Adonais と Urania

Adonais と Urania

Adonais に お け る Adonais と Urania 高 橋 規 矩 1 ・440ηα∫sは,そ の 副 題 に あ る よ うに,Eη4y7疵013や1/yρ6rガo〃 の 作 者JohnKeatsの 天 折 を 悼 ん だ エ レ ジ ー で あ る。Shelieyは,1821年1月 と2月 にEク ψsyo痂4∫07zを 書 き,そ こ で,「 誠 の 『愛』」(trueLove)と 『想像 力 』(lmagination)を 謳 歌 し,2月 下 旬 か ら 3月 に か け て ・4Dθ ∫θ776召o∫-Poθ〃ツ(第 一 部)を 完 成 し た 後,間 も な く,4月19日 頃 Keatsの 死(1821年2月23日,二 十 五 歳)の 悲 報 に 接 し,6月 初 旬 にAdollis神 話 を 材 料 と し た ・44α諭sを 整 作 し た 。 そ れ は,Vellus(Aphrodite)に よ っ て 愛 さ れ た 美 青 年 AdOllisが 野 獣 に 突 殺 さ れ,皆 に 悼 ま れ た と い うギ リ シ ア 伝 説 が,詩 神 ミ ュ ー ズ に ょ っ て 愛 さ れ た 詩 人Keatsが,時 な らず し て,悪 意 を も っ た 批 評 家 に よ って 殺 され た と い う伝 説 め い た 話 と完 全 に 一 致 した か ら で あ っ た 。 こ の 孟 ゴ01z6廊 を,Shelleyカ ミ事あ る 度 毎 に,彼 の 作 品 の 中 で 「最 も 完 壁 な 作 品 」(theleastimPerfectofmycolnpositions)と 呼 ん だ の み な らず,こ の 詩 に 続 い て 同 じ年 の 秋 に 完 成 され た,肋 〃αsが 完 結 さ れ た 長 詩 と して は 最 後 の も の で あ っ た こ と を 合 わ せ 考 え る時,こ の 詩 は,彼 が 究 極 的 に 達 した 思 想 や 技 巧 を 知 る 上 に も,甚 だ 重 要 な 詩 で あ る こ と が 分 か る。 こ の 論 文 で は,Shelleyが 常 に 関 心 を 抱 い て い た,人 間 の 精 神 と神 聖 な 存 在 者 と の 関 係 に 関 す る 問 題 が,・4`/01~αお に お い て,如 何 に 展 開 さ れ,究 極 的 に 如 何 に 解 決 さ れ て い る か を, AdollaisとUraniaと の 関 係 を 中 心 と して 研 究 し,同 時 に,こ の 詩 が 浪 漫 主 義 時 代 の 最 大 の エ レ ジ ー の 一 つ で あ る 所 以 を 明 らか に した い 。 皿 ・440ノ¢酪 は,内 容 の 展 開 と い う見 地 か ら,三 つ の 段 階 に 分 け る こ と が 出 来 る と 思 う。 つ ま り,第 一 段 階 は,第 一 連 か ら第 十 七 連 ま で,第 二 段 階 は,第 十 八 遮 か ら第 三 十 七 連 ま で, 第 三 段 階 は,第 三 十 八 連 か ら最 後 の 第 五 十 五 連 ま で 団あ る 。 第 一 段 階(第 一 連 か ら第 十 七 連 ま で)で は,物 質 が 究 極 的 真 理 で あ る と い う唯 物 論 的 一 元 論 が 麦 配 的 で あ り,全 般 的 に,死 ・破壊 ・冷 た さ ・暗 さ ・不 活 発 を 表 わ す 語 句 が 多 く使 用 さ れ て い るQ第 一 連 で,Adonaisと い う名 前 と 彼 の 死 が 報 ら さ れ る。Adollaisと い う言 葉 は, ① こ の 詩 が,Keatsに 捧 げ ら れ た エ レ ジ ー で あ る こ とか ら,Keatsを 意 昧 し,ま た,② Adollis神 話 のAdollisで あ る こ と は 明 ら か で あ る 。 ③EdwardRHtmgerfordlま, (5) Shelleyの 当 時 の 神 話 学 者RichardPayneKllight(1750-1824)に ょ っ て,Adollis,な (6) い し,Adollaiは,フ ェ ニ キ ア,ヘ ブ ラ イ で の 「太 陽 神 」 を 表 わ し て い る と 述 べ て い る 。 