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学位論文題目 農地景観における地表性天敵昆虫群集の構造と保全的利用に関する研 Title 究 氏名 香川, 理威 Author 専攻分野 博士(農学) Degree 学位授与の日付 2009-09-04 Date of Degree 資源タイプ Thesis or Dissertation / 学位論文 Resource Type 報告番号 乙3075 Report Number 権利 Rights JaLCDOI URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/D2003075

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PDF issue: 2021-10-01

博士論文

農地景観における地表性天敵昆虫群集の 構造と保全的利用に関する研究

平成 21 年 7 月

神戸大学大学院農学研究科

香 川 理 威

目次

第 1 章 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第 2 章 小スケールのモザイク植生で構成される農地景観におけるゴミムシ類 の種構成

1 . 目 的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 2 . 材料及び方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 3 . ゴ ミ ム シ 類 の 発 生 消 長 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 4 . ゴ ミ ム シ 類 の 分 布 と 種 構 成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 5 . 各 植 生 と ゴ ミ ム シ 組 成 の 除 歪 対 応 分 析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 6 . 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 7 . 要 約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20

第 3 章 農地でのゴミムシ類の分布に影響を与える環境因子

1 . 目 的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 2 . 材 料 及 び 方 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 3 . 捕 獲 さ れ た ゴ ミ ム シ 類 の 個 体 数 と 種 構 成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 4 . 各プロットにおける土壌水分,草高, 樹林地からの距離 ・・・・ 30 5 . 環 境 因 子 が ゴ ミ ム シ 類 の 組 成 に 与 え る 影 響 ・・・・・・・・・・・・・ 32 6 . 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38 7 . 要 約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43

第 4 章 樹林地に隣接した農地環境におけるコンオサムシ個体群の空間構造 と動態

1 . 目 的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 2 . 材料及び方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46 3 . ヤ コ ン オ サ ム シ の 成 虫 と 幼 虫 の 発 生 消 長 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 50 4 . 成 虫 と 幼 虫 お よ び ミ ミ ズ の 分 布 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52 5 . 樹林地と農地の境界付近における成虫の移動 ・・・・・・・・・・・・・・ 56 6 . 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59 7 . 要 約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62

第 5 章 実験室条件下での鱗翅目幼虫に対するヤコンオサムシの捕食能力

1 . 目 的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63 2 . 材 料 及 び 方 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64 3 . 供 試 虫 の 重 量 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66 4 . 24 時間あたりのヤコンオサムシ成虫の捕食数 ・・・・・・・・・・・・・ 67 5 . 24 時間あたりのヤコンオサムシ成虫の捕食量 ・・・・・・・・・・・・・ 67 6 . 鱗翅目幼虫に対する噛み付き行動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 7 . 他種ゴミムシ類との捕食量比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71 8 . 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 72 9 . 要 約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 75

第 6 章 総合考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76

要約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83

謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88

引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89

SUMMARY ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98

第 1 章 緒 言

環境保全型農業は自然に負荷をかけない生産活動を理念としており、近年その重要性が

高まっている。また、生物多様性の保全がもたらす恵みのうち、生態系の働きを介して提

供される価値が、生態系サービスとして認識されつつある(前藤,2009)。農業は作物を効

率的に生産するために自然環境を管理する営みであり、その基盤は水資源や土壌形成、栄

養塩の循環といった様々な生態系サービスに支えられている。中でも土着天敵昆虫を利用

する害虫防除技術は、生態系サービスを享受する上での主要な技術の一つであり、そのた

めには農地景観を適切に管理し、捕食者や捕食寄生者といった有益な生物を保全利用する

ことが重要である(Risch et al., 1983; Marino & Landis, 1996; Pickett & Bugg, 1998; Tscharntke et al., 2007)。

総合的害虫管理(Integrated Pest Management: IPM)では、合成農薬を中心としながらも、

あらゆる防除技術を適切に組み合わせて経済的な被害が生じる水準以下に害虫の密度を維

持しようとする(中筋,2000)。ところが、多くの殺虫剤は有益である天敵昆虫にも作用す

るため、土着天敵の保護利用を従来の化学防除技術と組み合わせることは容易ではない(矢

野,2003)。Kiritani(2000)は、これからの農地管理がこれまでの IPM から、農地に生息

する生物と共存する農業管理すなわち総合的生物多様性管理(Integrated Biodiversity

Management: IBM)に移行していくと提唱している。IBM の大きな特長は、農地での生態

系を単なる作物生産の場ではなく、生物多様性を育む空間としてとらえるところにある。

従来の IPM とは異なり、IBM ではこれまで注目されてこなかった「ただの虫」の重要性に

も着目している。農地には、植食性昆虫である害虫よりも、多くは腐食性の「ただの虫」

の存在量が圧倒的に大きく、それらは土着天敵の餌として重要である(Kiritani, 2000; 桐谷,

2004)。土着天敵を介する生態系サービスの質や量は、農地周辺の環境に大きく左右される

ことが分かっており(Tscharntke et al., 2007)、そうしたサービスを活かすには、農地全体

で土着生物の多様性を保全する戦略、IBM が必要となる。

土着天敵昆虫が生息する農業生態系は、通常さまざまな植生要素から構成されるモザイ

ク景観である(Burgess & Sharpe, 1981)。欧米では、穀物畑や果樹園に代表される農地 (crop

-1 - vegetation)に、樹林地や採草地、荒地といった半自然植生(semi natural vegetation)がモ

ザイク状に入り混じって農地景観が構成されるのが一般的である(Landis, 2000)。また日

本を含む東アジアの農地景観は水田を中心として、それに様々な植生要素が絡まって構成

されており、半自然植生を含むその全体が里山(satoyama)と呼ばれる(Yamamoto, 2001;

Takeuchi, 2003)。里山を構成する樹林地(薪炭林,農用林)、水田、水田畦畔、果樹園、草

地、竹林は、それぞれ特徴をもつ個別生態系として存在しながら、全体として里山の景観

生態系を形成している。また、隣接する異なる生態系の境界、例えば樹林地の林縁等は、

移行帯(エコトーン,ecotone)と呼ばれ、両生態系の本来の性質とは異なる独特の環境が

存在する。

里山は、水田や樹林地といった個々の生態系とそれらの移行帯が織り成す植生モザイク

であり、さまざまな生息環境に応じて多種多様な天敵昆虫が生息している(石井, 2005)。

しかし、圃場整備や樹林地の伐採等によって天敵昆虫相が変化すれば、景観全体での天敵

機能が低下することが予想される。天敵昆虫の機能を保つには土地利用の多様性が重要で

あり、異質性(heterogeneity)が保たれた景観は、同質性(homogeneity)の高い景観より

も天敵昆虫の潜在的能力が発揮されやすく、害虫の発生が少ないと考えられている

(Pickett & Bugg, 1998; Altieri & Nicholls, 2004; Samway, 2005)。

近年ヨーロッパでは、農地景観を構成する半自然植生の存在が注目され、その積極的な

保全が天敵昆虫の増強に繋がることが指摘されている(Landis et al., 2000; Altieri & Nicholls,

2004; Tscharntke, 2007)。従来から、多様な生息環境を行き来している生物にとって、半自

然植生を含む農地景観の存在が重要であることは良く知られていた。里山に多く生息する、

カエル類、トンボ類、ゲンゴロウ類、タガメ類がその代表である(石井, 2005)。しかし、

農耕地で天敵として働く天敵昆虫の分布や移動に関しては、これまであまり研究例がない。

農耕地では、耕起、殺虫剤や除草剤の散布、収穫、施肥等の人為的なインパクトが高い頻

度で発生するため、そこに生息する天敵昆虫は常にそうした撹乱に晒されている。有力な

天敵動物であるゴミムシ類、ハネカクシ類、クモ類は、人為的撹乱が農地内に生じた際、

隣接する半自然植生に一時的に逃避することが報告されている(Gravesen & Toft, 1987;

Bedford & Usher, 1994; Pickett & Bugg, 1998; Landis et al., 2000; Altieri & Nicholls, 2004)。ま

-2 - た、ゴミムシ類にとって、半自然植生は一時的な逃避地であるばかりでなく、産卵や越冬

のための重要な生息地であることも示唆されている(Desender & Alderweireldt, 1988)。農

地の周辺に、そうした半自然植生をどのように配置・管理すれば、天敵昆虫の多様性と機

能を保全できるかといった研究が、今後は極めて重要である(Pickett & Bugg, 1998; Altieri &

Nicholls, 2004; 前藤, 2009)。

ゴミムシ類(オサムシ上科甲虫類、Coleoptera: Caraboidea)は、地表徘徊性の天敵昆虫

として知られており、その群集構造や個体群動態に関する生態学的研究はこれまでヨーロ

ッパを中心に進められてきた(Thiele, 1977; Luff, 1987; Luff et al., 1992)。ゴミムシ類の大

部分は捕食性であり、鱗翅目の幼虫やアブラムシ等の農業害虫を捕食することがこれまで

に明らかにされている(Sunderland, 2002)。さらに、捕食者として農業害虫の密度制御に

関わっているだけでなく、ゴミムシ類には雑草の種子を食害し、その更新を阻害する種も

知られており、農業生態系の中で重要な位置を占めている(Pausch, 1979; Luff, 1987; Holland,

2004)。また、ゴミムシ類の多くは歩行を主な移動手段としており、分散能力が低いため、

生息地の撹乱の影響を受けやすく、環境指標生物としても適当な条件を備えている(石谷,

1996, 2004; Maleque et al., 2009)。こうしたことから、農地景観におけるゴミムシ類の種構

成や分布の解明は、農環境における天敵昆虫の多様性や機能を評価する上できわめて重要

であると考えられる。

しかし、現在までのゴミムシ類の研究の多くはフランスやドイツを中心としたヨーロッ

パ圏で精力的に行なわれたものであり、東アジアの特に農地における研究例は非常に少な

く、水田やブドウ園におけるゴミムシ類の種類組成や発生消長についての断片的な報告が

あるに過ぎない(Yano, 1989 ; Yahiro, 1990 ; Yano, 1995)。その大きな背景として、欧米では

環境保全型農業への取り組みが早く、ゴミムシ類のような天敵昆虫に着目した研究が進ん

でいたが、アジア地域ではそのような天敵昆虫を用いた環境保全型農業への取り組みが遅

れている現状が挙げられる(石谷, 2008)。ヨーロッパでは近年、異なる土地利用(穀物畑,

野菜畑,果樹園,牧草地等)からなる比較的大きな農地景観スケールにおける研究が数多く

行なわれた結果、各土地間においてゴミムシ類の種構成が大きく異なること、そして多く

の農業害虫がゴミムシ類に捕食されることが明らかになっている(Sunderland, 2002)。東

-3 - アジアでは、アジアモンスーン地域を代表する水田やその周辺に広がる落葉樹二次林を中

心とした里山景観におけるゴミムシ相の研究が重要であり、日本での研究は国際的にも大

きな意義がある。起伏が大きく植生の変化に富んだ日本の里山景観は、農地周辺の半自然

植生から害虫制御のサービスを得るには好都合であるかもしれない。特に、農地と半自然

植生がモザイク状に入り混じった農地景観において、ゴミムシ類がどのように分布し、ま

た空間的に利用しているかを把握することが非常に重要である。

そこで本研究ではまず、東アジアの農地景観要素を代表する水田、竹林、牧草地、果樹

園、樹林地で形成された小スケール景観におけるゴミムシ類の分布に焦点を当てることに

した。ヨーロッパで行われた広いスケールの研究では、ゴミムシ類は草地を好むもの、森

林を好むものに大別されているが(Niemelä et al., 2001)、里山景観のような小スケールの

モザイク植生においても住み分けが行われているのか?また結果的にそういったモザイク

植生が、農地景観全体におけるゴミムシ類の多様性の増大に寄与し、天敵昆虫の機能増強

に貢献しているか調べる(第 2 章)。農地景観内の樹林地(薪炭林,農用林)は、半自然植

生の典型として重要視されており、樹林地の面積および管理形態が、樹林地内および周囲

に生息する天敵昆虫類に及ぼす影響を調べた研究例は多い(Niemelä et al., 1993, 2001;

Altieri & Nicholls, 2004)。ゴミムシ類の環境選好性には、森からの距離も大きな影響を与え

ている可能性があり、そういう環境因子が明らかになれば、それを考慮した植生管理に応

用することができる。これまでゴミムシ類の環境選好に影響を与えている因子として特に、

土壌水分が注目されていることも踏まえ(Thiele, 1977; Petit et al., 1998; Ings et al., 1999)、

本研究では土壌水分、草高、森林からの距離の解析を行い、それらの環境因子が、ゴミム

シ類の環境選択へ与える影響を、ゴミムシ類の亜科レベルおよび種レベルで明らかにする

(第 3 章)。

天敵昆虫を保護利用するための適切な農地景観設計は、里山に生息する天敵昆虫個体群

の空間的・時間的構造を理解して初めて可能になる。農地景観(里山)における天敵昆虫

類の個体数維持機構を明らかにするため、モデル昆虫として農地に個体数が多く、農耕地

および半自然植生(樹林地等)の両方を利用しているヤコンオサムシ(Carabus yaconinus)

に着目した。ヤコンオサムシは平地性で、近畿地方を中心に北は能登半島,西は中国地方

-4 - 中部,隠岐,四国北部と淡路島ほか瀬戸内海の島に分布する普通種である(上野ら,1985)。

ヤコンオサムシの生活史は既に明らかにされており、成虫で休眠越冬し、春から夏にかけ

て交尾と産卵を行う春繁殖型の甲虫である(Sota, 1985a,1985b)。幼虫の餌は主としてフ

トミミズ類とされているが、成虫はミミズ類の他、鱗翅目幼虫等の生きた小動物のほか、

カエルやトカゲ等の死骸を捕食することが知られている(Sota,1985a;八尋,2003)。大

きな景観スケールにおけるヤコンオサムシの分布は既に調査されているが(Yahiro et al,

2002)、農地景観を形成する小スケールのモザイク植生における分布特性は知られていない。

ヤコンオサムシは樹林地と、それに隣接する農耕地の両方に分布することが既に明らかに

なっており(Yahiro et al, 2002)、モザイク植生で構成された農地景観内での土着昆虫の個

体群維持のメカニズムを探るには格好のモデル種である。

そこで、里山を構成する重要成分である樹林地とそれに隣接する農耕地の境界域におい

て、ヤコンオサムシの成虫と幼虫の分布、さらに雌雄成虫の活動の違いについて調べるこ

ととした。それらの結果を踏まえた上で、農地景観においてヤコンオサムシが個体群を維

持するための最適な植生配置について考察する(第 4 章)。また、重要農業害虫であるハス

モンヨトウ幼虫に対するヤコンオサムシ成虫の捕食能力を実験室条件下で解明し、ヤコン

オサムシが天敵昆虫として機能しうるか明らかにする(第 5 章)。最後に、各章の成果に基

づいて、農地景観全体でのゴミムシ類の分布、各ゴミムシ類の生息地選択に影響を与える

環境因子、さらには農地景観における天敵昆虫群集の保全的利用について総合的な考察を

行う(第 6 章)。

なお、狭義のゴミムシ類はオサムシ類を含まないが、本論文では陸生のオサムシ上科に

属するオサムシ科(Carabidae)、ホソクビゴミムシ科(Brachinidae)、ヒゲブトオサムシ科

(Paussidae)、カワラゴミムシ科(Omophonidae)の 4 科をまとめてゴミムシ類と総称する。

オサムシ上科昆虫は、全世界から 40000 種以上が知られており(Thiele, 1977; Luff, 1987)、

本研究では上野ら(1985)の高次分類体系に従った。

-5 - 第 2 章 小スケールのモザイク植生で構成される農地景観における ゴミムシ類の種構成

1.目的

有益な天敵昆虫であるゴミムシ類(オサムシ上科甲虫類, Coleoptera: Caraboidea)は、地

表徘徊性の甲虫として知られており、その群集構造や季節的発生消長、個体群動態に関す

る生態学的研究はこれまでヨーロッパを中心に進められてきた(Thiele, 1977; Luff, 1987;

Luff et al., 1992)。また、ゴミムシ類の多くは歩行を主な移動手段としており、分散能力が

低いため、生息地の撹乱の影響を受けやすく、環境指標生物としても適当な条件を備えて

いる(石谷, 1996, 2004; Maleque et al., 2009)。こうしたことから、農地景観におけるゴミム

シ類の種構成や分布の解明は、農環境の健全性および生物多様性を評価する上できわめて

重要であると考えられる。

これまで日本国内でも、ブドウ園(Yano et al., 1989; 富樫ら, 1993)、農地に隣接する森林

(Yahiro et al., 1990)、水田(Yahiro et al., 1992)、タマネギ畑(富樫ら, 1993)、ナシ園(富

樫, 1994)、イチジク園(Ishitani & Yano, 1994)、牧草地(Ishitani et al., 1994)、アブラナ畑

(石谷, 1996)などの農環境においてゴミムシ類の調査が行われており、各植生における

ゴミムシ類の種構成や季節的発生消長が明らかにされてきた。しかし、これまでのこうし

た調査研究は、各植生のゴミムシ相を個別に調査しているものが多く、多様な植生を含む

農環境を対象とした包括的な研究は、山口大学の付属農場における研究例(Yano et al.,

1989; Yahiro et al., 1990, 1992; 矢野, 2002)のみである。さらに、これまで国内の農環境で

行われたゴミムシ類群集の研究の多くは、そこで捕獲されたゴミムシ類の種数や多様度指

数を示したに過ぎず、植生タイプ間の種構成の違いについては類似度指数を用いた研究が

数例報告されているだけである(石谷, 1996; 平松, 2004)。そこで我々は、農環境における

異なる植生の間のゴミムシ類の種構成の変化を、座標付け分析のひとつである除歪対応分

析(Detrended Correspondence Analysis, DCA)によって解析することとした。この方法によ

れば、植生タイプ間のゴミムシ類群集の類似の度合いが分かるだけでなく、それぞれの植

-6 - 生に特徴的なゴミムシ類の種を特定することもできる。

本研究では、水田、牧場、果樹園、樹林地を含む、小スケールのモザイク植生で構成さ

れる農地景観を調査地とし、ゴミムシ類をほぼ通年で捕獲して、植生間のゴミムシ類の種

数と種多様度、亜科の構成を比較した。また、各地点で得られたゴミムシ類の種構成デー

タに基づいて、除歪対応分析による調査区と種の座標付け分析を行った。

-7 - 2.材料及び方法

2.1 調査地

調査は、神戸大学農学部付属食資源教育研究センター(現神戸大学大学院農学研究科食

資源教育研究センター、兵庫県加西市鶉野町)の農場で行った(Fig. 2-1)。調査地は温暖

な瀬戸内気候に属し、40ha の敷地を有する農場である(以下、本文では調査地を農場と呼

ぶ)。農場では、水田、牧場、果樹園、畑、ため池、林地等さまざまな土地利用がなされて

おり、多様な植生がモザイク状に配置されている。農場内に設定した調査区(6 区)の概

略を、以下に記す(Fig. 2-1)。

水田 A(PA): 調査地点は稲作水田の畦である。調査期間中に除草剤散布が 2 回行われ、

草刈も適宜行われた。

水田 B(PB): 上記と同様であるが、竹林および荒地に隣接している。

牧場(P): イタリアンライグラスの草地に、肉用牛が放牧されている。

果樹園(O): カキ、ナシ、ブドウ、クリが植樹されている。調査地点はブドウ園とクリ園

の境界とした。

樹林地(W): 数十年ごとに伐採され、自然更新をくり返してきた典型的な落葉広葉樹の

雑木林(里山林)である。上木はコナラとクヌギを主体とし、林床にはネ

ザサが見られた。

断片化樹林地 (WF): 面積約 0.3ha の小さな孤立林である。農業用ため池が隣接し W 地

点よりやや湿った状態であった。樹林地(W)と同様、上木はコナラとクヌ

ギが占め、林床にはネザサが見られた。

2.2 ピットフォールトラップの配置とゴミムシ類の捕獲

ゴミムシ類の捕獲調査は、2003 年 4 月から 2004 年 1 月にかけて行った。ゴミムシ類の

捕獲にはピットフォールトラップを用いた。農場内の各調査区に、それぞれ 5 器のトラッ

プを 1m間隔でライン状に設置した。トラップに使用したプラスチックコップ(内径 8 cm、

深さ 9.5 cm)の底には4つの水抜き穴をあけ、口を地表と同じ高さにして地面に埋め込ん

-8 - だ。トラップの上には、ベニヤ板(12×12cm)を高さ約 5cm に設置し、雨除けとした(Fig.

