Kobe University Repository : Thesis
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Kobe University Repository : Thesis 学位論文題目 農地景観における地表性天敵昆虫群集の構造と保全的利用に関する研 Title 究 氏名 香川, 理威 Author 専攻分野 博士(農学) Degree 学位授与の日付 2009-09-04 Date of Degree 資源タイプ Thesis or Dissertation / 学位論文 Resource Type 報告番号 乙3075 Report Number 権利 Rights JaLCDOI URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/D2003075 ※当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。 PDF issue: 2021-10-01 博士論文 農地景観における地表性天敵昆虫群集の 構造と保全的利用に関する研究 平成 21 年 7 月 神戸大学大学院農学研究科 香 川 理 威 目次 第 1 章 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 第 2 章 小スケールのモザイク植生で構成される農地景観におけるゴミムシ類 の種構成 1 . 目 的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 2 . 材料及び方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 3 . ゴ ミ ム シ 類 の 発 生 消 長 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 4 . ゴ ミ ム シ 類 の 分 布 と 種 構 成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 5 . 各 植 生 と ゴ ミ ム シ 組 成 の 除 歪 対 応 分 析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 6 . 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 7 . 要 約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 第 3 章 農地でのゴミムシ類の分布に影響を与える環境因子 1 . 目 的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 2 . 材 料 及 び 方 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 3 . 捕 獲 さ れ た ゴ ミ ム シ 類 の 個 体 数 と 種 構 成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 4 . 各プロットにおける土壌水分,草高, 樹林地からの距離 ・・・・ 30 5 . 環 境 因 子 が ゴ ミ ム シ 類 の 組 成 に 与 え る 影 響 ・・・・・・・・・・・・・ 32 6 . 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38 7 . 要 約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43 第 4 章 樹林地に隣接した農地環境におけるコンオサムシ個体群の空間構造 と動態 1 . 目 的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 2 . 材料及び方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46 3 . ヤ コ ン オ サ ム シ の 成 虫 と 幼 虫 の 発 生 消 長 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 50 4 . 成 虫 と 幼 虫 お よ び ミ ミ ズ の 分 布 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52 5 . 樹林地と農地の境界付近における成虫の移動 ・・・・・・・・・・・・・・ 56 6 . 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59 7 . 要 約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62 第 5 章 実験室条件下での鱗翅目幼虫に対するヤコンオサムシの捕食能力 1 . 目 的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63 2 . 材 料 及 び 方 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64 3 . 供 試 虫 の 重 量 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66 4 . 24 時間あたりのヤコンオサムシ成虫の捕食数 ・・・・・・・・・・・・・ 67 5 . 24 時間あたりのヤコンオサムシ成虫の捕食量 ・・・・・・・・・・・・・ 67 6 . 