沖縄島で採集された日本初記録のヒカリキンメダイ科 オオヒカリキンメ Photoblepharon Palpebratum
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魚類学雑誌 61(1):27–31 短報・Short Report 2014 年 4 月 25 日発行27 沖縄島で採集された日本初記録のヒカリキンメダイ科 オオヒカリキンメ Photoblepharon palpebratum 小枝圭太・藤井琢磨・吉野哲夫 〒 903–0213 沖縄県中頭郡西原町字千原1番地 琉球大学理学部海洋自然科学科 (2013 年 10 月 17 日受付;2013 年 12 月 25 日改訂;2014 年 1 月 7 日受理) キーワード:Photoblepharon palpebratum,オオヒカリキンメ,オオヒカリキンメ属,ヒカリキンメダイ科,沖縄島 Keita Koeda*, Takuma Fujii and Tetsuo Yoshino. 2014. First record of the eyelight fish Photoblepharon palpebratum from Okinawa Island, Japan. Japan. J. Ichthyol., 61 (1): Japanese Journal of 27–31. Ichthyology © The Ichthyological Society of Japan 2014 Abstract A single specimen of Photoblepharon palpebratum (Boddaert, 1781), formerly limited to the tropical western Pacific, was collected from Okinawa Island, Japan at a depth of 1 m. The specimen was characterized by the following combination of characters: single dorsal fin with 3 spines; a black shutter lifting to cover the subocular organ; a large white spot on the dorsal corner of the opercle; pelvic-fin rays I, 6. The tiny first dorsal- fin spine was identified from a radiograph. The specimen represents the first record of P. palpebratum from Japan and is the northernmost record of the species. The specimen produced a total of 273 eggs, but those were probably postmaturity. *Corresponding author: University of the Ryukyu, 1 Senbaru, Nishihara, Okinawa, 903– 0213, Japan ([email protected]) カリキンメダイ科 Anomalopidae はキンメダ は P. palpebratum の北限記録であるとともに,日 ヒイ 目 に 属 し, 世 界 で 6 属 9 種(Eschmeyer, 本初記録となるため,ここにその形態を詳細に記 2013), イ ン ド・ 太 平 洋 で 4 属 7 種, 本 邦 に は 載し,また本種の生態に関する断片的な知見につ ヒ カ リ キ ン メ ダ イ Anomalops katoptron(Bleeker, いても報告する. 1856)のみが分布するとされる(林,2013).ヒ 標本の計数方法は Baldwin et al.(1997)に,計 カリキンメダイ科はおもに浅海域に生息する夜行 測方法は Ho and Johnson(2012)に従った.標準 性魚類であるが,本邦のヒカリキンメダイは亜深 体長は体長と略記した.計測はデジタルノギスを 海性であることが知られる(林,2013).著者ら 用いて 0.1 mm 単位で行い,体長に対する百分率 は,2013 年 5 月 22 日に沖縄島恩納村真栄田付近 (%)で示すとともに,頭部の形質に関しては頭 の半海中洞窟の入り口(水深約 4 m)において明 長に対する百分率(%)も併記した.脊椎骨の計 瞭な発光器をもつヒカリキンメダイ科魚類を確認 数には,軟 X 線写真を用いた.なお,本研究で した. その後,2013 年 8 月 4 日には, 同一個体 用いた標本は琉球大学理学部(URM-P)に所蔵 を同洞窟内の水深 1 m 地点で採集した.