2-2)。一部の種の選択的誘引を避けるために、コップに餌や保存液は入れず、空の状態で

放置し、10 日に 1 回の間隔でトラップ内に落ちた成虫を回収した。捕獲したゴミムシ類は

全て乾燥させ、ピン刺し標本にして、種名を同定して個体数を計測した。同定が難しい種

については、兵庫県川西市在住の伊藤昇氏に同定を依頼した。

2.3 統計解析

各調査区のゴミムシ類の種多様度は、種の豊富さの指標である捕獲種数(s)と、個体数

の種均等性の指標である Simpson の多様度指数(1-λ)(Simpson, 1949)によって比較した。

さらに、調査区間のゴミムシ類の種構成を比較するため、有無データに基づく除歪対応分

析(DCA)を行った。これらの分析には PC-ORD for Windows, ver. 4.0(McCune & Mefford,

1999)を用いた。

P

WF

W PA PB

O

100m

Fig. 2-1. Map of study site and trapping plots in the Food Resources Education and Research Center of Kobe University, Kasai, Hyogo Prefecture. PA, Paddy field A ; PB, Paddy field

B ; P, Pasture ; O, Orchard ; W, Woodland ; WF, Woodland fragment .

-9 -

Fig. 2-2. A pitfall trap (above) and its collection (below). Once fallen in the trap, ground never go out of it because they cannot fly up.

- 10 - 3.ゴミムシ類の発生消長

2003 年 5 月上旬から 2004 年 1 月下旬にかけて調査地全体で捕獲された、全ゴミムシ類

の活動消長(トラップによる捕獲数の変動)を Fig. 2-3 に示した。活動消長は 2 つのピー

クを示し、2003 年 6 月と 2003 年 10 月下旬頃にピークが見られた。6 月のピーク時には水

田でマルガタゴミムシが多数捕獲され、10 月下旬のピークでは樹林地でヒメツヤヒラタゴ

ミムシとマルガタツヤヒラタゴミムシが多数捕獲された。

250

200

150

100 Number of individuals Number

50

0 MAY JUNE JULY AUG SEP OCT NOV DEC JAN 2003 2004

Fig. 2-3. Seasonal prevalence of ground beetles caught in pitfall traps at the Food Resources Education and Research Center of Kobe University, Kasai, from May 2003 to January 2004.

-11 - 4.ゴミムシ類の分布と種構成

Table 2-1 に示すように、オサムシ科 Carabidae およびホソクビゴミムシ科 Brachinidae に

属する 40 種 1,144 個体のゴミムシ類甲虫が捕獲された。最も多く捕獲された種はヤコンオ

サムシ(213 個体)であり、全捕獲数の 18.6%を占めた。次いで、ヒメツヤヒラタゴミム

シ(16.2%)、マルガタツヤヒラタゴミムシ(13.1%)、オオヒラタゴミムシ(8.9%)、マル

ガタゴミムシ(6.4%)の捕獲数が多く、これら上位 5 種で全体の 63.2%を占めた。各調査

区で捕獲された種数は、水田 A が最も多く、水田 B と合わせた種数(重複含まず)は 28

種に達し、調査地全体の捕獲総種数の約 70%を占めた。Simpson の多様度指数(種の均等

性の指標)の値は水田と牧草地が高く、果樹園と樹林地は低かった。本調査で全調査区に

出現した種はなく、4 調査区から記録されたものが 8 種あった。

水田は両調査区とも、ゴモクムシ亜科()およびマルガタゴミムシ亜科

(Zabrinae)の個体数割合が高く、50%程度を占めていた(Fig. 2-4)。また牧場は他の調査

区と比べて、アオゴミムシ亜科(Callistinae)の割合が高く、62.7%を占めていた。果樹園

と断片化樹林地はオサムシ亜科(Carabinae)が多く、類似した傾向を示した。ホソクビゴ

ミムシ科(Brachinidae)は、断片化樹林地のみで捕獲された。樹林地はゴモクムシ亜科お

よびマルガタゴミムシ亜科が殆ど捕獲されず、ナガゴミムシ亜科(Pterosthichinae)が 76.9%

を占めた。

- 12 -

Table 2-1. Ground beetles caught in pitfall traps at the Food Resources Education and Research Center of Kobe University, Kasai, from May 2003 to January 2004. Plot Species Code PA PB P O W WF Total Carabidae オサムシ科 inornatus キイロチビゴモクムシ a1 1 Amara chalcites マルガタゴミムシ b 51 6 6 10 73 A. macronota ovalipennis ナガマルガタゴミムシ c3 7 10 A. sinuaticollis コマルガタゴミムシ d 21 3 Anisodactylus punctatipennis ホシボシゴミムシ e40 261 49 Archipatrobus flavipes キアシヌレチゴミムシ f2 1 3 Carabus yaconinus ヤコンオサムシ g 5 59 106 43 213 Chlaenius abstersus アカガネアオゴミムシ h13 4 C. hamifer コアトワアオゴミムシ i3 2 5 C. micans オオアトボシアオゴミムシ j729 C. naeviger アトボシアオゴミムシ k1 1 C. pallipes アオゴミムシ l. 21 3 C. posticalis キボシアオゴミムシ m 7215134 C. sericimicans ムナビロアオゴミムシ n22 C. virgulifer アトワアオゴミムシ o2 1 9 2 14 Dolichus halensis セアカヒラタゴミムシ p 35 11 10 Haplochaenius costiger スジアオゴミムシ q 11 Harpalus eous オオズケゴモクムシ r11 H. griseus ケウスゴモクムシ s14 14 H. jureceki ヒメケゴモクムシ t123 H. niigatanus クロゴモクムシ u6 2 8 H. sinicus sinicus ウスアカゴモクムシ v 10 2 12 H. tinctulus アカアシマルガタゴミムシ w49 49 H.tridens コゴモクムシ x3 2 5 H. chalcentus ツヤアオゴモクムシ y 62 8 Lesticus magnus オオゴミムシ z4127 Oxycentrus argutoroides クビナガゴモクムシ aa 1 1 Platynus chalcomus アオグロヒラタゴミムシ bb4 4 P. magnus オオヒラタゴミムシ cc 85 13 2 2 102 Pterostichus haptoderoides japanensis トックリナガゴミムシ dd 40 40 P. longiguus コホソナガゴミムシ ee 3 1 4 P. microcephalus コガシラナガゴミムシ ff 10 2 12 P. sulcitarsis アシミゾナガゴミムシ gg 7 7 Stenolophus castaneipennis ツヤマメゴモクムシ hh 2 2 S. difficilis ミドリマメゴモクムシ ii 1 1 Synuchus arcuaticollis マルガタツヤヒラタゴミムシ jj 39 1 108 2 150 S. cycloderus クロツヤヒラタゴミムシ kk 62 62 S. dulcigradus ヒメツヤヒラタゴミムシ ll 3 174 8 185 S. nitidus オオクロツヤヒラタゴミムシ mm 224228 Brachinidae ホソクビゴミムシ科 Brachynus scotomedes オオホソクビゴミムシ nn 4 4 Number of individuals 381 44 67 92 481 79 1144 Number of species (s) 26 8 13 14 12 11 40 Simpson's index of diversity (1 -λ) 0.88 0.79 0.86 0.58 0.75 0.68 PA, Paddy field A ; PB, Paddy field B ; P, Pasture ; O, Orchard ; W, Woodland ; WF, Woodland fragment .

- 13 -

Paddy field A

Zabrinae Paddy field B Harpalinae Pasture Pterosthichinae

Callistinae Orchard Carabinae Patrobinae Woodland fragment Brachinidae

Woodland

0% 20% 40% 60% 80% 100%

Fig. 2-4. Proportion of each subfamily and family in total number of individuals collected at each plot.

- 14 - 5.各植生とゴミムシ組成の除歪対応分析

除歪対応分析(DCA)の結果、調査区は第 1 軸に沿って水田(PA, PB)、牧場(P)、果

樹園(O)、樹林地(W)、断片化樹林地(WF)の順に並んだ(Fig. 2-5)。草本で覆われて

いる水田と牧場は近接して位置づけられ、樹木が生える果樹園と樹林地も比較的近くまと

まった。種の座標付けをみると、樹林地で多く捕獲されたヒメツヤヒラタゴミムシやヤコ

ンオサムシは第 1 軸の値が大きく、牧場で最も多く捕獲できたキボシアオゴミムシは中位

であった。また、4 調査区で捕獲され、捕獲数も多いマルガタゴミムシとホシボシゴミム

シも中位であった。水田で多く捕獲されたオオヒラタゴミムシ、アカアシマルガタゴミム

シ、トックリナガゴミムシなどは、第 1 軸の値が比較的小さかったが、同じく水田で多く

捕獲されたマルガタツヤヒラタゴミムシは樹林地でもよく捕獲され、第 1 軸の値は中位で

あった。

n, nn

80 ff, x

z b WF a, k, w, aa, bb, dd, gg, hh, ii

t j, y, u f mm g ll c, v d, j jj q h

Axis 2 s o, ccPA P PB O 40 p e, m W ee l

r, kk 0

0 20 40 60 80 Axis 1 Fig. 2-5. DCA ordination of plots and ca raboid species. Plots are shown by solid triangle, and the species by cross. Plots’ abbreviations: PA, Paddy field A;

PB, Paddy field B; P, Pasture; O, Orchard; W, Woodland; WF, Woodland fragment. Species’ codes as in Table 2-1.

- 15 - 6.考察

小スケールのモザイク植生からなる農地景観であっても、植生によってゴミムシ相は大

きく異なることが明らかになった。最も特徴的な植生は水田であり、農場全体で捕獲され

たゴミムシ類の 70%にあたる 28 種ものゴミムシ類が捕獲された。水田は他の植生に比べ

て、ゴミムシ類の種数が多く、水田環境は農地全体の生物多様性の維持に大きく貢献して

いることが分かる。水田 A および水田 B はいずれも、他の植生に比べてゴモクムシ亜科と

マルガタゴミムシ亜科の種数が多いことが特徴であった。ゴミムシ類の多くは捕食性であ

るが、ゴモクムシ亜科とマルガタゴミムシ亜科に限ると雑食性あるいは植食性の種が少な

くない(Lund & Turpin, 1977; Harrison & Regnier, 2003)。これらの亜科が水田に多いのは、

水田畔畦および休耕田に雑草の種子が多く存在しているためであると考えられる。また、

水田畔畦は調査期間を通じて、他の調査区より土壌水分が多く、その環境がこれらのゴミ

ムシ類に適していたのかもしれない。これら種子食のゴミムシ類は、雑草の種子を捕食す

ることが報告されており、水田雑草の発芽抑制に寄与している可能性も指摘されている

(Lee et al., 2001)。水田 B の亜科構成や種構成は、水田 A と酷似していたが、総捕獲数や

種数は水田 A と大きく異なっていた。農地管理法が同じであるにも関わらず、水田 B で総

捕獲数と種数が少なかった原因として、隣接する荒地と竹林の影響が挙げられるが、詳し

い原因は不明である。

なお、山口大学農学部付属農場の水田における優占種はミイデラゴミムシ、マルガタゴ

ミムシ、オオヒラタゴミムシ、ヒメケゴモクムシ、コゴモクムシの 5 種であった(Yahiro et al., 1992)。神戸大学農場の水田における優占種はオオヒラタゴミムシ、マルガタゴミムシ、

アカアシマルガタゴミムシ、ホシボシゴミムシ、トックリナガゴミムシの 5 種であるが、

コゴモクムシも多数捕獲されており、両農場の水田のゴミムシ相は比較的よく似ていると

いえる。山口大学の調査から矢野(2002)は、オオヒラタゴミムシを水田の指標種である

と結論しているが、このことは本研究によっても支持される。

神戸大学牧場における優占種は、キボシアオゴミムシ、アトワアオゴミムシ、オオアト

ボシアオゴミムシ、マルガタゴミムシの 4 種であり、他の植生と比較してアオゴミムシ亜

- 16 - 科が多いことが特徴であった。アオゴミムシ類は昆虫食性で、農業害虫の天敵として働い

ていることが示唆されている(田中, 1956; Suenaga & Hamamura, 2001)。山口大学の牧草地

における優占種は、ウスアカゴモクムシ、オオズケゴモクムシ、オオアトボシアオゴミム

シ、アオグロヒラタゴミムシ、コゴモクムシの 5 種であり、中でもゴモクムシ亜科が大部

分を占めているが、オオアトボシアオゴミムシが共通であるだけで、本学牧場のゴミムシ

相とはかなり異なっていた。神戸大学牧場と山口大学の牧草地には、それぞれ主としてイ

タリアンライグラスとソルガムが栽培されていたが、本学牧場は放牧地であり、草高が低

いことから両者は大きく異なる環境であると考えられる。すなわち、本学牧場に多かった

キボシアオゴミムシとアトワアオゴミムシは、比較的乾燥した環境でよく見かけられるこ

とから(伊藤昇, 私信)、本学牧場は山口大学の牧草地よりも乾燥した環境であった可能性

がある。ゴミムシ類の環境選好性は、草種よりも、草高および草本類の被度のような植生

の空間的特性に強く依存することが既に示唆されており、その理由として、隠れ場所とし

ての機能が挙げられている(Southwood et al., 1979; Brouse, 2003)。また、牧場と牧草地で

は、草高やそれに起因する湿度等の環境特性が異なっているのかもしれない。

神戸大学の果樹園(ブドウ園とクリ園の境界)における優占種は、ヤコンオサムシ、ホ

シボシゴミムシ、マルガタゴミムシ、キボシアオゴミムシの 4 種であった。山口大学のブ

ドウ園におけるゴミムシ類の優占種は、コゴモクムシ、ホシボシゴミムシ、マルガタゴミ

ムシ、オオアトボシアオゴミムシであり、本学果樹園のゴミムシ相と類似していた(Yano et al., 1989)。最も多かったヤコンオサムシは、平地の樹林地に多く生息するが(上野ら,

1985; Sota, 1985b; 八尋ら, 2001)、隣接する果樹園にも多くの個体が進出していることが明

らかになった。山口大学のブドウ園は、周囲が畑および水田であるため、樹林性のオサム

シ類が侵入することがなかったのだろう。ヤコンオサムシはハスモンヨトウのような大型

の鱗翅目幼虫を捕食することが知られており(Sota, 1985a)、樹林地に隣接する農地におい

て、これらの害虫の有力な天敵として働いている可能性がある。ホシボシゴミムシは両ブ

ドウ園で多数捕獲されており(本学ではブドウ園とクリ縁の境界)、矢 野( 2002)が指摘し

たように、この種はブドウ園を代表する種といえるであろう。また、アオゴミムシ亜科が

多いのも果樹園の特徴のひとつである。ホシボシゴミムシがブドウ園に多い理由について

- 17 - は、ブドウ園のブドウ棚による遮光、堆肥用の枯れ草の積載による隠れ場所の増加が考え

られるが、これは他のゴモクムシ類にとっても適した環境条件であり、種特異的な分布の

要因は明確でない。なお、富樫・大畠(1995)によると、石川県におけるブドウ園のゴミ

ムシ群集の優占種は、セアカヒラタゴミムシ、ゴミムシ、クロゴモクムシ、ケウスゴモク

ムシの 4 種であった。セアカヒラタゴミムシの捕獲個体数は、本学の果樹園および山口大

学のブドウ園ではともに少なく、クロゴモクムシとケウスゴモクムシの 2 種は、全く捕獲

されなかった。このように、石川県におけるブドウ園のゴミムシ相は、本学や山口大学の

それとは明らかに異なっていた。本学農場と山口大学付属農場を取り囲む環境は比較的良

く似ており、いわゆる里山といわれる環境である。一方、石川県のブドウ園は市街地の中

にあることから、両者を取り囲む環境の違いが、ゴモクムシ類の種構成に大きな影響を与

えたのではないかと考えられる。また、本学および山口大学は温暖な瀬戸内気候に属して

いるのに対し、北陸の石川県は多雪で冷淳な気候に属することから、気象要因の違いも考

えられる。

本学農場に隣接する樹林地の優占種は、ヒメツヤヒラタゴミムシ、マルガタツヤヒラタ

ゴミムシ、ヤコンオサムシ、クロツヤヒラタゴミムシ、オオクロツヤヒラタゴミムシの 5

種であり、ヤコンオサムシ以外の 4 種はすべて Synuchus 属であった(Table 2-1)。石谷(1998)

は山口市において、水田に隣接したコナラ林におけるゴミムシ相を調査している。そこで

記録された優占種はアキオサムシ、ヒメツヤヒラタゴミムシ、オオホソクビゴミムシ、オ

オクロツヤヒラタゴミムシであり、その内 2 種はやはり Synuchus 属であった。またいずれ

の調査地でも共通して、Carabus 属がよく捕獲されていた。本学の断片化した樹林地のゴ

ミムシ相は、樹林地と良く似ていたが、捕獲個体数が少なかった。これは、孤立断片化し

た小さな樹林地では、ヤコンオサムシ、ヒメツヤヒラタゴミムシなどの樹林性種の個体群

サイズが小さくなるためであると思われる(Fujita et al., 2008)。

草地環境である水田や牧場は、除歪対応分析の結果、第 1 軸において小さな値を示し、

一方で樹林地は大きな値を示した。また、果樹園はこの中位環境であると考えられること

から、果樹園は草地環境と樹林地の中間的な環境であることが示された。Yano et al.(1989)

は、ブドウ園のゴミムシ相が水田と樹林地の中間的種組成を持つとしたが、本研究での除

- 18 - 歪対応分析の結果はそれを支持している。マルガタゴミムシはいずれの調査区でも捕獲数

が多く、第 1 軸においても中位に位置した。また同じく、ヒメケゴモクムシのように明ら

かに草地性種であると考えられる種が、第 1 軸の高位に位置づけられている。このような

種は飛翔能力が大きいと考えられるので、偶発的に樹林地のトラップに入っただけなのか

もしれない。

農地景観における生物多様性の保全を考える場合、非農耕地の半自然植生をおろそかに

することはできない(Landis et al., 2000)。樹林地のような非農耕地は、ゴミムシ類の産卵

場所や農地撹乱の際の逃げ場所等に利用されていることが知られている(Lee et al., 2002)。

事実、本学農場全体で捕獲されたゴミムシ類 40 種のうち、13 種は農耕地(水田、牧場、

果樹園)と樹林地(断片化樹林地を含む)の双方で捕獲されている。このことからも非農

耕地が、農地景観における生物多様性の形成に大きく貢献していることが示唆される。ゴ

ミムシ類の環境選好性については、従来の比較的大きな景観スケールの調査によって、森

林を好むものと草地を好むものに大別されてきたが、本研究では農地景観を形成する小ス

ケールのモザイク植生においても、種構成が大きく異なり、景観全体として種の豊富さが

維持されている事が明らかになった。

- 19 - 7. 要 約

ゴミムシ類は、農業害虫の捕食性天敵として、また農地とその周辺の環境の変化を推し

量る環境指標生物として重要である。本研究では、水田、牧場、果樹園、樹林地を含む、

小スケールのモザイク植生で構成される面積約 40ha の農地景観を調査地とし、ゴミムシ類

を通年で捕獲して、種数と種均等度、種構成を植生間で比較した。また、各地点で得られ

たゴミムシ類の種構成データに基づいて、除歪対応分析(Detrended Correspondence Analysis、

DCA)による調査区と種の座標付け分析を行った。2003 年 5 月から 2004 年 1 月に、ピッ

トフォールトラップで捕獲されたゴミムシ類は 2 科 7 亜科 40 種 1144 個体に達し、種構成

はそれぞれの植生によって大きく異なった。昆虫食性で農業害虫の天敵として知られるア

オゴミムシ亜科は、樹林地では殆ど捕獲されず、牧場と果樹園に多く見られた。種子食性

種を含むマルガタゴミムシ亜科とゴモクムシ亜科はともに良く似た分布傾向を示し、水田

に多かった。全種の中で最も多く捕獲されたヤコンオサムシは、主として平地の樹林地に

生息するとされてきたが、林地に隣接する農地にも進出しており、特に果樹園で多かった。

ゴミムシ類の種構成にもとづく除歪対応分析の結果、調査区は第 1 軸に沿って水田、牧場、

果樹園、樹林地の順に並んだ。草本で覆われている水田と牧場のゴミムシ相はよく似てお

り、樹木環境とみなされる果樹園と樹林地のゴミムシ相も比較的類似していた。

- 20 - 第 3 章 農地でのゴミムシ類の分布に影響を与える環境因子

1.目的

第 2 章では農地景観を形成する小スケールのモザイク植生においても、種構成が大きく

異なり、景観全体として種の豊富さが維持されている事を明らかにした。農地景観の多様

性を保つには、植生の多様性が重要であり、それがそこに生息する土着天敵の多様性にも

繋がる。ゴミムシ類が植生に応じて棲み分けていることが明らかになったが、種ごとの環

境選好性についてはまだ分かっていない。これまでゴミムシ類の環境選好に影響を与えて

いる因子として、湿度、土壌水分、地際温度、土壌の pH、土壌の質、落ち葉等の有機物の

量や質が調査されており(Thiele, 1977; Petit et al., 1998; Ings et al., 1999; Holland, 2004)、ゴ

