VOL. Formerly Shizen-aigo 42 ature of agoshimaカゴシマネイチャー 2016.3.31 NAn annual Magazine for Naturalists K 鹿児島県におけるカワネズミの分布 新幹線高架橋で発見されたオヒキコウモリの生息状況 高速道路建設とカスミサンショウウオ生息地の環境保全措置 奄美大島初記録のウミヘビ科魚類2種 オグロイワシの大隅諸島からの初めての記録 琉球列島初記録のバケアオメエソ ヒメクサアジの鹿児島県からの初記録および成長に伴う形態変化 喜界島から得られたヒメヒラタカエルアンコウの日本から3例目の記録 鹿児島県のキンメダイ科魚類 琉球列島におけるイットウダイ科魚類相 九州初記録のヤリテング 九州初記録のヨロイウオ 大隅半島東岸と鹿児島湾から得られたセレベスゴチ 鹿児島県初記録のバケムツ 九州初記録のハタ科魚類ヌノサラシ アゴハタの種子島からの記録 種子島から得られたトゲメギス 鹿児島県から得られたハタ科魚類3種 宇治群島から得られたシキシマハナダイ 鹿児島県におけるマダラテンジクダイの分布状況 鹿児島県初記録のイナズマヒカリイシモチ 大隅諸島初記録のクダリボウズギス 日本初記録のDecapterus smithvanizi サクラアジ(新称) 奄美大島から得られたホシカイワリ 鹿児島県のヒイラギ科魚類相 ゴマサバの胃内容物からみつかったマルバラシマガツオ トカラ列島から得られたロウソクチビキ タテフエダイの奄美大島からの記録 ヨゴレアオダイの種子島と奄美大島からの記録 種子島から得られたナガサキフエダイ ホソイトヒキサギの日本沿岸からの6番目の記録 大隅半島東岸と奄美大島から得られたエリアカコショウダイ 内之浦湾から得られたセトダイ 奄美大島から得られたタマガシラ 奄美大島から得られたヤクシマキツネウオ 奄美大島から得られたシモフリフエフキの北限記録 鹿児島県初記録のクログチ 薩南諸島初記録のアオバダイ 琉球列島から初めて採集されたダイダイヤッコ 徳之島から得られたタカノハダイ 喜界島から得られたヒマワリスズメダイ ヒノマルテンスの奄美大島と加計呂麻島からの記録と成長に伴う形態変化 下甑島と奄美大島から得られたキツネブダイの分布北限記録と性的二型 ジュズダマギンポの種子島からの記録 甑島列島から得られた国内2例目となるオボロゲタテガミカエルウオ 奄美大島から得られたヒフキアイゴの北限記録 鹿児島県から得られたヒレナガユメタチ 鹿児島県北部から得られたサグルクマ 鹿児島県から得られたクマサカフグ 奄美大島から得られたヤリマンボウ マンボウ属魚類標本の形態的種同定 マンボウ属魚類の分類形質として有効な鱗の部位の探索 番所鼻自然公園地先の魚類リスト 陸産巻貝3種における貝殻成長線分析方法の確立 姶良・霧島地方における陸産貝類の分布 薩摩半島南部における淡水産貝類の分布 北限のマングローブ林におけるヒメカノコガイのサイズ分布 喜界島における陸産貝類の分布状況 鹿児島湾の干潟におけるウミニナの生活史 ウミニナ集団におけるサイズ頻度分布季節変動の個体群間比較 喜入干潟での防災整備事業における愛宕川河口干潟の巻貝類の生態回復 ヒメアシハラガニモドキの奄美大島における初記録 鹿児島県本土におけるケフサイソガニとタカノケフサイソガニの分布 与路島のアリ 琉球諸島の民家周辺のアリ 奄美群島におけるコガタスズメバチの生態的知見 宝島と徳之島より得られたトラフクモヒトデ 奄美大島と加計呂麻島から発見されたコモチハナガササンゴ 長島沖から得られたギンカデルタチョウジガイ 大島海峡に生息するミナミウミサボテン属の1種から発見された動物 川辺町勝目の希少淡水産紅藻オキチモズクの生育状況 新湯温泉の化学的研究 ジオパークの自然保護と教育普及 平成27年秋「サシバ」の渡り調査 鹿児島県自然環境保全協会 Nature of Kagoshima Vol.42 2016 目 次 目 次(表紙 2 からの続き) Research Articles 奄美大島から得られたシモフリフエフキ Lethrinus lentjan の北限記録 鹿児島県におけるカワネズミ Chimarrogale platycephalus の生息確認と分布 小枝圭太・前川隆則・本村浩之 259 船越公威・稲留陽尉・岡田 滋 1 鹿児島県初記録のニベ科魚類クログチ 鹿児島県の新幹線高架橋で発見されたオヒキコウモリ Tadarida insignis の生息状況 上城拓也・小枝圭太・本村浩之 265 