III. オーストラリア連邦

(Commonwealth of

<目次 ~オーストラリア~> 第 1 章 市場環境の特徴 ...... 2 第 2 章 金融制度概要 ...... 3 1. 金融機関の種類 ...... 3 (1) 概要 ...... 3 (2) 国内銀行 ...... 4 (3) 外国銀行 ...... 5 (4) 住宅金融組合・信用組合 ...... 5 (5) 金融会社・金融業者 ...... 6 2. 監督官庁と指導体制 ...... 7 3. オーストラリアの金融制度の特徴 ...... 8 4. 預金保険制度の枠組み ...... 8 5. 個人資産運用に関わる税制全体の中での預貯金税制 ...... 10 第 3 章 郵便貯金の概要 ...... 12 1. 設立目的・沿革概要 ...... 12 2. 組織形態 ...... 12 (1) 経営形態 ...... 12 (2) 金融サービス提供の形態 ...... 14 (3) 窓口取扱時間 ...... 16 3. 主な業務内容 ...... 16 (1) 預金業務概要 ...... 16 (2) 資金運用方法 ...... 16 (3) 貸出業務概要 ...... 16 (4) 送金・決済業務概要 ...... 17 (5) 国際業務概要 ...... 17 (6) 付随業務概要 ...... 18 4. 会計基準と財務諸表 ...... 18 第 4 章 金融セクターにおけるリテール金融機関の特徴 ...... 21 1. オーストラリア郵便公社 ...... 21 (1) オーストラリア郵便公社の特徴...... 21 (2) オーストラリア郵便公社の競争力 ...... 22 2. 住宅金融組合・信用組合 ...... 22 3. 金融会社・金融業者 ...... 22 4. 家計金融資産・負債の動向 ...... 22 (1) 家計金融資産 ...... 22 (2) 家計金融負債 ...... 24 5. 金融セクターにおけるリテール金融機関の位置付け ...... 25 第 5 章最近の金融動向と今後の展望 ...... 25 1. 最近の金融動向 ...... 26 (1) 金融制度改革の動向 ...... 26 (2) 「金融包摂/排除(Financial Inclusion/Exclusion)」の取り組み現状 ...... 27 (3) マイクロファイナンス等ソーシャルファイナンスの現況 ...... 28 (4) コミュニティ銀行(Community )の設立 ...... 30 2. 最近のリテール決済の動向 ...... 31 (1) キャッシュレス化の動向 ...... 31 (2) モバイル決済の動向 ...... 33 (3) インターネット経由の買い物の状況 ...... 34 (4) フィンテック関連政策の動向 ...... 36 (5) フィンテック企業の取り組み ...... 38 (6) リテール決済等に関する規制の状況 ...... 40 (7) 銀行の支店網縮小の動き ...... 42

3. 今後のオーストラリア郵便公社の動向 ...... 43 (1) オーストラリア郵便公社の経営形態 ...... 43 (2) オーストラリア郵便公社の郵便関連業務 ...... 43

<略語集> 略語 原語(英語) 日本語訳 ATO Australian Taxation Office オーストラリア国税庁 ADIs authorised deposit-taking institutions 認可預金受入機関 APRA Australian Prudential Regulation Authority オーストラリア健全性規制庁 ASIC Australian Securities and Investments Commission オーストラリア証券投資委員会 CUA of Australia オーストラリア信用組合 グッド・シェパード・ユース&フ GSYFS Good Shepherd Youth & Family Service ァミリー・サービス IFRS International Financial Reporting Standards 国際会計基準 NAB ナショナル・オーストラリア銀行 RBA Reserve Bank of Australia オーストラリア準備銀行 認可預金受入機関ではない金融機 RFCs registered financial corporations 関 SMSF self-managed super fund 自己運用年金ファンド

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第 1 章 市場環境の特徴

図表 1: オーストラリアの概要

分類 項目

面積 約769.2万平方キロメートル

人口 2,572万人(2020年、IMF推計)

主要都市 キャンベラ アングロサクソン系等欧州系が中心。その他に 一般事情 民族 中東系、アジア系、先住民など 言語 英語

宗教 キリスト教52%、無宗教30%

在留邦人数 103,638人(2019年10月)

政体 立憲君主制

エリザベス二世女王(英国女王兼オーストラリア女王)。但し、連邦総督(2019年7月1 元首 政治体制・内政 日、デイビッド・ハーレー元豪国防軍司令官が就任)が王権を代行。 議会 二院制(上院76、下院151議席)

