KISHIDAIA, No.107, Aug

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KISHIDAIA, No.107, Aug KISHIDAIA Bulletin of Tokyo Spider Study Group No.107,Aug. 2015 ─ 目 次 ─ 相知紀史:長崎県平戸市でのワスレナグモの発見及びその生態 ..................... 1 新海 明・谷川明男:「クモ基本 60 」を上手く活用するために そして完成形を 目指しての注文も ……..................................................................... 5 新海 明:橋糸はワク糸にならない ........................................................ 9 DRAGLINES 小松 貴:香川県高松市女木島におけるイトグモの記録 ......................... 12 小松 貴:屋久島におけるハイイロゴケグモの記録 ................................ 13 馬場友希・大澤剛士:長野県菅平で採集されたクモ ................................ 13 馬場友希・大澤剛士:新潟県で採集されたクモ ...................................... 14 馬場友希・田中幸一:秋田県で採集されたクモ ...................................... 14 馬場友希:千葉県松戸市「 21 世紀の森と広場」のクモ 追加記録 ............. 15 馬場友希:農業環境技術研究所構内のミニ農村で採集されたクモ ............. 15 馬場友希:福岡県福岡市で採集されたクモ ............................................ 16 馬場友希・大澤剛士・村上勇樹:小笠原諸島の媒島・聟島・父島で採集された クモ ............................................................................................ 16 馬場友希・田中幸一:青森県で採集されたクモ ...................................... 18 馬場友希:福井県坂井市おけら牧場・ラーバンの森で採集されたクモ ...... 19 馬場友希・田中幸一:石垣島で採集されたクモ ...................................... 21 馬場友希:千葉県・茨城県の耕作放棄地で採集されたクモ ...................... 23 馬場友希:茨城県稲敷市浮島のクモ ..................................................... 24 和仁道大:クモ観察情報 ..................................................................... 25 初芝伸吾・甲野 涼:東京蜘蛛談話会 2011 年度観察採集会報告 八王子城跡のクモ類 ........................................ 26 仲條竜太・平松毅久:東京蜘蛛談話会 2013 年度採集観察会報告 日和田山のクモ ............................................... 37 池田博明:2014 年度観察採集会報告 藤沢市新林公園のクモ ................... 47 谷川明男:日本産クモ類目録 ver.2015R5 ............................................... 61 KISHIDAIA, No.107, Aug. 2015 長崎県平戸市でのワスレナグモの発見及びその生態 相 知 紀 史 はじめに ワスレナグモ(Calommata signata Karsh 1879 )は,全国的に見ても採集例が少 なく,環境省及び長崎県のレッドリストにおいて準絶滅危惧種に指定されている希少な クモである.本県では,大村市久原(山口 1953 ),諫早市小豆崎町本妙寺及び同高城 城山公園(新海 2007 ),諫早高校内(森田・奥村 2013 )による 4 例にとどまってお り,県北部では採集例がない.