The Sessile Organisms Society of Japan
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Sessile Organisms 23(1):1-15 (2006) The Sessile Organisms Society of Japan フジツボ類の分類お よび鑑定の手引き 山口寿之1), 久恒義之2) 1)千葉大学海洋バイ オシステム研 究セ ンター 〒263-8522 千葉 県千葉 市稲 毛区弥生町1-33 2)東京都立 向島工業 高等学校 〒131-0043東 京都墨 田区立花 四丁 目29-7 Taxonomy and identification of Japanese barnacles Toshiyuki Yamaguchi1) and Yoshiyuki Hisatsune2) 1) Marine Biosystems Research Center, Chiba University, 1-33 Yayoi, Inage, Chiba 263-8522, Japan 2) Mukohjima Technological Highschool, 4-29-7 Tachibana, Sumida, Tokyo 131-0043, Japan (Accepted December 14, 2005) (キ ー ワ ー ド: フ ジ ツ ボ 類、 分 類、 鑑 定) 蔓脚類 は固着性で、 一般 に小型の石灰質 の殻 を持つ 甲 にも生息 す る。 海洋 の プ レー ト境界、 海 洋 プ レー トの 殻類 である。 フジツボ、 カ メノテ、 エ ボシガイ がその代 (収束域 であ る) サブダ クシ ョン、 それ に伴 って形成 さ 表 で、 つるあ し類 とも呼ばれ る。固着生活へ の適応 のた れ る背弧海盆 には、海底火 山活動 または冷湧水活動 があ め、形 態の特殊化 が著 しく、 フジ ツボ類 は長い間 甲殻類 る。深海 の熱水 ・冷湧水活動域 にはそ こに固有 の原始 的 の一員 である とは思われなか った。 な蔓脚類 が生息す るこ とが1970年 代後 半知 られる よ うに 蔓脚類 は19世 紀前半まで、 軟体動物の一員 と見 な され な った。 地表近 くに棲む生物 は, みな太 陽の恵 みを受 け ていたが、 甲殻類 に共通す るノープ リウス幼生期 を経 る てい る。我 々です ら直接 または間接 に太 陽の光で光合成 ことが明 らかにな り甲殻類に含 められた。 脱皮 ご とに変 をす る植物 を摂取 して, そのエネルギーを利用 している。 態す る 自由遊泳性 の6期 の ノープ リウス幼生期 とそれ に 深海の熱水噴 出孔 には太 陽光 は到達せず, エネル ギー源 続 く1期 のキプ リス幼生期 を経て固着生活 に移 る。体 は と しての光 を利用 できない。熱水や冷湧水 に含 まれ てい 基本 的には頭 部5体 節、 胸部6体 節の体制か らな り、腹 る硫黄 な どの無機物お よび それ を摂 取す る細 菌 (バクテ 部 の体節 は退化 してい る。頭部の各体節は前か ら順 に第 リア) が, それぞれ地表 での光エネル ギーおよび植物 に 一触角、 第 二触角、 大顎、 第一小顎、 第二小顎の対 をな 相当 し, それ らが熱水噴 出孔周辺の生態系の根幹 をなす。 す付属肢 を持 つ。 大顎の前に 口が あ り、大顎 を含 めた後 そん な特異 な生態系 に全 く未知 の動物 が生息 しているこ ろ3対 の付属肢 が 口器 と呼ばれ る。胸部の各体節 には対 とだ けで なく, それ らが非常 に原始 的であるこ とに驚 き をなす二叉型 で、つ る (蔓) 状の摂食用の付属肢 を持つ。 を持 って注 目され るよ うになった。 またそれ らの原始 的 固着 は頭部 の第一触 角を用いて付着 し、そ こに開 口す る な分類群の研究 は、蔓脚類 の系統進化 の理解 を大 き く変 セ メン ト腺か らセメン ト物質 を分泌 して固着が成 し遂 げ えて きた (山口1994)。 られ る。体 は外套膜 に包 まれてい るか、 または外套膜 の 浅海域の汽水域 を含む淡水 の影響 を受 ける低塩分濃度 外側 に分泌 され る石灰質の殻板 によって保護 され てい る。 