船越公威・佐藤顕義・大沢夕志・大沢啓子・佐伯綾香 5 大隅諸島とトカラ列島から得られた薩南諸島初記録のアオバダイ 高速道路建設とカスミサンショウウオ生息地の環境保全措置-生息地分断と島状化現象への課題- 畑 晴陵・高山真由美・本村浩之 269 宅間友則・徳永修治・鮫島正道 13 琉球列島から初めて採集されたダイダイヤッコ Centropyge shepardi 奄美大島初記録のウミヘビ科魚類 2 種 小枝圭太・本村浩之 275 日比野友亮・田中 颯・萩原清司・木村清志 21 奄美群島徳之島から得られたタカノハダイ Cheilodactylus zonatus ニシン科魚類オグロイワシ Sardinella melanura の大隅諸島からの初めての記録 畑 晴陵・本村浩之 279 畑 晴陵・鏑木紘一・本村浩之 27 奄美群島喜界島から得られたヒマワリスズメダイ Chromis analis 琉球列島初記録のアオメエソ科魚類バケアオメエソ 小枝圭太・岩坪洸樹・本村浩之 289 畑 晴陵・山口 実・岩坪洸樹・本村浩之 33 標本に基づくヒノマルテンス(ベラ科)の奄美大島と加計呂麻島からの記録,および成長に伴う形態変化に関する知見 クサアジ科魚類ヒメクサアジの鹿児島県からの初記録および成長に伴う形態変化の記載 福井美乃・小枝圭太・本村浩之 293 畑 晴陵・伊東正英・原口百合子・本村浩之 39 下甑島と奄美大島から得られたキツネブダイ Hipposcarus longiceps の分布北限記録および性的二型に関する知見 喜界島から得られたカエルアンコウ科魚類ヒメヒラタカエルアンコウの日本から 3 例目の記録 小枝圭太・本村浩之 299 吉田朋弘・本村浩之 45 イソギンポ科ジュズダマギンポ Blenniella interrupta の種子島からの記録 鹿児島県のキンメダイ科魚類 田代郷国・木村祐貴・本村浩之 305 畑 晴陵・岩坪洸樹・原口百合子・森 幸二・本村浩之 49 甑島列島から得られた国内 2 例目となるイソギンポ科オボロゲタテガミカエルウオ 琉球列島におけるイットウダイ科魚類相 福井美乃・本村浩之 311 江口慶輔・本村浩之 57 奄美大島から得られたヒフキアイゴ Siganus (Lo) unimaculatus の標本に基づく北限記録 九州初記録のウミテング科魚類ヤリテング Pegasus volitans 小枝圭太・本村浩之 315 伊東正英・小枝圭太・本村浩之 113 鹿児島県から得られたタチウオ科魚類ヒレナガユメタチ Evoxymetopon poeyi 九州初記録のヨロイウオ Centriscus scutatus 畑 晴陵・高山真由美・本村浩之 321 小枝圭太・伊東正英・本村浩之 119 鹿児島県北部から得られたサバ科魚類グルクマ 大隅半島東岸と鹿児島湾から得られたコチ科セレベスゴチ Thysanophrys celebica 畑 晴陵・本村浩之 327 松沼瑞樹・福井美乃・山田守彦・本村浩之 123 鹿児島県から得られたフグ科魚類クマサカフグ Lagocephalus lagocephalus トカラ列島と奄美群島から得られた鹿児島県初記録のバケムツ(ホタルジャコ科) 畑 晴陵・伊東正英・本村浩之 333 稲葉智樹・畑 晴陵・本村浩之 129 奄美大島から得られたマンボウ科の稀種ヤリマンボウ Masturus lanceolatus 九州初記録のハタ科魚類ヌノサラシ Grammistes sexlineatus 小枝圭太・興 克樹・本村浩之 339 吉田朋弘・岩坪洸樹・本村浩之 135 鹿児島大学総合研究博物館に保存されていたマンボウ属魚類標本の形態的種同定 皮膚毒を有するハタ科魚類:アゴハタ Pogonoperca punctata の種子島からの記録 澤井悦郎 343 吉田朋弘・高山真由美・本村浩之 139 マンボウ属魚類の分類形質として有効な鱗の部位の探索 大隅諸島種子島から得られたハタ科魚類トゲメギス Pseudogramma polycantha 澤井悦郎 349 吉田朋弘・本村浩之 143 鹿児島県南九州市頴娃町番所鼻自然公園地先の魚類リスト 2014–2015 鹿児島県から得られたハタ科魚類 3 種:サラサハタ,アカマダラハタ,およびオオスジハタ 岩坪洸樹・加藤 紳・本村浩之・喜種翔平・上城拓也・岩坪政光 353 畑 晴陵・小枝圭太・鏑木紘一・高山真由美・本村浩之 147 陸産巻貝 3 種における貝殻成長線分析方法の確立 宇治群島から得られたシキシマハナダイ Callanthias