本種は,わりに明るく乾燥した床下,芝生などの地中に 縦穴を掘り,管状の住居をつくることが知られている(松本 1976 ). 今回筆者は,長崎県平戸市大久保町の古民家の庭(図 1)で本県北部で初記録となる ワスレナグモを 5 個体確認した.さらに,毎週定期調査を行い,ワスレナグモの生態を 観察した他,ワスレナグモの巣の形と深さを観察するため石膏を流し込み調査した.ま た,自然界では,餌はゴミムシダマシ科やゴミムシ類とされている(金野 1994 )が, 巣の中が,すべてアリだったという報告もある(金野 1994 ).今回筆者は,飼育下で 餌はどうなるのかということに疑問をもったため,ワスレナグモを飼育し,いろいろな 虫を与えた.ここに,それらを報告したい. 材料および方法 長崎県平戸市大久保町にある古民家で,ワスレナグモ を調査した他,以下の実験を行った. 実験 1.ワスレナグモ定期調査 古民家の庭を毎週調査し,ワスレナグモクモの生態 を観察した.ワスレナグモは,ルッキング法を用い, 細かく観察した. 実験 2.ワスレナグモの巣の形を探る ワスレナグモの成体メスの巣 5 個を棒を使ってき れいに取り,石膏(会社名:家庭化学工業株式会社 大 阪府富田林市 商品名高級工作石膏)を水と石膏の比 図 1.ワスレナグモが生息 を 2:3 にして流し込み,巣の深さや形の特徴を観察 していたところ 1 した. 実験 3.飼育下でのワスレナグモの観察 ワスレナグモを飼育し,虫をクモの住居のそばに置いて捕獲することを 60 分間観察 する.捕獲しないという判断は 1 日後に行った).意図的にダンゴムシ,カ,カメムシ, コオロギ,アリ ,コメツキムシを与え,採餌行動を観察した.飼育ビンに入れた土は家 の庭土を使った. 結 果 実験 1.ワスレナグモ定期調査 1 月~ 4 月はワスレナグモを発見できなかっ たが, 5 月に住居を確認し 7 月 14 日に個体を 採集することができた(図 2).10 月末に巣も 個体も見られなくなった(表 1). 実験 2.ワスレナグモの巣の形を探る 5 個の石膏の形と大きさから,形は下部がや や膨らんだ棒状,深さは 7.5 ,8.2 ,10 ,10.6 , 12cm で(平均 9.6cm ),少し膨らんだ下部に は食べかすがあった(図 3). 実験 3.飼育下でのワスレナグモの観察 ビンの中で飼育したワスレナグモは,冬の間 図 2.7 月 14 日に採集した も巣をつくっていた(表 2).ワスレナグモは, ワスレナグモ 9 月中旬与えたゴミムシ,カメムシ,ダンゴム シ,カ,コオロギを 1 時間程度に捕食すること を確認した.アリは 1 月 29 日に 2 度与えてみ たが,捕食を確認することはできなかった.し かし,ビンで飼育していたワスレナグモの巣を 3 月 16 日に掘り起して確認してみると,中か らアリの頭部を発見した.また, 1 月中旬に与 えたコメツキムシは,ワスレナグモの巣に入っ ていったので,捕食されたと考えていたが, 3 図 3.石膏でかたどった 月 16 日ワスレナグモの住居の底をよく観察し ワスレナグモの巣 たところ,コメツキムシが生きたまま入ってい た. 考 察 実験 1.ワスレナグモ定期調査 5 月 5 日に住居を発見(図 3)したため,ワスレナグモは 5 月から 10 月にかけて軒 2 先で活発に活動して ワスレナグモ調査 表 1.ワスレナグモ定期調査 日付 巣の有無 ワスレナグモの有無 いることが分かった. 2013年10月6日 有 しかし,冬場に個体を 2014年1月20日 2014年2月3日 見つけることができな 2014年2月10日 かったため,比較的温 2014年2月17日 2014年2月24日 度変化の少ない軒下に 2014年3月3日 無 生息場所を変えている 2014年3月10日 可能性がある. 2014年3月17日 2014年4月7日 無 実験 2.ワスレナグモ 2014年4月21日 の巣の形を探る 2014年5月5日 ワスレナグモは,深 2014年5月12日 有 2014年5月19日 さ 10 cmほどのやや 2014年5月26日 2014年6月2日 無 浅い場所に住んでいる 2014年6月9日 と考えられる.食べか 2014年6月23日 2014年7月7日 すからワスレナグモは, 2014年7月14日 自然界では主にゴミム 2014年7月21日 有 シ類を食べていること 2014年7月28日有 無 が示唆された.