ミムシ類は高い湿度や土壌水分率を好むことがしばしば指摘されている(Thiele, 1977;

Fahy & Gormally, 1998)。しかし、これらの研究のほとんどが、欧米のゴミムシ類について

調査されたものであり、アジア地域では研究が非常に遅れている。東アジアの里山景観内

の樹林地(薪炭林,農用林)は、半自然植生の典型として重要視されており、樹林地の面

積および管理形態が、樹林地内および周囲に生息する天敵昆虫類に及ぼす影響を調べた研

究例は多い (Niemelä et al., 1993, 2001; Altieri & Nicholls, 2004 )。ゴミムシ類の環境選好

性には、森からの距離も大きな影響を与えている可能性があり、そういう環境因子が明ら

かになれば、それを考慮した植生管理に応用することができる。

本章では、これまでゴミムシ類の環境選好に影響を与えている因子として土壌水分が特

に注目されていることも踏まえ、多様な植生が混在する農地景観に 25 地点の調査プロット

を設定し、ほぼ通年でゴミムシ類を捕獲すると共に各地点の土壌水分、草高、樹林地から

の距離を測定し、それらの環境因子がゴミムシ類の種数と主要種の捕獲数に与える効果を

解析した。また、ゴミムシ類の種組成の違いと各環境因子の関連性について正準対応分析

(Canonical Correspondence Analysis, CCA)による解析を行った。

- 21 - 2.材料及び方法

2.1 調査地

調査は第 2 章と同様、神戸大学農学部付属食資源教育研究センター(現神戸大学大学院

農学研究科付属食資源教育研究センター,兵庫県加西市鶉野町)の農場で行った。

2.2 ピットフォールトラップの配置とゴミムシ類の採集

ゴミムシ類の調査は、2004 年 3 月から 2005 年 1 月にかけて行った。Fig.3-1 に示すよう

に、農場内に 3 本の平行で、互いに約 60m 離れたトランセクト(A,B,C)を設置した。

トランセクトは A-1、B-1 および C-1 を基点として、大きく水田(A-1~A-3,B-1~B-3) →

水田と竹林の境界(A-4, B-4) → 竹林(A-5, A-6, B-5, B-6) → ため池 → 樹林地①(A-7,

B-7, C-1) → 果樹園(A8~A9, B8~B9, C-2, C-3) → 樹林地②(A-11, B-11)という順で

異なる植生を横切るように設定した。水田および果樹園の植生は、第 2 章で既に述べてあ

る。樹林地①と樹林地②は、20~30 年ごとに伐採され更新される、典型的な落葉広葉樹の

雑木林(里山林)である。上木はコナラとクヌギを主体とし、林床にはネザサが見られた。

水田と竹林の境界部分(竹林の林縁)は、コナラとクヌギの樹が多く、竹との混交林にな

っていた。各トランセクトにはそれぞれ 20~100mおきにプロットを置き、各プロットに

は 3 器のピットフォールトラップを約 5m 間隔で設置した。トラップに使用したプラスチ

ックコップ(内径 8 cm,深さ 9.5 cm)の底には4つの水抜き穴をあけ、口を地表と同じ高

さにして地面に埋め込んだ(Fig.2-2)。トラップの上には、ベニヤ板(12×12cm)を高さ約

5cm に設置し、雨除けとした。一部の種の選択的誘引を避けるために、コップに餌や保存

液は入れず、空の状態で放置し、7 日に 1 回の間隔でトラップ内に落ちた成虫を回収した。

捕獲したゴミムシ類は全て種まで同定した。同定が困難な種については、兵庫県川西市在

住の伊藤昇氏に同定を依頼した。

2.3 土壌水分率の測定

各プロットで、2004 年 4 月から 9 月にかけて、2 ヶ月に 1 回ずつ土を採取し(2004 年 4

- 22 - 月 28 日,6 月 8 日,9 月 1 日)、土壌水分率を測定した。測定日は、前日が晴れで、採取日

も雨が降らなかった晴天日を選んだ。なお土の採取は同一日に、全ての場所で行った。各

採取場所で、表層から 5 ㎝の深さまでの土を採取した。それを実験室に持ち帰り、100g の

土を測り取ってステンレスバットに広げ、80℃の乾燥器に 24 時間おいた。乾燥後の土の重

量を計測し、以下のように土壌水分率(soil moisture)を算出した。

土壌水分率(%)= 100 ×(100‐乾燥土の重量(g))/ 100

2.4 草高の測定

各プロットで、2004 年 4 月から 9 月にかけて、2 ヶ月に 1 回ずつ草高を測定した(4 月

28 日,6 月 8 日,9 月 1 日)。なお草高の測定は同一日に、全てのプロットで行った。各プ

ロット(25 ヶ所)に 1 辺が 1mの方形コドラートを 1 個設置し(毎回同じコドラートを使

用)、その方形内に生えている単子葉類草本と双子葉類草本の最高点の垂直高をそれぞれ計

測した。

2.5 樹林地からの距離

各プロットと樹林地との間の距離を測定した。樹林地は竹林(広葉樹との混交林)、樹 林

地①、樹林地②の 3 ヵ所があるが、各プロットから最も近い樹林地の林縁からの直線距離

を樹林地からの距離とみなした。距離の測定には、国土地理院の航空写真を用いた。

2.6 統計解析

各植生域におけるゴミムシ類の種数および捕獲数を比較するため、トラップあたりの平

均種数および平均捕獲数を算出した。植生間の多重比較は Bonferroni 補正した

Mann-Whitney U 検定によって行った。また、各プロットで捕獲された通年のゴミムシ類の

捕獲数、種数、および年 3 回測定した土壌水分率および最高草高の平均値を解析に用いた。

草高は、各プロットで単子葉類と双子葉類の両方を測定したが、いずれか高い方をそのプ

ロットの草高とみなした。土壌水分率および最高草高は、いずれも季節間(4 月,6 月,9

月)の順位相関係数(τ, Kendall’s rank correlation coefficient)が高かったので(Table 3-6)、

それぞれ 3 つの時期の平均値を代表値として用いた。各プロットで得られたゴミムシ類の

-23- 種数、総捕獲数、平均土壌水分率、平均草高、樹林地からの距離の間の順位相関係数(τ)

を算出した。さらに、各プロットのゴミムシ類の種組成を比較し、各環境因子との関連性

を解析するため、捕獲個体数に基づく正準対応分析(CCA)を行った。また、主要な亜科

と 3 プロット以上で採集された種について、捕獲個体数と土壌水分率、草高および樹林地

からの距離の順位相関係数(τ)を算出した。正準対応分析には PC-ORD for Windows, ver.

4.0 (McCune & Mefford, 1999)を用い、それ以外のすべての解析には、Windows 版 SPSS

11.0(SPSS Inc., Cary, NC, USA)を使用した。

11 10 9 8 7 5 4 3 2 A-1 6 11 5 4 3 2 10 9 8 7 6 B-1

32 C-1

100m

Fig. 3-1. Map of study site and trapping plots in the Food Resources Education and Research Center of Kobe University, Kasai, Hyogo. This map shows three transects crossing the farmland. Two transects (A,●; B,■) cross paddy field, bamboo, woodland, orchard, and woodland. One transect (C, ▲ ) crosses woodland, orchard, and woodland. Three pitfall traps were set up at each plot placed along the transects.

- 24 - 3.捕獲されたゴミムシ類の個体数と種構成

通年の捕獲結果を Table 3-1~3-3 に示した。前期(2004 年 3 月~7 月)では 33 種 767

個体、後期(2004 年 10 月~2005 年 1 月)では 22 種 501 個体、合わせて 36 種 1268 個体の

ゴミムシ類(全てオサムシ科)が捕獲された。最も多く捕獲された種はヤコンオサムシ(458

個体)であり、全捕獲数の 36.12 %を占めた(Table 3-4)。次いで、ヒメツヤヒラタゴミム

シ(全体の 7.57%)、ナガマルガタゴミムシ(6.55%)、オオクロツヤヒラタゴミムシ(5.60%)、

ツヤアオゴモクムシ(5.21%)の捕獲数が多く、これら上位 5 種で全体の 62.1%を占めた。

調査の期間と場所は異なるが、2003 年度は 40 種のゴミムシ類が採集されており(第 2 章)、

今回は種数がやや少なかった。今回採取された 36 種のうち、2003 年度にも捕獲された種

は 25 種で、今回新たに 8 種が捕獲された。2003 年度に 1 匹も捕獲されなかったナガマル

ガタゴミムシが、2004 年度には水田で大量に捕獲された。その一方で、2003 年度に捕獲さ

れたゴミムシ類のうち 11 種が 2004 年度には捕獲されなかった。Table 3-4 には、出現プロ

ット数の多い種の順位も示してある。全 25 プロットに出現した種はなく、最も多くのプロ

ットに出現した種はヤコンオサムシであり、20 プロット(全体の 80%)で捕獲された。次

いで、コゴモクムシ(10 プロット)、ナガマルガタゴミムシ(9 プロット)、マルガタツヤ

ヒラタゴミムシ(9 プロット)と続いた。

各植生域によって設置されたプロット数が異なるので、トラップあたりの種数および捕

獲数を植生の間で比較した(Table 3-5)。種数と捕獲数はいずれも、水田と竹林の境界で最

も多く、それぞれ 12.5 種/trap および 100.0 匹/trap であった。一方、竹林では種数は極端に

少なく 1.3 種/trap と、全エリアで最も少なかった。また果樹園も同様に、他の植生域に比

べて種数が少なかった。水田と竹林の境界,水田,樹林地の 3 つの植生域は他の植生域よ

り捕獲数が多かった。果樹園と竹林における捕獲数は少なく、それぞれ 24.3 匹/trap、14.3

匹/trap であった。

- 25 -

1 1 0 0 1 5 3 3 2 1 1 2 2 3 3 4 1 3 3 1 1 20 40 52 15 11

718 11 11

sity, Kasai, from March 2004 to July 2004. to 2004 July March from Kasai, sity,

1

2 10 1

18 4 4 26

1 1 2226 12

111

11 13 1 25 3 47 3 15 8 71 2 9 64 12 35 13 23 5 20 49 20 14 20 458 10 6 16

335 1 12

11 1 221 21 2225252 1 4 1 3 11 1 10 1 1 1 1 6 26 1 4 11 1 9 1 53 28 1 23 1411 1

A-1 A-2 A-3 A-4 A-5 A-6 A-7 A-8 A-9 A-10 A-11 B-1 B-2 B-3 B-4 B-5 B-6 B-7 B-8 B-9 B-10 B-11 C-1 C-2 C-3 total

total 103 29 13 55 5 3 47 7 25 9 91 53 3 12 76 12 37 13 23 5 20 72 20 14 20 767

Table 3-1. Number of ground beetles caught in pitfall traps 3-1.Table ground of at Number pitfall the caught beetles Food in Resources Education Reaserch and Center Kobe of Univer Scarites acutidens Scarites Synuchus arcuaticollis Synuchus Amara chalsites Amara Synuchus cycloderus Synuchus dulcigradus Synuchus nitidus Synuchus ephippiatus Trechus lewisii Trigonotoma Amara congrua Amara macronota Amara punctatipennis Anisodactylus Anisodactylus sadoensis Anisodactylus Carabus yaconinus Chlaenius abstersus Chlaenius micans Chlaenius Harpalus chalcentus Harpalus griceus Harpalus sinicus sinicus Harpalus tinctulus Harpalus tridens Harpalus Chlaenius sericimicans virgulifer Chlaenius halensis Dolichus Chlaenius naeviger Chlaenius pallipes Chlaenius Lestichus magnus Lestichus chalcoms Platynus magnus Platynus hapteroides Pterostichus longiguus Pterostichus microcephalus Pterostichus planicoiis Pterostichus sulcitarsis Pterostichus 1 2 3 4 5 6 7 8 9 28 29 30 31 32 33 14 15 16 17 18 11 12 13 10 19 20 21 22 23 24 25 26 27

- 26 -

6 1 1 1 1 26 14 29 12

11 2005 y

22 4

, Kasai, from October 2004 to 2004 October Januar from , Kasai, y

111 1 3 14

1 1

222612 1 1 51719427 11 4 8 6 20 38 18 3 3971 29 3 1 14 1 5 43 96

15 ht in pitfall traps at pitfall theht in Food Resources Education and Reaserch Center of Kobe Universit g 11 1 591 1 1 20 731 14 13 1 21 33114 2 1 2 1 1 13 13 2 1 10 38 1 80 126 161136 2122362 657429 1 1 7 14 1 1 29 A-1 A-2 A-3 A-4 A-5 A-6 A-7 A-8 A-9 A-10 A-11 B-1 B-2 B-3 B-4 B-5 B-6 B-7 B-8 B-9 B-10 B-11 C-1 C-2 C-3 Total round cau beetles g

Total 14 26 36 68 0 0 17 1 29 1 44 45 12 52 1 0 0 29 19 0 0 95 9 2 1 501 Number of Number

Table 3-2. Table Dolichus halensis Dolichus eous Harpalus chalcentus Harpalus Chlaenius virgulifer griceus Harpalus Chlaenius pallipes Chlaenius sinicus sinicus Harpalus Chlaenius micans Chlaenius Amara congrua Amara macronota Amara Campalita chinense Harpalus tridens Harpalus Platynus magnus Platynus puncticeps Platynus hapteroides Pterostichus Pterostichus longiguus Pterostichus microcephalus Pterostichus sulcitarsis Pterostichus Synuchus arcuaticollis Synuchus Synuchus cycloderus Synuchus Synuchus dulcigradus Synuchus Synuchus nitidus Synuchus 7 8 9 6 5 4 1 2 3 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22

- 27 -

1 2 7 1 4 4 1 1 1 3 1 2 19 15 20 66 52 30

12

2005.

y

2226 1 , Kasai, from March 2004 to Januar 2004 March from , Kasai,

y

1

111 14 1

11 38 18 3 3971 29 3 1 14 1 5 43 96

115 38517191145

11 1 1 691 1 21 22141 26 1 4 11 113 9 9 1 1 14 1 1 53 1 40 s at the Food ResourcesEducation Reaserch Center and of Universit Kobe p b d e g h l184426 j10 6 16 i2 2 2222618 t21224 82 16 1139 r 831 15 13 1 23 f1 s281 23 e2 1 z3 1 1 1 6 c 1 11413 2 112 38 1 83 d h n q y k v141 a1011 11 6 o 8 28 13 6 3 5 1 2 g 25 3 47 3 15 8 71 2 9 64 12 35 13 23 5 20 49 20 14 20 458 b p u1 3 ii 1 x1 jj 1 ff 1 1 4 8 17 31 w6574 7 1 m e cc 2 a111 aa11 h d g b Code A-1 A-2 A-3 A-4 A-5 A-6 A-7 A-8 A-9 A-10 A-11 B-1 B-2 B-3 B-4 B-5 B-6 B-7 B-8 B-9 B-10 B-11 C-1 C-2 C-3 Total

itfall tra p ht in

g

ホシボシゴミムシ コガシラナガゴミムシ

トックリナガゴミムシ ウスアカゴモクムシ オオホシボシゴミムシ ムナビロアオゴミムシ アシミゾナガゴミムシ コホソナガゴミムシ マルガタツヤヒラタゴミムシ round cau beetles ヒメツヤヒラタゴミムシ Total 117 55 49 123 5 3 64 8 54 10 135 98 15 64 77 12 37 42 42 5 20 167 29 16 21 1268

g クロツヤヒラタゴミムシ エゾカタビロオサムシ ヒラタキイロチビゴミムシ アカガネアオゴミムシ アトワアオゴミムシ ルイスナガゴミムシ フタホシスジバネゴミムシ キンナガゴミムシ

アトボシアオゴミムシ ヤコンオサムシ

ツヤアオゴモクムシ アオゴミムシ アカアシマルガタゴミムシ アオグロヒラタゴミムシ

ナガマルガタゴミムシ ナガヒョウタンゴミムシ セアカヒラタゴミムシ オオゴミムシ ケウスゴモクムシ オオヒラタゴミムシ コゴモクムシ

マルガタゴミムシ オオアトボシアオゴミムシ

ニセマルガタゴミムシ

r オオズケゴモクムシ r オオクロツヤヒラタゴミムシ

umber of of umber N

olichus halensis olichus arpalus chalcentus arpalus eous arpalus griceus sinicus sinicus arpalus arpalus tinctulus arpalus tridens latynus puncticeps terostichus hapteroides terostichus longiguus terostichus microcephalus terostichus planicollis sulcitarsisterostichus estichus magnus Table 3-3. Table Synuchus arcuaticollis Trechus ephippiatus Synuchus cycloderus Synuchus nitidus Chlaenius micans Anisodactylus sadoensis Amara macronota Synuchus dulcigradus Amara chalsites Amara Chlaenius virgulife Chlaenius Platynus chalcoms Chlaenius sericimicans Platynus magnus Trigonotoma lewisii Trigonotoma Chlaenius pallipes Chlaenius Amara congrua Amara Chlaenius naevige Chlaenius abstersus Carabus yaconinus Carabus Campalita chinense chinense Campalita Scarites acutidens D H H H H H H L P P P P P P Anisodactylus punctatipennis 9 5 3 1 2 8 7 6 4 14 17 31 35 32 34 18 26 15 33 29 28 13 22 12 23 36 21 27 19 25 11 10 16 30 20 24

- 28 -

Table 3-4. Ten most dominant carabid species collected in pitfall traps in 2004-2005.

Species No. of Proportion to Species No. of plots (ranked by totals) individuals the total (%) (Ranked by occurrence)

1 Carabus yaconinus ヤコンオサムシ 458 36.12 1 Carabus yaconinus 20 2 Synuchus dulcigradus ヒメツヤヒラタゴミムシ 96 7.57 2 Harpalus tridens 10 3 Amara macronota ナガマルガタゴミムシ 83 6.55 3 Amara macronota 9 4 Synuchus nitidus オオクロツヤヒラタゴミムシ 71 5.60 3 Synuchus arcuaticollis 9 5 Harpalus chalcentus ツヤアオゴモクムシ 66 5.21 5 Harpalus chalcentus 8 6 Anisodactylus punctatipennis ホシボシゴミムシ 53 4.18 5 Harpalus griceus ケウスゴモクムシ 8 7 Harpalus tinctulus アカアシマルガタゴミムシ 52 4.10 5 Harpalus sinicus sinicus ウスアカゴモクムシ 8 8 Synuchus arcuaticollis マルガタツヤヒラタゴミムシ 45 3.55 5 Synuchus dulcigradus 8 9 Pterostichus hapteroides トックリナガゴミムシ 40 3.16 9 Anisodactylus punctatipennis 7 10 Harpalus tridens コゴモクムシ 39 3.08 9 Chlaenius micans オオアトボシアオゴミムシ 7 9 Pterostichus hapteroides 7

± Table 3-5. Comparison of the mean number ( SD) of species per trap and individuals per trap in each area. Different letters indicate significant differences (Mann-Whitney U-test with Bonferroni correction, p < 0.05). Number of Number of Area species / trap individuals / trap

Paddy field (A-1~3, B-1~3) 11.0 ± 4.2 a 66.3 ± 36.4 a Bamboo edge (A-4, B-4) 12.5 ± 10.6 ab 100.0 ± 32.5 a

Bamboo thicket (A-5~6, B-5~6) 1.3 ± 0.5 c 14.3 ± 15.6 b

Orchard (A-8~9, B-8~9, C-2~3) 4.8 ± 4.7 c 24.3 ± 19.6 b Woodland (A-7,11, B-7,11, C-1) 7.6±2.07 b 83.4±65.7 a

- 29 - 4.各プロットにおける土壌水分、草高、樹林地からの距離

土壌水分率および最高草高は、いずれも季節間(4 月,6 月,9 月)の相関が高かった(Table

3-6)。Table 3-7 に各プロットの平均土壌水分率(%)、草本の最高草高の平均値、および林

縁からの距離を示した。土壌水分率は水田エリアが最も高く、次に樹林地のエッジが続い

た。果樹園は最も土壌水分率が少なかった。単子葉類最高点が高いプロットでは双子葉類

の最高草高も高く、それぞれの最高草高の間には強い相関関係があった(τ= 0.759, n = 25)

ので、両者を含めた最高草高を各プロットの草高とした。樹林地のエッジは最も草高が高

かった。水田は定期的に雑草の刈り取りが行われており、草高は低かった。なお、各環境

因子間に相関は見られなかった(Table 3-8)。

Table 3-6. Kendall’s rank correlation coefficient of stand variables (τ) between months (n=25).