この標本 されている. は,背鰭が 1 基であること,発光器の下に伸縮性 の黒い膜を有し,それが伸長することで発光器 Photoblepharon palpebratum(Boddaert, 1781) が覆われ光が遮断されること,主鰓蓋骨の上部 オオヒカリキンメ に白色斑を有することなどにより Photoblepharon (Figs. 1, 2) palpebratum(Boddaert, 1781)と同定された.これ 28 小枝圭太ほか Fig. 1. A: Photoblepharon palpebratum, URM-P 47588, 85.1 mm, Cape Maeda, Okinawa Island, Japan; B: underwater photograph of Photoblepharon palpebratum (URM-P 47588) from “Ao-no-Doukutsu” at Cape Maeda, Okinawa Island (taken at 2 m depth by K. Koeda); C: illustration of Photoblepharon palpebratum in Boddaert (1781). 記載標本 URM-P 47588,1 個体,雌,85.1 mm, 眼窩径 11.9%,38.6%;両眼間隔 9.0%,29.1%;発 沖 縄 島 恩 納 村 真 栄 田(26˚26'33″N, 127˚46'24″E), 光器径 15.1%,48.6%;背鰭前長 41.9%;腹鰭前長 半海中洞窟,水深 1 m,小枝圭太・藤井琢磨・横 39.7%;臀鰭前長 62.4%;背鰭高 32.2%;背鰭第 1 正 紫,2013 年 8 月 4 日. 棘 長 0.9%; 背 鰭 第 2 棘 長 4.7%; 背 鰭 第 3 棘 長 標徴 本種は背鰭が 1 基,発光器の下に伸縮性 6.4%; 背 鰭 第 1 軟 条 長 10.8%; 背 鰭 第 2 軟 条 長 の黒い膜を有し,それが伸長することで発光器が 14.3%;背鰭第 3 軟条長 17.0%;背鰭第 4 軟条長 覆われ光が遮断される,腹部稜鱗数 5,腹鰭条数 20.0%;背鰭第 5 軟条長 19.6%;背鰭第 6 軟条長 1 棘 6 軟条,側線の延長上にあたる主鰓蓋骨の上 18.7%;背鰭第 7 軟条長 18.1%;胸鰭長 21.1%;腹 部に瞳とほぼ同じ大きさで台形の白色斑をもつ. 鰭長 16.9%;腹鰭棘長 10.6%;臀鰭高 22.5%;臀 記載 本標本の計数形質と体各部の体長(SL) 鰭 第 1 棘 長 1.0%; 臀 鰭 第 2 棘 長 4.6%; 尾 柄 高 も し く は 頭 長(HL) に 対 す る 割 合 を 以 下 に 示 11.7%;尾柄長 26.6%;尾鰭長 26.8%;最短尾鰭条 す: 背 鰭 条 数 III,iii,15; 臀 鰭 条 数 II,ii,11; 長 9.4%. 胸鰭条数 ii,14,i;腹鰭条数 I,6;尾鰭条数 i+9(上 体はよく側扁し,体高は高い.体高は背鰭第 葉),i+8(下葉);側線有孔鱗数 35;体側縦列鱗 1‒3 軟条基部で最大.頭部は大きく,後頭部から 数 96;側線上方横列鱗数 13;側線下方横列鱗数 鼻孔付近にかけてゆるやかに傾斜した後,強く湾 40;腹部稜鱗数 5;背鰭基底稜鱗数 42;臀鰭基底 曲し,吻端ではほぼ垂直.鼻孔は 2 対で,眼窩の 稜鱗数 20;鰓耙数 7+20=27;脊椎骨数 15+16;頭 直前に位置する.開口部は円形で,前鼻孔は鼻管 長 31.0%(体長比);体高 37.4%;体幅 16.6%;吻 を形成する.口裂は強く傾斜する.主上顎骨後端 長 7.9%,25.5%( 頭 長 比 ); 眼 径 10.1%,32.7%; は眼窩前縁直下をわずかに越え,先端は眼下縁と 日本初記録のオオヒカリキンメ 29 ほぼ同じ高さ.下顎は上顎より突出する.前上顎 骨には小さな円錐歯が密集し,複数列からなる歯 帯を形成する.下顎は前方から外側にはみ出すよ うに歯塊を有し,後方にかけて狭い歯帯が伸び る.眼は大きく水平方向にやや長い楕円形.両眼 間隔は広く,吻長より長い.発光器は眼より大き く,水平方向にやや長いソラマメ型で,眼の下約 1/4 を覆い,上縁は瞳に達する.死後,数時間は 毛細血管が多数みられるが,氷蔵下で 12 時間以 内に不明瞭.また発光器は,前部約 1/5 のみ眼窩 下部と膜で接合し,後部は外側に可動する.発光 器下には伸縮性の黒い膜を有する.頭部はほとん ど鱗がないものの,眼窩前端から鼻孔付近,発光 器から吻端付近を除くほぼすべてが微細な円錐型 突起で覆われる.これら円錐型突起は眼窩上部で やや大型で,主鰓蓋骨表面,頣部表面では縞状に 並ぶが,他の部位では不均一.鱗のほとんどは強 い櫛鱗で,鰓孔後縁,腹中線上,肛門周辺,背鰭 基部, 臀鰭基部の稜鱗は,櫛鱗より明瞭に大き い.体側の櫛鱗は不均一に並ぶ.背鰭の棘条間の 鰭膜は切れ込まない.背鰭棘条数は 3 で,そのう ち第 1 棘が第 2,3 棘と比較してきわめて短い. 軟条数は 18 でそのうち,第 1‒3 軟条は分岐せず, 第 4 軟条が最長で以後はゆるやかに短くなる.背 鰭始部は,腹鰭基部と肛門のほぼ中央垂線上に位 置する.臀鰭第 1‒2 軟条は分岐せず,第 3 軟条が 最長で以降はゆるやかに短くなる.