この結 2014年8月11日 有 2014年8月18日 果は以前の文献(金野 2014年9月1日 無 2014年9月15日 1994 )と一致した. 2014年10月19日 有 実験 3.飼育下でのワ 2014年11月15日 2014年12月23日 無 無 スレナグモの観察 金野(1994 )は,自 然界のワスレナグモの餌をゴミムシダマシ科やゴミムシ類としていたが本研究により, ワスレナグモは食べられるはずの虫を自然界では食べていないことがわかった.地域の 巣の周辺に生育する虫=「エサとなりうる虫 potential prey 」のなかでワスレナグモが 食べることのできる虫,これを「生理的に食べられるエサ eatable prey 」と名づけてお く.しかし,それは実際のエサを「生態学的なエサ ecological prey 」とすると, potential prey > eatable prey > ecological prey という関係が成立した.カメムシやカのような 翅のある虫はワスレナグモの巣の穴のうえを通る機会がほとんどないため自然界のワ スレナグモは捕食していなかったと思われる.食べない餌としては, 2 か月前に餌とし て巣穴に与えてみたコメツキムシが,今回糸で巻かれた状態ではあったが,巣の中でも 生きていた.よって,コメツキムシは食べないことが実証された.また,金野(1994 ) ではアリの捕食を確認しているが,本研究では,与えたアリは捕食されなかった.牙を 残して捕食されたアリは,土を採集した時に混入したとみられる.この原因としては, すべてのアリが蟻酸を持っているわけではないため,金野氏が確認したアリは,蟻酸を 持っていないアリではないかと考えられる.また , 筆者がアリを与えた時に捕食しなか 3 表 2.自然界と飼育下でのワスレナグモの違い ったのは,空腹の度合などが,関係していた可能性もある. 今後の課題 本研究では,コメツキムシを 1 個体しか用意できなかったため,ワスレナグモがコ メツキムシを捕食しないかどうかは複数のコメツキムシを採集して与えてみる必要が あった.また,アリについても捕食されるアリと捕食されないアリが種類によって異な るのかどうかを調べたい.本研究で,石膏を流し込んだ巣は,すべて成体のメスの巣だ った.今後は幼体のワスレナグモの巣に石膏を流し込み巣の形を探っていきたい.また, 本研究ではオスの個体を採集できなかったので,オスの個体を採集したい. 謝 辞 今回の本研究を行うにあたり,同定及び助言をいただいた東京蜘蛛談話会・池田博明 氏,並びに,指導をしていただいた長崎大学教育学部教授大庭伸也先生,長崎県立猶興 館高等学校教諭野口大介先生,に心より感謝申し上げる. 参考文献 松本誠治ほか編 1976. 学研の図鑑・クモ . 学習研究社,東京.160pp. 山口鉄男 1953. 九州の蜘蛛(第 2 報)長崎県産の蜘蛛 . 長崎大学教養部研究報告 , 1 :1–9. 新海明 2007 .ワスレナグモの全国分布調査.Kishidaia 92 :39–52. 4 KISHIDAIA, No.107, Aug. 2015 「クモ基本 60」を上手く活用するために そして完成形を目指しての注文も 新海 明・谷川明男 東京蜘蛛談話会編の「クモ基本 60 」が刊行されました.会員の撮影した写真を用い て,現在までに日本のクモ研究者が観察した記録(池田さんによる「クモ生理生態事典」 にまとめられたもの)をもとにして「網型・生息場所・繁殖習性(求愛・卵のうなど)・ 令数等をデータがある限り記述した」もので,「身近なクモ 30 種をルーペで見ながら 正しく知ることができれば,もっと詳しい図鑑や参考書を用いて自分で勉強できるよう になる.そのためのきっかけが本書であって欲しい」と「はじめに」で述べられていま す. 私たちも,その目的や方向性に大いに賛同するものです. 50 年近くにわたる談話会 活動の集大成ともいえる本で,これからクモの観察や勉強を始めようとする方々にとっ て,研究の端緒をつかむ「場」となることでしょう.その一方で詳しく読むと,誤りや このようにすればもっとよくなると考えられる部分もかなりあるように感じました.こ こでは,クモ基本 60 を上手く活用するため,そして更なる完成形を目指してもらうた めの注文をいくつか書きたいと思います. 先ず,①明らかな誤りについては,池田さんのホームページですでに公開されていま すのでご覧ください.