鱗翅目幼虫に対する噛み付き行動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 7 . 他種ゴミムシ類との捕食量比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71 8 . 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 72 9 . 要 約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 75 第 6 章 総合考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76 要約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88 引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89 SUMMARY ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98 第 1 章 緒 言 環境保全型農業は自然に負荷をかけない生産活動を理念としており、近年その重要性が 高まっている。また、生物多様性の保全がもたらす恵みのうち、生態系の働きを介して提 供される価値が、生態系サービスとして認識されつつある(前藤,2009)。農業は作物を効 率的に生産するために自然環境を管理する営みであり、その基盤は水資源や土壌形成、栄 養塩の循環といった様々な生態系サービスに支えられている。中でも土着天敵昆虫を利用 する害虫防除技術は、生態系サービスを享受する上での主要な技術の一つであり、そのた めには農地景観を適切に管理し、捕食者や捕食寄生者といった有益な生物を保全利用する ことが重要である(Risch et al., 1983; Marino & Landis, 1996; Pickett & Bugg, 1998; Tscharntke et al., 2007)。 総合的害虫管理(Integrated Pest Management: IPM)では、合成農薬を中心としながらも、 あらゆる防除技術を適切に組み合わせて経済的な被害が生じる水準以下に害虫の密度を維 持しようとする(中筋,2000)。ところが、多くの殺虫剤は有益である天敵昆虫にも作用す るため、土着天敵の保護利用を従来の化学防除技術と組み合わせることは容易ではない(矢 野,2003)。Kiritani(2000)は、これからの農地管理がこれまでの IPM から、農地に生息 する生物と共存する農業管理すなわち総合的生物多様性管理(Integrated Biodiversity Management: IBM)に移行していくと提唱している。IBM の大きな特長は、農地での生態 系を単なる作物生産の場ではなく、生物多様性を育む空間としてとらえるところにある。 従来の IPM とは異なり、IBM ではこれまで注目されてこなかった「ただの虫」の重要性に も着目している。農地には、植食性昆虫である害虫よりも、多くは腐食性の「ただの虫」 の存在量が圧倒的に大きく、それらは土着天敵の餌として重要である(Kiritani, 2000; 桐谷, 2004)。土着天敵を介する生態系サービスの質や量は、農地周辺の環境に大きく左右される ことが分かっており(Tscharntke et al., 2007)、そうしたサービスを活かすには、農地全体 で土着生物の多様性を保全する戦略、IBM が必要となる。 土着天敵昆虫が生息する農業生態系は、通常さまざまな植生要素から構成されるモザイ ク景観である(Burgess & Sharpe, 1981)。欧米では、穀物畑や果樹園に代表される農地 (crop -1 - vegetation)に、樹林地や採草地、荒地といった半自然植生(semi natural vegetation)がモ ザイク状に入り混じって農地景観が構成されるのが一般的である(Landis, 2000)。また日 本を含む東アジアの農地景観は水田を中心として、それに様々な植生要素が絡まって構成 されており、半自然植生を含むその全体が里山(satoyama)と呼ばれる(Yamamoto, 2001; Takeuchi, 2003)。里山を構成する樹林地(薪炭林,農用林)、水田、水田畦畔、果樹園、草 地、竹林は、それぞれ特徴をもつ個別生態系として存在しながら、全体として里山の景観 生態系を形成している。また、隣接する異なる生態系の境界、例えば樹林地の林縁等は、 移行帯(エコトーン,ecotone)と呼ばれ、両生態系の本来の性質とは異なる独特の環境が 存在する。 里山は、水田や樹林地といった個々の生態系とそれらの移行帯が織り成す植生モザイク であり、さまざまな生息環境に応じて多種多様な天敵昆虫が生息している(石井, 2005)。 しかし、圃場整備や樹林地の伐採等によって天敵昆虫相が変化すれば、景観全体での天敵 機能が低下することが予想される。天敵昆虫の機能を保つには土地利用の多様性が重要で あり、異質性(heterogeneity)が保たれた景観は、同質性(homogeneity)の高い景観より も天敵昆虫の潜在的能力が発揮されやすく、害虫の発生が少ないと考えられている (Pickett & Bugg, 1998; Altieri & Nicholls, 2004; Samway, 2005)。 近年ヨーロッパでは、農地景観を構成する半自然植生の存在が注目され、その積極的な 保全が天敵昆虫の増強に繋がることが指摘されている(Landis et al., 2000; Altieri & Nicholls, 2004; Tscharntke, 2007)。