関東地方で2018年に発見された北米原産のナガカメムシneortholomus
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Rostria, No. 63, 2019 87 関東地方で2018年に発見された北米原産のナガカメムシ Neortholomus scolopax 中 谷 至 伸1・友 国 雅 章2・野 澤 雅 美3・奥 田 恭 介4・相 馬 純5 Discovery of a North American lygaeid bug, Neortholomus scolopax, from Kanto district, Japan. Yukinobu NAKATANI1, Masaaki TOMOKUNI2, Masami NOZAWA 3, Kyosuke OKUDA4 & Jun SOUMA5 筆者らは関東地方から北米原産のナガカメムシ,Neortholomus scolopaxを発見したので報告 する.著者の一人野澤が2018年7月に埼玉県の秩父市大滝でヒメナガカメムシ属Nysius DALLAS, 1852に似た見慣れないカメムシを採集したことから,著者らが手持ちの標本や野外での調査を行 ったところ,これまでに茨城,群馬,埼玉,千葉,東京,神奈川の各都県に生息していることが確 認された.我が国ではこれまで,ヒメナガカメムシ亜科Orsillinaeにはヒメナガカメムシ属の5種のみ が知られており(NAKATANI 2015),また,2017年以前に本種は全く採集されていないことから,ご 事務局だより く近年に国内に侵入した外来種の可能性が高いと考え文献を調べたところ,北米産の Neortholomus scolopaxに該当することが判明した.近年,半翅類の外来種が多く報告されている 会費の納入をお願いします が(cf. 安永ら 2016;セミ外来種調査グループ 2017など),本種も何らかの経路で少なくともここ 日頃より,日本半翅類学会の活動に対しまして,ご支援,ご協力いただき厚く御礼申し 数年のうちに国内に侵入したものと考えられ,今後分布域を拡大していく可能性が高い.これまで 上げます.本会の活動は会員の皆様方の会費に支えられております.今後,さらに発展し のところ,農作物の被害等は報告されていないが,アカバナ科を主要な寄主植物としていることか ていくためにも,引き続き会員継続と会費の納入をお願い申し上げる次第です.年会費と ら,園芸植物を加害する可能性もあり,分布拡大には注意する必要がある. 振込先は下記の通りです.既に納入済みの際にはご容赦ください. 本文に先立ち,ご校閲の労をとられた石川 忠博士(東京農業大学)に深く感謝申し上げるとと もに,寄主植物の同定にご協力いただいた吉村泰幸博士(農業環境変動研究センター),標本 年会費:2,000 円 のご提供をいただいた田中絵里氏(同上),田悟敏弘氏(川口市)に厚くお礼申し上げる. 郵便振替口座:00160-4-34101:日本半翅類学会 ツマベニヒメナガカメムシ(新称)Neortholomus scolopax (SAY, 1831) なお,本会の会計年度は 10 月に始まり,翌年の 9 月に終わります.そのため,通例の [採集データ] Ibaraki: Tsukuba, Kannondai[つくば市観音台], 36°01'43"N 140°06'37"E, 会計年度より半年遅れとなっており,現在は 2018(平成 30)年度会計となっています.こ 17.x.2018 (5♂4♀), Y. NAKATANI leg. (NIAES); Oarai, Isohamacho[大洗町磯浜町], 36°18'43"N れは極めて異例なことと思いますが,本会創設以来の事情です.このことについて誤解さ 1農研機構 農業環境変動研究センター れている会員が多いようなので,改めて説明した次第です. 2国立科学博物館 3埼玉県立自然の博物館外部研究者 4CTI アウラ環境部 5東京農業大学昆虫学研究室 (この記事を○○ページの余白に挿入してください) 88 Rostria, No. 63, 2019 140°34'44"E, 18.x.2018 (3♂1♀), E. TANAKA leg. (NIAES); Tsukuba, Higashiarai[つくば市東新井], 36°04'27"N 140°06'44"E, 20.x.2018 (1♂6♀), Y. NAKATANI leg. (NIAES). Gunma: Tsumagoi, Kambara[嬬恋村鎌原], 31.v.2018 (1♀), K. OKUDA leg. (NIAES). Saitama: Chichibu, Otaki, Kawamata[秩父市大滝川又], 14.vii.2018 (1♂), M. NOZAWA