April June

0.936** - June ** 0.643 - 0.924** 0.980** September 0.885** 0.904** The upper is soil moisture and the lower is weed height. ** p < 0.01

- 30 -

Table 3-7. Mean soil moisture, mean weed height (±SD, n = 3 seasons), and distance from woodland edge at each plot.

Plot Soil moisture (%) Weed height (cm) Distance from woodland edge (m)

A-1 17.2 ± 3.35 6.0 ± 2.83 250 A-2 15.8 ± 1.01 10.5 ± 5.66 140 A-3 18.1 ± 2.46 17.5 ± 3.33 40 A-4 13.6 ± 0.21 48.0 ± 11.31 0 A-5 10.9 ± 0.90 10.1 ± 2.11 -30 A-6 10.8 ± 0.93 9.0 ± 1.78 -50 A-7 12.0 ± 0.11 66.2 ± 34.98 -10 A-8 9.5 ± 0.28 40.0 ± 4.24 30

A-9 9.9 ± 0.35 17.2 ± 1.41 80 A-10 9.3 ± 0.28 15.4 ± 2.83 0 A-11 12 .0 ± 0.28 81.1 ± 48.08 -10

B-1 13.1 ± 0.30 7.0 ± 2.78 250 B-2 9.0 ± 1.63 13.9 ± 4.24 140 B-3 11.1 ± 0.26 37.5 ± 10.61 40

B-4 12.3 ± 0.92 70.5 ± 28.99 0 B-5 1.2 ± 0.01 13.2 ± 2.13 -30 B-6 10.4 ± 0.65 11.7 ± 2.99 -50 B-7 12.5 ± 0.43 30.4 ± 5.22 -10 B-8 7.7 ± 0.92 26.0 ± 5.66 30 B-9 9.0 ± 0.28 8.8 ± 4.6 80 B-10 8.6 ± 1.13 17.3 ± 1.06 0 B-11 13.0 ± 0.35 34.5 ± 6.36 -10

C-1 6.1 ± 0.36 31.4 ± 5.66 -10 C-2 10.5 ± 0.81 24.7 ± 9.90 80 C-3 8.2 ± 0.46 31.5 ± 4.60 30

- 31 - 5.環境因子がゴミムシ類の種組成に与える影響

5.1 環境因子とゴミムシ類の種数および総個体数との相関

順位相関分析の結果、土壌水分率は、ゴミムシ類の種数および総個体数とそれぞれ強い

正の相関があった(Table 3-8)。草高と、ゴミムシ類の種数および総個体数の間の正の相関

は有意ではなかった。森林からの距離は、ゴミムシ類の種数と正の相関があった。なお、3

つの環境因子間に相関は見られなかった。

5.2 環境因子と各種ゴミムシ類の個体数との相関

土壌水分率は、ゴモクムシ類、マルガタゴミムシ類、ナガゴミムシ類に属する多くの種

の捕獲数と正の相関が見られた(Table 3-9)。また、ゴモクムシ類およびマルガタゴミムシ

類に属する大部分の種は、土壌水分率および樹林地からの距離と正の相関が強かった。草

高と強い相関がある種は少なかったが、ヤコンオサムシの他、アオゴミムシ類の 3 種(ム

ナビロアオゴミムシ、アトボシアオゴミムシ、オオアトボシアオゴミムシ)について正の

相関が認められた。樹林地からの距離については、種によって正の相関と負の相関が認め

られた。ヤコンオサムシの捕獲数は草高と正の相関があり、樹林地からの距離と負の相関

が強かったが、土壌水分率との間に相関は見られなかった(Fig. 3-2)。

5.3 正準対応分析(CCA)の結果

プロットおよび種のデータから導き出されるスコアと各環境因子との相関の寄与率は、

第 1 軸、第 2 軸、第 3 軸についてそれぞれ 0.562、0.639、0.245(土壌水分率)、-0.323、 0.413、

-0.643(草高)、0.861、-0.260、0.001(樹林地からの距離)であった。正準対応分析の結果、

各プロットは幾つかのグループに分類された(Fig. 3-3, 3-4)。第 1 軸は樹林地からの距離

の寄与度が大きく、水田プロット(A-1, A-2, A-3, B-1, B-2)と、樹林地 (A-7, A-11, B-7, B-11)、

竹林プロット(A-5, A-6, B-5, B-6)は第 1 軸に沿って対称的に位置づけられた。第 2 軸は

土壌水分の寄与度が大きく、第 2 軸に沿って、樹林地、竹林、果樹園の順に並んだ。樹林

地と竹林は比較的近くにまとまり、水田プロットは広範囲に位置づけられた。第 3 軸は草

- 32 - 高の寄与度が大きく、水田プロットと竹林プロットが第 3 軸に沿って対象的に位置づけら

れた。樹林地プロットは水田プロットと竹林プロットの間に位置づけられた(Fig.3-4)。

各ゴミムシ種はそれぞれ個別に位置づけられたが、グループによって特異な環境因子と

の関連も見出された。例えば、Harpalus 属(ゴモクムシ類、o ~ t )や Amara 属(マルガ

タゴミムシ類、a ~ c )は 第 1 軸の左側に位置し、土壌水分および樹林地からの距離に強い

影響を受けていた(Fig.3-3)。一方、ヤコンオサムシ(g)や Chlaenius 属(アオゴミムシ

類、h ~ m )の多くは第 1 軸および 3 軸の値が大きく、樹林地からの距離と草高の影響を

強く受けていた。

Table 3-8. Kendall’s rank correlation coefficient (τ) between stand variables (n=25). Total species Total individuals Soil moisture Weed height Total individuals 0.766** -

Soil moisture 0.516** 0.403** -

Weed height 0.204 0.237 -0.009 -

Distance from woodland edge 0.325** 0.140 0.206 0.172

, * p < 0.05 ** p < 0.01

- 33 -

Table 3-9. The Kendall rank correlation between carabid abundance (number of individuals) and stand variables (n = 25).

Soil moisture Weed height Distance from woodland edge τ p τ p τ p Harpalinae ゴモクムシ類 0.336 0.025 0.051 0.738 0.547 0.000 Zabrinae マルガタゴミムシ類 0.458 0.004 0.126 0.425 0.405 0.013 Pterosthichinae ナガゴミムシ類 0.604 0.000 0.033 0.827 0.095 0.541 Callistinae アオゴミムシ類 0.091 0.562 0.490 0.002 -0.096 0.559 Amara chalsites マルガタゴミムシ 0.370 0.025 -0.079 0.636 0.546 0.001 A. congrua ニセマルガタゴミムシ 0.141 0.396 -0.019 0.912 0.398 0.021 A. macronota ナガマルガタゴミムシ 0.513 0.001 0.111 0.492 0.321 0.053 Anisodactylus punctatipennis ホシボシゴミムシ 0.622 0.000 0.127 0.439 0.282 0.093 Carabus yaconinus ヤコンオサムシ -0.120 0.411 0.321 0.028 -0.365 0.015 Chlaenius pallipes アオゴミムシ 0.085 0.616 -0.093 0.586 -0.037 0.833 C. sericimicans ムナビロアオゴミムシ 0.203 0.226 0.439 0.010 -0.206 0.239 C. naeviger アトボシアオゴミムシ 0.245 0.147 0.349 0.040 -0.053 0.762 C. micans オオアトボシアオゴミムシ -0.131 0.435 0.300 0.076 -0.095 0.585 C. virgulifer アトワアオゴミムシ -0.063 0.711 0.217 0.207 0.158 0.370 Dolichus halensis セアカヒラタゴミムシ 0.126 0.453 0.142 0.403 0.117 0.501 Harpalus chalcentus ツヤアオゴモクムシ 0.479 0.003 0.018 0.909 0.539 0.001 H. griceus ケウスゴモクムシ 0.118 0.473 -0.010 0.954 0.332 0.053 H. sinicus sinicus ウスアカゴモクムシ 0.235 0.147 0.079 0.628 0.512 0.002 H. tinctulus アカアシマルガタゴミムシ 0.411 0.014 -0.218 0.195 0.488 0.005 H. tridens コゴモクムシ 0.148 0.352 0.064 0.689 0.342 0.039 Platynus chalcoms アオグロヒラタゴミムシ 0.380 0.024 -0.077 0.652 0.291 0.096 P. magnus オオヒラタゴミムシ 0.573 0.000 0.031 0.850 0.460 0.006 Pterostichus hapteroides トックリナガゴミムシ 0.307 0.061 0.015 0.929 0.525 0.002 P. longiguus コホソナガゴミムシ 0.304 0.070 -0.069 0.684 0.324 0.063 P. microcephalus コガシラナガゴミムシ 0.315 0.064 -0.013 0.941 0.376 0.033 Synuchus arcuaticollis マルガタツヤヒラタゴミムシ 0.453 0.005 0.096 0.551 -0.322 0.052 S. cycloderus クロツヤヒラタゴミムシ 0.332 0.043 0.067 0.686 -0.313 0.067 S. dulcigradus ヒメツヤヒラタゴミムシ 0.321 0.047 0.140 0.388 -0.260 0.119 S. nitidus オオクロツヤヒラタゴミムシ 0.310 0.059 0.078 0.637 -0.313 0.067 Numbers in bold indicate significant (p < 0.05).

- 34 -

80

70 n = 25 τ = - 0.120 60 p = 0.411 50

40

30 No. individuals 20

10 0

0 5 10 15 20 Soil moisture (%)

80

70

60

50 n = 25 40 τ = 0.321 p = 0.028 30

No. individuals 20

10

0 0 20406080100

Weed height (cm)

80

70 n = 25 60 τ = - 0.365 p = 0.015 50

40

30 No. individuals 20

10 0 -100 0 100 200 300

Distance from woodland edge (m)

Fig. 3-2. Relationship between the number of Carabus yaconinus and stand variables.

- 35 - Plots B-5

2

OR B-2 PA C-1 B-8 B-9 C-3 B-10 Axis 2 B-1 A-9 A-8 C-2 A-10 B-3 BA distance B-6 0 weed height A-5 A-7 A-6 A-1 B-4 B-7 A-11 A-2 B-11 soil moisture A-4 WO

A-3

-2 -1.0 0.0 1.0 -2.0 Axis 1

2 Species q bb dd m b t i u p

s aa k g a z r y distance n

0 weed height h x jj c d e v l hh Axis 2 w soil moisture ff ee gg o j f cc

-2

ii

-4 -2.5 -1.5 -0.5 0.5 Axis 1

Fig. 3-3. Canonical correspondence analysis (CCA) ordination of plots and carabid species. The length and direction of the arrow represents the strength and direction of the effect of the environmental variables on the ordination . Plot codes and species’ code are given in Table 3-3. Habitat abbreviations: PA, Paddy field; OR, Orchard; BA, Bamboo thicket; WO, Woodland.

- 36 - Plots A-11 B-4

0.5 weed height PA A-8 B-1 WO A-1 distance A-4 C-3 B-2C-2 B-3 C-1 Axis 3 soil moisture B-8 A-9 A-2 B-11 B-9 B-10 -0.5 A-3 A-10 B-5

A-7 A-5 B-7 A-6 B-6 BA

-1.5 -2.0 -1.0 0.0 1.0 Axis 1

Species l

2

j e

bb f h cc m s d aa weed height jj a y c v z q gg hh distance n 0 b u g w soil moisture t i dd o r ee Axis 3 ff

k

p

ii -2

x

-4 -1.5 -0.5 0.5 -2.5 Axis 1

Fig. 3-4. Canonical correspondence analysis (CCA) ordination of plots and carabid species. The length and direction of the arrow represents the strength and direction of the effect of the environmental variables on the ordination. Plot codes and species’ code are given in Table 3-3. Habitat abbreviations: PA, Paddy field; OR, Orchard; BA, Bamboo thicket; WO, Woodland.

- 37 - 6.考察

本研究によって、小スケールのモザイク植生からなる農地景観においても、植生タイプ

によってゴミムシ類の種組成が大きく異なることが明らかになった。2003 年度(第 2 章)

は、各植生域の中心部にトラップを設置したが、2004 年度(本章)は多地点にトラップを

配置し、植生によって異なる種組成の特性を確かめた。2004 年度に最も多く捕獲された種

は、2003 年と同様、ヤコンオサムシであった。ヤコンオサムシは、全 25 プロットのうち

の約 80%にあたる 20 プロットで確認されており、幅広い環境選好性を持つことが示され

た。ヤコンオサムシは、従来から樹林地に多いことが示唆されていたが(Yahiro et al., 2001)、

本研究においても樹林地からの距離に応じて個体数が減少することから、樹林地環境に強

く依存していることが明らかになった。また、高い草高にも依存していることから、水田

の畦畔のような裸地的な環境には好んで進出しないのだろう。

本調査で捕獲された Harpalus 属(ゴモクムシ類)と Amara 属(マルガタゴミムシ類)

の全 9 種のうち 5 種が、出現ランクの 8 位以内に入っていた(Table 3-4)。Harpalus 属や

Amara 属は、肉食が一般的な他のゴミムシ類とは異なり、種子食を含む雑食性であること

がこれまでの室内実験で示されているが(Lund & Turpin, 1977; Harrison & Regnier, 2003)、

こういった食性の幅広さが、環境の選好性の広さに繋がっている可能性が示唆された。ま

た、Harpalus 属や Amara 属は多くの種が樹林地環境に依存していないことから、景観内で

の樹林地減少の影響を受けにくいことが予想される。

Chlaenius 属(アオゴミムシ類)は、餌である昆虫(主に鱗翅目)幼虫への高い依存性が

あるだけでなく、幼虫は植物体へよく登ることから、ゴミムシ類の中でも特に天敵として

の機能が大きいゴミムシ類と考えられる(井上,1952; 田中和, 1956; 田中康, 1990; Suenaga

& Hamamura, 2001)。本研究において、Chlaenius 属は全体的として水田域には少なく、樹

林地のエッジ、いわゆる林縁に多いことが分かった。Chlaenius 属は、産卵時にマッドセル

という泥壺を作製し、その中に産卵することが知られており、そのためにマッドセルを作

るために適した土質条件が必要であることと示唆されている(田中,1956; Thiele, 1977)。

今回捕獲したゴミムシ類の平均出現数は、全種平均で 4.78 プロット(Pterosthichus 属(ナ

- 38 - ガゴミムシ類)4.36、Harpalus 属 6.00、Amara 属 6.33)であったが、Chlaenius 属のそれは

3.50 プロットと、全種平均より低かった。同じ肉食性の Pterosthichus 属より Chlaenius 属

の平均出現数が少ないことから、ゴミムシ類の中でも Chlaenius 属はより狭い環境選好性

を持つことが明らかであり、その理由のひとつとして草高の状態が考えられる。順位相関

係数および正準対応分析(CCA)のいずれの解析結果からも、アトボシアオゴミムシおよ

びムナビロアオゴミムシは、高い草高に強く依存することが判明したが、こういった種は

Harpalus 属や Amara 属では見られず、Chlaenius 属に特有の特徴と考えられる。Chlaenius

属の中で唯一、出現プロット数で上位 10 種に入ったオオアトボシアオゴミムシは、あらゆ

る環境に対応できる可能性がある。この種は、西日本の農地に個体数が多く、キャベツ害

虫の天敵として大いに期待されている注目種である(Suenaga & Hamamura, 2001)。過去の

ゴミムシ類の捕獲調査においても、ブドウ園、牧草地、水田いずれの調査区でもオオアト

ボシアオゴミムシは優占種として記録されており、Chlaenius 属の中でも際立って生息域が

広いことがわかっている(Yano et al., 1989; Ishitani et al., 1994)。本研究の環境要因分析結

果によると、オオアトボシアオゴミムシは土壌水分、草高、樹林地からの距離いずれの環

境要因にも大きな影響を受けないことが判明した(Table 3-9, Fig. 3-2)。アトワアオゴミムシ

は、今回捕獲された Chlaenius 属の中で唯一水田にも多く、樹林地環境に依存しないオー

プンランド種であることが判明した(Table 3-9, Fig. 3-2)。李ら(2008)は、アトワアオゴ

ミムシが水田畦畔の普通種であると報告しており、本研究と一致している。Chlaenius 属は、

ゴミムシ類の中でも天敵としての働きが特に大きいとされているが、特にオオアトボシア

オゴミムシは広範な環境で天敵として機能しうることが明らかになった。

水田と竹林の境界、つまり竹林の林縁では、非常に多くのゴミムシ類が捕獲された(Table

3-3)。林縁で捕獲された種数と個体数は、隣接するいずれの植生(水田と竹林)よりも多

く、エッジの効果が明らかであった。一般的に、樹林地とオープンランドの間の境界であ

る林縁は植生の移行帯(ecotone)を形成するため、植物相や動物相が豊かであると言われ

ている(Lewis, 1969; Fagan et al., 1999; Holland et al., 2000)。多くのゴミムシ類が林縁部に

生息するという報告があり(Kotze & Samways, 1999; Hori, 2001; Ewers et al., 2008)、本研究

の結果もこれを支持した。

- 39 - 小さな調査プロットを単位とした相関分析の結果、土壌水分はゴミムシ類の種数および

捕獲数に強い影響を与えることが分かり、土壌水分が多い場所にはゴミムシ類の種数も個

体数も多いことが明らかになった(Table 3-8)。これまでにも、ゴミムシ類は適度な湿度を

好むという報告がいくつかあり(Luff, 1987; Matlack, 1993; Chen et al., 1995)、本研究にお

いても、ゴミムシ類は湿潤な環境を好むものが多いことが明らかになった。また、ゴミム

シ類は種ごとに環境選好性が大きく異なることが示唆されていたが(Thile, 1977; Luff,

1987)、Harpalus 属や Pterosthichus 属では、種によって環境選好性が大きく異なることが

明らかになった(Table 3-9)。Harpalus 属は草高の影響をあまり受けず、樹林地から離れる

ほど増加する傾向が明らかになったが、本属が平地に多いという従来の報告(石谷 1996,

1998)を裏付ける結果である。Chlaenius 属は一般に林縁に多く、草高に影響を強く受ける

種が多いことが明らかになった。ヤコンオサムシは樹林地からの距離と草高の両方の影響

をうけ、特に草高の影響を強く受けることが明らかになった。このことは、樹林地から高

い草高のある通路(植生帯)を延ばせば、農地内により効果的に誘い込むことが可能であ

ることを示唆している。

正準対応分析の結果、ゴミムシ類の種組成は、果樹園、水田、樹林地および竹林といっ

た植生域に明瞭に特徴づけられ、小スケールであっても植生の違いに依存していることが

確認された。またエッジは各植生域の中間に位置することから、隣接する植生域の移行帯

としての性格を持つことが明らかになった。一方で竹林は、捕獲されたゴミムシ類の種数

や個体数が極端に少なく、しかもそこにだけ依存する種も見られないことから、農地景観

全体の種の豊富さの維持には貢献していないと考えられる。

湿度や土壌水分がゴミムシ類の環境選好性に大きく関わっていることは、これまでにも

しばしば指摘されてきた(Petit et al., 1998; Fahy & Gormally, 1998; Ings et al., 1999; Holland,

2004)。例えば、Thiele(1977)は、砂質土壌の畑地よりも粘土質土壌の畑地の方が土壌水

分保持力が高く、ゴミムシ類の個体数が圧倒的に多いことを明らかにしている。土壌水分

の影響を強く受ける Harpalus属や Amara 属は、比較的高い湿度条件を好むのだろう。また、

土壌水分は湿度だけでなく、その地点の雑草の生え具合や温度にも影響を及ぼすと考えら

れ、ゴミムシ類にとって最適な微小気候(温度,湿度,明るさ)が形成されやすいと考え

- 40 - られる。このように、土壌水分が多い場所にゴミムシ類の個体数が多い理由として、植生

を通した間接効果も十分考えられる。だが、本研究では土壌水分と草高の間に相関関係は

見出せなかったためその点は不明であり、今後の課題である。本研究では、Chlaenius 属の

個体数と土壌水分との間に強い相関はみられなかったが、産卵時に泥でマッドセルを作成

する本属が土壌水分と無関係とは考えにくい。例えば、アオゴミムシ(Chlaenius pallipes)