japonicus 金田竜祐・冨山清升 361 畑 晴陵・土田洋之・本村浩之 157 鹿児島県の姶良・霧島地方における陸産貝類の分布 鹿児島県におけるマダラテンジクダイ Apogonichthyoides umbratilis の分布状況 神薗耕輔・冨山清升 371 吉田朋弘・本村浩之 163 鹿児島県薩摩半島南部における淡水産貝類の分布 標本に基づく鹿児島県初記録のイナズマヒカリイシモチ Siphamia argentea(スズキ目:テンジクダイ科) 福島聡馬・冨山清升 383 吉田朋弘・山田守彦・前川隆則・本村浩之 169 北限のマングローブ林周辺干潟におけるヒメカノコガイ Clithon oualaniensis のサイズ分布 大隅諸島初記録のテンジクダイ科魚類クダリボウズギス 菊池陽子・武内麻矢・冨山清升 397 吉田朋弘・本村浩之 173 喜界島における陸産貝類の分布状況 東シナ海と鹿児島県枕崎市沖から得られた日本初記録のアジ科魚類 Decapterus smithvanizi サクラアジ(新称) 藤木健太・冨山清升 405 岩坪洸樹・木村清志・本村浩之 179 鹿児島湾の干潟におけるウミニナ(Batillaria multiformis)の生活史 奄美大島から得られたアジ科魚類ホシカイワリ Carangoides fulvoguttatus 四村優理・冨山清升 419 畑 晴陵・本村浩之 183 ウミニナ Batillaria multiformis 集団におけるサイズ頻度分布季節変動の個体群間比較 標本に基づく鹿児島県のヒイラギ科魚類相 杉原祐二・冨山清升 429 藤原恭司・本村浩之 187 鹿児島湾喜入干潟での防災整備事業における愛宕川河口干潟の巻貝類の生態回復 トカラ列島から得られたゴマサバの胃内容物からみつかったマルバラシマガツオ(シマガツオ科) 神野瑛梨奈・前川菜々・春田拓志・冨山清升 437 畑 晴陵・本村浩之 203 ヒメアシハラガニモドキ Neosarmatium indicum (A.Milne-Edwards, 1868) の奄美大島における初記録 トカラ列島から得られたハチビキ科魚類ロウソクチビキ Emmelichthys struhsakeri 鈴木廣志・米沢俊彦 453 畑 晴陵・高山真由美・本村浩之 207 鹿児島県本土におけるケフサイソガニとタカノケフサイソガニの分布 フエダイ科タテフエダイ Lutjanus vitta の奄美大島からの記録 黒江修一 457 ジョン ビョル・中江雅典・小枝圭太・本村浩之 213 奄美群島与路島のアリ フエダイ科ヨゴレアオダイ Paracaesio sordida の種子島と奄美大島からの記録 福元しげ子・山根正気・平 瑞樹 461 江口慶輔・本村浩之 219 琉球諸島の民家周辺のアリ 種子島から得られたナガサキフエダイ Pristipomoides multidens 中村美月・内木場 舜・原田 豊 465 畑 晴陵・本村浩之 225 奄美群島におけるコガタスズメバチの生態的知見 クロサギ科魚類ホソイトヒキサギの日本沿岸からの 6 番目の記録 山根正気・川畑 力 469 畑 晴陵・鏑木紘一・本村浩之 231 吐噶喇列島宝島と奄美群島徳之島沿岸より得られたトラフクモヒトデ Ophioplocus giganteus(クモヒトデ目クモヒトデ科) 鹿児島県大隅半島東岸と奄美大島から得られたイサキ科魚類エリアカコショウダイ Plectorhinchus unicolor 上野大輔 473 畑 晴陵・山田守彦・前川隆則・本村浩之 237 奄美大島および加計呂麻島沿岸域から発見されたコモチハナガササンゴ Goniopora stokesi(花虫綱イシサンゴ目ハマサンゴ科) 鹿児島県内之浦湾から得られたイサキ科魚類セトダイ Hapalogenys analis 上野大輔 ・ 藤井琢磨・北野裕子 ・ 上野浩子 ・ 横山貞夫 477 畑 晴陵・本村浩之 243 鹿児島県長島沖から得られたギンカデルタチョウジガイ 'HOWRF\DWKXVPDJQL¿FXV Moseley, 1876(イシサンゴ目:Deltocyathiidae)の記録 奄美大島から得られたイトヨリダイ科魚類タマガシラ Parascolopsis inermis 出羽尚子・西田和記 483 畑 晴陵・中江雅典・本村浩之 249 大島海峡に生息するミナミウミサボテン属の 1 種 Cavernulina sp.