leg. (NIAES); Chichibu, Otaki, Irikawa[秩父市大滝入川], 14.vii.2018 (2♂1♀), K. OKUDA leg. (NIAES & NSMT); Saitama, Midori, Daido[さいたま市緑区大道], 21.vii.2018 (2♂4♀), K. OKUDA leg. (NIAES & NSMT); Kawaguchi, Aokicho[川口市青木町], 18.viii.2018 (1♂), T. TAGO leg. (NIAES); Niiza, Nishibori [新座市西堀], 8.ix.2018 (9♂3♀), 12.ix.2018 (19♂20♀), on Oenothera laciniata, M. TOMOKUNI leg. (NSMT); Niiza, Owada, right bank of Yanase R.[新座市大和田柳瀬川右岸], 8.ix.2018 (1♂1♀), M. TOMOKUNI leg. (NSMT); Matsubushi, Okawado [松伏町大川戸], 35°56'44"N 139°49'25"E, 20.ix.2018 (22♂10♀), Y. NAKATANI leg. (NIAES); Yoshikawa, Fukaishinden[吉川市 深井新田], 35°54'13"N 139°52'42"E, 5.x.2018 (1♀ collected at final instar nymph and emerged in 14.x.2018), Y. NAKATANI leg. (NIAES). Chiba: Nagareyama, Fukaishinden[流山市深井新田], 35°54'36"N 139°52'43"E, 5.x.2018 (17♂10♀), Y. NAKATANI leg. (NIAES). Tokyo: Kiyose, Nakazato, left bank of Yanase R.[清瀬市中里柳瀬川左岸], 22.x.2018 (7♂3♀ 8 nymphs), on O. biennis and dead O. glazioviana, M. TOMOKUNI leg. (NSMT); Higashimurayama, Aoba, Tamazenshoen[東村山市青葉町多摩全生園], 22.x.2018 (3♂1♀ 1 nymph), on O. laciniata and O. rosea, M. TOMOKUNI leg. (NSMT); Higashimurayama, Onta[東村山市恩多町], 22.x.2018 (2♂ 1 nymph), on O. rosea, M. TOMOKUNI leg. (NSMT). Kanagawa: Zama, Nittajuku[座間市新田宿], 35°28'36"N 139°22'45"E, 6.x.2018 (8♂3♀ 1 nymph), J. SOUMA leg. (TUA); Ebina, Kamigo[海老 名市上郷], 35°28'05"N 139°22'53"E, 6.x.2018 (20♂15♀ 7 nymphs), J. SOUMA leg. (TUA); Atsugi, Onna[厚木市恩名], 35°26'23"N 139°21'24"E, 7.x.2018 (3♂2♀ 1 nymph), J. SOUMA leg. (TUA); Atsugi, Funako[厚木市船子], 35°25'58"N 139°20'49"E, 31.x.2018 (1♂1♀) , J. SOUMA leg. (TUA). 所蔵機関略称(NSMT: 国立科学博物館; NIAES: 農業環境変動研究センター; TUA: 東京農 業大学) 体長♂4.3–5.3 mm,♀5.1–5.9 mm.黄ないし灰褐色地に不規則な黒色斑があり,背面は短い伏 臥毛に覆われる.脚は黄褐色で腿節に黒斑を具え,個体によっては広く暗化する.脛節の基部と 先端部は暗化する.半翅鞘は半透明で翅脈上に黒点をもつものが多く,革質部の先端部は橙色. ヒメナガカメムシ類とは,大型であること,背面から見て結合板が半翅鞘より張り出していることで 区別できる(Fig. 1).幼虫はやや灰色がかった褐色でやや扁平,不規則な黒色斑や白点をちり ばめた色彩をしている(Fig. 2).飼育下の観察では,羽化直後の成虫の革質部先端に橙紋はな いが,羽化後4–5日経過すると赤みを帯びてくることが確認された.この橙紋が本種の判りやすい 特徴である. 河川の堤防や水田畦畔といった草地に生息し,マツヨイグサ属のメマツヨイグサOenothera biennis L.,オオマツヨイグサO. glazioviana MICHELI,コマツヨイグサO. laciniata HILLやユウゲショ ウO. rosea L'HÉR. ex AITONなどから多数採集された.