は、降雨の後に出現するマッドセル作成に適した水分量を含む土壌を利用して産卵するこ

とが示唆されている(石川,2009)。こうしたことから、本属は常に湿潤な環境を好むわけ

ではなく、一時的な降雨あるいは河川の氾濫等を利用して産卵している可能性がある。

林縁のような草高の高い場所では、植物相や動物相が豊かであるため(Lewis, 1969; Fagan et al., 1999; Holland et al., 2000)、ゴミムシ類の餌となりうる植食性昆虫も多い。Chlaenius

属は草高と強い相関がみられたが Chlaenius 属は肉食性であり、かつその幼虫は植物体に

よく登って捕食することから、草高のある環境を好むのかもしれない。また、同じく草高

と強い相関が見られるヤコンオサムシは、体長が非常に大きく見つかりやすいため、天敵

から逃れやすいよう草高のある環境を好む可能性が考えられる。従って、草高のある環境

は、天敵回避の点で優れており、また肉食傾向が強く葉上に登るゴミムシ類に好まれる環

境であると考えられる。

森林からの距離は、そこに生息するゴミムシ類の種組成に大きな影響を与えることを明

らかにした。Harpalus 属や Amara 属は、樹林地から距離の影響を全く受けないことから樹

林地環境に依存しないことが明らかである。樹林地に依存しない種は、雑草の多いオープ

ンランド種と考えられるので、雑食性の Harpalus 属や Amara 属が多い理由は説明がつく。

樹林地に依存しているヤコンオサムシのような種は、森林あるいは林縁に生息の拠点をも

つのだろう。オープンランドを好む種がある一方で、ヤコンオサムシが樹林地を生息の拠

点とするのはなぜだろうか?樹林地環境がヤコンオサムシ個体群の維持に必須であるのは

間違いなく、その理由については第 4 章において明らかにする。

ゴミムシ類は多様な環境選好性を持つことが示唆されていたが、近縁な種間でもときに

大きく異なることが明らかになった。モザイク状の農地景観には、いくつかの環境要因の

勾配が存在し、それに対応した数多くのゴミムシ類が存在することから、農地景観全体と

- 41 - しての種の豊富さが維持されているものと考えられる。

- 42 - 7.要約

小スケールの農地景観であっても、異なる植生によってゴミムシ類の種組成は大きく異

なることが明らかになった。ゴミムシ類の環境選好に影響をもたらす環境要因を解明する

ために、本研究では、水田、竹林、果樹園、樹林地を横断するようにトランセクトを設定

し、トランセクト上に 25 ヶ所のプロットを設定した。各プロットでゴミムシ類を通年捕獲

するとともに、土壌水分と草高を同時に計測した。また、各プロットで得られたゴミムシ

類の種組成データの環境要因に基づいて、正準対応分析(Canonical correspondence Analysis、

CCA)による座標付け分析を行った。2004 年 3 月から 2005 年 1 月に、ピットフォールト

ラップで捕獲されたゴミムシ類は 1 科 36 種 1235 個体に達し、種構成はそれぞれの植生に

よって大きく異なった。最も多く捕獲されたゴミムシは、ヤコンオサムシであり、全 25

プロットのうちの約 80%にあたる 20 プロットで確認され、幅広い環境選好性を持つこと

が示された。ゴモクムシ類やマルガタゴミムシ類は、いずれの種も多くのポイントで出現

しており、環境の選好性の幅が広いことが分かった。捕食性天敵として有望視されている

アオゴミムシ類は出現プロットが少ないことから、適した生息条件が狭い可能性が示唆さ

れた。土壌水分は、ゴミムシ類の種数および個体数と大きな正の相関があり、湿度が高い

環境を好むゴミムシ類が多いことを明らかにした。植生の境界であるエッジには、ゴミム

シ類の種や個体数が極めて豊富であった。従来、その理由として植生の豊富さが考えられ

てきたが、土壌水分と草高が影響していることを明らかにした。正準対応分析の結果、ゴ

ミムシ類の種組成は、果樹園、水田、樹林地および竹林といった植生域に明瞭に特徴づけ

られ、小スケールであっても植生の違いに依存していることが再確認された。またエッジ

は各植生域の中間に位置することから、隣接する植生域の移行帯としての性格を持つこと

が明らかになった。ゴミムシ類の環境選好性には、湿度が大きく関わっていることがこれ

までにも示唆されていたが、本研究により土壌水分の増加によって、多くのゴミムシ類の

種数や個体数が増加することが明らかになった。また土壌水分と森林からの距離は、そこ

に生息するゴミムシ類の種組成にも大きな影響を与えることを明らかにした。ゴミムシ類

は多様な環境選好性を持つことが示唆されていたが、近縁な種間でもときに大きく異なる

- 43 - ことが明らかになった。モザイク状の農地景観には、いくつかの環境要因の勾配が存在し、

それに対応した数多くのゴミムシ類が存在することから、農地景観全体としての種の豊富

さが維持されているものと考えられる。

- 44 - 第 4 章 樹林地に隣接した農地環境における ヤコンオサムシ個体群の空間構造と動態

1. 目的

前章まではゴミムシ類全体の群集構造と分布を解析し、農地景観全体での種の多様性の

保全について考察してきた。本章では、里山の異質な植生構造(モザイク景観)に依存す

る天敵種の個体数が、どのように維持されているか理解するため、広い生息地選好性を持

ち、樹林地と農地を行き来する普通種であるヤコンオサムシ(Carabus yaconinus)に着目

して、空間的・時間的な個体群構造の動態と生息地利用の具体像を明らかにする。これま

でも特定の種のゴミムシに着目して空間構造やその動態を調べた例はあるが、多くは成虫

の分布や移動の調査にとどまり、幼虫の時空間動態や雌雄の生息地利用の違いにまで踏み

込んで明らかにした研究例はない(Landis et al., 2000; Lee et al., 2002; Altieri & Nicholls,

2004; Tscharntke et al., 2007)。天敵昆虫を保全的に活用するための農地景観デザインを行う

には、有用天敵の全発育ステージの空間的な生息地利用を理解する必要があるが、そうし

た研究は少ない(Collins et al., 1996; Thomas et al., 2000; Samways, 2005)。

そこで、本研究ではヤコンオサムシの主な生息地である林縁とその周辺に多数のトラッ

プを高密度に設置し、ヤコンオサムシ成虫の分布および幼虫の分布とその変化を詳しく調

べた。さらにオス成虫とメス成虫の移動行動を、標識再捕獲法(mark-recapture)によって

調査した。一連の調査によって得られたデータを解析し、(1)成虫と幼虫の空間的な生息

地利用の違い,(2)オス成虫とメス成虫の動きの違い,そして(3)ヤコンオサムシ個体群

を維持するために必要となる植生の空間配置について明らかにした。

- 45 - 2.材料及び方法

2.1 調査地

調査は神戸大学農学部付属食資源教育研究センターで、2005 年 4 月 13 日から 6 月 28 日

にかけて行った。Fig.4-1 に地図を示すように、果樹園から隣接する樹林地にかけて約 1ha

の調査地を設定した。

樹林地のエッジ(林縁)の下層はササが優占し、林冠層はコナラやクヌギが優占してい

た。樹林地内もエッジと同様、林冠層はコナラとクヌギが優占し、所々に竹が生えていた。

樹林地は、20~30 年ごとに伐採され更新されてきた典型的な里山林であり、調査時の林齢

はほぼ 20 年程度であった。果樹園には、主にナシ、ブドウ、クリが植樹され、果樹の根元

には落ち葉が堆積した状態になっていた。果樹園の雑草は定期的に刈り取られて草高は低

いが、果樹の周囲は常に雑草が繁茂していた。

2.2 調査地設計と標識再捕獲

ヤコンオサムシの成虫と幼虫の捕獲には、ピットフォールトラップを用いた。用いたプ

ラスチックコップの形状と設置の方法は、第 2 章の材料及び方法で記述したとおりである。

Fig. 4-1 に示すように、樹林地と果樹園の境界をはさんで、15m 間隔の格子状に 49 個のト

ラップを設置した。樹林地の林縁を基準として、それに平行な 7 本の縦ライン(vertical lines)

と、それらに直行する 7 本のライン(horizontal lines)を設定し、両ラインの交点に 1 器ず

つトラップを設置した。

各トラップに捕獲されたヤコンオサムシの成虫及び幼虫は、2005 年 4 月 13 日から 6 月

28 日にかけて 2~3 日に 1 回の間隔でチェックし、その数と性別(成虫のみ)を記録して

放飼した。なお捕獲した成虫のうちいくつかは、標識再捕獲調査に用いた。標識虫には、

ハンドドリル(No. 28600, PROXXON)を用いて、鞘翅に個体番号を彫った(Fig. 4-2)。リ

リースする際は、捕獲したトラップポイントと日付を記録し、再捕獲された場合は、その

トラップポイントとリリースから要した日数を記録した。4 月 13 日から 5 月 24 にかけて、

1 日あたりオスとメスを合わせて約 30 匹を標識し、再捕獲を繰り返した。

- 46 - 2.3 ミミズの生息密度調査

本種幼虫の餌資源であるフトミミズ類(Pheretima spp.)の密度調査を、樹林地のエッジ、

エッジから樹林地内に約 30m 入った場所、およびエッジから果樹園側に約 30m 入った場

所の 3 地点で、4 月から 6 月にかけて毎月 1 回ずつ行った。各調査地点には、6 ヶ所のポイ

ント(5m 間隔)を設け、各ポイントにおいて 1 辺が 1mの方形コドラートを作成し、その

方形内で土壌表面から深さ 5cm 以内に生息するフトミミズ類の個体数をカウントした。樹

林地内では土壌表層に落葉を多く含むため、落葉をすべて取り除いた状態の土壌表面から

深さ 5cm 以内に生息するミミズの個体数をカウントした。なお、落葉中にミミズが含まれ

る場合は、その個体数も加えた。採取されたフトミミズ類には、長さ約 1cm 程度の幼体か

ら長さ約 15cm に達する大型の成体まで体サイズに大きな幅があったが、ここでは大きさ

を考慮せず全て 1 個体として数のみをカウントした。

2.4 統計解析

各トラップで捕獲されたヤコンオサムシのオス成虫およびメス成虫の個体数は、それぞ

れ対数変換し、分散分析(ANOVA)を行った。縦ライン間および横ライン間の捕獲数の比

較には、繰り返しのない二元配置の分散分析(two-way ANOVA without replication)を行っ

た。また各ライン間の捕獲数の差異についてはシェッフェ法(Scheffé test)による多重比

較を行った。縦ライン間における成虫性比の 1:1 からの偏りについては二項検定を行った。

3 つの調査地(樹林地内,エッジ,果樹園内)の間および時期の違い(4 月,5 月,6 月)

によるミミズ密度の比較は、対数変換値による二元配置の分散分析(two-way ANOVA)に

よって行った。また調査地のミミズ捕獲数の差異については、シェッフェ法(Scheffé test)

による多重比較を行った。

標識再捕獲調査では、リリースポイントと再捕獲ポイントとの最短直線距離を再捕獲個

体の移動距離とみなした。再捕獲までの日数が 1-10 日の個体、11-30 日の個体、30 日以上

の個体の 3 つのグループに分け、各グループについてオス成虫とメス成虫の移動距離を

Mann-Whitney の U 検定によって比較した。また、オス成虫とメス成虫についてそれぞれ、

再捕獲までの日数と移動距離移動距離の間の順位相関係数(Kendall のτ)を算出した。す

- 47 - べての解析には、Windows 版 SPSS 11.0(SPSS Inc., Cary, NC, USA)を使用した。

woodland

pear +15m -15m vineyard -45m

chestnut

paddy field

+30m 0m -30m -60m

50m

Fig. 4-1. Coppice woodland–orchard boundary area. The lattice indicates the arrangement of pitfall traps; points of intersection indicate the location of traps. A line of seven pitfall traps (0-m line) was placed along the woodland edge, and other vertical trap lines were at distances parallel to this line. In total, 49 traps were placed in a grid of 15 x 15 m. A path approximately 3 m in width through the woodland is indicated by a broken line.

- 48 -

Fig. 4-2. A marked adult of Carabus yaconinus. The number on elytra was

sculptured with a hand-drill.

- 49 - 3.ヤコンオサムシの成虫と幼虫の発生消長

4 月から 6 月にかけて、オス成虫のべ 1022 匹、メス成虫のべ 1213 匹の合計 2235 匹の

成虫を捕獲した。成虫は、調査を開始した 4 月上旬から継続的に捕獲され、4 月下旬に捕

獲数のピークを迎えた(Fig. 4-3)。4 月下旬のピーク以降、徐々に捕獲数は減少し、6 月中

旬から下旬にかけて殆ど活動が見られなくなった。

全調査期間を通じて、95 匹の幼虫を捕獲した。最初の 1 匹目が捕獲されたのは、調査を

開始してから約 1 ヶ月後の 5 月 20 日であった。幼虫は 5 月中旬に、林内(エッジから 45m

内側)で初めて捕獲され、徐々にその数が増加し、6 月中旬にはピークを迎えた。5 月の幼

虫の初観測以降、幼虫が見られたのは、林内(エッジから 30m~60m 内側)に限られてい

たが、6 月半ばにエッジおよびその付近においても捕獲され始めた(Fig. 4-3)。

- 50 -

VerticalParallel lines lines -60m -45m -30m -15m 0m 250 25

200 20

150 15

100 10

Total numberadults of Number of larvae on each line 50 5

0 0 April May June

Fig. 4-3. Seasonal prevalence of Carabus yaconinus adult females (broken line), adult males (solid line), and larvae (shaded areas) and the distribution of larvae on vertical trap lines parallel to the woodland edge.

- 51 - 4.成虫と幼虫およびミミズの分布

4.1 成虫捕獲数のライン間比較

4 月から 6 月にかけて、オス成虫のべ 1022 匹、メス成虫のべ 1213 匹の合計 2235 匹の成

虫を捕獲した。エッジに平行なライン(vertical lines)では、オスとメスのどちらも捕獲数

がライン間で異なった。一方、エッジに垂直なライン間(Horizontal lines)では、オスとメ

スのどちらもライン間に捕獲数の差は見られなかった(Table 4-1)。オスとメスのいずれも、

0m ライン(樹林地と果樹園の境界)で最も捕獲数が多かった(Fig. 4-4)。オスとメスとも

に、樹林地内へ入るにつれて捕獲数は減少し、果樹園での捕獲数は樹林地に比べると少な

かった(Fig. 4-4,Table 4-2)。また、0m ライン、+15m ライン、+30m ラインにおいてはメ

スがオスよりも多く捕獲されており(Fig.4-4)、メスはオスよりも積極的に樹林から果樹園

へ積極的に進出していることが示唆された。

4.2 幼虫捕獲数のライン間比較

5 月から 6 月にかけて、95 匹の幼虫が捕獲された。エッジに平行なライン間(vertical lines)

で捕獲数は異なり(Table 4-1)、樹林地内の-30m ラインで最も多く捕獲された(Fig. 4-5)。

より林内に入った -45m ラインでも捕獲数が多かったが、さらに樹林地の中心に近い -60m

ラインでは大きく捕獲数が減った。

4.3 ミミズの分布

1㎡あたりのフトミミズ類の数(平均±SD)は、樹林地で 4.80±1.17、 エッジで 7.83±4.83、

果樹園で 29.80±8.73 であった。フトミミズ類の密度は、調査地点間(樹林地,エッジ,果樹

園)で異なっていたが、月間(4 月~6 月)では差がなかった(Table 4-3)。また、その密

度は、樹林地およびエッジに比べて果樹園で有意に多かったが(Scheffé test, p < 0.001)、

樹林地とエッジ間では差がなかった(Scheffé test, p = 0.576)。

- 52 -

120 100 males * 90 100 females 80 * % female 70 80 * 60

60 50

40 % females

40 * 30 (mean±SD) trap Adults / 20 20 10 0 0 -60m -45m -30m -15m 0m +15m +30m

Distance from woodland edge

Fig. 4-4. Distribution of Carabus yaconinus adults caught at each vertical trap line and the proportion of females. *P < 0.05 for significant difference from an equal sex ratio (1:1) using the binominal test.

7

6

5

4

3 2

Larvae / trap (mean±SD) 1

0

-60m -45m -30m -15m 0m +15m +30m Distance from woodland edge

Fig. 4-5. Distribution of Carabus yaconinus larvae caught at each vertical trap line.

- 53 - Table 4-1. The results of two-way ANOVA on the numbers of adult males, adult females, and larvae caught per trap.

Factors df Mean square F -value p -value

Males* Vertical line 6 3.371 65.162 <0.001 Horizontal line 6 0.143 2.754 0.056

Residuals 36 Females* < Vertical line 6 3.219 68.131 0.001 Horizontal line 6 0.090 1.903 0.107 Residuals 36 Larvae Vertical line 4 3.871 15.093 0.008

Horizontal line 4 0.084 1.233 0.325 Residuals 16 * Log-transformed number.

Table 4-2. P-values from Scheffé multiple comparisons of vertical trap lines for the numbers of adult males, adult females, and larvae caught per trap. Males* +15m 0m -15m -30m -45m -60m +30m 1.000 < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 +15m ー < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 0m ーー< 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001

-15m ーーー< 0.001 < 0.001 0.111 -30m ーーーー0.926 1.000 -45m ーーーーー0.172

+15m 0m -15m -30m -45m -60m Females* +30m 1.000 < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 +15m ー < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 0m ーー1.000 < 0.001 < 0.001 < 0.001

-15m ーーー< 0.001 < 0.001 < 0.001 -30m ーーーー1.000 1.000 -45m ーーーーー1.000

Larvae -15m -30m -45m -60m 0m 0.975 0.019 0.181 1.000 -15m ー 1.000 1.000 0.371 -30m ーー1.000 0.042

-45m ーーー0.057 * Log-transformed number.

- 54 -

Table 4-3. The results of two-way ANOVA on the log-transformed density of earthworms.

Factors df Mean square F -value p -value

Location 2 3.298 58.762 <0.001 Month 2 0.042 0.751 0.478 Location×Month 4 0.016 0.288 0.884 Residuals 45 0.056

- 55 - 5.樹林地と農地の境界付近における成虫の移動

オス成虫 221 匹、メス成虫 156 匹の計 377 匹を標識し、そのうち 61 匹のオス成虫、49

匹のメス成虫を再捕獲した。全体の再捕獲率は 29.2%(オス成虫 27.6%,メス成虫 31.4%)

であった。

リリースポイントから再捕獲ポイントまでの最短距離をオスとメスで比較すると、リリ

ースから 10 日未満ではメスの移動距離が有意に長かったが(Table 4-4)、リリースから 10

日以降ではオスとメスの移動距離に差はなかった。オスでは、リリースから日数を経るに

従って移動距離が増加したのに対し(Fig. 4-6A)、メスではリリース直後に移動距離が飽和

しており、メスがより活発に移動していることが示唆された(Fig. 4-6B)。メスの移動が数

日で飽和状態に達していることから、リリースから 10 日未満に再捕獲された個体について

最短の移動軌跡を図示した(Fig. 4-7)。オスの多くは、エッジおよびエッジから樹林地内

に少し入った 15m ラインに集中しており、エッジに沿って動いていた。一方、メスはオス

とは対照的に活発に動き、エッジから樹林地内を活発に動き回っていた。

- 56 - A 100 90 n = 51 80 τ = 0.560 70 p < 0.001 ) 60

50 40 Distance (m 30

20 10 0 0 102030405060 B 100 90 80

70 ) 60 n = 41 50 τ = 0.194

40 p = 0.091 Distance (m Distance 30 20 10 0

0 102030405060 Days from release to recapture

Fig. 4-6. Relationship between the number of days after release of Carabus yaconinus and the shortest distance of movement for (A) adult males and (B) adult females.

Table 4-4. Comparison of the shortest distance (m) of movement between males and females.

Shortest distance (mean ±SD) Days after release Significance 1) Male Female 1~10 10.2±11.0 (n=28) 28.4 ± 22.3 (n=19) U=140, p=0.004 11~30 27.3 ± 12.2 (n=16) 31.6 ± 22.0 (n=14) U=107, p=0.851

31~ 43.7 ± 23.3 (n=7) 55.4 ± 21.3 (n=8) U=18, p=0.274 1) Mann - Whitney U-test.