の河 口にも生息す るが、淡水性 の種類 はない。岩や 貝な 性 的特徴 は雌雄 異体か雌雄 同体で、 交尾後受精卵 は雌 ま どに付着す るだ けで なく、 回遊性大型生物 であるカメ、 たは雌雄 同体個体 の外套膜 内で保 育 され、 ノープ リウス イルカ、 クジラの体表 にも見 られ る他、 生 きた他 の甲殻 幼生 と して海水 中に放 出される。雌雄異体の場合、 雄は、 類、 棘皮動物、 刺胞動物 な どにも付着す る。分布 は海水 雌 または雌雄 同体個 体 よ りもは るかに小型で、 大型のそ 温、 深度、 内湾度、 潮汐 の規模、 河川水 の流入 の程度、 れ らの個体 に寄生す る (Newman et. al, 1969, Newman 波浪の強 さ、付着対象物 の種 類、共存生物 な どによって 1976, 1987)。 決ま る。最近 は船底 に付着 して新天地 に分布 を広 げる例 地理 的には、 北極海 か ら南極海 まで地球上の全ての海 も少な くない。 例 えばオー ス トラ リア ・ニュー ジー ラン 域 に知 られ、 垂 直的には潮 間帯か ら水深数千mの 深海底 ド地 域 か ら英 国 へ 移 住 した ヨツ フ ジ ツ ボ Elminius 2 Sessile Organisms, vol. 23, no.1, 2006 C A B D 図1. フ ジ ツ ボ類 の 形 態 A.エ ボ シ ガ イ 亜 日、 エ ボ シガ イ、 右 側 か らの 外 観、1.3倍、B.エ ボ シ ガ イ 亜 目、Lepas sp.、 右 側 の 殻 板 や 外 套 膜 な ど を取 り除い た 状 態 (Claus、 よ り)、C.ミ ョ ウ ガ ガ イ 亜 目、Pollicipes polymerus Sowerby、 頭 状 部 の 右 側 の石 灰 質 殻 板 を 取 り除 い た 状 態 (Newman ら、1969のNewmanよ り)、D.フ ジ ツ ボ亜 目、Balanus amphitrite Darwin、 右 側 の 石 灰 質 殻 板 と外 套 膜 を 取 り除 い た 状 態 (Newman ら、1969のNewmanよ り)。1.頭 状 部、2.柄 部、3.背 板、4.楯 板、5.峰 板、6.蔓 脚、7.口 器、8.胸 部、9.セ メ ン ト腺、10.第 一触 角 (付着 板)、11.肛 門、12.雌 の 生殖 器 開 口部、13.卵 巣、14.精 巣、15.雄 の生 殖 器、16.外 界 との 開 口部。 modestus (Darwin 1854)が 有名 で、 日本 で もア メ リカ フ 良 く目にす る分類群 まで広 げた。分類 上の区分基 準は主 ジツボ、 ヨー ロッパ フジツボな どの外 国種の移住が知 ら に肉眼的な殻板形態 を示 し、軟体部 の形態 は分類群 を同 れ る。 定す るた めの必要最小限度 の微細構造 に とどめ る。 蔓脚 (亜綱) 類 (Subclass Cirripedia) 完胸超 目 THORACICA 分類は進化論で著名 なチ ャール ス ・ダー ウィンの功績 種々の生物 あるい は非生物体 の表 面に固着 す る雌雄 同 が大 き く、1859年 に出版 した 『種の起源 』 に先 だっ て 体また は異体の蔓脚類。 外套膜 が一般 に石灰 質殻板で保 1851年 お よび1854年 にま とめた現 生お よび化石種それぞ 護 されてい る。筋 肉の柄 を持つ有柄 目とそれを失った無 れ2冊 ずつ計4冊 のモ ノグラフ (Darwin 1851a1 1851b, 柄 目とに分類 され る。有柄 目はエボシガイ亜 目、 ミ ョウ 1854a, 1854b) は、現在 でも蔓脚類研 究の原典 となって ガガイ亜 目な ど、無柄 目はブラキ レパ ドモル フ ァ亜 目、 い る。 しか しダー ウィンが記載 し1980年 後半代まで続 い ハナカ ゴ亜 目、フジツボ亜 目か らな る。石灰 質の殻板 を てい た蔓脚 類 を5つ の 目 (完胸 目、尖胸 目、嚢胸 目、根 持つた めに化石記録 は豊 富で、 古 くは古生代 カ ンブ リア 頭 目、無脚 目) に区分す る とい う分類 体系は大 き く変 え 紀 中期 (約5億5千 年前) まで遡れ る (Newman et al., られた。 