従来から、多様な生息環境を行き来している生物にとって、半自 然植生を含む農地景観の存在が重要であることは良く知られていた。里山に多く生息する、 カエル類、トンボ類、ゲンゴロウ類、タガメ類がその代表である(石井, 2005)。しかし、 農耕地で天敵として働く天敵昆虫の分布や移動に関しては、これまであまり研究例がない。 農耕地では、耕起、殺虫剤や除草剤の散布、収穫、施肥等の人為的なインパクトが高い頻 度で発生するため、そこに生息する天敵昆虫は常にそうした撹乱に晒されている。有力な 天敵動物であるゴミムシ類、ハネカクシ類、クモ類は、人為的撹乱が農地内に生じた際、 隣接する半自然植生に一時的に逃避することが報告されている(Gravesen & Toft, 1987; Bedford & Usher, 1994; Pickett & Bugg, 1998; Landis et al., 2000; Altieri & Nicholls, 2004)。ま -2 - た、ゴミムシ類にとって、半自然植生は一時的な逃避地であるばかりでなく、産卵や越冬 のための重要な生息地であることも示唆されている(Desender & Alderweireldt, 1988)。農 地の周辺に、そうした半自然植生をどのように配置・管理すれば、天敵昆虫の多様性と機 能を保全できるかといった研究が、今後は極めて重要である(Pickett & Bugg, 1998; Altieri & Nicholls, 2004; 前藤, 2009)。 ゴミムシ類(オサムシ上科甲虫類、Coleoptera: Caraboidea)は、地表徘徊性の天敵昆虫 として知られており、その群集構造や個体群動態に関する生態学的研究はこれまでヨーロ ッパを中心に進められてきた(Thiele, 1977; Luff, 1987; Luff et al., 1992)。ゴミムシ類の大 部分は捕食性であり、鱗翅目の幼虫やアブラムシ等の農業害虫を捕食することがこれまで に明らかにされている(Sunderland, 2002)。さらに、捕食者として農業害虫の密度制御に 関わっているだけでなく、ゴミムシ類には雑草の種子を食害し、その更新を阻害する種も 知られており、農業生態系の中で重要な位置を占めている(Pausch, 1979; Luff, 1987; Holland, 2004)。また、ゴミムシ類の多くは歩行を主な移動手段としており、分散能力が低いため、 生息地の撹乱の影響を受けやすく、環境指標生物としても適当な条件を備えている(石谷, 1996, 2004; Maleque et al., 2009)。こうしたことから、農地景観におけるゴミムシ類の種構 成や分布の解明は、農環境における天敵昆虫の多様性や機能を評価する上できわめて重要 であると考えられる。 しかし、現在までのゴミムシ類の研究の多くはフランスやドイツを中心としたヨーロッ パ圏で精力的に行なわれたものであり、東アジアの特に農地における研究例は非常に少な く、水田やブドウ園におけるゴミムシ類の種類組成や発生消長についての断片的な報告が あるに過ぎない(Yano, 1989 ; Yahiro, 1990 ; Yano, 1995)。その大きな背景として、欧米では 環境保全型農業への取り組みが早く、ゴミムシ類のような天敵昆虫に着目した研究が進ん でいたが、アジア地域ではそのような天敵昆虫を用いた環境保全型農業への取り組みが遅 れている現状が挙げられる(石谷, 2008)。ヨーロッパでは近年、異なる土地利用(穀物畑, 野菜畑,果樹園,牧草地等)からなる比較的大きな農地景観スケールにおける研究が数多く 行なわれた結果、各土地間においてゴミムシ類の種構成が大きく異なること、そして多く の農業害虫がゴミムシ類に捕食されることが明らかになっている(Sunderland, 2002)。東 -3 - アジアでは、アジアモンスーン地域を代表する水田やその周辺に広がる落葉樹二次林を中 心とした里山景観におけるゴミムシ相の研究が重要であり、日本での研究は国際的にも大 きな意義がある。起伏が大きく植生の変化に富んだ日本の里山景観は、農地周辺の半自然 植生から害虫制御のサービスを得るには好都合であるかもしれない。特に、農地と半自然 植生がモザイク状に入り混じった農地景観において、ゴミムシ類がどのように分布し、ま た空間的に利用しているかを把握することが非常に重要である。 そこで本研究ではまず、東アジアの農地景観要素を代表する水田、竹林、牧草地、果樹 園、樹林地で形成された小スケール景観におけるゴミムシ類の分布に焦点を当てることに した。ヨーロッパで行われた広いスケールの研究では、ゴミムシ類は草地を好むもの、森 林を好むものに大別されているが(Niemelä et al., 2001)、里山景観のような小スケールの モザイク植生においても住み分けが行われているのか?また結果的にそういったモザイク 植生が、農地景観全体におけるゴミムシ類の多様性の増大に寄与し、天敵昆虫の機能増強 に貢献しているか調べる(第 2 章)。農地景観内の樹林地(薪炭林,農用林)は、半自然植 生の典型として重要視されており、樹林地の面積および管理形態が、樹林地内および周囲 に生息する天敵昆虫類に及ぼす影響を調べた研究例は多い(Niemelä et al., 1993, 2001; Altieri & Nicholls, 2004)。ゴミムシ類の環境選好性には、森からの距離も大きな影響を与え ている可能性があり、そういう環境因子が明らかになれば、それを考慮した植生管理に応 用することができる。