかになっておらず,病原ウイルスの越冬機序などを 日本におけるコガタアカイエカの分布は,西日本を中心 考える上で非常に重要な課題といえる.コガタアカイエカ に,北は東北,北海道まで及ぶ(Yajima et al., 1971; Takashima の越冬に関する最近の興味深い知見として,津田らは,9月 et al., 1989).コガタアカイエカの繁殖活動は,西日本では一 から11月にかけて,東京都品川区にある東京都立林試の森 般に,3月下旬~4月上旬から吸血する個体が出現し,7月中 公園にコガタアカイエカが集団飛来しているのを発見した 旬~9月中旬に活動のピークを迎え,その後,10月中下旬ま (Tsuda and Kim, 2008; Fig. 2).この公園は完全な非緑地域に で吸血個体が見られる(Fig. 2).繁殖活動が低下する初秋, 囲まれており,コガタアカイエカが生活環を完了し得るよう コガタアカイエカの多くは繁殖休眠状態となって越冬に備え な自然環境からは少なくとも17 kmは離れている(Tsuda and る.日本におけるコガタアカイエカの越冬期間中の動きにつ Kim, 2008).また,同園内でコガタアカイエカ幼虫の発生は Vol. 65 No. 1 2014 3 認められないことから(Tsuda, 2012),公園に集団飛来して によって5つの遺伝子型(Genotype I‒V; GI‒GV)に大別さ いるコガタアカイエカは他地域より長距離移動してきたもの れ,遺伝子型の分布は地域によって分けられる(Solomon et と考えられる.さらに,園内でコガタアカイエカの集団が確 al., 2003).日本においては,1990年代以前はGIIIが優占して 認される期間は9月~11月に限定されることから,これらコ いたが,その後,JEV の遺伝子型はGIIIからGIへ遷移した. ガタアカイエカの長距離移動には越冬が関与しており,公園 この現象はJEV の「Genotype shift」と呼ばれ(Ma et al., 2003; は南方への長距離移動の途中の休息場所という解釈が一般的 Nga et al., 2004),その原因はNabeshima and Morita(2010)な である.しかし,同公園内において,1~3月にも少数なが どによって系統地理学的に考察されているものの,未だ決定 ら生存個体が捕獲されることから(津田,2013),それらの 的な証拠は得られておらず,JEV 研究史における謎の一つと 一部は公園内に留まり越冬し,翌年のコガタアカイエカの発 して挙げられる.近年,兵庫県西宮市で捕獲されたイノシシ 生に関与すると考えられる.これは長年謎となっているコガ の血清からJEV GIの遺伝子検出ならびに分離がなされ(高 タアカイエカの越冬問題について一石を投じる大きな発見と 崎ら,2009), JEV は我々が通常イメージするような鳥‒コガ いえるが,園内におけるコガタアカイエカの生存率や越冬場 タアカイエカ‒豚以外にも様々な感染環を保持していること 所など,この発見にはまだまだ解明すべき点が多く残されて が示唆された.この「Genotype shift」の謎の解明には,JEV いる(津田,2013). 遺伝子型の違いを,生態学,ウイルス学(病原性や複製効 率),宿主動物との親和性など,多角的に検証する必要があ 2. コガタアカイエカが保有・媒介するウイルス るだろう. これまでアジア諸国に分布するコガタアカイエカより,哺 2) バガザウイルスBagaza virus(BAGV) 乳動物や鳥類に病原性を示すものから,病原性を示さない, BAGV は,1966年,南アフリカ共和国バガザで捕集され または不明なものも含め,計8科14種のウイルスが発見され たイエカ属蚊Culex spp. より分離され(Digoutte, 1978),その ている( Table 1). 以下,これらのウイルスについて解説する. 後,媒介蚊調査により,数種イエカ属蚊ならびにコブハシ カ属蚊Genus Mimomyia から分離された(Traore-Lamizana et 2‒1. フラビウイルス科 al., 1994). BAGV は,過去,イスラエルや南アフリカで家禽 約11k bpの一本鎖センスRNA をゲノムに持つ,直径40~ に髄膜脳炎を起こす病原体として認知されていたIsrael turkey 60 nmの球形エンベロープウイルスである.本科はフラビウ meningoencephalitis virus が,その後の遺伝子解析によりBAGV イルス属Genus Flavivirus,ペスチウイルス属Genus Pestivirus, であることが判明した(Kuno and Chang, 2007). ヘパシウイルス属Genus Hepacivirusの3属で構成され,本稿 1996年,インド国ケーララ州において日本脳炎のアウ で紹介するウイルスはすべてフラビウイルス属に含まれる. トブレークが起こり,この間の調査でコガタアカイエカ フラビウイルス属は,吸血性の節足動物(蚊やマダニなど) ならびに脳炎患者血清よりBAGV も分離された(Bondre が媒介する節足動物媒介性ウイルスarthropod-borne virus(ア et al., 2009). 2010年にはスペインで発生した野鳥の大量死 ルボウイルスarbovirus)として多くの種が知られているが, (Agüero et al., 2011)ならびに猟鳥(Gamino et al., 2012)より これらすべてがヒトや家畜に対して病原性を示すわけではな BAGV が検出され,また,BAGV はコガタアカイエカ,ネッ く,近年になって昆虫(蚊)のみを宿主とする起源的な昆虫 タイイエカ、ネッタイシマカ体内での増殖が確認されたこと フラビウイルスが世界中に多数存在することが明らかとなっ から(Sudeep et al., 2013),今後も警戒を要するアルボウイル てきた(Cook et al., 2012).この項では,コガタアカイエカ スである. から分離されたフラビウイルスについて,ヒトや家畜に病気 3) テンブスウイルスTembusu virus(TMUV) を媒介する病原性のフラビウイルスと昆虫フラビウイルスに 1955年,マレーシア国クアランプールの牛放牧地で採 大別して解説する. 