ここでは,今後の改定時などでさらに良くするための提案として, ②レイアウトの工夫や引用があった方が良い部分,③成熟期の示し方の問題,④疑問と される部分,⑤その他に分けて具体的に述べることにします.検討された上で,次回の 出版のときに役立てていただければ幸いです. ①:明らかな誤りと訂正した方が良いと思うもの 池田さんのホームページを参照してください. ②:レイアウトの工夫や引用があった方が良い部分 写真の周囲の灰色の帯は拡大トリミングして消した方が良かったように思います. また引用があった方が,これから研究を始める人たちにとって良いと思われる個所がか なり見られました. 5 p11 のユカタヤマシログモの絶食の記録は,白甲庸先生の古い貴重な記録で AC13 に ありますが,引用が示されていませんでした. p23 ここの写真の説明として「ワスレナグモの住居」と入れておいた方がよいでしょ う. p59 ウズグモで外雌器の図がありますが,図鑑の図を改写しているようです.それなら ば引用をつけるべきでしょう. p81 のトラフカニグモについては「植生層が刈りとられると地表に降りたカニグモ類 はコモリグモを捕食する」という記載を興味深く読む人がいるでしょう.ここに出典が あれば大変に助かるはずです.しかしこの文献は,生理生態事典でも辿れませんでした. p100 のオオトリノフンダマシの「網性」では新海明の記録が引用されていますが,す でに造網は湿度の上昇によることが証明されました(宮下,谷川,馬場など).そのこ とを紹介する方が大切だと思えます. このほかにも,「引用があったらなあ」と思われる個所がありました(「コアシダカ」 が「クモバチによく狩られている」・「イトグモ」で「局部の壊死例が報告された」・ 「オニグモ」の「天敵」・「ハイイロゴケ」で「小突起はハエの寄生を減らす効果があ る」・「スネグロオチバ」の「生活」の項目で「ゴキブリホイホイ云々」・「シャコグ モ」が「オオツリガネヒメを捕食」など).ここにも池田さんの生理生態事典でも辿れ ない文献がありました. また,私信ではないかと思われる引用も散見されました(「オビジガバチ」「オトヒ メ」の「安藤」や「イタチグモの習性」の「酒井」など). 改訂版が出版されるようなことがあったら,ぜひ引用文献を追加したり出典を明記して 後進の研究者にとって利用しやすいものにしていただけたら幸いです. また, BOX とコラムとの違いも不明でした. ③:成熟期の示し方の問題 成熟という部分は談話会データのオスが記録されている季節のことなのか,それとは 別のデータによるオスの成熟期なのか,あるいは,メスの成熟期も入れるのかが統一さ れておらず混沌としているように感じました. p8 のアシダカグモですが「生活」の中で「年中成体が見られる」と記述していますが 「成熟」の項目では「夏」となっています.談話会の採集会の記録のグラフもなく「夏」 の根拠が不明でした. p10 のヒラタグモでは,成熟は春夏となっていますが,採集会データではオスは春のみ (p5 の成熟時季の説明では「オス成体出現時季を重視」とあるので)ならば,成熟は 「春」とすべきでしょう. このような,データと記述のずれがいくつか見られました(たとえば,ネコハグモ・ オニグモ・イエオニグモ・キシノウエトタテグモ・ハナグモ・ネコグモ・ムナアカフク ログモ・ヤマジグモ・ウヅキコモリグモ・アズマキシダグモ・ヤマシロオニグモ・オナ 6 ガグモ・シロカネイソウロウグモなど).改定時に成熟時期の基準を検討された上で訂 正してはどうでしょうか. 私たちの見解を述べさせてもらうと,年 4 回の採集会データだけを尊重するとこの ような問題が必然的に生ずるように思います. ④:疑問とされる部分 p8 のアシダカグモの「眼縁」という語は「額」で良いのではないでしょうか. p9 でコアシダカグモが地域による種分化が報告されているとありますが,近似別種の 存在が知られているのであって,地域的な種分化が報告されているわけではありません. p12 のネコハグモの識別点で「特徴的な斑紋」とありますが,斑紋は近似種でよく似て いるので本種の特徴にはならないでしょう. p20 のユウレイグモは単性域類の代表とありますが,ユウレイグモにはしっかりとし た外雌器やオス触肢の構造が形成されるので,単性域類と完性域類との中間などと認識 されています.ですから,むしろ単性域類のなかでは異端なのではないでしょうか. p28 のミジングモの「トピック」に「進化したクモである」とありましたが,「アリ食 いに特殊化したクモ」であって,どのクモも進化はしていますよね. p39 のフタホシテオノグモの「備考」で「ワシグモ科は最新のデータではシボグモ科と 近縁とされる」とありましたが,出典はなんでしょうか.