(八放サンゴ亜綱ウミエラ目ウミサボテン科)から発見された動物 奄美大島から得られたイトヨリダイ科魚類ヤクシマキツネウオ Pentapodus aureofasciatus 上野浩子・自見直人・上野大輔 487 畑 晴陵・山田守彦・本村浩之 255 (表紙 3 に続く) (左ページに続く) RESEARCH ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 42, Mar. 2016 鹿児島県におけるカワネズミ Chimarrogale platycephalus の生息確認と分布 船越公威 1・稲留陽尉 2・岡田 滋 2 1 〒 891–0197 鹿児島市坂之上 8 丁目 34–1 鹿児島国際大学国際文化学部生物学研究室 2 〒 891–0132 鹿児島市七ツ島 1 丁目 1–5 一般財団法人鹿児島県環境技術協会 はじめに を行い,鹿児島県における本種の生息分布域を明 らかにするとともに, 地域個体群としての位置づ カワネズミ Chimarrogale platycephalus は,本州 けと今後の生態的研究の課題および保全に関わる (千葉県を除く)と九州本土に生息する日本固有 問題を検討した. 種である(Abe et al., 2015).背面の体毛は夏季に 黒褐色,冬季に灰色強い色に変わり,臀部に銀色 調査地と調査方法 の刺毛が多い.腹面は淡褐色である.耳介は小さ カワネズミの河川域における生息の有無を確 く,体毛に覆われている.手足の指の側面には剛 認するため,本種の生息環境にとって良好と思わ 毛が生えていて,指間に皮膜はないが,水中遊泳 れる伊佐市の川内川支流域を 2013 ~ 2014 年に, に役だっている.遊泳中は体毛の間に気泡がたま 肝付町の高山川と久保田川の支流域を 2015 年に り,その反射で銀色に見える.雌は雄よりも小さ 調査した(図 1).川内川支流域では 8 月 21 日に く,九州産の個体は本州産に比べて小さい(Arai 事前の下見の後,2013 年 9 月 19 ~ 20 日に渓流 et al., 1985).山間部の岩や露出した転石,丸太(倒 踏査による糞の探索,金網ワナ(45 個)の設置・ 木)が横たわる渓流域に生息している(阿部, 捕獲および自動撮影装置 5 機(センサーカメラ: 2005;Abe et al., 2015).水生昆虫,小型の魚類, Fieldnote II, DUO,(有)麻里府商事,岩国市)に 両生類,甲殻類を主食とし,繁殖は 2 ~ 6 月の春 よる撮影を行った.誘因用の餌としてアユなどを 季と 10 ~ 12 月の秋季の年 2 回あり,産仔数は平 使用した.同年 10 月 25 ~ 26 日に同様の調査を 均 4.2 頭,寿命は3 年以上である(Abe et al., 行った.久保田川の支流域では 2015 年 5 月 5 日に, 2015). これまで鹿児島県における哺乳類の調査で,カ ワネズミの生息記録がなかった(森田,1973, 1974;酒匂,1994;大塚,1995;鮫島,1997). しかし,比較的最近になって鹿屋市大隅湖上流域 でカワネズミが捕獲された(中村・森田,2003). そこで,2013 年から本格的なカワネズミの調査 Funakoshi, K., T. Inadome and S. Okada. 2016. Distribution of the Japanese water shrew, Chimarrogale platyce- phalus, in Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 42: 1–4. 図 1.川内川支流域と肝付町河川域におけるカワネズミの糞 KF: Biological Laboratory, Faculty of International の観察や捕獲による生息確認地点(●). A,小川内川;B, University of Kagoshima, 8–34–1 Sakanoue, Kagoshima 井立田川;C,十曽川;D,青木川;E,市山川;F,楠本 891–0197, Japan (e-mail: [email protected]). 川;G,高山川;H,久保田川. 1 Nature of Kagoshima Vol. 42, Mar. 2016 RESEARCH ARTICLES 図 4.伊佐市十曽川渓流域で捕獲されたカワネズミ. 図 2.伊佐市十曽川渓流域におけるカワネズミの糞塊. 較的大きな礫や岩が点在していた.