首相 スコット・モリソン(自由党)

農林水産業、鉱業、製造業、建設業、卸売・小売業、運輸・通信業、金融・保険業、専 主要産業 門職・科学・技術サービスなど

GDP 1兆3,347億米ドル(2020年、IMF推計) 経済 1人あたりGDP 51,885米ドル(2020年、IMF推計)

実質GDP成長率 -4.2%(2020年、IMF推計)

通貨 豪州ドル。1米ドル=1.31豪ドル、1豪ドル=79.70円 (2021/1/29)

(出所) IMF “World Economic Outlook October 2020”、外務省「海外在留邦人数調査統計 令和 2 年版」、Bloomberg 等を基に作成 https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/australia/data.html (2021 年 1 月 27 日閲覧)

図表 2: オーストラリアの主要経済指標

単位 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020

人口 万人 2,252 2,293 2,330 2,364 2,399 2,439 2,477 2,517 2,552 2,572

名目GDP 億ドル 15,137 15,693 15,184 14,574 12,348 12,666 13,865 14,211 13,871 13,347

1人あたりGDP(名目) ドル 67,209 68,445 65,175 61,648 51,484 51,934 55,968 56,453 54,348 51,885

実質GDP成長率 % 2.8 3.8 2.1 2.6 2.3 2.8 2.4 2.8 1.8 -4.2

消費者物価上昇率 % 3.3 1.7 2.5 2.5 1.5 1.3 2.0 1.9 1.6 0.7

経常収支 GDP比% -3.1 -4.3 -3.4 -3.1 -4.6 -3.3 -2.6 -2.1 0.6 1.8

財政収支 GDP比% -4.5 -3.5 -2.8 -2.9 -2.8 -2.4 -1.7 -1.2 -3.9 -10.1

政府債務 GDP比% 24.1 27.5 30.5 34.0 37.7 40.5 41.1 41.7 46.3 60.4

(注)名目 GDP と 1 人あたり GDP(名目)の単位は米ドル。 (出所) IMF “World Economic Outlook October 2020”を基に作成(2021 年 1 月 27 日閲覧)

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第 2 章 金融制度概要

オーストラリアの金融機関は、原則として 1959 年銀行法(Banking Act 1959)に 基づいて設立される。預金受入を行わない金融市場会社・金融会社については 2001 年会社法(Corporations Act 2001)が根拠法となる。

1. 金融機関の種類

(1) 概要

オーストラリアの金融機関は、オーストラリア健全性規制庁(Australian Prudential Regulation Authority, APRA)により預金業務取扱いの認可を受けた認可 預金受入機関(authorised deposit-taking institutions, ADIs)と認可預金受入機関で はない金融機関(non-ADI financial institutions, registered financial corporations, RFCs)に大別される。

図表 3:オーストラリアの主な金融機関の業態分類

認可預金受入機関(Authorised Deposit-taking Institutions, ADIs) 機関数 総資産 十億豪ドル 業態 根拠法 特徴 割合 資産シェア

国内銀行 43 4,394.7 様々な主体に、ファンドマネジメントや保険を含 (Australian-owned ) 29.7% 83.7% む幅広い金融サービスを提供している。

外国銀行現地法人 7 180.9 国内銀行と同じ業務を行う権限が付与されてい る。 (foreign subsidiary banks) 4.8% 3.4%

外国銀行支店 48 619.3 個人から預金の受け入れができない点以外は、 (branches of foreign banks) 外国銀行現地法人と同一。 33.1% 11.8% 1959年 銀行法 主に預金や住宅ローン等個人向け融資、支払 住宅金融組合 40 48.11 サービスを提供している。近年は統合・合併が相 (building societies) 次いでいる。 27.6% 信用組合 預金や住宅ローン等個人向け融資、支払サービ 0.9% (credit unions) ス等を組合員に提供している協同組織。

その他預金取扱機関 7 6.8 住宅金融組合・信用組合に決済サービスを提供 する事業者など。 (other ADIs) 4.8% 0.1%

145 5,249.8 合計 100.0% 100.0%

(注) 2020 年 9 月末。 (出所) オーストラリア健全性規制庁、“Quarterly Authorised Deposit-taking Institution Statistics”1を基に作成(2020 年 12 月 15 日閲 覧)

1 https://www.apra.gov.au/quarterly-authorised-deposit-taking-institution-statistics

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認可預金受入機関ではない金融機関 (Non-ADI Financial Institutions, Registered Financial Corporations)