唯一 の個体 (Proteolepas bivincta) に基づ い 1969, Newman 1987)。 た無脚 目 (Apoda) は、 蔓脚類で はな く軟 甲類 (亜綱)、 古生代まで系統が遡れ る原始 的なグル ープは、 エボシ 等脚類 (目) のCrinoniscus属 で あるこ とが確認 された。 ガイやカ メノテ のよ うに筋 肉でできた柄 を持つ有柄 目の また寄生性の グルー プのの う (嚢) 胸 目お よび根頭 目は 仲間で ある。化石記録 で、最 も原始 的な分類群 は、頭 状 厳密な意味で の蔓脚類 ではな く、それぞれ蔓脚類 か ら独 部や柄部が キチ ン質 または石灰 質の殻板 で保護 され、海 立 した亜綱 であ る嚢胸 類 (Ascothoracida) お よび根頭 生の大型の節足動物広翼 類な どの皮膚 の上に筋肉の柄 部 類 (Rhizocephala) とされ た。 これ ら三つの分類群 が除 を付着 させて生活 していた。 かれた結果、 蔓脚類 は特徴 な生活様 式 を持つ2分 類群、 進化の次の段階 として柄部 を失 い、頭状 部が直接 物体 つま り尖胸超 目 (この手 引きでは扱 わない) と完胸超 目 に付着 したブ ラキ レバ ドモル フ ァ亜 目が中生代ジ ュラ紀 とに大別 され る。 (約1億7千 万年前) に出現 し、それ らの大半 の分類 群 この小論 は、蔓脚亜綱 の うち尖胸超 目を除 く完胸超 目 は新生代第三紀 中新世 (約1千5百 万年前) に絶滅 した。 フジツボ類全般 の分類 の概 要を解説 し、 日本 の海岸 の潮 しか し深 海 熱 水 噴 出 孔 に生 残 して い る こ とが判 っ た 間帯や浅海域 に普通 に見 られ る分類 群 を解説す る。1986 (Newman and Yamaguchi 1995)。 次 いで周殻 と蓋板 の配 年 に同 じ恒星社厚生 閣か ら付着 生物研 究法-種 類査定 ・ 置が左右非対称 なハナ カゴ亜 目お よび左右対称 なフジツ 調査法- (付着生物研 究会編) を出版 した (山 口1986) ボ亜 目は、 中生代 白亜紀後期 (約7千 万年前) になって が、 この20年 間に特 にイ ワフジツボ超科、 クロフジツボ 出現 した。 完胸類で は形態 的特徴、 個体発 生、神経 系、 超科、 タテ ジマ フジツボ種群 な どに関 して分類学的研究 化石記録な どか らエ ボシガイ亜 目が原始 的で、他 の亜 目 に大 きな変化 があった。本 書はア ップ ツーデー トな内容 はエボシガイ亜 目のカメノテ様 の分類群か らそれぞれ別々 に大幅 に改訂 し、かつ 取 り扱った分類群 も 日本の海岸 で に進 化 した と考 え られ てい る (Newman et al., 1969, フ ジ ツ ボ 類 の 分 類 お よび 鑑 定 の手 引 き 3 A B C D E F G 図2. フ ジ ツ ボ 類 の 部 位 説 明 A~E.タ テ ジ マ フ ジ ツ ボ の 殻 板; A.周 殻、B.楯 板 (scutum) の 外 面、C.楯 板 の 内 面、D.背 板 (tergum) の 外 面、E.背 板 の 内 面、F.カ メ ノ テ の 殻 板、G.カ ル エ ボ シ の 殻 板。1.楯 板、2.背 板、3.輻 部、4.翼 部、5.主 壁 (parietes)、6.殻 底 (base)、7. 関 節 隆 起 (articular ridge)、8.関 節 溝 (articular furrow)、9.閉 殻 筋 痕 (pit for adductor muscle)、10.閉 殻 隆 起 (adductor ridge)、 11.下 制 筋 痕 (pit for lateral depressor muscle)、12.距 (spur)、13.下 制 筋 裂 刻 (crests of lateral depressor muscle)、14.嘴 板、15. 亜 階 板 (subrostrum)、16.峰 板、17.亜 峰 板 (subcarina)、18.側 板、19.柄 鱗、20.頭 状 部、21.柄 部。 Newman 1987, Newman and Yamaguchi 1995)。 