これまでゴミムシ類の環境選好に影響を与えている因子として特に、 土壌水分が注目されていることも踏まえ(Thiele, 1977; Petit et al., 1998; Ings et al., 1999)、 本研究では土壌水分、草高、森林からの距離の解析を行い、それらの環境因子が、ゴミム シ類の環境選択へ与える影響を、ゴミムシ類の亜科レベルおよび種レベルで明らかにする (第 3 章)。 天敵昆虫を保護利用するための適切な農地景観設計は、里山に生息する天敵昆虫個体群 の空間的・時間的構造を理解して初めて可能になる。農地景観(里山)における天敵昆虫 類の個体数維持機構を明らかにするため、モデル昆虫として農地に個体数が多く、農耕地 および半自然植生(樹林地等)の両方を利用しているヤコンオサムシ(Carabus yaconinus) に着目した。ヤコンオサムシは平地性で、近畿地方を中心に北は能登半島,西は中国地方 -4 - 中部,隠岐,四国北部と淡路島ほか瀬戸内海の島に分布する普通種である(上野ら,1985)。 ヤコンオサムシの生活史は既に明らかにされており、成虫で休眠越冬し、春から夏にかけ て交尾と産卵を行う春繁殖型の甲虫である(Sota, 1985a,1985b)。幼虫の餌は主としてフ トミミズ類とされているが、成虫はミミズ類の他、鱗翅目幼虫等の生きた小動物のほか、 カエルやトカゲ等の死骸を捕食することが知られている(Sota,1985a;八尋,2003)。大 きな景観スケールにおけるヤコンオサムシの分布は既に調査されているが(Yahiro et al, 2002)、農地景観を形成する小スケールのモザイク植生における分布特性は知られていない。 ヤコンオサムシは樹林地と、それに隣接する農耕地の両方に分布することが既に明らかに なっており(Yahiro et al, 2002)、モザイク植生で構成された農地景観内での土着昆虫の個 体群維持のメカニズムを探るには格好のモデル種である。 そこで、里山を構成する重要成分である樹林地とそれに隣接する農耕地の境界域におい て、ヤコンオサムシの成虫と幼虫の分布、さらに雌雄成虫の活動の違いについて調べるこ ととした。それらの結果を踏まえた上で、農地景観においてヤコンオサムシが個体群を維 持するための最適な植生配置について考察する(第 4 章)。また、重要農業害虫であるハス モンヨトウ幼虫に対するヤコンオサムシ成虫の捕食能力を実験室条件下で解明し、ヤコン オサムシが天敵昆虫として機能しうるか明らかにする(第 5 章)。最後に、各章の成果に基 づいて、農地景観全体でのゴミムシ類の分布、各ゴミムシ類の生息地選択に影響を与える 環境因子、さらには農地景観における天敵昆虫群集の保全的利用について総合的な考察を 行う(第 6 章)。 なお、狭義のゴミムシ類はオサムシ類を含まないが、本論文では陸生のオサムシ上科に 属するオサムシ科(Carabidae)、ホソクビゴミムシ科(Brachinidae)、ヒゲブトオサムシ科 (Paussidae)、カワラゴミムシ科(Omophonidae)の 4 科をまとめてゴミムシ類と総称する。 オサムシ上科昆虫は、全世界から 40000 種以上が知られており(Thiele, 1977; Luff, 1987)、 本研究では上野ら(1985)の高次分類体系に従った。 -5 - 第 2 章 小スケールのモザイク植生で構成される農地景観における ゴミムシ類の種構成 1.目的 有益な天敵昆虫であるゴミムシ類(オサムシ上科甲虫類, Coleoptera: Caraboidea)は、地 表徘徊性の甲虫として知られており、その群集構造や季節的発生消長、個体群動態に関す る生態学的研究はこれまでヨーロッパを中心に進められてきた(Thiele, 1977; Luff, 1987; Luff et al., 1992)。また、ゴミムシ類の多くは歩行を主な移動手段としており、分散能力が 低いため、生息地の撹乱の影響を受けやすく、環境指標生物としても適当な条件を備えて いる(石谷, 1996, 2004; Maleque et al., 2009)。こうしたことから、農地景観におけるゴミム シ類の種構成や分布の解明は、農環境の健全性および生物多様性を評価する上できわめて 重要であると考えられる。 これまで日本国内でも、ブドウ園(Yano et al., 1989; 富樫ら, 1993)、農地に隣接する森林 (Yahiro et al., 1990)、水田(Yahiro et al., 1992)、タマネギ畑(富樫ら, 1993)、ナシ園(富 樫, 1994)、イチジク園(Ishitani & Yano, 1994)、牧草地(Ishitani et al., 1994)、アブラナ畑 (石谷, 1996)などの農環境においてゴミムシ類の調査が行われており、各植生における ゴミムシ類の種構成や季節的発生消長が明らかにされてきた。しかし、これまでのこうし た調査研究は、各植生のゴミムシ相を個別に調査しているものが多く、多様な植生を含む 農環境を対象とした包括的な研究は、山口大学の付属農場における研究例(Yano et al., 1989; Yahiro et al., 1990, 1992; 矢野, 2002)のみである。さらに、これまで国内の農環境で 行われたゴミムシ類群集の研究の多くは、そこで捕獲されたゴミムシ類の種数や多様度指 数を示したに過ぎず、植生タイプ間の種構成の違いについては類似度指数を用いた研究が 数例報告されているだけである(石谷, 1996; 平松, 2004)。そこで我々は、農環境における 異なる植生の間のゴミムシ類の種構成の変化を、座標付け分析のひとつである除歪対応分 析(Detrended Correspondence Analysis, DCA)によって解析することとした。この方法によ れば、植生タイプ間のゴミムシ類群集の類似の度合いが分かるだけでなく、それぞれの植