集されたコガタアカイエカより分離された(Simpson et al., 1970).当時の調査でTMUVはコガタアカイエカ以外にも複 2‒1‒1. 病原性フラビウイルス 数蚊種やニワトリ血清から分離されており,さらに同国にお 1) 日本脳炎ウイルスJapanese encephalitis virus(JEV) いてヒトで高い抗体陽性率を示したことから,TMUVは発 JEV はアジア諸国で今なお年間約5万人の新たな感染者 見当初より人または家禽に対する病原性アルボウイルスに分 ならびに約1万5千人の死亡者が報告される,世界的に大 類されている.その後,マレーシアにおいてブロイラーに きなアルボウイルス感染症問題の一つである.主要な媒介 脳炎や発育遅延を起こすSitiawan virus(Kono et al., 2000)が, 蚊はコガタアカイエカであるが,ニセシロハシイエカCulex 後にTMUVと遺伝的に近縁なウイルスとして報告されてい vishnui TheobaldやシロハシイエカCulex pseudovishnui Colless る(Liu et al., 2012). も媒介する.また,カラツイエカCulex bitaeniorhynchus 2010年,中国のアヒルファームにおいて軟卵症候群や運 Giles(Takhampunya et al., 2011),オオクロヤブカArmigeres 動失調などの明瞭な病徴を示す病気が発生し,その病原体と subalbatus Coquillett(Chen et al., 2000),ネッタイイエカ してTMUVが認められた(Cao et al., 2011; Su et al., 2011). 以 Culex quinquefasciatus Say(Nitatpattana et al., 2005),ハマダラ 降,中国ではTMUVに関する研究が多数報告されているが, カAnopheles spp.(Tan et al., 1993; Samuel et al., 2000; Feng et al., これらの研究報告のうちの一つに,アヒルファームの労働者 2012; Liu et al., 2013)などからもJEV は分離されている.JEV の血清から高い割合で抗体ならびに遺伝子検出が報告され のウイルス学的諸性状については他に優れた解説文が多数存 (Tang et al., 2013), TMUVは中国を中心に病原性フラビウイ 在するため,詳細な解説はそれらに委ね,本稿では日本にお ルスとして再認識されている.なお,タイ国の鶏舎付近で採 けるJEV の最近の知見について述べる. 集された蚊を調べた結果,ニセシロハシイエカからTMUV 現在,アジア諸国に分布するJEV はE遺伝子の塩基配列 が検出され(O’Guinn et al., 2013), 今 後 , TMUVのベクター 4 Med. Entomol. Zool. や感染環についての研究も進展すると思われる. avivirus(Parreira et al., 2012)のイエカ属蚊から分離された フラビウイルスと独自のクレードを形成することから,これ 2‒1‒2. 昆虫フラビウイルス ら3種のウイルスは昆虫フラビウイルスのなかでもとくにイ 1) キュレックスフラビウイルスCulex avivirus(CxFV) エカ属蚊と共種分化したものと考えられる. 国内捕集アカイエカCulex pipiens pallens Linnaeus,コガタ アカイエカならびにインドネシア捕集ネッタイイエカから 2‒2. トガウイルス科 分離され,イエカ属蚊に特異的なフラビウイルスとして世 9.7~11.8k bpの一本鎖センスRNA をゲノムとし,エンベ 界で初めて報告された(Hoshino et al., 2007; Fig. 3).その後, ロープを持つ直径約70 nmの正二十面体ウイルスである.本 CxFVは,グアテマラ(Morales-Betoulle et al., 2008),メキ 科はアルファウイルス属Genus Alphavirus とルビウイルス属 シコ(Farfan-Ale et al., 2009; Saiyasombat et al., 2010),ウガン Genus Rubivirus の2属に分けられ,前者は30種が認められる ダ(Cook et al., 2009),アメリカ(Blitvich et al., 2009; Bolling 一方,後者は風疹ウイルスの1種のみが属する.アルファウ et al., 2011; Newman et al., 2011; Crockett et al., 2012),中米 イルスの多くは蚊やマダニによって媒介されるアルボウイル (Kim et al., 2009),ブラジル(Machado et al., 2012),スペイン スであり,近年,我が国における感染症の予防及び感染症の (Vázquez et al., 2011),中国(Huanyu et al., 2012)など,世界 患者に対する医療に関する法律(感染症法)の四類感染症に 各地に広く分布することが明らかとなった.なお,CxFV は, 指定された蚊媒介性チクングニア熱の病原ウイルスなどが本 野外では主に経卵伝播によって蚊個体群内に維持されると考 属に分類される. えられている(Saiyasombat et al., 2011; Bolling et al., 2012). 1) シンドビスウイルスSindbis virus(SINV) CxFVの発見を皮切りに,昆虫(蚊)特異的なフラビウイ アルファウイルスの基準種であり,1953年,エジプト国 ルスは世界各地の様々な蚊種から見出されており,ウイルス シンドビスで捕集されたCulex spp.(アカイエカまたはCx. 株として分離されたものからウイルス遺伝子検出のみの報告 univittatus)から分離された(Taylor et al., 1955).ベクターの まで含めると,現在,昆虫フラビウイルスには10数種が存 分離源は,コガタアカイエカを始め,イエカ属蚊,ヤブカ属 在する(Calzolari et al., 2012; Hobson-Peters et al., 2013な ど ). 蚊,ハマダラカ属蚊,ヌマカ属蚊Mansonia sp., ハボシカ属蚊