ま た そ れ エボシガ イ亜 目 Lepadomorpha Pilsbry, 1916 (中生代 らの各分類群の系統進化の理解についても深海熱水 ・冷 三畳紀後期?ま たは第三紀 暁新世 ~現在) 湧水噴出孔から採集 された各亜目の最も原始的な分類群 次の科含 め3科 か らなる。 などの研究を通 じて、 より信頼性の高い理解に到達 した エボ シガイ科 Lepadidae Darwin, 1852 (中生代 三畳紀 こ と を 再 度 書 き と め て お き た い (Newman 1979, Newman 後期また は第三紀漸新世後期~現 在) and Hessler 1989, Yamaguchi and Newman 1990, 1997a, 頭状部は5枚 また は2枚 の殻板 で被 われ ているか、 また 1997b, 1997c, Yamaguchi 1998, Yamaguchi et al. 2004)。 は裸。 柄部 は裸で ある。世界 に1絶 滅属 を含 め6属、 日 本に3属 知 られてい る。 有 柄 目 Pedunculata Lamarck, 1818 Lepas Linnaeus, 1758 (中生代三畳紀後期?ま たは第 三 頭 状 部 と柄 部 と か ら な る。 頭 状 部 は 一 般 に 石 灰 質 殻 板 紀始新世~現 在) で 保 護 され て い る か 裸 で あ る。 柄 部 は 筋 肉 か ら な り、 石 エボ シガイ Lepas anatifera Linnaeus, 1778 (図版1-a) 灰 質 殻 板 で 被 わ れ て い る か 裸 で あ る。 世 界 に は1絶 滅 亜 白色の頭状部 と肌色 の柄部 とか らなる。頭状部 は5枚 目 と次 の3亜 目 を 含 む5亜 目21科 知 ら れ る。 の薄い殻板 (峰板、 対の楯板 と背板) か らなる。 それ ら ケ ハ ダ エ ボ シ ガ イ 亜 目 Iblomorpha Newman, 1987 (古 生 の殻板表面は平滑で、 成長線だ けが見 られ る。一般 に頭 代 カ ン ブ リ ア 紀?~現 在) 状部 は2~3cmで ある。柄部は石灰質殻板 を持たず、 裸。 ケ ハ ダ エ ボ シ 科 Iblidae Leach, 1825 その大 きさは個体 によって著 しく異 な り、長 さ10cmを 頭 状 部 は 弱 く石 灰 化 し た 対 の 楯 板 と 背 板 の 全 部 で4枚 越 す もの さえある。 ほぼ太平洋全域 に分布す る。浮遊物 の殻板からなる。柄部はキチン質の長い毛によって被わ 体に群生 して付着 し、浮漂生活 をす る。近縁種 にカルエ れ て い る。 潮 間 帯 な い し深 海 に 生 息 す る。1属5種 知 ら ボシが有 り、これは殻板表面 には成長線の他 に放射状の れ る。 溝 が有 り、柄 が極端に短い ことで 区別 され る。 この ほか ケ ハ ダ エ ボ シ Ibla cumingi Darwin, 1854 (現 在) エボシガイ科には、 クラゲに付着するクラゲエボシ 科 の 説 明 と 同 じ。 頭 状 部 は 鳥 の く ち ば し状 で、 幅 数mm、 Alepas pacifica、 魚 の外皮 に寄生す るカイ アシ亜綱 ウ 高 さ 数mm程 度。 柄 部 は ほ ぼ 楕 円 形 を し て い て、 一 般 に 頭 オジ ラミ類 のペ ンネ ラ Pennella に付着す るスジエ ボシ 状 部 よ り も 幅 が 広 く、 数mm~1cm、 長 さ は1cm程 度。 カ Oonchoderma virgatum な どがある。 メノテの柄部に付着 したり、大型のフジツボ類の集団の カルエボシ Lepas anserifera Linnaeus, 1778 隙間やイワホリミョウガが掘った穴に生息している。 し エボシガイに類似 す るが、 小型で、 平たい。 一般 に頭状 か し発 見 の 機 会 は 少 な い。 紀 伊 半 島 以 南 の 暖 流 域 に 発 見 部 は1~3cmで あ る。柄 部は裸で、 長 さは短 く、一般 に さ れ る。 1cm以 下であ る。頭状部の殻板表面 には浅い放射状の多 数 の溝 があ ることで平滑なエボ シガイ と区別 され る。一 4 Sessile Organisms, vol.