Ear正RWasserma11は,Hungerfordに 従 っ て,Adollaisは,ギ リ シ ア 神 話 のAdollisと ヘ ブ ラ イ の 太 陽 神Adollaiと が 結 合 し て 出 来 た 象 徴 性 の 豊 か な 言 葉 と し ,1-太 陽 と 生 命 の 原 ・2 くの 理」を表わしていると言っている。詩の後の連で,Adonaisは, Keatsの想像力,ないし, 魂を象臥するようになり,しかも,Shelieyにとって,想像力の心血は太陽であるから, Adonaisが太陽であっても矛盾はない。そ’して,実際に,1820年5月14日付, Charles Ollier 宛の書簡で,ShelleyはKeatsを太陽に讐えている。 r私は, Keatsが偉大な詩人として 世に現われることを望んでいる。大気の最も美しい色彩に染まりながらも,太陽の登るのを くの 暗く隠している雲を押し分けて出てくる太陽一のように。1④Carlos Bakerは,詩のモット ーに便われたPlatoのエピグラムー一一汝は,生前は「明けの明星」(Lucifer)であったが, 死後は「宵の曜.」(Hespen}量~Vespe「)とな・たと言厨・ている『から・Ad・nai・は・ 1一 熕ッ」(Venus)であると言う。詩の第四十六連でも, Adonaisは,「宵の明星」(Vesper) と呼ばれている。要するに,Adonaisという名前は, Keatsを表わす他に,「太陽」,「金 星」といった,最も明るい「白光」を発する天体を表わしている。そして,この言葉が, Uraniaの場合と異なって, Adonisでもなく・Adonaiでもなかったことは, Shelley独 自の神話的解釈のためには好都合だったと考えられる。 第二連では,詩人は,r楽園』に眠っている「偉大なる母」(lnighty Mother)なる Uraniaへ呼びかける。このUraniaは,①ギリシアのAdonis神話では, Adonisを愛 した愛と美の女神Vemus(AP1ユrodite)であり,②九人のミューズの中で天文を司るミュ ーズの名であり,③伝記的には・AdonaisであるKeatsに,彼の存命中に,詩的霊感を 与えたミューズである。④Hungerfordは・Shelleyの時代の神話学に基づいて, Adonais をr太陽」と見なし,Uralliaを,冬に太陽の暖かさを奪われた「捨てられた大地」と考え (10) (互1) た。Shelleyにとって, Bakerの言うように, Uraniaの②と③の意味は同じものであっ た。彼女は,詩の巻頭に掲げられたPlatoのエピグラムに見られる「金星」の心象から, 天文を司るミューズUralliaに関係があること,そして,彼女自身も「金星」(Venus)で あ.ることが臆測される訳けであるが・1821年2月15日付・T・L・Peacock宛の書簡から・ Shelleyが,このミューズを, ShelleyやKeatsに説…的霊感を与えたミュ 一一ズと同一視し ていることが知られるからである。「詩そのものに対する君の呪’誰によって,私は,神聖な 1噴怒へ,或は,侮辱されたミューズの女神たちを擁護する義侠の筆へと駆り立てられた。私 の り り り は,私たちが愛するUraniaのために雑誌という演技場内で,君と槍を交えたいと大いに思 くユの った1と,彼は書いている。要するに,AclonaisのUraniaは,愛と美の:女神Venus (Aphrodite),天文を司るUralliaと同時に詩的源勇乏としてのミューズ,更に,大地,ない し,自然であるところがら,彼女は,!Pro/net/zetts Unbotti・zdのAsia一彼女は, Shelley くエヨ 夫人によって,「Venusにして『自然』(Nature)と同じもの」と言われている一と同じ ものを表わしているのであろう。 く 籾1て,テキストに譲ると,Adonaisが「闇を/飛ぶ箭に射ぬかれて」(st. II)死んだとの 報らせに,彼の死体の周りに多くの哀悼者一『時』(Hour), 『夢』(Dreams), 『欲望』 (Desires),『愛慕』(Adorattons),『.説得』(Persuasiolls)等々の抽象的存在一がやっ て来る。彼らは,Keatsが,存命中に,詩において創造したものであるが,同時に,神話の くユら 一しでは,Venus(Aphroditc)の従者である。 死んだAdonaisは,今や必然・『腐敗』(Col”1’uptioll)e「変化の法則」(the law/Of change)にさらされようとしている。 ・3 且60πα6sにおけるAdonaisとUrania 「彼はもう目覚めぬ,お㍉ もう二度と/一 薄明の部屋に白い『死』の蔭が, すみやかに広がり,戸口には 目に見えぬr腐敗』が自分の暗い住居へと 彼の行く最後の道をつけようと待ち伏せている。 永遠のr飢餓』は坐っているが,憐れみと畏怖は r腐敗』の青白い欲望を和らげ, r腐敗』は かくも美しい餌食を敢て害ねようとはしない, 暗闇と変化の法則が,死のとばりを彼の眠りの上に引くまでは。」 (St. VIII) 彼の死体には, 「目に見えぬ『腐敗』」の作用は未だ始まらず,彼は,死と破壊の中間の状 態にある。 Shelleyは,ライフ・サイクルとデー・サイクルとシーズン・サイクルとを等視していた ので,Adonaisのこの状態が,日(day)と季節(seasoll)においても並行的に生じている のが見られる。『朝』(Morniii9L)は,現2つれようとするが, Adonaisの喪失の悲しみのた .めに十分には現われない。 「『朝』の乱れ髪は,/地を飾る涙の露にぬれて,/日に火をつけ る『空の眼』を暗くした」(st・XIV;ll・121-123)。 『空の眼』(a6real eyes)と1ま,太陽の (16) ことで,「乱れ髪」(hair unbound)1よ・Wassermanによると,服喪の伝統的な慣習であ る。『朝』に合わせて,「悲しそうな雷」(melancholy thunder)は紳き,『蒼ざめた大 洋』(Pale Ocean)は定かならず,『烈風』(wild Winds)は暖泣く。 日が闇夜から昼間へと移れず中間にあるように・季節も冬から春への進行を全う出来な: い。 「悲しみ故に,若い『春』は狂い,『秋』であるかのように 萌え出る蕾を枯葉の如く 投げ捨てた。 『春』の喜びが消えた今 『春』は誰のために陰惨な年を目覚めさすべきか。」 (St. XVI; ll. 136-139) ヒヤシンスも水仙(ナーシサス)も枯れてしまうQこのように『死』(Death)は, Adonais を殺すことによって,自然の一一i切の運行を中断してしまった。だから,第三連において, 「彼は逝ってしまった,賢い,美しいすべてのものが, 降り行く所へ,一お&,彼を恋慕う『冥府』が, 彼を生命あるこの世へ返すと思うな。 『死』は彼の黙した声を糧とし,我々の絶望を嘲笑う。一」 (St. III] 11. 24-27) と言われるのである。「彼を恋慕う『冥府』」(the amorous DeeP)とは, Hadesの女王, 4 Proserpii)c(Pcrsephonc)のことで, Venusの恋仇きである。自然のすべては, Adonais の死とともに滅びた。これは,Adon,ctisより一年前に書かれたThe Sensitive-Plantの 『第三部』の思想に類似している。 「花園」を管理している「美女」(lady fair)の死んだ 後,r眠り草』を初め,「花園」の一切の美しい草木は枯れてしまった。 「冬が去って,春が戻って来た時, 『眠り草』は葉のない一つの残骸となっていたQ マソドレーク,毒キノコ,ギシギシ,毒麦が 出た,死人が崩れた納骨堂から立上るように。」 (Ll. 110-113) Ross Woodmanは,最初の十七の連は,すべて,運動状態に置かれた物質の停止として 見たKeatsの死のヴィジョンだと言い,この思想は, D’Hoibachの唯物論に基づいてい ロの ると考えている。そこには,物質の死,不毛,冷寒,絶望があるのみで,それに代わる何物 も存在しない。Adonis神話に比較的、忠実な第一段階(と第二段階)が,実は,極めて唯物 論的であり,且つ,世俗的であるという・思いがけない結果になっていることは,誠にアイ ロニカルなことである。 皿 詩の展開の第二段階は,第十八連から第三十七連までゴある。こxでは,第一段階での唯 物論的一一元論の後をうけて・同じく「遵い・滅ぶべき性質、」(cold mortality:st・LIV;1. 486)のものを扱う,物・心二元論が述べられる・しかし,それにも拘らず,そこには,既 に,萌え出ずる生命の認識,その予感が見られる。 「あX,悲しいかな/ 冬は訪れまた去ったが, 悲しみはめぐり来る年とともに戻り来る。 微風や流れは喜びの調べを新たにし, 蟻,蜂,燕は再び現われる。 若葉や花は,逝く季節の枢を飾り, 愛し合う鳥はどの草むらにも番い合い, 野やいぼらに苔の家を作り, 青い蜥蝪や金色の蛇は 放たれた炎のように,夢から覚める。」 (St. XVIII) このように,第二段階では,ZR’一一・段階での死と第三段階での復活との中間における停滞の状 態が扱われているが,その中にも自然の息吹きが述べられる。そこには,死の彼方にある生. 命力の存在に対する認識への予感がある。それは,墓の彼方を観ない理性の克服のプロセス でもある。 ・5 .4ゴ。η厩sにおけるAdonaisとUrania 「森や流れや野や山や大洋の中に 蘇らす生命は『大地』の心臓から送しった。 ・ 神が最初に『混沌』に現われた時, この世の大いなる夜明けから生命が変化と運動をもって 遊しった如くに。その生命の流れにひたって, 天の星たちは...一層柔らかな光できらめき, 卑しいものはすべて生命の聖なる渇きをもって, 喘ぎ,広がり,愛の喜びの中に, 彼らの新たにな:つた力と喜びを費い果す。」 (St. XIX) 「蘇らす生命」(aquickening life)は,再び活動を始め,中止の状態にあった自然を蘇生 させる。「. 癡tや花は,逝く季節の極を飾り,/愛し合う鳥は…番い合い」という風に,自 然は相変らずのサイクルを繰返す。しかし・この第二段階で注意すべきことは,箭一段階で 悪とか破壊と考えられていた「変化」が,第十九連にあるように,善,ないし,蘇生の条件 (18) となっていることである。 「自然」の,この状態に対して,Adonaisはどうであろうか。「彼はもう目覚めぬだろ う,お二,もう二度と」(st. XXII;1・ 190)と言われる。 Woodmanが言うように,第二段 階の初めの幾つかの連では,一見・「自然」の復活とAdonais(Keats)の死とが対立され くユ ているかのようである。しかし,こxで言及されている,Adonaisの死とは,彼の肉体の 死と解すべきであろうから,「自然」の復活は,Adonaisの精神の永遠なる復活と無関係 ではなく,寧ろ,これを前兆するのではあるまいか。このことは,次の連の讐喩関係によっ て示唆されよう。 「この優しい生命に触れた,廃欄する死骸は, 優しい香の花々となって蒸発する。 光線が芳香に化する時, 花々は,星々の化身の如く,死を照らし, 地下に目覚める楽しい蛆虫を嘲る。」 (St. XX; ll. 172-176) この五行は,単に「自然」の復活を述べただけでなく,Bionによって歌われたように, Adonaisも,死んでアネモネ(allemolle)になるであろうことの予言的・象徴的表現と見 られる。「優しい香の花々」(flowers of gentle breath:1.173)とは,アネモネの語源 的意味(windflower)に由来し,更に,アネモネは,その花が星形であるところがら,「星 星の化身」(incarnations of stars:L174)に讐えられる。 Wassermanは,「星の光と花 く の の香との密接な関係」について述べているが,その象微的関係を図式化すれば次のよう になろうQ 、βり Adollais←一→花(flower, anemone)←一一→星(star,金星=Venus) £〉×く二il”! ド オ 香(fragrance)←一 一→光(light, splendour) (互に矢印の方向に象徴,及び,讐喩の関係がある。棒線は通常の場合,特に,感情が高ま った場合には,破線の関係,及び,両者の混同も起り得る。) Adonaisは,死んで,アネモネという花になったのであるから,花の取り扱い方の相違 は特に重要である。先ず,第一段階の第二連に,「その歌の調べでもって地下の死骸を嘲る 花々の如く/彼〔Adonais〕は近づきつ}・・ある死の偉大な力を飾り,隠した」(il.17-18) とある。この意味は,生きている花は,その生えている下の死を嘲るのだが,その花もやが ては死なねぽならぬので,その嘲りも無益である・というものである。第二段階では,第二 十連からの上の引用に見られるように,同じ心象が現われるが,それは全く違った扱いを受 けている。そこでは,醜い死骸でさえも全く朽ち果てることなく,却って墓を飾る美しい花 となって咲き匂う。生きている花の下に横わっている死骸は,花の生命を養っている。この 意味で,死骸も花の生命となっている。「自然」においては,死は生命を養い,生命は死を く 「高貴なものとする」(‘illumine’=elmoble)・生きている花は,やがては滅びるだろうが, 再び生まれるだろうから・最早や・「地下の死骸を嘲る」ことはない。