業態 総資産 根拠法 特徴

金融市場会社 主にホールセール市場で活動。大企業、政府機関への融 (money market 40.9 資・借入を行う他、アドバイザリー業務やコーポレートファイ corporations) 2001年 ナンス、投資顧問等も。 金融会社・金融業者 会社法 (finance companies and 257.7 家計や中小企業へローンを提供。 general financiers) (注) 2020 年 9 月末。単位は 10 億豪ドル。 (出所) オーストラリア準備銀行ウェブサイト、“Assets of Financial Institutions –B1 (Publication date: 04-Jan-2021)”2、を基に作成 (2021 年 1 月 21 日閲覧)

(2) 国内銀行

国内銀行(Australian-owned banks)は 1959 年銀行法に基づき、43 行が業務を行 っている(2020 年 9 月末)。中でもオーストラリアを代表する大手行は、ウェスト パック銀行( Banking Corporation)、コモンウェルス銀行 ( of Australia, CBA)、ナショナル・オーストラリア銀行 (National Australia Bank, NAB)、オーストラリア・ニュージーランド銀行 (Australia and New Zealand Banking Group, ANZ)の 4 行である。大手 4 行以外は その他国内銀行(other domestic banks)として位置づけられており、各地方の顧客 に対しサービスを提供しているが、本店所在地は主要都市に集中している。また、過 去に州政府が設立した州立銀行もあったが、経営破綻や吸収合併を経て、現在、州立 銀行は業態として存在しない3。

また、監督機関の分類上は「国内銀行」とされるが、実態は信用組合や住宅金融組 合と同様の形態(mutual corporate structure)である金融機関として 31 の相互銀行 (mutual banks)があるが、これらのプレゼンスは小さい(2020 年 12 月)4。

図表 4:国内銀行の総資産ランキング(2020 年 11 月)

単位:100万豪ドル 銀行名 居住者総資産 預金 貸出 1 Commonwealth Bank of Australia 980,903 591,445 657,425 2 Westpac Banking Corporation 910,526 468,284 585,857 3 National Australia Bank Limited 778,745 387,839 471,897 4 Australia and New Zealand Banking Group Limited 649,054 326,493 409,025 5 Macquarie Bank Limited 147,608 81,264 71,102 6 Bendigo and Adelaide Bank Limited 91,269 57,187 66,316 7 Suncorp-Metway Limited 76,902 40,175 57,138 8 Limited 65,710 36,190 41,545 9 AMP Bank Limited 28,565 8,960 20,464 10 Members Equity Bank Limited 24,820 19,516 15,209

(注) 赤ハイライトは大手 4 行を示す。統計上、国内銀行のサブカテゴリーとして大手銀行(major banks)が発表されている。 (出所) オーストラリア健全性規制庁、“Monthly authorised deposit-taking institution statistics” (released 4 January 2021)5

2 http://www.rba.gov.au/statistics/tables/#al 3 2013 年 12 月のヒアリングに基づく。 4 会員協働金融機関組合(Customer Owned Banking Association, COBA)ウェブサイト、“COBA Fact Sheet” https://www.customerownedbanking.asn.au/storage/coba-fact-sheet-december-2020-16072982050NO0I.pdf (2020 年 12 月 15 日閲覧)

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(3) 外国銀行

オーストラリアで展開している外国銀行は、外国銀行の現地法人、外国銀行の支店、 そして駐在員事務所に分類される。外国銀行の現地法人はオーストラリア政府から銀 行免許を受け、国内商業銀行と同等の金融サービスを提供することができる。一方で、 外国銀行の支店は個人小口預金の受入れ(25 万豪ドル以下の預金)が原則禁止され ている。例外として、非居住者や自行従業員の預金は少額から取扱い可能である。ま た、駐在員事務所は銀行業務を行うことができない。

オーストラリアでは 7 行の外国銀行現地法人、そして 48 の外国銀行支店が業務を 行っている(2020 年 9 月末)。オランダの ING 銀行が資産・預金・貸出全ての面で 最大であり、総資産では HSBC 銀行が続く。両行は共にオーストラリアの現地法人と して営業している。日本のメガバンクはいずれも支店形式で進出しており、総資産面 で、三菱 UFJ 銀行(MUFG Bank)は 3 位、三井住友銀行(Sumitomo Mitsui Banking Corporation)は 4 位、と、プレゼンスも大きい。

2020 年 10 月 19 日時点で 14 の外国銀行が駐在員事務所を開設6している。日系銀 行では、三井住友信託銀行の駐在員事務所がある。

図表 5:外国銀行の総資産ランキング(2020 年 11 月)