また,人為的 な改変がなく,川岸には植生が繁茂しており場所 によっては樹木によって川面が覆われていた(図 3).高山川と久保田川の支流域においても同様の 糞が見つかり,生息環境はカワネズミの糞が確認 された川内川支流域と類似の景観であった. 図 3.伊佐市楠本川渓流域の景観. 川内川支流域の調査地で捕獲調査では残念な がらカワネズミを捕獲することができなかった. また,自動撮影装置による調査でもカワネズミを 撮影することができなかった.しかし,鹿児島県 高山川の支流域では同年 10 月 1 日に渓流踏査で 環境技術協会による十曽川の 2014 年 7 月におけ カワネズミの糞を探索した. る調査の際に,上述の糞が見つかった渓流域付近 でカワネズミが捕獲された(図 4).捕獲された 結果 個体は成獣雄で,頭胴長 107.5 mm,尾長 91.8 採調査対象として選定した川内川支流域の小 mm,後足長(爪含む)25.0 mm,体重 35.6 g,精 川内川,井立田川,十曽川,青木川,市山川およ 巣サイズ 8.2 × 5.1 mm であった. び楠本川の各川の数ヵ所でカワネズミの糞が見つ 考察 かった(図 1).糞は黒褐色で,糞の太さは直径 5 mm 前後,長さは 1 ~ 3 cm で,数個まとめて排 鹿児島県における生息状況について 泄されていた(図 2).これらの糞は,カワガラ 鹿児島県内におけるカワネズミの生息確認記 スの糞のように尿酸を含んだ白いものでなく,干 録として 2000 年以前には皆無であった(森田, しエビのような独特の臭気(糞内容は水生昆虫が 1973, 1974;酒匂,1994;大塚,1995;鮫島, 多い)を持つこと,他の哺乳類が利用しないよう 1997).しかし,2002 年に鹿屋市串良川支流の金 な流水の岩上に排泄されていること(一柳・荒井 山川でカワネズミが捕獲された(中村・森田, 両氏,私信)から,カワネズミの糞と判断した. 2003).その後,本種の断続的な生息調査が行わ 場所によっては数回分の糞塊が見つかった.生息 れたが,新たな生息域は見つからなかった.今回 場所として利用されている環境は,川幅 3 ~ 15 の 2013 ~ 2015 年における川内川支流域の本格的 m の水深 10 ~ 100 cm で,砂利や転石が多く,比 な調査で,複数の支流域からカワネズミの糞が発 見され,伊佐市の十曽川で本種が捕獲された.肝 2 RESEARCH ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 42, Mar. 2016 付町の支流域でもカワネズミの糞が発見された. に関して,雌では特定の巣を中心とした川沿いの また,最近では南大隅町渓流域の数ヵ所でカワネ 移動範囲が平均 300 m,雄の移動範囲が 600 m と ズミの糞が見つかっているとの情報を得た(中村 され(横畑ほか,2008),生活域は比較的広域に 氏,私信).以上のように,鹿児島県で本種が点 わたっている. 在することが明らかとなり,今後の調査で,生息 カワネズミは環境の人為的改変に対して脆弱 環境が良好であれば,他の支流域でも生息してい な動物であると示唆されている(阿部,2003). ることが十分に予想される.カワネズミの捕獲率 河川の保全のための護岸工事等の環境改変にあ に関して,河川の合流域で高いとされている(斎 たっては,本種の食物資源も含めた生息環境や社 藤ほか,2013).捕獲調査の際には,こうした合 会構造も考慮した対策を講じていくことが望まれ 流域にワナを設置することで,効率的に捕獲でき る.しかし,鹿児島県のカワネズミの生態に関し ることが期待される. ては,ほとんど調査されていないのが現状である. 今後の保全を具体的に進めるためにも,本種にお 捕獲された個体について ける本格的な生態的調査のデータの蓄積が急がれ 九州産のカワネズミは本州産に比べて小さい る. (Arai et al., 1985)とされている.十曽川で夏季の 謝辞 7 月下旬に捕獲された個体(成獣雄)と金山川で 捕獲された雄個体(中村・森田,2003)は,頭胴 カワネズミの報告と情報を提供していただい 長や尾長において九州北部産(Arai et al., 1985) た宮崎大学フロンティア科学実験総合センターの に比べてさらに小さかった.十曽川の成獣雄の精 中村 豊氏,鹿児島県環境技術協会環境生物部の
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