そして,今や,死骸 によって養われた花は・ 「死骸を嘲る」ことなく・AdOnaisの肉体を蝕まんと待機してい る「永遠の『飢餓』!(etemal Hunger:1・69)のように物質の腐るのを空しく待っている 蛆虫を嘲笑う。Adonaisは,死んだ肉体を糧として,蘇生するのである。 第三段階の第四十九連においては・RomeのProtestant Cemeteryでは,外では「多者 が変化し過ぎ去る」が,内では「嬰児の微笑みの如く/芝生に沿うて微笑む花々の輝やく光 が死者の⊥に広がっている」と言われる。第一e第二段階での「嘲る」(mock)は,こXで は,「微笑む一](Smile)に変る。このように,花の描写の仕方にも,物質の死のペシミズム く から理想的なオプティミズムへの変化が見られる。 第二段階では,Shelleyは,このように「自然」の復活を通して, Adonaisの復活を予言 く してはいるもの㍉彼は専ら,物・心二元論を述べていると考えられる。もし,第一段階の AdonaisがKeatsの受動的な肉体を意味するならば,第二段階でのAdonaisは彼の肉体 と受動的な精神(理性)であり,第三段階のAdonaisは彼の能動的な精神(想像力,ない し,魂)を表わしていると言い得る。この見地から,第二十連の極めて難解だが重要な詩行 を解釈してみたい。 「我々の知っている万有は,何も死なぬ。たx“,知る所のもののみが 目に見えぬ稲妻によって,鞘よりさきに, 燃え尽きる剣のようなものであろうか。赤熱する原子は 一瞬光を放ち,消える,一際冷い休息の中に。」 (St. XX; 11. 177-180) AdonaisにおけるAdonaisとUrania 7 こxで,恐らく,Sheilcyは,知識の対象は滅びぬのに, 「知る所のもの」(that…which knows),「赤熱する原子」(the illtellse atom),すなわち,精神のみが消滅してしまうと 言っているのであろう。第二十五連で,Uraniaの肉体的な愛撫によって一瞬閃いた「『生 命』の青い光」(Life’s pale light:1.220)である,「原子」(atom)は,0・ED.によ ると,今では用いられないが,十七世紀から十八世紀にかけて,「光によって見える塵の微 (24) 粒子」の意味で用いられていた。Shelleyも,また,この意味を知っていた。更に, Wassermanによると, Epicurus哲学では,「精神」は燃える原子,すなわち,知る力を (25) もっことが出来る物質の微粒子であった。そして,フランスの徹底した唯物論では,「精 神」も運動状態にある物質と推論された。このようなことから,「原子」と同じ「知る所の もの」なる精神は,7’lze Revolt of Js’lai’n(IX, xxxii)で, 「蛆虫のいる墓の彼方を観る 心」ではなくて,この「心」に絶望を命じる「『感覚』と『理性』」(Sense and Reason)で あると推測される。この狭い能力は,「冷い,滅ぶべき性質」のもので,同じ性質の肉体と ともに滅びるものであるQこの「原子」が,想像力ではないことは,それが「目に見えぬ稲 妻によって,鞘よりさきに,/燃え尽きる剣」(asword consumed before the sheath/ By sightiess lightning)のようなものである限り,疑うことは出来まい。 Adonaisより約 三ヵ月前に書かれたA1)efence of Poetryに,「あらゆる知識の基礎である創造力」なる 想像力は,「稲妻の剣である。常に鞘から抜き放たれ・それを納めんとする鞘を焼き尽くさ (26) ずにはおかぬだろう」とあり,同様な調子で,約四ヵ月前に書かれたEpiPsychidionにも, 「想像力よ, 誠の『愛』は,汝の光の如く, 地や空から,人の空想の奥底から 無数のプリズムや鏡からの如く, 輝やかしい光線を宇宙に充たし, 毛虫の如き誤謬を,反射の稲妻の 太陽の如き箭で殺す。」 (Ll. 163-169) とあり, 「誠の『愛』は,決して このように束縛されたことなく,あらゆる障壁を飛び越える, 稲妻のように,目に見えぬ力で, その拘束物を突き通す。」 (Ll. 397-400) とある。上の引用は,いずれも,Shelleyが,想像力を,鞘をも熔す剣とか,稲妻と見なし ていたことを示している。墓の彼方を観ない「『感覚』や『理性』」の滅びるのが,AdOnais

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