単位:100万豪ドル 銀行名 居住者総資産 預金 貸出 現法/支店 1 ING Bank (Australia) Limited 87,480 47,389 64,248 現地法人 2 HSBC Limited 53,411 27,778 25,905 現地法人 3 MUFG Bank, Ltd. 30,521 20,521 18,436 支店 4 Sumitomo Mitsui Banking Corporation 29,824 8,468 22,018 支店 5 Citibank, N.A. 26,066 11,135 5,389 支店 6 Limited 25,988 13,191 18,620 支店 7 UBS AG 24,078 1,695 7,693 支店 8 Citigroup Pty Limited 23,758 7,668 11,505 現地法人 9 JPMorgan Chase Bank, National Association 23,366 13,766 2,700 支店 10 Mizuho Bank, Ltd. 20,250 3,689 15,291 支店

(出所) オーストラリア健全性規制庁、”Register of authorised deposit-taking institutions (Updated 30 November 2020)”7 “Monthly authorised deposit-taking institution statistics” (released 4 January 2021) 8(2021 年 1 月 21 日閲覧)

(4) 住宅金融組合・信用組合

住宅金融組合(building societies)や信用組合(credit unions)は 1959 年銀行法に より業務を行っており、認可預金受入機関の一業態として商業銀行と同様にオースト ラリア健全性規制庁の健全性規制に服している。2020 年 9 月末時点で、40 の住宅金 融組合・信用組合があり、認可預金受入機関全体に占める資産額の割合は全体で 5.2 兆豪ドルのうち、481 億豪ドル(シェア 0.9%)である。また預金残高では、全体で

5 https://www.apra.gov.au/monthly-authorised-deposit-taking-institution-statistics 6 https://www.apra.gov.au/foreign-bank-representative-offices-not-adis (2020 年 12 月 15 日閲覧) 7 https://www.apra.gov.au/register-authorised-deposit-taking-institutions 8 https://www.apra.gov.au/monthly-authorised-deposit-taking-institution-statistics

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2 兆 3,843 億豪ドル、うち住宅金融組合・信用組合は 400 億豪ドル(シェア 1.7%) であり、金融機関の中でのプレゼンスは小さい。

住宅金融組合・信用組合と、これらに似た性質を持つ相互銀行を合算した全ての協 同金融機関(mutual ADIs)の総資産額は 1,439 億豪ドルであり、資産シェアは 2.7% にとどまる(2020 年 9 月末)9。

いずれの取扱金融業務も個人向け小口金融に特化している。また、信用組合では、 会員以外でも融資を受けることができ、金利も会員と非会員との間の差はない。実際 は、10 豪ドルを出資すれば組合に加盟することができるため、会員となるケースが 多い10。信用組合や住宅金融組合は地域のコミュニティに根ざした金融機関を目指す ことを謳っており、実際に高い顧客満足度を獲得している11。

【参考情報:オーストラリア信用組合(Credit Union of Australia, CUA)12】 オーストラリア信用組合(CUA)は、1946 年に郵便局職員向けの信用組合として設立された。当初は非常 に小さな組織であったが、今やオーストラリア最大の信用組合へと成長している。全国に 50 以上の支店を持 ち 50 万人以上にサービスを提供しており、家族単位の顧客を主なターゲットとしている。また、近年では若 年層の取り込みにも力を入れている。具体的には、18 歳未満に有利な預金金利を提供(Youth eSaver Account)しているほか、モバイルバンキングアプリの導入やフェイスブック等 SNS の活用により、若年層が 親しみやすい環境を整備している。 CUA では普通預金、定期預金、貯蓄預金のような預金メニューはもちろん、マイホームやマイカーといっ た特定商品の購入のためのローン、家財保険や自動車保険、健康保険など、地元住人の生活を支えるための各 種サービスを低金利・低コストで提供している。 また、CUA は、オーストラリア 4 大銀行との競合を積極的に行い、預金、融資、保険ではより良い商品・ サービスを提供し、顧客満足度向上に努めている。