- 57 -

Woodland A -60m-45m-30m-15m+15m+30m edge

Woodland Orchard

interior

B

Orchard Woodland interior

Fig. 4-7. Shortest distance of movement of recaptured (A) males (n = 17) and (B) females (n = 14) within 10 days after release. Each point of intersection indicates a trap; the bold line indicates the woodland–orchard boundary. The points of release (●) and recapture (arrowhead) are indicated.

- 58 - 6.考察

天敵昆虫を保全しながら農業害虫を抑制する保全的生物防除(conservation biological control)では、農地に出現する土着天敵個体群の空間構造とその動態を理解することが重

要である(Landis., 2000)。本章では、農地と樹林地が混在したいわゆる里山と呼ばれる農

地景観に多産するヤコンオサムシの個体群構造を明らかにした。本研究では、成虫の分布

を解明するだけでなく、成虫と幼虫の生息地利用の違い、さらにはオス成虫とメス成虫の

動きの違いにも着目した。ヤコンオサムシの成虫はオスとメスともに林縁に多く、特にメ

スは隣接する果樹園にもよく進出していた。対照的に幼虫は樹林地内だけに生息し、成虫

とは全く異なる分布を示した。

ヤコンオサムシの幼虫は、樹林地の内部で孵化し、成長するに従って林縁付近にまで生

息域を広げていくが、隣接する果樹園には決して進出しなかった。Sota (2000)によると、

ヤコンオサムシの幼虫の主な餌資源はフトミミズ類である。フトミミズ類は果樹園に非常

に多く、その密度は隣接する樹林地の約 6 倍であったのに、幼虫が果樹園に全く見られな

いのは何故だろうか?ゴミムシ類の幼虫は成虫と異なり土に良く潜り、リターが多く柔ら

かい土壌を好むとされる(Thiele, 1977; Luff, 1987)。果樹園は、樹林地に比べるとリターが

少なく、粘土質の硬い土壌である。また、果樹園は落ち葉が少なく、体を隠しにくい点も、

幼虫が生息できない理由かもしれない。

農地景観のモザイク構造は、そこに生息する節足動物のアバンダンス、多様性、分散に

大きな影響を与える(Fry, 1995)。発育ステージによって生息場所が異なっていたり、性別

によって必要とする環境が異なっていたりする場合、その種の個体群維持のためには農地

景観内の異なる植生の空間的配置がより重要となる。林縁付近に留まるヤコンオサムシの

オス成虫とは対照的に、ヤコンオサムシのメス成虫は、樹林地内を広く動き回り、かつ隣

接する果樹園にもよく進出していた。調査期間の 4~6 月は、ちょうどヤコンオサムシの繁

殖期に当たる(Sota, 2000)。幼虫が樹林内に多いことから推察されるように、メス成虫は

おそらく産卵のために頻繁に樹林地内に移動しているのだろう。一方、繁殖期のメス成虫

の卵巣発育には高タンパクの餌が必要であるため、ミミズや昆虫の幼虫が豊富な果樹園に

- 59 - も進出する必要があると考えられる。Sota(1985c)は、ヤコンオサムシのメス成虫に、高

タンパク質の餌(牛ミンチ肉)を多く与えるほど、より多く産卵することを報告している。

また、筆者は果樹園の地表でヤガ科の幼虫を捕食している成虫をよく見かけた(未発表)。

メス成虫が、果樹園で多くの餌を得ているのは間違いないと思われる。メスとは対照的に、

オス成虫はそれほど大量の高タンパク餌を必要としないのではないだろうか。事実、クロ

ナガオサムシの室内実験では、植物質だけを与え続けたメス成虫は産卵できなかったが、

個体の生存にはオス成虫、メス成虫ともに全く問題がなかったという(Sota, 1984)。ヤコ

ンオサムシのオス成虫は、交尾のために林縁付近に留まり、そこでメス成虫を待ち伏せし

ているように思われる。林縁付近に留まっていれば、必ず林縁を通過するメスに出会える

ため、危険を冒してまで広範に移動する必要はないのかもしれない。

農地周辺の半自然植生から、捕食者や捕食寄生者が農地へ侵入することを明らかにした

研究例は多くないが、いくつか注目すべき報告がある(Topham & Beardsley, 1975; Wratten,

1987; Thies & Tscharntke, 1999)。ゴミムシの一種である Agonum dorsale は通常、エンドウ

畑周囲の雑草帯(weed edge)に生息し、餌を求めて畑内に侵入することが知られている

(Wratten, 1987)。Agonum dorsale は周囲の雑草帯で冬眠することから、こういった農地周

辺の植生が天敵個体群集の維持に不可欠である。ゴミムシ類以外では、アメリカのトウモ

ロコシ畑で寄生蜂の報告がある。ヒメバチ科の一種 Eriborus terebrans は、トウモロコシ畑

内に発生する鱗翅目幼虫 Operophtera nubilalis(シャクガの一種)を捕食寄生しており、ト

ウモロコシ畑に樹林地が隣接していた方が、E. terebrans による寄生率が高いことが明らか

になった(Landis & Haas, 1992)。樹林地環境が E. terebrans の個体群維持に重要なのは間違

いないが、トウモロコシ畑と樹林地を時間的・空間的にどのように利用しているのか、詳

しいことはまだ何も分かっていない。農地周辺の雑草帯や樹林地が、ゴミムシ類、地表徘

徊性クモ類、ハネカクシ類といった土着天敵の棲み処あるいは冬越し場所となっているこ

とはよく知られているが(Altieri & Nicholls, 2004)、それら天敵個体群の空間的構造につい

ての知見は少なく、今後の課題である。

土着天敵を保全的に利用するための適切な農地景観設計は、天敵個体群の空間的構造に

ついての具体的な知見があって始めて可能になる。本研究では、ヤコンオサムシの個体群

- 60 - 構造を調査することによって、オス成虫とメス成虫では動きが大きく異なり、主としてメ

ス成虫が樹林地からオープンランド(農地)に進出することが分かってきた。また、本種

の幼虫は林内だけに生息することから、ヤコンオサムシの個体群を農地景観内に維持する

ためには、ある程度の幅(少なくても 60m 前後)を持った樹林地を保全する必要のあるこ

とが明らかになった。

- 61 - 7.要約

天敵昆虫を保全利用するには、農地に出現する土着天敵個体群の空間構造とその動態を 理解することが重要である。特に、里山のモザイク景観に依存する天敵種の個体数がどの ように維持されているかを知ることが重要であり、これまでも特定の種のゴミムシに着目 して空間構造やその動態を調べた例はあるが、幼虫の空間動態や雌雄の生息地利用の違い

にまで踏み込んだ研究例はなかった。 ヤガ科等の鱗翅目昆虫を捕食するヤコンオサムシ(Carabus yaconinus)は、広い生息地 選好性を持ち、樹林地と農地を行き来する普通種である。本研究では、樹林地とそれに接 する農地(果樹園)との境界(林緑)を中心としたヤコンオサムシの成虫および幼虫の分

布を明らかにするため、林縁に沿って1本のライン(0m)、及び林縁と平行に果樹園方向に 2 本のライン(+15m、+30m)、さらに林内方向に 4 本のライン(-15m、-30m、-45m、-60m) を設定し、各ラインに 7 個のピットフォールトラップを設置し、成虫および幼虫を捕獲し た。さらに、オス成虫とメス成虫の動きを標識再捕獲法により追跡した。 オス成虫とメス成虫ともに林縁に多く、林内側へ入るに従って数は減少した。オス成虫 があまり動かずに林縁付近にとどまるのに対し、メス成虫は林内をよく動き回り、隣接す る果樹園にもよく進出していた。幼虫は林内に多く、林縁には少なかった。また隣接する 果樹園にはまったく進出しなかった。調査時期は繁殖期であることから、メス成虫が林内 へと移動するのは、産卵のためではないかと考えられる。また果樹園の地表にはミミズや 鱗翅目幼虫が多く生息するため、メスはタンパク源を求めて果樹園にも進出していると考

えられる。

土着天敵を保全的に利用するための適切な農地景観設計は、天敵個体群の空間的構造に

ついての具体的な知見があって始めて可能になる。本研究では、ヤコンオサムシの個体群

構造を調査することによって、オス成虫とメス成虫では動きが大きく異なり、主としてメ

ス成虫が樹林地からオープンランド(農地)に進出することが分かってきた。また、本種

の幼虫は林内だけに生息することから、ヤコンオサムシの個体群を農地景観内に維持する

ためには、ある程度の幅(少なくても 60m 前後)を持った樹林地を保全する必要のあるこ

とが明らかになった。

- 62 - 第 5 章 実験室条件下での鱗翅目幼虫に対する ヤコンオサムシ成虫の捕食能力

1.目的

第 4 章の野外研究によって、ヤコンオサムシ(Carabus yaconinus)が樹林地、特に林縁

に多く生息し、隣接する農地にも進出していることが明らかになったが、実際にどれくら

いの量の農業害虫を捕食するかは分かっていない。これまで、オサムシ亜科甲虫の天敵利

用に関する研究として、マイマイガに対する捕食性天敵としてヨーロッパからアメリカ大

陸に導入されたニジイロカタビロオサムシの研究がよく知られている(Weseloh, 1985)。国

内でも、エゾカタビロオサムシの農業天敵としての研究例がある(桑山・大島、1964)。近

年、生物的防除法として土着天敵の利用が注目されているが、オサムシ亜科甲虫は農耕地

において有力な天敵と考えられており、食餌嗜好性の研究が必要である。ヤコンオサムシ

は野外で、ミミズや鱗翅目の幼虫等の生きた小動物の他、カエル・トカゲ等の小動物の死

骸を捕食することが確認されている(八尋・藤本、2003)。筆者も農耕地において、ヤコン

オサムシ成虫がヨトウ、ネキリムシ類を捕食している姿をしばしば見かけている。このよ

うに農耕地およびそれに隣接する樹林地において多く見られるヤコンオサムシは、多くの

鱗翅目幼虫を捕食している可能性が高く、農業害虫に対する重要な天敵としての役割を果

たしていると考えられる。

本研究では室内実験によって、一昼夜におけるヤコンオサムシ成虫のハスモンヨトウ幼

虫の捕食数および捕食重量を明らかにし、ヤコンオサムシの農耕地における天敵としての

有用性を検討する。

- 63 - 2.材料及び方法

2.1 供試虫

ヤコンオサムシ成虫(以下、ヤコンオサムシ)は 2004 年 4 月と 5 月に神戸大学農学部

食資源教育研究センター(兵庫県加西市鶉野町)の果樹園内で採集したものを持ち帰り、

室内実験に用いた。採集したヤコンオサムシは 25℃、16L8D の恒温室内で飼育し、餌とし

て鶏のささみおよびリンゴを与えた。試験には 6 匹のオス成虫と 4 匹のメス成虫を用い、

それぞれの湿重量を測定した。

ヤコンオサムシの餌となる鱗翅目幼虫のモデルとして、本実験では農作物の主要な害虫

であるハスモンヨトウ幼虫(Spodoptera litura)を用いた。25℃、16L8D の恒温室内で人工

餌料(インセクタ LFS、日本農産)を与えて飼育した幼虫を供試した。本実験で使用した

幼虫は 1 齢、2 齢、3 齢、4 齢、5 齢であり、全て脱皮 1 日後のものを使用した。

2.2 試験方法

本実験はすべて、25℃長日条件下(16L8D)で行った。透明の円筒型プラスチックケー

ジ(直径 14cm×高さ 6cm)に、異なった齢期のハスモンヨトウ幼虫を放飼(1 齢 50 匹,2

齢 40 匹,3 齢 30 匹,4 齢 20 匹,5 齢 10 匹)し、各ケージに 1 頭ずつ 24 時間絶食させた

ヤコンオサムシを加え、1 昼夜の後捕食した幼虫数を数えた.3 時間おきにケージ内をチェ

ックし、最初の密度が維持されるように、適宜ハスモンヨトウ幼虫を加え、食い残したハ

スモンヨトウ幼虫が残っていた場合は除去した。

各齢期の捕食実験ではヤコンオサムシのオス 6 匹、メス 4 匹すべて同一個体を繰り返し

用いた。捕食実験は 2004 年 7 月 8 日から、ハスモンヨトウ幼虫各齢期の試験を 1 日おきで

行い、各試験の間はヤコンオサムシを絶食させた。

- 64 - 2.3 統計解析

ヤコンオサムシのハスモンヨトウ幼虫に対する完食(full-eaten)および食い残し

(half-eaten)は、同様に捕食数としてカウントした。ヤコンオサムシが捕食したハスモン

ヨトウの重量は、捕食されたハスモンヨトウの数と各々の齢のハスモンヨトウの平均重を

掛けて算出した。また、完食率(P)は、以下の式を使用して計算した。

P(%)= (完食数 / 全捕食数)×100

捕食されたハスモンヨトウの数と重量の値は対数変換を行い、ヤコンオサムシの性とハ

スモンヨトウの齢期について、分散分析(repeated-measures ANOVA)を行った。 その後、

各齢期間の差異についてはボンフェローニ法(Bonferroni test)による多重比較を行った。

Scherney(1959)は 、8 種の肉食性ゴミムシ(Carabus auratus、C. cancellatus、C. ullrichi、

Pterostichus vulgaris 、 Harpalus rufipes 、 Pterostichus cupreus 、 Calathus fuscipe 、 Nebria brevicollis)の 1 匹あたりの湿重量(対数)と 1 日当たり捕食量(対数)の間に直線関係が

成り立つことを示している。そこで、ヤコンオサムシ 1 匹の湿重量とハスモンヨトウ各齢

期の捕食量をそれぞれ対数変換し、Scherney が示したグラフ上にプロットした。

すべての解析には、Windows 版 SPSS 11.0(SPSS Inc., Cary, NC, USA)を使用した。

- 65 - 3.供試虫の重量

試験に用いたハスモンヨトウの湿重量の平均は、それぞれ 1 齢 0.12 ㎎、2 齢 3.11 ㎎、3

齢 4.31 ㎎、4 齢 25.2 ㎎、5 齢 173.1 ㎎であった(Table 5-1)。5 齢幼虫になると一気に体重

が増加し、2 齢幼虫と比べて 55.7 倍になった。また、ヤコンオサムシの湿重量は、オスが

0.95g、メスが 1.09g であった(Table 5-2)。

Table 5-1. Wet weight of a Spodoptera litura larva in each instar (mean ± SD, n = 20).

Instar 1st 2nd 3rd 4th 5th Wet weight (mg) 0.12±0.03 3.11±0.22 4.31±0.16 25.20±1.42 173.10±8.84

Table5-2. Wet weight of a Carabus yaconinus adult (mean±SD, n = 6 in male, 4 in female) Adult Male Female Total Wet weight(g) 0.95±0.10 1.09±0.22 1.01±0.16

- 66 - 4.24 時間あたりのヤコンオサムシ成虫の捕食数

1 齢幼虫は、ヤコンオサムシにまったく捕食されなかった。ヤコンオサムシの 24 時間

あたりの捕食数は、ハスモンヨトウの齢期が大きくなるに従って減少した(Fig. 5-1)。各

齢期における、24 時間あたりの捕食数は大きく異なっていたが、ヤコンオサムシの性間で

違いはなかった(Table 5-3)。ヤコンオサムシ 1 匹あたりの 24 時間平均捕食数は、2 齢 86.5

匹、3 齢 40.9 匹、4 齢 31.5 匹、5 齢 20.8 匹であった(Fig. 5-1)。

5.24 時間あたりのヤコンオサムシ成虫の捕食量

各齢期の中では、5 齢幼虫に対する捕食重量が著しく高く,雌雄共に一昼夜で約 3.6g の

ハスモンヨトウ幼虫を捕食した(Fig. 5-2).各齢期における、24 時間あたりの捕食量は大

きく異なっていたが、ヤコンオサムシの性間で違いはなかった(Table 5-4)。ヤコンオサム

シ 1 匹あたりの 24 時間平均捕食量は、2 齢 272.4 ㎎、3 齢 176.7 ㎎、4 齢 793.8 ㎎、5 齢 3571.8

㎎であった(Fig. 5-2)。ヤコンオサムシは一昼夜で、自分の体重の何倍もの量を摂食する

ことが明らかになった。捕食量の最も少なかった 3 齢幼虫の場合でも、捕食されたハスモ

ンヨトウ湿重量はヤコンオサムシの体重の 170 倍に達した。

- 67 -

Table 5-3. Results of ANOVA to assess differences in the number of Spodoptera litura larvae killed by a Carabus yaconinus adult in 24 h between predators' sexes and among prey stages. Factors df Mean square Fp

Sex 1 0.002 0.611 0.709

Larval stage 3 0.679 28.168 <0.0001

Sex×Stage 3 0.012 0.754 0.769

Residuals 24 0.030

160

140 Male 120 Female a

100

80 b 60 b c 40 Number oflarvae killed(mean±SD) 20

0 2nd 3rd 4th 5th Stage of larvae

Fig. 5-1. Number of Spodoptera litura larvae killed by a Carabus yaconinus adult in 24 h (6 males and 4 females for each stage). Significant differences of the means between stages are indicated with different letters (Bonferroni test, p < 0.05)

- 68 -

Table 5-4. Results of ANOVA to assess differences in the amount of Spodoptera litura larvae killed by a Carabus yaconinus adult in 24 h between predators' sexes and among prey stages. Factors df Mean square Fp

Sex 1 0.004 0.314 0.591

Larval stage 3 3.179 119.789 <0.0001

Sex×Stage 3 0.009 0.355 0.786

Residuals 24 0.027

6000 c 5000 Male Female 4000

3000

2000

b 1000 Amount oflarvae consumed (mg) a a

0 2nd 3rd 4th 5th

Stage of larvae

Fig. 5-2. The amount of Spodoptera litura larvae killed by a Carabus yaconinus adult in 24 h (6 males and 4 females for each stage). Significant differences between the means between stages are indicated with different letters (Bonferroni test, p < 0.05)

- 69 - 6.鱗翅目幼虫に対する噛みつき行動

ハスモンヨトウ幼虫の完食率%(完食数 / 完食数+食い残し数)は齢期によって異なっ

ていた。Table 5-5 に、各齢期においてヤコンオサムシがハスモンヨトウ幼虫を完食した割

合を示す。2 齢幼虫をヤコンオサムシが食い残すことは無く,すべて完食された。3 齢およ

び 4 齢幼虫でも完食率は 97~99%と高く、ヤコンオサムシが 4 齢幼虫以下のハスモンヨト

ウを捕食する際には、完食してから次の捕食行動に移ることが確認された。体サイズが顕

著に大きくなる 5 齢幼虫では、完食率は約 53%~73%と大きく低下する。このことから、

5 齢幼虫のように体サイズが大きな餌は、必ずしも完食せず、次の新鮮な餌に移ることが

示唆された。事実、捕食中のヤコンオサムシに他の 5 齢幼虫が触れると、すかさずその幼

虫を捕食する行動を数例確認した.

Table 5-5. Percentage of full-eaten S.litura larvae by Carabus yaconinus (mean±SD). Instar Male (n=6) Female (n=4) Total

2nd 100 100 100

3rd 98.2±2.4 99.5±1.0 98.7±2.0

4th 97.5±3.0 98.5±3.0 97.9±2.9 5th 53.7±29.0 72.5±32.0 61.2±30.0

- 70 - 7.他種ゴミムシ類との捕食量比較

24 時間あたりの捕食餌の湿重量と各種ゴミムシ類の湿重量の両対数回帰直線を示した

(Fig. 5-3)。2 齢および 3 齢に対する捕食重量は、回帰直線よりも大きく外れ、回帰直線は

4 齢と 5 齢の間を通過した。このことから、十分に 2 齢あるいは 3 齢のハスモンヨトウ幼

虫を与えても、1 日にヤコンオサムシが食べる餌量としては不足していることが明らかに

なった。4 齢あるいは 5 齢幼虫は、回帰直線上近くに位置することから、24 時間あたりの

餌量として十分なサイズであることが明らかになった。

10

3 1 2 Ⅳ 4 1 5

Ⅲ II 0.1 6 7 8

Wet weight of prey eaten or killed (g) per day

0.01 0.01 0.1 1 10 Wet weight of a (g)

Fig. 5-3. Log-log plots of the wet weight of prey and carabid beetles. Bold line: Exponential regression of the wet weight of prey eaten per day by eight carabid species (○) against the wet weight of the beetles (original data given by Scherney, 1959) (y = 1.653x1.023, r2 = 0.8658; N = 8, p < 0.01). 1, Carabus auratus; 2, C. cancellatus; 3, C. ullrich; 4, Pterostichus vulgaris; 5, Harpalus rufipes; 6, Pterostichus cupreus; 7, Calathus fuscipe; 8, Nebria brevicollis. ●: The wet weight of S. litura larvae killed by a Carabus yaconinus adult in 24 h against the average wet weight of the beetles. Ⅱ, 2nd instar; Ⅲ, 3rd instar; Ⅳ,4th instar; Ⅴ,5th instar.