胸鰭は短く, 上方へと傾斜し,上部の第 1‒2 軟条および最下部 の 1 軟条は不分岐で,第 3 軟条が最長.腹鰭は背 鰭基部より前に位置し,1 本の柔軟な棘条と 6 本 の分岐軟条からなり,最外側の軟条が最長.鰭を Fig. 2. Luminescent light organ of Photoblepharon 倒すと腹鰭基部と尾鰭基部の中央に達するが肛門 palpebratum (URM-P 47588). には達しない.尾鰭は深く二叉し,上葉下葉とも に先端はやや尖る. 色彩 生鮮時の体色は,体では暗褐色で,頭部 光器は青緑色の光を発するが,暗条件下でのみ発 では黒色.前鰓蓋骨および間鰓蓋骨の下前隅には 光が認められる(Fig. 2).自然下においては,水 小さな白色斑があり,眼窩後背部には U 字型で 深 2‒3 m 付近を遊泳している様子が水面上からで 瞳とほぼ同じ大きさの白色斑を有する.側線の延 も視認できるほど強い光を発する.発光は死後, 長上にあたる主鰓蓋骨の上部に瞳とほぼ同じ大き 数時間続くが,氷蔵下で 12 時間以内に消失する. さで台形の白色斑をもつ.虹彩のほとんどは円状 液侵標本の体色は,体・頭部ともに暗褐色で側 に黒く,前後縁部のみ三日月型に白い.発光器は 線より背側はやや淡い.頭部の白色斑は残る.背 淡黄色.主鰓蓋骨後縁および胸鰭後部における腹 鰭,臀鰭,腹鰭,尾鰭は体と同 じ暗紫色で,各鰭 部体側鱗の露出部外縁,側線有孔鱗,後鼻孔内部 の基部から最長部付近までの外縁は白みがかった は輝青紫色.背鰭,臀鰭,腹鰭,尾鰭は体と同じ 透明.胸鰭は一様に黒色で,基部は白い. 暗褐色.鮮時,各鰭の基部から最長部付近までの 分布 本種は沖縄島およびフィリピン,インド 外 縁 は 白 み が か っ た 透 明 で, 生 時 は 輝 青 紫 色 ネシア,南シナ海,グアム,マーシャル諸島,カ (Fig. 1A).胸鰭は一様に黒色で,基部は白い.発 ロリン諸島,クック諸島,オーストラリア北西 30 小枝圭太ほか 部,ニューカレドニアに分布する(Amesbury and 本種の体長は, 本研究の 85.1 mm や McCosker Myers, 1982;McCosker and Rosenblatt, 1986; and Rosenblatt(1986) の 76 mm と 最 大 で も 100 Kotlyar, 1996;Paxton and Johnson, 2000;本研究). mm に達しないが,日本に分布するヒカリキンメダ 備考 本標本は,眼窩の発光器が回転して発光 イ Anomalops katoptron は体長 200 mm 以上に達する 器嚢に収納される回転型でなく,黒い膜が発光器 こ と が 知 ら れ て い る(McCosker and Rosenblatt, を覆うシャッター型である,背鰭が 1 基である, 1986).このように P. palpebratum は A. katoptron と 腹中線上の稜鱗数が少ないなどの特徴を有し, 比べて明らかに小型の種であるにも関わらず,標 McCosker and Rosenblatt(1986)や Paxton and Johnson 準和名としてオオヒカリキンメが与えられたの (1999)が示した Photoblepharon 属の特徴とよく一 は,本種の発光器がヒカリキンメダイと比較して 致した.McCosker and Rosenblat(t 1986)によると, 大きいことに由来すると考えられる. 本 属 に は 太 平 洋 中 西 部 に 広 く 分 布 す る P. 生態学的知見 本研究においてオオヒカリキン palpebratum と紅海をタイプ産地とし,インド洋 メ が 初 め て 観 察 さ れ た 2013 年 5 月 22 日 か ら 西 部 に 分 布 す る Photoblepharon steinitzi Abe and 2013 年 8 月 4 日の間に計 10 回(19–23 時),恩納 Haneda, 1973 の 2 種が含まれる.本標本は側線の 村真栄田岬付近の洞窟(幅約 5 m,奥行き約 30 延長上にあたる主鰓蓋骨の上部に瞳とほぼ同じ大 m,最大水深 5 m の半海中洞窟)において観察調 き さ の 台 形 の 白 色 域 を も つ こ と か ら,Boddaert 査を行った.その結果,すべての観察時において (1781)が図示した P. palpebratum の特徴とよく一 日没後の 20 時付近に洞窟の奥約 25 m に位置する 致する(Fig. 1C).一方で,同属の P. steinitzi は, 水深約 2 m の横穴から出現し,洞窟内を遊泳する 主鰓蓋骨の上部に白色斑がないあるいは小さいこ 様 子 が 観 察 さ れ た.Morin et al.(1975) は,P. とから本標本とは異なる.本研究で採集された標 steinitzi が,夜間,特に新月に近い日にサンゴ礁 本 の 背 鰭 棘 数 は III で あ り, 先 行 研 究 が 示 す P. 域を活発に遊泳することを報告している.