(5) 金融会社・金融業者

認可預金受け入れ機関ではない金融機関(RFCs)に分類される金融会社・金融業 者(finance companies and general financiers)は、2001 年会社法(Corporations Act 2001)に基づいて設立される。ADIs がオーストラリア健全性規制庁の監督下にある 一方で、金融会社・金融業者は預金業務を行っていないことから、オーストラリア証 券投資委員会(Australian Securities and Investments Commission, ASIC)が監督官 庁となる13。2002 年 7 月に Financial Sector (Collection of Data) Act 2001 が制定され たことにより金融会社の登録と分類はオーストラリア健全性規制庁(APRA)の責任 になり、RFC の財務データの収集責任も 2003 年 4 月以降オーストラリア準備銀行か ら APRA に移管された。資産が 5,000 万豪ドルを超える RFC は資産や負債などの財 務データを APRA に申告する義務がある14。2020 年 9 月時点の金融会社・金融業者

9 オーストラリア健全性規制庁、“Quarterly Authorised Deposit-taking Institution Statistics (released 8 December 2020)”を基に作成(2020 年 12 月 15 日閲覧) https://www.apra.gov.au/quarterly-authorised-deposit-taking- institution-statistics 10 2013 年 12 月のヒアリングに基づく。 11 会員協働金融機関組合(COBA)ウェブサイト、28 JULY 2020, “COB institutions lead customer trust” https://www.customerownedbanking.asn.au/news-and-resources/media-releases/cob-institutions-lead-customer-trust (2020 年 12 月 15 日閲覧) 12 オーストラリア信用組合ウェブサイト、https://www.cua.com.au/about-us/cua-difference (2021 年 1 月 22 日閲覧) 13 https://www.rba.gov.au/fin-stability/fin-inst/main-types-of-financial-institutions.html 14 1999 年 12 月以前は資産 500 万豪ドル超の RFC が対象であった。https://data.gov.au/data/dataset/e666f1fd-d030- 481c-a520-7ba131ad65b3 (2020 年 12 月 14 日閲覧)

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の資産額は 2,577 億豪ドルとなっている15。これらの企業は主に家計や中小企業向け の融資を行っている。

2. 監督官庁と指導体制

オーストラリアでは、認可預金受入機関を含め金融サービス業を営むためには、原 則として 2001 年会社法(Corporations Act 2001)に基づき、オーストラリア証券投 資委員会(ASIC)に申請し、オーストラリア金融サービスライセンス(Australian Licence)を取得する必要がある16。更に、認可預金受入機関として 預金業務を行う場合には、1959 年銀行法により、オーストラリア健全性規制庁 (APRA)に許可を求めなければならない17。

ASIC は、金融市場における不正をなくすべく、会社法(Corporations Act)及び金 融に関する消費者保護法制の執行を担う機関である18。独立した連邦政府の組織とし て 1998 年に設立され、2001 年証券投資委員会法(Australian Securities and Investments Commission Act 2001)を法的根拠として業務を行っている。金融業を 営むオーストラリアの会社、金融市場、投資・年金・保険・預金及び信用の取扱いや 助言サービスを行う金融サービス提供者(financial services organisations and professionals)の 3 分野を規制する。消費者信用(consumer credit)については、銀 行、信用組合、金融会社、住宅ローン・金融仲介業を含む消費者信用活動を行う者へ の許可・規制を行い、金融市場については、市場関係者が、秩序立った公正で透明な 市場を運営するために法律を遵守しているかの評価を行う。また、新たな金融市場の 認可に関して担当大臣への助言も行う。そして金融サービスについては、年金、投資 信託、株式・債券、デリバティブ、保険等を取り扱う金融サービス提供者に業務遂行 の許可を与え、そうした会社が効率よく、公正に業務を行っているかを監視する。

APRA は、金融機関の健全性規制を担う機関である。1998 年 7 月にオーストラリ アにおける金融監督機関として設立され、その際にオーストラリア準備銀行 (Reserve Bank of Australia, RBA)から監督権限を引き継ぎ、現在、認可預金受入機 関、生命・損害保険会社、再保険会社、友愛組合、年金基金を監督している。APRA は、金融機関の健全性を保つため、多様な監督・指導体制を敷いている。年に 1~2 回、金融機関の経営者との面談によりリスクモニタリングを行う健全性コンサルテー ション(prudential consultation)や、金融機関の現場で、3 日~1 週間ほど掛けてフ ァイル管理のチェックや現場職員からのヒアリングを行う健全性レビュー (prudential review)等がある。また、金融機関から定期的にデータを提出させ、経 営方針・手法やリスク管理に関する書類チェックを行うオフサイト分析(offsite analysis)も行っている19。