最新のゲノム解析ではハエト リグモとワシグモ科がまとまっています( Bond ら 2014 ). p42 の「コラム」で「膨らんだ触肢の先端が割れて交尾器が現れてくる」という言い方 は誤解を生むように感じました. その他掲載写真で判別しがたいものや「おやっ」と思われる写真がありました.私た ちも実物を見なければ断言はできませんが,「基本」の写真なのですから「よりわかり やすい」ものが良かったはずです.列記すると,ツリガネヒメグモ・シコクアシナガグ モ・ハリゲコモリグモ・ハンゲツオスナキグモ♂・フタオイソウロウグモ・ツノナガイ ソウロウグモ卵のう付き写真などです. ⑤:その他 「重箱の隅をつつくような」事かも知れませんが,「基本 60 」の性格から考えて, 訂正した方が良いと思われる記述も散見されました. p15 のシラヒゲハエトリが「屋内性だが野外でもよく見られる」との記述は,初心者を 戸惑わせるかもしれません. p21 のアケボノユウレイグモの説明にシモングモの説明が, p71 イナダハリゲコモグ モの説明にウヅキコモリグモの説明が入っているのは読者を混乱させるかもしれませ ん. p57 ハラビロアシナガグモの項目で,写真が「アシナガグモの交尾」というのはあまり に無理があります. 7 p138 メガネヤチグモでは「管状住居と棚網で識別するほうが容易である」とあります が,これは何から識別するのでしょうか.他のヤチグモとは識別できないでしょう.ち なみに,メガネヤチとアズマヤチグモの「網性」の説明はともに「管状住居」で同じに なっています. また,解説各所に「腿節」「ケイ節」などの体の構造を示す名称が見られましたが, それらの用語を解説するページ(あるいは図)があったら良かったと感じました. 8 KISHIDAIA, No.107, Aug. 2015 橋糸はワク糸にならない 新 海 明 東京蜘蛛談話会編の「クモ基本 60 」を見ていた際に気付いたことがある.円網の各 部の名称を解説した 6 頁の図で,円網の上部を構成する糸がワク糸の色と区別されて いて,解説部に橋糸と書かれていたことだ. 私の違和感は「あれ,そうだったっけ」というものだ.そこで,いくつかのクモ関係 の本を調べてみた. 先ずは,誰もが参考にするだろう吉倉先生の「クモの生物学」を見た. 358 頁に図が 出ていた.「橋糸」と記載されている(吉倉 1987 ).さらに,私も執筆者として加わ った「クモの巣と網の不思議」の 24 頁に図があり,これにも「橋糸」と書かれていた (池田編 2003 ).他にも小野さんによる「クモ学」にも「橋糸」としてあった(小野 2002 ).これは,マズイことになった. さらに調べると,細野先生の「クモの習性」では, 75 頁に「Aは外枠.ゴミグモの 場合は,この糸はいったん張り渡すと,めったにこわさない.そして時々ここを見回っ て補強するから,糸も太く強いものになる.この糸を橋糸と呼ぶ人もある.私も使うけ ど,それは造網初期に限ることにして,いったん網が出来てしまい,その後も半永久的 に利用されるばあいは外枠と呼ぶことにしている」との記述があった(細野 1974 ). 「そうそう,その通りだ」というのが,私の感想であった. これと同じように,円網の上部を構成する糸を「ワク糸」と記述していたのは「クモ の生活」(常木 1967 )や「 Biology of Spiders 」( Foelix1982 )などであった.ただ し,後者 2 著共に円網上部の糸の説明はなく,円網外周の糸として「ワク糸」と記載し てあっただけである. 「クモの巣と網の不思議」でも「橋糸」としていたのだから・・・と気になったのは, 私が執筆した「クモの巣図鑑」である. 106 頁の図を見ると,「良かったぁ」.かなり 正確に記述してあった(新海・谷川 2013 ).造網の初期にあった「橋糸」は造網途中 で「ワク糸」にきちんと変換されていた. ひょっとすると,「何を言っているのか未だにわからない」方もいるかも知れない. 私がこの問題にこだわるのには理由がある. 9 円網の造網初期の過程はかなり複雑なのだ.クモはいとも簡単にその作業を済ませて しまうが,この過程をきちんと記述するのは骨が折れる.さらに,その記述を図と見く
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