また,ペパーミントMentha × piperita L.から Rostria, No. 63, 2019 89 Figs. 1–4. 1, Neortholomus scolopax成虫♂(松伏町);2, N. scolopax終齢幼虫(流山市);3, メマ ツヨイグサ果実上に集まる本種(松伏町);4, 本種が生息していたメマツヨイグサ群落 (松伏町). も幼虫が得られている.埼玉県松伏町の生息地では,メマツヨイグサの果実上に多数の個体が群 生していた(Figs. 3, 4).厚木市の生息地ではメマツヨイグサの枯死した果実に多数の成虫・幼虫 が生息していた.また,飼育下ではメマツヨイグサの果実だけでなく茎や葉柄から吸汁していると ころも観察されたが,枯死した果実を与えたところほとんどの個体がそこに移動した.このことから 餌資源として植物体も利用するが,種子を好んで吸汁するものと思われる. 本種は永らくOrtholomus STÅL, 1872の一員であったが,HAMILTON (1983)はNeortholomusを 設立し,新大陸産の種をそれに含めた.彼によると,本種は大きさと色彩が変異に富み,著しく広 食性の種で,寄主としてアカバナ科,シソ科をはじめ13科の植物が記録されているという. Summary In 2018, a North American lygaeid bug, Neortholomus scolopax (SAY, 1831) was found in Kanto district, Japan for the first time. In our urgent survey, this species was collected from Ibaraki, Gunma, Saitama, Chiba, Tokyo and Kanagawa prefectures. Since this bug appeared suddenly in Japan in 2018, 90 Rostria, No. 63, 2019 it is considered to be introduced very recently from its original habitat. Many adults and nymphs were found on Oenothera bienni, O. glazioviana, O. laciniata and O. rosea (Onagraceae), and a nymph was found on Mentha × piperita (Lamiaceae) as well. 引用文献 HAMILTON, S. W., 1983. Neortholums, a new genus of Orsillini (Hemiptera–Heteroptera: Lygaeidae: Orsillinae). The University of Kansas Science Bulletin, 52: 197–234. NAKATANI, Y., 2015. Revision of the lygaeid genus Nysius (Heteroptera: Lygaeidae: Orsillinae) of Japan, with description of a new species. Entomological Science, 18: 435–441. セミ外来種調査グループ(林 正美・碓井 徹編), 2017. 日本から新たに確認されたセミ外来種. Cicada, 24:1–19. 安永智秀・穆 怡然・長島聖大・山田量崇・高井幹夫, 2016. 最近日本に侵入した外来カスミカメ ムシ:Mansoniella cinnamomi. Rostria, (60): 17–20. (2018年11月7日受領) 事務局だより 入会のごあんない 日本半翅類学会への入会を希望される方は,氏名(ふりがなおよびローマ字つづりを併 記してください),住所(会誌の送付先として扱います),電話番号,E-mail アドレスを本 会事務局(下記)へご連絡ください.会費は,下記の郵便振替口座へご送金ください.年 会費は,会計年度に合わせて 10 月 1 日~翌年 9 月 30 日分とします. 事務局:〒305-8604 茨城県つくば市観音台 3-1-3 農研機構 農業環境変動研究センター 環境情報基盤研究領域 昆虫分類評価ユニット 中谷至伸気付 日本半翅類学会事務局 電話:029-838-8348 E-mail:[email protected] 郵便振替口座:「00160-4-34101:日本半翅類学会」 年会費:2,000 円 (この記事を○○ページの余白に挿入してください) .