15 Reserve Bank of Australia, “Finance Companies & General Financiers – Selected Assets & Liabilities – B10 (Publication date: 04-Jan-2021)” 16 オーストラリア証券投資委員会(ASIC)ウェブサイト ‘AFS licensees’ http://asic.gov.au/for-finance-professionals/afs-licensees/ 17 1959 年銀行法 Section 9 Authority to carry on banking business. http://www.comlaw.gov.au/Details/C2014C00211 18 オーストラリア政府ウェブサイト、“Financial regulation” https://www.australia.gov.au/information-and-services/money-and-tax/financial-regulation 19 2013 年 12 月のヒアリングによれば、当該対応は義務化されているが、オーストラリア健全性規制庁によれば、これに 応じない金融機関もある。

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なお、APRA と ASIC は、2010 年 5 月 18 日に覚書(memorandum of understanding)を締結し、次のように役割を分担した20。ASIC は、会社法制及び金 融サービス法制(financial services laws)の監督、規制、執行及び金融市場や信託会 社を含む金融サービスと支払・決済システム全体における市場の信頼性推進と消費者 保護を担う。また、ASIC は信用提供者及びその仲介者(credit providers and intermediaries)の業務遂行許可・行動規制を含む消費者信用法制を管理する。他方、 APRA は、銀行、住宅金融組合、信用組合、生命・損害保険会社、再保険会社、友愛 組合、年金基金の健全性監督を行う。更に、APRA は預金保険制度(Financial Claims Scheme)を運営する。その機能を発揮し、預金者、保険加入者、投資信託保 有者等の利益を保護するに当たっては、金融の安全性(financial safety)と効率性、 競争、競争可能性、競争的中立性のバランスをとることが求められている。以上のよ うに、ASIC がマクロ的観点から金融法制全般、消費者保護等の規制に責任を持つの に対し、APRA は預金受入金融機関の事業性・健全性等の監督責任を有している。

3. オーストラリアの金融制度の特徴

金融機関で中心となるのは銀行セクターで、前述の 4 大銀行(Westpac Banking Corporation, Commonwealth Bank of Australia, National Australia Bank Limited, Australia and New Zealand Banking Group Limited)が圧倒的な地位を占めており、 資産額 5 位の Macquarie Bank Limited は第 1 位の Commonwealth Bank of Australia の資産の 15%程度にとどまる(前掲図表 4)。年金分野においても、主要な一般向け スーパーアニュエーション基金に資金を提供するリテールファンドのほとんどが 4 大 銀行と保険大手の AMP が管理するファンドである21。

オーストラリア健全性規制庁(APRA)は、健全性監督の観点から、4 大銀行のシ ェアが高いことについては特段問題視していない。競争のある市場環境を重視してい ることから、銀行市場が独占状態でない限り、憂慮すべき事象ではないという考えで ある22。ただし、政府の「4 大銀行政策」によりこの 4 行間での合併は禁止されてい る23。

なお、4 大銀行に次ぐ資産額 5~6 位はオーストラリアの地場銀行が占めるが、7 位 にオランダ系の ING Bank (Australia)が続くほか、10 位 HSBC、11 位三菱 UFJ 銀 行、12 位三井住友銀行といった大手外資系銀行が上位に入るなど、対外開放度が比較 的高いことも特徴である。

4. 預金保険制度の枠組み

オーストラリアは、公的な預金保険制度が導入されていない国として知られていた。 同国においてそれまで預金保険制度が存在しなかったのは、①債務者より預金者を優 先的に保護する法令が整備されていたこと、②過去 100 年間で銀行が破綻した事例が

20 オーストラリア健全性規制庁ウェブサイト、”Memorandum of Understanding between the Australian Prudential Regulation Authority and the Australian Securities and Investments Commission” https://www.apra.gov.au/memoranda-understanding-and-letters-arrangement 21 野村(2013)による。 22 2013 年 12 月のヒアリングに基づく。 23 オーストラリア貿易促進庁ウェブサイトによる(2020 年 5 月 13 日閲覧)。 https://www.austrade.gov.au/International/Buy/Australian-industry-capabilities/Financial-services/Financial-Services

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なかった(州立銀行の破綻のみ)ことから、預金者が実害を受けた経験がなく、必要 性が認識されていなかったことが背景にある24。

しかし、2008 年の金融危機への対応策として、同年に、オーストラリア法人の認 可預金受入機関、すなわちオーストラリアの商業銀行、住宅金融組合、信用組合、外 国銀行の現地法人が取り扱う預金について各金融機関における預金者 1 人当たり 100 万豪ドルまでの預金を救済する金融請求権スキーム(Financial Claims Scheme)が整 備された25ほか、2010 年 3 月末までの暫定措置ではあるものの、100 万豪ドルを上回 る高額預金に対しても、多額預金及び資金調達に対する保証スキーム(Guarantee Scheme for Large Deposits and Wholesale Funding)により、救済が行われた26。