- 71 - 8.考察

8.1 実験室条件下での捕食能力

室内実験において本種の成虫は、1 齢幼虫を除く全齢期のハスモンヨトウ幼虫をよく捕

食した。1 齢幼虫が捕食されなかった原因は、1 齢幼虫の体サイズが非常に小さく、本種の

大あごではうまく挟めなかったからであると考えられる。1 昼夜における本種のハスモン

ヨトウ幼虫捕食数は 2 齢幼虫が最も多く、幼虫の齢を経るに従って捕食数が減っていた。

これは幼虫の体サイズが大きく関係しており、幼虫 1 匹の処理に費やす時間(handling time)

が、齢期によって大きく異なる事実を反映した結果であると考えられる。2 齢と 3 齢の捕

食重量には差が無いのに、捕食数に大きな違いがあることはこの推測を支持するものであ

る。また、本研究では選択実験を行っていないので本種がどの齢期の幼虫を最も好んで捕

食するかは明らかでないが、桑山・大島(1964)はエゾカタビロオサムシの成虫が大型ヨ

トウガ幼虫を選択する傾向のあることを報告している。本実験において、5 齢幼虫に対す

る捕食重量が極めて大きいことは、彼らの報告と矛盾しない。他のゴミムシ類を含めた Fig.

5-3 の関係から、ヤコンオサムシの体重に対する捕食量を考えると、ハスモンヨトウの 2~3

齢幼虫では 1 日に食べる餌量として不足しており、4 齢あるいは 5 齢幼虫を捕食するのが、

最も適していることが示唆された(Fig. 5-3)。野外では 4 齢あるいは 5 齢といった中齢か

ら老齢の幼虫を主に捕食している可能性が大きい。

本研究では捕食実験の間に 24 時間の絶食期間を設けたが、この時間が餌の消化に十分で

あったかどうか分からない。しかし、絶食期間が不足しているならば、捕食量は徐々に減

少していくであろうし。実際には、齢期が増えるに従って捕食量は増加したので、24 時間

の絶食時間は妥当なものであったと思われる。

2 齢~4 齢のハスモンヨトウ幼虫はほぼ完食されたのに対し、5 齢幼虫の完食率は約 60%

と低かった(Table 5-5)。本種は 5 齢幼虫をよく食い残す傾向があり、それには主に 2 つの

ケースが確認された。捕食途中で中断しそのまま放置するケースと、捕食中でも他の新鮮

な幼虫に目移りし乗り換えるケースである。本実験では前者のケース多かったが、後者も

確認された。また、前に放置した幼虫の死骸には捕食行動を起こさず、もっぱら生きてい

- 72 - る幼虫を襲う傾向が強いことも分かった。Meissle (2005)は、オサムシ科の Poecilus cuoreus

に生きた餌と死んだ餌を同時に与えると、生きた餌を積極的に襲うことを明らかにしてお

り、本研究のヤコンオサムシとの共通点が見られる。 本種を天敵としての有効利用を考え

た場合、幼虫を完食するかは問題では無い。なぜなら、完食せずともハスモンヨトウは死

に絶えるからである。本種の大あごに一噛みでもされれば、たちまち幼虫からは体液が流

出し、数分のうちに絶命する。従って害虫防除の観点から見れば、本種に捕まった時点で、

ハスモンヨトウ幼虫は駆除されることになり、それは体サイズの大きい 5 齢幼虫で顕著に

現れる。以上の室内実験の結果から、本種はハスモンヨトウ幼虫を数多く捕食することが

明らかになり、いずれの齢期においても天敵としての効果が期待できることが明らかにな

った。

8. 2 農地で期待できる働きについて

本実験によって、本種の成虫がハスモンヨトウ幼虫を、一昼夜に数十頭捕食することが

明らかになった。Sota(2000)も、本種成虫が春先の林床で夜行性のヤガ科幼虫(ヨトウ

ガ類)を餌としていると報告している。農耕地においてヨトウガ類幼虫がよく発生する場

所として野菜畑、果樹園、水田畦畔が挙げられるが、ここでは特に被害の大きい野菜畑に

ついて考察したい。本種は地表歩行性であり、樹上および葉菜に登ることはない。ヨトウ

ガ類の若齢幼虫は葉上にいることが多いので、本種の攻撃を受けることは殆どないと考え

られる。しかし老齢幼虫は、主として地表近くに生息し、また本種と同じく夜間に地表を

這いまわるので、本種の攻撃を頻繁に受けると予想される。桑山・大島(1964)は、エゾ

カタビロオサムシの成虫がヨトウガ類の被害を初期に防止するというよりも、老齢幼虫を

盛んに捕食して次世代の発生を抑制すると考察しているが、ヤコンオサムシにおいても同

じように考えられる。ヨトウガ類の幼虫は体長約 4cm 前後になり、食害量は全幼虫期間の

90%を越えると言われ、一夜にして作物が全滅することもある。また、老齢幼虫に対して

は効果の高い農薬が少ないので特に注意が必要である。ヨトウガ類の防除には、やはり野

菜作物の芯部に潜り込む前の若齢幼虫に対する薬剤処理が防除上のポイントだが、薬剤を

免れた老齢幼虫を駆除することが重要である。野外におけるヨトウガ類の幼虫発生時期と

- 73 - 本種成虫の発生最盛期は共に 4~6 月および 9 月と一致しており、本種はヨトウガ類の幼虫

を頻繁に捕食できると考えられる。

本種成虫は鱗翅目の幼虫を広く捕食するので(Sota, 2000)、本研究で扱ったヨトウガ類

以外にも防除対象となりうる鱗翅目害虫について考察したい。本種成虫の移動手段は歩行

のみであり植物体上に登れないので、捕食の対象となる鱗翅目害虫は地表性のものに限ら

れる。ヨトウガ類以外ではカブラヤガ及びタマナヤガ等、いわゆるネキリムシ類の幼虫が

本種の重要な食餌になっていると考えられる。実際に筆者は、ヤコンオサムシを採集した

果樹園において、ネキリムシ類を捕食しているヤコンオサムシをたびたび見かけている(未

発表)。ネキリムシ類は、若齢期から地表に近い土中に潜伏しているため、薬剤による防除

が難しくヨトウガ類よりもさらに難防除害虫として知られる。耕地内では、老熟幼虫は1

頭ずつほぼランダムに分布しており、1頭の幼虫が定植間もない野菜をつぎつぎに加害す

るので、発生密度が低くても被害は多い。また夜間、地中から出て地表を這い回るため、

夜行性の本種と行動生態が一致している。薬剤防除が難しいネキリムシ類に対して、本種

は天敵としての役割が期待できる。

ヤコンオサムシは農地において、初期の薬剤防除から逃れたヨトウガ類やネキリムシ類

のようなヤガ科の中齢~老齢幼虫に対する天敵として機能しうることが示唆された。本章

では実験室条件下において、ヤコンオサムシの害虫に対する捕食能力を明らかにしたが、

野外における生態学的調査が必要である。特に、ヤコンオサムシの農地における詳細な分

布、餌資源の分布、モザイク植生間の動きを解明することは、本種のような土着天敵の保

全的利用のために重要であろう(第 4 章)。

- 74 - 9.要約

ヤコンオサムシ(Carabus yaconinus)は鱗翅目幼虫を捕食することが既に野外で確認さ

れており、農耕地における重要な天敵として働いていることが期待されるが、その捕食能

力は未解明であった。そこで室内実験において、24 時間後における本種成虫のハスモンヨ

トウ幼虫の捕食数および捕食重量を明らかにした。本種 1 個体当たりハスモンヨトウ幼虫

の捕食数は各齢期において有意な差が見られ、捕食数は第 2 齢幼虫で最も多く、一昼夜に

おいて約 90 匹を捕食した。第 3 齢幼虫では約 40 匹と大きく減少し、以下齢期が進行する

につれて捕食数は減少していった。第 1 齢幼虫においては 1 匹の捕食も確認されなかった。

また、5 齢幼虫に対する捕食重量(約 3,600mg)は、最も捕食重量の少ない第 3 齢幼虫(約

200mg)と比べて約 18 倍と際立っていた。本種成虫は食餌中であってもそれを中断し、動

いている新たな幼虫に噛み付く行動がたびたび見られ、それは 5 齢期のハスモンヨトウ幼

虫に対して最も多かった。本種の成虫は、第 1 齢幼虫を除いて全ての齢期のハスモンヨト

ウ幼虫を多数捕食することから、主に地表に生息するヨトウガ類の老齢幼虫およびネキリ

ムシ類の天敵として機能することが期待できる。

- 75 - 第 6 章 総合考察

天敵昆虫が生息する農地景観は、農地や半自然植生といったさまざまな要素から構成さ

れるが、こういった樹林地等の半自然植生を、どのように配置・管理すれば、天敵昆虫の

多様性と機能を保全できるかといった研究が重要である(Pickett & Bugg, 1998; Altieri &

Nicholls, 2004)。また、農地周辺の半自然植生からの害虫制御といった生態系サービスを活

かすには、農地景観全体で土着天敵やそのたの土着生物の多様性を保全する IBM の戦略が

重要であり(桐谷,2004)、特に保護利用の対象となる土着天敵昆虫に関しては、それの農

地における生息分布や移動といった、詳細な情報を得ることが何よりも重要である(Pickett

& Bugg, 1998; Landis, 2000)。

ヨーロッパを中心としたこれまでの先行研究において、ゴミムシ類の環境選好性につい

ては、大きな景観スケールの調査によって、森林を好むものと草地を好むものに大別され

てきたが、本研究では水田、牧場、竹林、果樹園、樹林地から形成される小スケールのモ

ザイク植生においても、各植生域で種組成が大きく異なり、景観全体として種の豊富さが

維持されている事を明らかにした。半自然植生である樹林地では、樹林地特有のゴミムシ

類が多数確認され、ヤコンオサムシのように隣接する農地に進出する種も存在することか

ら、景観内に樹林地を保全管理することが、農地景観全体における天敵昆虫の多様性維持

に有効であることが明らかになった。一方、同じく半自然植生である竹林は、ゴミムシ類

の種数および捕獲数が、他の植生と比べて格段に少ないだけでなく、竹林特有の種も見ら

れなかったことから、景観全体の天敵昆虫多様性維持の観点から見ると、むしろ竹林は排

除すべきかもしれない。里山林の林床にササが繁茂していると、そこに生息する生物の衰

退を招くという報告は多く(守山,1988; 養父, 1996)、ゴミムシ類においてもそれを支持

する結果となった。

ゴミムシ類の環境選択に影響を与える環境因子として、これまで土壌水分が大きく取り

上げられていたが(Thiele, 1977; Petit et al., 1998; Fahy & Gormally, 1998)、本研究において

も土壌水分は、ゴミムシ類の種数および個体数に大きな影響を与えることが確認された。

また、これまで草高および樹林地からの距離についてはあまり注目されてこなかったが、

- 76 - 本研究の結果からこれら 2 つの要因も、ゴミムシ類の環境選択に大きく関わっていること

が分かった。ゴミムシ類は、環境変化に反応して種組成が変化することはわかっているが

(Niemelä , 1993; 石谷, 1996; Werner & Raffa, 2000)、個々の種の生息場所選好性は良く分か

っていない。また、これまではゴミムシ類の種レベルではなく、亜科や属でひとまとめに

して環境選好性を明らかにした研究が殆どである(富樫, 1995; 平松, 2004; 松本, 2008)。

本研究では種レベルの環境選好性を詳細に分析したので、従来の亜科や属レベルでひとま

とめにすることの問題点について考察しておきたい。

Harpalus(ゴモクムシ)属と Amara(マルガタゴミムシ)属は、平地性でオープンラン

ドを好むことが示唆されているが (Pausch, 1979; Luff, 1987; 石谷, 1996; Holland, 2004)、

本研究の解析結果においても、樹林地から遠いほど個体数が増えることから、樹林地環境

には依存していないことが明らかになった。また、Harpalus 属内および Amara 属内の種間

で環境選好に影響を与える因子を比較した結果、いずれの属の種も傾向は非常に良く似て

いた。よって、Harpalus 属および Amara 属はそれぞれひとくくりにして、草地のようなオ

ープンランドの指標種として適用することに問題はないといえる。ただしツヤアオゴモク

ムシのように、Harpalus 属の中でも極度に土壌水分に依存するような種も存在するので、

そういった種の捕獲数データの取り扱いには注意が必要である。この種は、オープンラン

ドかつ高湿潤環境での指標種となりうる。石谷(1996)や Niemelä(2001)によると、ゴ

ミムシ類の生息地選好性として森林性(forest species)と非森林性(non-forest Species)に

大別されることが明らかになっており、かつ森林からの距離に応じて、ゴミムシ相が変わ

ることが明らかにされている(石谷, 1998; Niemelä et al., 1988; Niemelä , 2001; Hori, 2001)。

本研究においても、多変量解析の結果から、森林からの距離はゴミムシ類の種組成を変え

ることが明らかになった。Harpalus 属および Amara 属は、草地や河川敷を中心とした平地

に多い種であるが、その大きな理由の 1 つとして、雑草種子食性が挙げられている(石谷,

1996)。農地景観内に存在する樹林地を伐採して広大な農地にすると景観が単純化し

(landscape simplification)、景観全体のゴミムシ相が変化するが、種子食種を多く含む

Harpalus 属や Amara 属は、肉食の他のゴミムシ類よりその影響を受けにくいことが報告さ

れている(Purtauf et al., 2005)。本研究は、Harpalus 属や Amara 属は、樹林地から遠いほ

- 77 - ど個体数が多いことを明らかにしたが、これは Harpalus 属および Amara 属が樹林地に依存

しておらず、樹林地伐採等の撹乱影響を受けにくいことを示している。

Pterosthichus(ナガゴミムシ)属は土壌水分、Chlaenius(アオゴミムシ)属は草高に依

存することが明らかになったが、同属内の種間で比較すると環境選好性がかなり異なって

いた。Pterosthichus 属や Chlaenius 属は肉食傾向が強いが、種によって餌が大きく異なり

(Sunderland, 2002)、ま た Chlaenius 属の中には、マッドセルという特殊な産卵形式を行い、

特異な土壌条件を必要とする種が見られることから(King, 1919; Classen, 1919; 田中 1956)、

種間の違いが大きいと考えられる。よって、Pterosthichus 属や Chlaenius 属をそれぞれひと

まとめにして環境指標に用いるのは適切でないと考える。ヤコンオサムシや Chlaenius 属

および Pterosthichus 属の一部、Synuchus 属は樹林地に依存しており、農地景観内での樹林

地伐採の影響が非常に大きいだろう。Purtauf ら(2005)は、景観の単純化の負の影響は肉

食のゴミムシ類に対してより大きく働き、農地全体のゴミムシ類の天敵能を低下させる可

能性があることを指摘している。

隣接する異なる生態系の境界は、移行帯(ecotone)と呼ばれ、両者の環境が入り混じり、

多様な動植物を有する。これまでにゴミムシ類においても、移行帯である林縁に多く生息

するという報告がなされており(Kotze & Samways, 1999; Hori, 2001; Ewers et al., 2008)、ヤ

コンオサムシの成虫の分布に関しても、同様な現象が確認できた。それでは、ヤコンオサ

ムシ成虫が林縁に多いのはどうしてだろうか? 植物が豊富で植食昆虫が多い林縁では、肉

食昆虫である成虫の餌も非常に多いと考えられる。しかしヤコンオサムシ成虫に関しては、

餌よりも物理的な環境条件が重要である可能性がある。林縁に生物種が多い理由として、

微小気候(micro climate)が大きく関係しているという報告があり(Matlack, 1993; Chen et al., 1995)、順位相関係数および正準対応分析の結果、ヤコンオサムシは、高い草高を好む

ことが明らかになったが、土壌水分には殆ど影響を受けないことが分かった。水田畦畔や

樹林地内は草高が低いが、林縁は雑草や低木が非常に多く草高があるため、ヤコンオサム

シにとって好条件な、湿度、明るさ、温度が形成されていたのだろう。また、ヤコンオサ

ムシは体長が 30mm 前後とゴミムシ類の中ではかなりの大型種で目立つので、草高のある

林縁環境は、タヌキ、カエル類、鳥類といった捕食者の目から逃れやすいという利点もあ

- 78 - るかもしれない。

ゴミムシ類の環境選択性は種ごとに異なることから、ゴミムシ類全体の繁栄には多様な

環境が必要であることは言うまでもないが、樹林環境に少なからず依存しているゴミムシ

類の保全には、農地景観内に樹林地を配置することが欠かせない。それでは、景観内にど

れくらいのサイズの樹林地が必要なのだろうか?それについては、ヤコンオサムシの例で

考察する。樹林地の大きさ(size)と、そこに生息する森林性ゴミムシ類の種の豊富さ(species richness)との間には、強い正の相関があることが多くの研究によって明らかにされている

(Niemelä et al., 1988; Niemelä, 2001; Hori, 2003; Boulton et al., 2008; Fujita et al., 2008)。ま た

Mader(1984)は、0.5ha 未満の断片化した樹林地には、もはや森林内部といえる環境がな

く、エッジ種ばかりで、森林インナー種(forest-interior species)が欠落することを報告し

ている。ヤコンオサムシは森林種として知られているが、0.4ha 未満の樹林地には生息でき

ない(Fujita et al., 2008)。その理由として、第 4 章で明らかにしたように 0.4ha の樹林地で

はインナーが不足し、幼虫の生息環境が満たされていない可能性が考えられる。よって、

ヤコンオサムシが個体群を維持するには、少なくとも幅 60m の樹林地(両林縁から 30m)

を、景観内に配置管理することが必要である。また、成虫は隣接するオープンランド(農

地)にたびたび進出していた。従って、ミミズや鱗翅目幼虫が豊富なオープンランド(果

樹園,畑地等)を樹林地に隣接すれば、そこがヤコンオサムシ成虫の採餌場となり、ヤコ

ンオサムシ個体群の保全により効果的であるといえる。天敵昆虫の保全を念頭においた農

地管理では、樹林地とオープンランド双方の環境を必要とする天敵昆虫の存在に注意を払

う必要がある。ヤコンオサムシの場合は、個体群維持に必要な樹林地のサイズが明らかに

なったので、そういった情報を元に農地景観の管理計画を進めることが可能である。しか

し、他の多くの重要な天敵昆虫について必要な知見はほとんど得られていない。ヤコンオ

サムシの場合でも、樹林地の林齢あるいは林の質については情報が不足しており、伐採し

て 10 年後くらいまでの若いブッシュ状の林地に幼虫が生息できるのかどうか、逆に林の高

齢化が進み、暗く林床植生のない樹林地に幼虫が生息できるのか、まったく分かっていな

い。

樹林地や荒地のような半自然植生を生息場所としている天敵昆虫を有効に利用する場

- 79 - 合、その半自然植生から(例えば林縁から)隣接する農地へ何 m くらい侵入するかが重要

となる。ゴミムシ類やハネカクシ類のいくつかの種では、それらが多く生息する緑地帯

(hedgerow)から、隣接する穀物畑側へ 200m も侵入することが分かっている(Coombes and

Sotherton , 1986)。その他にも、あらゆる捕食者や捕食寄生者が、緑地帯や樹林地から隣接

する作物畑に侵入する例が多数報告されている(Topham & Beardsley, 1975; Wratten, 1987;