しかし palpebratum の特徴(背鰭棘数 II)と一致しない. 本研究では,初めて観察された日を除き,新月付 この相違は,X 線写真上でのみ確認できるほど背 近においても洞窟の入り口付近や外のサンゴ礁域 鰭第 1 棘が著しく短いために先行研究では見落と では観察されなかった.この理由として,本研究 されていた可能性がある. での観察場所が本来の生息域と比較して人工光に こ れ ま で の 文 献 で は, 本 種 の 種 小 名 と し て より明るかったことや,観察時間が日没後 4 時間 palpebratus が多く用いられてきた(Weber and de に限られていたこと,観察した個体が単独であっ Beaufort, 1929;McCosker and Rosenblatt, 1986; たことなどが関係する可能性があるが,その詳細 Kotlyar, 1996).しかし,本属名は中性であること は不明である.本研究では洞窟内を遊泳中は発光 が示されていることから(Eschmeyer, 2013),種 器が点灯し,追われたり,洞窟内が明るくなると 小名として palpebratum が適切であると判断した. いった危険が迫ると,光を消して逃げる様子が観 従 来, グ ア ム に お け る 観 察 例 は あ る も の の 察された(Fig. 1B).また,音に対してきわめて (Amesbury and Myers, 1982), 標 本 に 基 づ く P. 敏感で,SCUBA で近づくと直ちに光を消して隠 palpebratum の分布北限は,フィリピンのミンド れ 場 所 で あ る 横 穴 へ と 逃 げ 込 ん だ. な お, ロ 島 沖 の Apo Reef(12˚39'N, 120˚25'E) で あ っ た SCUBA を用いずに近づいた観察者に警戒した際 (McCosker and Rosenblatt,1986).本報告により, には光がゆるやかに点滅し,採集時に網にかかっ 本種の分布北限は約 1,600 km 更新された. た時は激しく点滅した.このことから本種は,状 属名の提唱と標準和名 Photoblepharon palpebratum 況に合わせて光を点滅していると考えられた. の和名としては,国外でのダイビングや科学番組, Photoblepharon steinitzi では,索餌や 被食回避,情 水族館の展示等においてオオヒカリキンメダイが 報伝達のために発光器下に収納された膜を上下さ 用いられている場合が多い.しかし、本種には松 せ 光 の 点 滅 を 調 整 す る こ と が 知 ら れ て お り 原(1963)により和名(新称)としてオオヒカリ (Morin et al., 1975;Johnson and Rosenblatt, 1988), キンメが既に与えられており,標準和名としては 本研究で観察された P. palpebratum の行動も,こ これを使用するのが適切である.また本種は,日 れを支持する結果であるといえよう. 本において初めて記録された Photoblepharon の種 本研究で採集された個体の腹部を圧迫したとこ であるため,Photoblepharon にはオオヒカリキン ろ,吸水期と考えられる成熟卵が排出された.こ メ属の新標準和名を提唱する. れらは円形,透明,やや粘着性の浮性卵で,全体 日本初記録のオオヒカリキンメ 31 が白く濁った卵も観察された.排出された卵は Generaal Duymaer van Twist. Acta Soc. Sci. Indo- 272 粒 で, 多 く の 卵 径 は 約 1.5 mm で あ っ た. Neêrl., 1: 1–80. Meyer-Rochow(1976)は,採集した本種が 18–19 Boddaert, P. 1781. Beschreibung zweyer merkwürdiger Fische. Neue Nord. Beyträge, St. Petersburg und 時の間に水槽内で産卵したと報告しており,ここ Leipzig, 2: 55–57, Pl. 4. に示された卵の卵径(約 1.2 mm)は本研究のも Eschmeyer, W. N. 2013. Catalog of fishes. On-Line のと比べて小さかった.また,採卵方法が異なる Version. California Academy of Sciences. http:// ものの,水槽内産卵で産卵された卵数(約 1,000 researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/ 粒)は,本研究で腹部圧迫により得られた卵数に catalog/fishcatmain.asp.(参照 2013-9-2). 林 公義.2013.ヒカリキンメダイ科.中坊徹次 比べ明らかに多かった.これらの点を踏まえる (編),pp.596.日本産魚類検索,全種の同定 と,沖縄島で採集されたオオヒカリキンメの卵は 第三版.東海大学出版会,秦野. 排卵されないまま腹腔内に残った過熟卵である可 Ho, H.