その後も運営が継続された金融請求権スキーム(Financial Claims Scheme)は、 2012 年 2 月 1 日以降、保証金額の上限が 25 万豪ドルまで引き下げられ27、現在も 25 万豪ドルが上限となっている。保障対象については、オーストラリア法人の認可預金 受入機関の預金とされており、外国銀行の在豪支店や認可預金受入機関の在外支店等 は対象外となっている28。また、2011 年 10 月 12 日以降、外貨預金も当該保障の適用 外とされた29。

また、同制度は「金融請求権スキーム」として損害保険の請求権についても保障対 象としており、損害保険会社の破綻時には原則 5,000 豪ドルを上限に保険金請求権が 保障される。また、オーストラリア市民や永住外国人が個人として有する保険金請求 権は、5,000 豪ドル超の部分についても保障対象となる30。ただし、保障対象は基本的 に保険会社の破綻前に発生していた損害に対する保険金に限られ、保険契約の掛金や 未発生の損害に対する請求権は対象外となる。なお、生命保険や健康保険は同制度の 対象外である。

金融請求権スキームは、保証原資にまず破綻金融機関の資産を充当し、それでも足 りない場合に他行から資金を徴収する仕組みとなっており、事前に資金を確保してい ない。各行の保険対象預金額に対して一律 0.05%の保険料率を課すことがオーストラ リア準備銀行(RBA)から提案され、当時のラッド政権もそれを了承したものの、銀 行業界から反発を受けた。2013 年 9 月の政権交代により就任したアボット政権は、 金融請求権スキームの充実により、預金者による銀行のモニタリング機能が働かなく なること、また、投資信託や社債等の他の金融商品よりも預金に投資するインセンテ ィブが強まること等を理由に、保険料率の適用を保留した経緯がある。

24 2013 年 12 月のヒアリングに基づく。 25 オーストラリア準備銀行(RBA)ウェブサイト(2021 年 1 月 22 日閲覧) https://www.rba.gov.au/publications/fsr/2009/mar/box-a.html 26 オーストラリア財務省 ‘Report on the Operation of the Guarantee Scheme for Large Deposits and Wholesale Funding’ https://treasury.gov.au/programs-and-initiatives-banking-and-finance/australian-governments-2008-deposit-and- wholesale-funding-guarantees/report 27 オーストラリア準備銀行 https://www.rba.gov.au/publications/bulletin/2011/dec/5.html 28 オーストラリア健全性規制庁ウェブサイト ‘Types of banking institutions covered under the Financial Claims Scheme’ https://www.apra.gov.au/types-of-banking-institutions-covered-under-financial-claims-scheme 29 オーストラリア政府 Financial System Legislation Amendment (Financial Claims Scheme and Other Measures) Act 2008, Section12. http://www.comlaw.gov.au/Details/C2008A00105/ 30 APRA, ‘Insurance policy holders covered’, https://www.apra.gov.au/insurance-policy-holders-covered

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5. 個人資産運用に関わる税制全体の中での預貯金税制

オーストラリアでは、給与や賃金と同様、利子所得、配当所得も通常の課税所得と みなされ、総合課税に基づいた下記の税率が適用される31。

キャピタル・ゲインについては、1985 年 9 月 19 日以降に取得した資産が対象とな る32。また、資産の保有期間により課税区分が異なり、12 カ月未満の場合はキャピタ ル・ゲインの額がそのまま総合課税の対象となり、12 カ月以上の場合は処分した資産 からキャピタル・ゲインの額の 50%を控除することができる。

なお、総合課税を受けるためには、予め金融機関に 9 桁からなる納税者番号(Tax File Number)を提出していなければならず、未提出の場合は、課税所得金額に関わ らず、最高税率が源泉分離課税される。

図表 6:オーストラリア居住者の所得税率(2020-21 年度)

課税所得 課税額 実効税率 0-$18,200 なし 0% $18,201-$45,000 $18,200 を超える$1 毎に 19 セント 0.00 – 11.32% $45,001-$120,000 $5,092 11.32 – 24.56% +$45,000 を超える$1 毎に 32.5 セント $120,001-$180,000 $29,467 24.56 – 28.70% +$12,000 を超える$1 毎に 37 セント $180,001 以上 $51,667 28.70 – 45%[最高] +$180,000 を超える$1 毎に 45 セント (注) 上記税率に健康保険税(Medicare Levy)2.0%が追加される。ただし低所得者、年金生活者等は減額・免除さ れる。 (出所) オーストラリア国税庁(Australian Taxation Office, ATO)33を基に作成