Landis & Haas, 1992; Thies & Tscharntke, 1999)。ユニークな試みでは、種々の種類の雑草や

作物を混播して、圃場の周辺に天敵保護のための播種雑草ベルト(sown weed strips)を作

る管理方法がスイスで行われている(Nentwig et al., 1998)。播種雑草ベルトにはクモやゴ

ミムシといった多くの土着天敵が住み着き、圃場内へたくさん分散する(Nyffeler & Benz,

1987; Richert & Bishop, 1990; Yano, 2002)。ヤコンオサムシの成虫は林縁に多いので、林縁

部から繋がる播種雑草ベルトを造成すれば、成虫がそこへ住みつく可能性は高い。ヤコン

オサムシの成虫は林縁から農耕地へ 100m 以上も侵入することが明らかになっているが

(第 2 章, Fig. 2-1, Table 2-1)、成虫が好む高い草高の播種雑草ベルトを樹林地から農地内

まで回廊(corridor)のように伸ばせば、成虫が農地へ侵入する手助けとなるかもしれない。

これはなにもヤコンオサムシに限ったことではなく、生息環境として高い草高を好み、農

地に頻繁に進出する天敵昆虫に言えることである。例えば、アトボシアオゴミムシや、ム

ナビロアオゴミムシ、オオアトボシアオゴミムシ等のアオゴミムシ類がそうした有力天敵

の候補として考えられる。オオアトボシアオゴミムシは、草高への依存がそれほど強くな

く、非常に幅広い環境選好性を持つので、果樹園、畑地等あらゆる植生において害虫抑圧

が期待できるだろう。

有益な天敵昆虫が農業害虫に有効に働くための適切な農地景観設計は、天敵個体群の空

間的構造についての具体的な知見があって始めて可能になる。Harpalus 属や Amara 属は、

樹林地からの距離が遠くても影響がないことから、樹林地のような半自然植生の喪失の影

響を受けにくいと推察される。これに対して、ヤコンオサムシのように、一部の発育ステ

ージが強く林内環境に依存しているような場合には、農地に隣接する樹林地の保全が重要

となる。本研究では、農地における土着天敵昆虫のモデルとしてゴミムシ類に着目し、そ

の分布や生息地選択に関わる環境因子、個体群の空間的構造を明らかにしたが、以下に土

- 80 - 着天敵の保全利用研究における課題と今後の展望について述べる。農地において、ゴミム

シ類と同じような働きが期待される捕食性天敵として、地表徘徊性クモ類やハネカクシ類

が挙げられる(Pickett & Bugg, 1998; Altieri & Nicholls, 2004; Samway, 2005)。ゴミムシ類、

地表徘徊性クモ類、ハネカクシ類といった天敵類は、食性の幅が広く広食性天敵(generalist)

と呼ばれており、寄生蜂のような捕食寄生者(単食性天敵: specialist)とは違って、幅広い

害虫に対する抑圧効果が期待できると考えられている(矢野,2003)。しかし、被寄生者が

明らかである単食性天敵と異なり、広食性天敵は野外における食性の調査が必須であり、

十分な研究が進んでいるとはいえない。広食性の土着天敵が害虫の被害軽減に対して有効

に働いている報告例は多いが(矢野,2003 ; Altieri & Nicholls, 2004)、広食性天敵と害虫の

相互関係は十分に解析されておらず、今後の課題であろう。また、害虫ではないけれども

天敵の餌になっているような「ただの虫」にも注目していく必要がある。桐谷(2004)が

提唱した IBM は害虫防除と生物多様性の両立を目指しており、農地における広食性天敵、

害虫、ただの虫の関係解明が生態系サービスを利用する上でも重要と考えられる。

植生が多様で景観の異質性(heterogeneity )が大きい農地では、景観の同質性

(homogeneity)が高い農地よりも、動植物が多様で天敵昆虫の潜在的能力が高く、害虫の

発生も少ないことはよく知られており、本研究でもモザイク植生で構成される里山景観に

おいてゴミムシ類が豊富であることが実証された。土着天敵の個体群構造に着目した研究

例は少なくないが、農地とそれに隣接した半自然植生地に限った事例が殆どで、大きな景

観スケールの研究はまだ少ない。モザイク状の農地景観は様々な要素から構成されており、

またそれらは hedgerow や水田畦畔等の corridor で繋がっており広大なネットワークを構

成している(Tscharntke, 2007)。移動性の高い天敵昆虫群は、より異質性の高い植生モザイ

クと複雑なネットワークを利用している可能性があり、多くの要素を含んだ大きなスケー

ルでの調査が今後必要となっていくだろう。もちろん、事前に保全利用対象となる天敵個

体群の空間的構造に関する詳細な研究は欠かせない。農地周辺の雑草帯や樹林地が、寄生

蜂類、ゴミムシ類、地表徘徊性クモ類、ハネカクシ類といった土着天敵の棲み処あるいは

冬越し場所となっている報告はあるが(Altieri & Nicholls, 2004)、それら天敵個体群の詳細

な空間的構造についての知見は不足しており、今後の課題である。本研究では、ヤコンオ

- 81 - サムシは適切なサイズの樹林地とそれに隣接する農地という 2 つの植生の組み合わせによ

って個体群を維持できることが明らかにしており、他の天敵昆虫でもこういった情報が必

要になるだろう。

農地景観に生息するゴミムシ類の環境選好性は、属内でおおむね一致するグループもあ

るが、多くは種ごとに大きく異なっていた。モザイク植生で形成される里山の景観は、多

様な環境因子の勾配を生み出し、その結果として多様な環境に対応した豊かなゴミムシ相

を維持してきたと考えられる。また、生活環の一部を半自然植生に依存している種も多く、

それらを農業害虫の天敵として保全的に利用するためには、農地景観の中に適当なサイズ

の半自然植生を適切に配置し、農地と繋げる植生帯を整備することが重要であると結論で

きる。

- 82 - 要 約

土着天敵昆虫を保全利用する害虫防除技術は、農地における生物多様性がもたらす

生態系サービスを享受する上での主要な技術の一つであり、農地景観を適切に管理し、

捕食者や捕食寄生者といった有益な生物を保全利用することが重要である。天敵昆虫

が生息する農地景観は、農地や半自然植生といったさまざまな要素から構成されてお

り、こういった植生をどのように配置・管理すれば、天敵昆虫の多様性と機能を保全

さらには増進できるかといった研究が必要となる。そこで本研究では最初に、半自然

植生を含むモザイク植生で構成され、東アジアを代表する農地景観である里山景観に

おいて、地表性天敵甲虫であるゴミムシ類の分布および環境選好性を調査した。ゴミ

ムシ類は、各植生間において種構成が大きく異なること、そして土壌水分、草高、森

林からの距離といった環境要因の大きな影響を受けることを明らかにした。土着天敵

昆虫を実際に保全利用するには、そこに生息する土着天敵群集の空間的・時間的構造

といった詳細な情報を理解して初めて可能になる。そこでモデル昆虫として、農地に

個体数が多く農耕地および半自然植生の両方で見られるヤコンオサムシ(Carabus yaconinus)に着目し、成虫と幼虫で生息域が異なること、雄成虫と雌成虫との間で繁

殖期の動きが異なることを解明し、ヤコンオサムシが農地で個体群を維持するための

農地景観管理について明らかにした。また、室内実験においてヤコンオサムシが農業

害虫であるハスモンヨトウを数多く捕食することを実証した。これらの結果から、農

地景観全体でのゴミムシ類の分布、生息地選択に影響を与える環境因子、さらに農地

景観における天敵昆虫群集全体の保全的利用について考察した。

第 1 章では、本研究の背景と目的を記述した。

近年、農地景観を構成する半自然植生の存在が注目され、その積極的な保全が、天

敵昆虫の増強に繋がることが指摘されている。中でもゴミムシ類は、地表性の天敵昆

虫として知られており、その群集構造や個体群動態に関する生態学的研究はこれまで

欧米を中心に進められてきた。しかし、東アジアにおける研究例は非常に少なく、水

- 83 - 田やブドウ園におけるゴミムシ類の種類組成や発生消長についての断片的な報告があ

るに過ぎない。また天敵昆虫を保全的に活用するための農地景観デザインを行うには、

有用天敵の全発育ステージの空間的な生息地利用を理解する必要があるが、先行研究

は成虫の分布や移動の調査にとどまり、幼虫の時空間動態や雌雄の生息地利用の違い

にまで明らかにしていない。

従って、東アジアに特徴的な里山景観において地表性天敵を有効に保全利用するに

は、そこに生息するゴミムシ類の分布、環境選好性、空間的な生息地利用の観点から

の研究が必要であると考えられた。そこで本研究では、これまでゴミムシ類の環境選

好に影響を与えている因子として特に、土壌水分が注目されていることも踏まえ、土

壌水分、草高、森林からの距離の解析を行い、それらの環境因子が、ゴミムシ類の環

境選択へ与える影響を、ゴミムシ類の種レベルで明らかにすることにした。またモデ

ル昆虫として、農地に個体数が多く農耕地および半自然植生の両方で見られるヤコン

オサムシに着目し、天敵昆虫の空間的・時間的個体群構造の動態と生息地利用の具体

像を解明することとした。

第 2 章では、水田、牧場、果樹園、樹林地を含む、小スケールのモザイク植生で構

成される面積約 40ha の農地景観を調査地とし、各植生の中央でゴミムシ類を通年で捕

獲して、種数と種均等度、種構成を植生間で比較した。2003 年 5 月から 2004 年 1 月に

捕獲されたゴミムシ類は 2 科 7 亜科 40 種 1144 個体に達し、種構成はそれぞれの植生

によって大きく異なった。昆虫食性で農業害虫の天敵として知られるアオゴミムシ類

は、樹林地では殆ど捕獲されず、牧場と果樹園に多く見られた。種子食性種を含むマ

ルガタゴミムシ類とゴモクムシ類はともに良く似た分布傾向を示し、水田に多かった。

全種の中で最も多く捕獲されたヤコンオサムシは、主として平地の樹林地に生息する

とされてきたが、林地に隣接する農地にも進出しており、特に果樹園で多かった。ゴ

ミムシ類の種構成にもとづく除歪対応分析の結果、調査区は第 1 軸に沿って水田、牧

場、果樹園、樹林地の順に並んだ。草本で覆われている水田と牧場のゴミムシ相はよ

く似ており、樹木環境とみなされる果樹園と樹林地のゴミムシ相も比較的類似してい

- 84 - た。

第 3 章では、ゴミムシ類の環境選好に影響をもたらす環境要因を解明することを目

的に、水田、竹林、果樹園、樹林地を横断するようにトランセクトを設定し、トラン

セクト上に 25 ヶ所のプロットを設定した。各プロットでゴミムシ類を通年捕獲すると

もに、土壌水分、草高、森林からの距離を同時に計測した。2004 年 3 月から 2005 年 1

月に捕獲されたゴミムシ類は 1 科 36 種 1235 個体に達し、種構成はそれぞれの植生に

よって大きく異なった。最も多く捕獲されたヤコンオサムシは全 25 プロットのうちの

約 80%にあたる 20 プロットで確認され、幅広い環境選好性を持つことが示された。ゴ

モクムシ類やマルガタゴミムシ類は、いずれの種も多くのポイントで出現しており、

環境の選好性の幅が広いことが分かった。捕食性天敵として有望視されているアオゴ

ミムシ類は出現プロットが少ないことから、適した生息条件が狭い可能性が示唆され

た。植生の境界であるエッジには、ゴミムシ類の種や個体数が極めて豊富であった。

従来、その理由として植生の豊富さが考えられてきたが、土壌水分と草高が影響して

いることを明らかにした。正準対応分析の結果、ゴミムシ類の種組成は、果樹園、水

田、樹林地および竹林といった植生域に明瞭に特徴づけられ、小スケールであっても

植生の違いに依存していることが再確認された。ゴミムシ類の環境選好性には、湿度

が大きく関わっていることがこれまでにも示唆されていたが、土壌水分の増加によっ

て、多くのゴミムシ類の種数や個体数が増加することが明らかになった。森林からの

距離も、そこに生息するゴミムシ類の種組成に大きな影響を与えることを明らかにし

た。ゴミムシ類は多様な環境選好性を持つことが示唆されていたが、近縁な種間でも

ときに大きく異なることが明らかになった。

第 4 章では、樹林地とそれに接する農地との境界(林緑)を中心としたヤコンオサム

シの成虫および幼虫の分布を明らかにするため、林縁に沿って1本のライン(0m)、

及び林縁と平行に果樹園方向に 2 本のライン(+15m、+30m)、さらに林内方向に 4 本

のライン(-15m、-30m、-45m、-60m)を設定し、各ラインに 7 個のピットフォールト

- 85 - ラップを設置し、成虫および幼虫を捕獲した。さらに、成虫の動きを標識再捕獲法に

より追跡した。成虫はオスメス共に林縁に多く、林内側へ入るに従って数は減少した。

オス成虫があまり動かずに林縁付近にとどまるのに対し、メス成虫は林内をよく動き

回り、隣接する果樹園にもよく進出していた。幼虫は林内に多く、林縁には少なかっ

た。また隣接する果樹園にはまったく進出しなかった。また果樹園の地表にはミミズ

や鱗翅目幼虫が多く生息するため、メスはタンパク源を求めて果樹園にも進出してい

ると考えられる。ヤコンオサムシの個体群構造を調査することによって、オス成虫と

メス成虫では動きが大きく異なり、主としてメス成虫が樹林地からオープンランド(農

地)に進出することが分かってきた。また、本種の幼虫は林内だけに生息することか

ら、ヤコンオサムシの個体群を農地景観内に維持するためには、ある程度の幅(少な

くても 60m 前後)を持った樹林地を保全する必要のあることを明らかにした。

第 5 章では、室内実験において、24 時間後におけるヤコンオサムシ成虫のハスモンヨ

トウ幼虫の捕食数および捕食重量を明らかにした。本種 1 個体当たりハスモンヨトウ

幼虫の捕食数は各齢期において有意な差が見られ、捕食数は第 2 齢幼虫で最も多く、

一昼夜において約 90 匹を捕食した。第 3 齢幼虫では約 40 匹と大きく減少し、以下齢

期が進行するにつれて捕食数は減少していった。第 1 齢幼虫においては 1 匹の捕食も

確認されなかった。また、5 齢幼虫に対する捕食重量(約 3,600mg)は、最も捕食重量

の少ない第 3 齢幼虫(約 200mg)と比べて約 18 倍と際立っていた。本種の成虫は、第

1 齢幼虫を除いて全ての齢期のハスモンヨトウ幼虫を多数捕食することから、主に地表

に生息するヨトウガ類の老齢幼虫およびネキリムシ類の天敵として機能すること

が期待できる。

第 6 章の総合考察では、農地において地表性天敵昆虫群集が多様性およびその個体

群を維持するための適切な植生配置について、ゴミムシ類の分布および空間的・時間

的構造の理解による観点から議論した。ゴミムシ類の種ごとの環境選好性は、属内で

おおむね一致するグループも存在するが、多くは種ごとで土壌水分、草高、樹林地か

- 86 - らの距離といった環境因子に対する反応が大きく異なっていることを。また、モザイ

ク植生で形成された景観は、多様な環境因子の勾配を生み出し、その結果多様な環境

に対応したゴミムシ類の豊富さに繋がることを推察した。さらに、農地景観の主要な

構成要素である半自然植生に依存している種も多く、そういった種に対しては、景観

内に適切なサイズの半自然植生を、適切に配置することが重要であると結論した。こ

ういった取り組みが、結果として農地景観全体の天敵昆虫の多様性および機能の保全

に繋がると結論づけた。

なお、第 2 章の研究成果は香川ら(2008)に、第 4 章の研究成果は、Kagawa & Maeto(2009)

に、第 5 章の研究成果は Kagawa & Maeto(2007)にすでに公表されている。

-87- 謝辞

本研究を行うに当り、終始熱心なご指導をして頂いた神戸大学大学院農学研究科前藤薫

教授に深く感謝の意を表し、厚くお礼申し上げます。また本論文の校閲および多くのご助

言をして頂いた農学研究科の竹田真木生教授、 同 伊藤一幸教授に厚く感謝申し上げます。

また様々な面において惜しみない協力およびアドバイスをして頂いた兵庫県川西市の伊藤

昇氏に深く感謝いたします。

ゴミムシ類のマーキング法およびヤコンオサムシに関する様々な情報を提供して下さ

った京都大学大学院理学研究科の曽田貞滋教授に厚く感謝申し上げます。また、独立行政

法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所 河野勝行博士、琵琶湖博物館八尋克

郎博士には、ゴミムシ類の生態分布に関する有益なご教示を頂き、感謝申し上げます。こ

の研究を行う際、施設を快く提供して頂き、調査活動中に協力をして頂いた片山寛則博士、

丸山正晴技官をはじめとする神戸大学大学院農学研究科付属食資源教育研究センターの

方々に深く感謝いたします。最後に、いろいろな面でご助言、ご協力をいただいた、昆虫

機能学研究室のみなさまに深く感謝申し上げます。

- 88 - 引用文献

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- 97 - Studies on structure and conservation biocontrol use of ground beetle assemblages

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Yoshitake Kagawa

SUMMARY

Agricultural landscapes generally include farmland, such as fields or orchards, and semi-natural habitats (non-crop vegetation), such as woodlands, hedgerows, or grasslands. In Japan, such a mixed rural landscape is called satoyama. The conservation of semi-natural habitats enhances the number of natural enemies present in farmlands (conservation biological control), because many predatory invertebrates require a variety of habitats to complete their life cycle. Ground beetles

(Coleoptera: Caraboidea), which have been studied intensively in Europe and North America, are considered beneficial arthropods as they are generalist natural enemies of various agricultural insect pests. They are ubiquitous in agricultural landscapes and prey on a great variety of pest insects. Semi-natural elements, such as hedgerows or woodlands, are important overwintering habitats or temporary refuges for ground beetles.

In this study, first of all we studied the distribution and habitat preference of ground beetles in the satoyama landscape. To conserve ground beetles in practice, it is necessary to understand their population structure and consider the spatial and temporal changes in their distribution and the movements of adults of both sexes and of larvae. Therefore, we studied the distribution and movement of C. yaconinus in detail, which commonly inhabits farmland-woodland landscapes. We also investigated the predatory ability of C. yaconinus on the larvae of an agricultural pest,

Spodoptera litura (Lepidoptera: Noctuidae), in the laboratory. Based on these results, we summarize the theory of using ground beetles for conservation biological control in an agricultural landscape.

- 98 - (1) We captured ground beetles in an agricultural landscape that included paddy fields, pasture, orchards, and woodland, for the purpose of comparing the number of species and species diversity among vegetation types. Forty species of carabids and brachinids were captured from May 2003 to

January 2004. The subfamily Callistinae, which includes active predators of lepidopteran pests, was captured mainly in pastures and orchards. The subfamilies Zabrinae and Harpalinae, which contain many omnivorous species, were most abundant in paddy fields. Carabus yaconinus, which typically inhabits woodlands, was also frequently captured in orchards neighboring woodlands.

The species composition of ground beetles was similar in paddy fields and pastures, as well as in orchards and woodlands.

(2) To determine the environmental factors that affect the habitat preference of ground beetles, we placed traps in paddy fields, bamboo thickets, orchards, woodlands. We collected ground beetles from the traps and at the same time measured soil moisture, weed height, and the distance to the nearest woodland. We captured 36 species of carabids from March 2004 to January 2005. Carabus yaconinus was found in 20 (80%) of the 25 plots. Harpalus spp. and Amara spp. were caught in many plots, indicating their broad habitat preference. Harpalus spp. and Amara spp. were greatly affected by soil moisture, and Chlaenius spp. and C. yaconinus were affected by weed height and the distance to the nearest woodland.

(3) We placed a large number of pitfall traps along the border between a woodland and an orchard and counted the number of C. yaconinus adults and larvae caught in the traps from 13 April to 28

June 2005. Some of the adults were marked before being re-released. Adults were most abundant at the edge of the wood, and their number gradually decreased with distance into the wood. In contrast, larvae were only found in the woodland interior, although they moved closer to the edge of the wood as they matured. Adult females were collected within woodland and neighboring orchards more frequently than were adult males. Females likely enter woodlands in search of oviposition sites and leave woodlands in search of high-protein food sources to support

- 99 - reproduction. Woodlands at least 60 m wide are required adjacent to farmland to sustain populations of C. yaconinus.

(4) Carabus yaconinus adults preyed on ca. 90 Spodoptera litura 2nd-instar larvae per adult in 24 h. The number of 3rd-, 4th-, and 5th-instar larvae killed in 24 h was ca. 40, 30, and 20, respectively.

The wet weight of S. litura larvae killed in 24 h by a single C. yaconinus increased with the larval stage of S. litura and was highest for the 5th-instar stage. C. yaconinus adults occasionally left the predation unfinished and bit another live prey. The proportion of half-eaten prey varied with the larval stage of the prey. C. yaconinus can efficiently kill large numbers of S. litura larvae; thus, it may play an important role as a natural enemy of lepidopteran pests in agricultural fields.

(5) We showed that a complex landscape characterized by a crop–noncrop mosaic is required for the diversity of ground beetles and conservation biological control to promote them. In conclusion, it is possible to design a landscape consisting of fields and suitable habitats and corridors for predatory arthropods if one understands the ecology of these beneficial insects. Thus, detailed study of the main predatory arthropods is important for promoting conservation biological control.

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