図表 7:低所得者税控除(LITO)と低中所得者税控除(LMITO)(2020-21 年度)

課税所得 低所得税額控除額(LITO) $37,500 以下 $700 $37,501-$45,000 $700 -$37,500 を超える$1 毎に 5 セント $45,001-$66,667 $325 -$45,000 を超える$1 毎に 1.5 セント $66,667 超 適用外

課税所得 低中所得税額控除額(LMITO) $37,000 以下 $255 $37,001-$48,000 $255 +$37,000 を超える$1 毎に 7.5 セント(最大$1,080) $48,001-$90,000 $1,080 $90,001-$126,000 $1,080 -$90,000 を超える$1 毎に 3 セント (出所) オーストラリア国税庁34

31 Deloitte 「Australia Highlights 2021 Updated January 2021」 https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/global/Documents/Tax/dttl-tax-australiahighlights-2021.pdf 32 1985 年までオーストラリアにおいてキャピタル・ゲインは非課税であった。 33 https://www.ato.gov.au/rates/individual-income-tax-rates/ (Last modified: 15 Oct 2020)(2021 年 1 月 25 日閲覧)

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2019 年 5 月に行われた総選挙で続投を決めたモリソン政権は、2018/2019 年度か ら 3 段階に分けて所得減税策を行っている35。

まず、その第一弾として、低・中所得者の税負担を軽減する。もともとオーストラ リアでは、1993 年に導入された 66,667 豪ドルまでの課税所得に対する低所得者税控 除(LITO)に加え、2018/2019 年度から 125,333 豪ドルまでの課税所得者に対して、 LITO と併用可能な低中所得者税控除(LMITO)が一時的に導入(2018 年 7 月 1 日 以降 2021/2022 年度までの 4 年間適用予定)されており、所得に応じて年間最大 530 豪ドルの税額控除を受けられるようになっていた36が、2019/2020 年からは LMITO の控除額上限を 530 豪ドルから最大 1,080 豪ドルに引上げられ、課税所得対 象は 126,000 豪ドルまでになった。2020/2021 年度の変更点としては、LMITO の終 了時期が早まり、2020/2021 年度までとなった。また 2022 年 7 月に LITO の控除上 限額が 445 豪ドルから 645 豪ドルに、2022/2023 年度中にさらに 700 豪ドルまで引 き上げられる予定であったが、前倒しされて 2020/2021 年度から 700 豪ドルへ引き 上げられた。

第 2 弾では、2022/2023 年度から所得税率について課税所得 18,200~37,000 豪ド ルの区分の上限を 45,000 豪ドルに改め低税率の範囲を拡大する予定であったが、 2020/2021 年度連邦予算案でこの時期を前倒しして 2020 年 7 月 1 日に遡って適用す ると発表した。

第 3 弾では、2024/2025 年度から累進課税の税率適用区分を 4 区分から 3 区分に 削減し、税率を簡素化する予定である。これにより約 95%の納税者の税率が 30%以 下になると試算されている。

図表 8:オーストラリア居住者の所得税率(2024-25 年度)

課税所得 課税額 実効税率 0-$18,200 なし 0% $18,201-$45,000 $18,200 を超える$1 毎に 19 セント 0 – 11.32% $45,001-$200,000 $5,092 11.32 – 25.8% +$45,000 を超える$1 毎に 30 セント $200,000 超 $51,592 25.8 – 45%[最高] +$200,000 を超える$1 毎に 45 セント (出所)オーストラリア 2020/2021 年度予算案37を基に作成

34 “Low and middle income earner tax offsets”, https://www.ato.gov.au/Individuals/Income-and-deductions/Offsets-and- rebates/Low-and-middle-income-earner-tax-offsets/ (Last modified: 19 Oct 2020)(2021 年 1 月 25 日閲覧) 35 オーストラリア 2019/2020 年度予算案、https://www.budget.gov.au/2019-20/content/tax.htm (2021 年 1 月 25 日閲 覧) 36 オーストラリア 2018/2019 年度予算案、https://archive.budget.gov.au/2018-19/factsheets/lower-simpler-fairer- taxes.pdf 37 オーストラリア 2020/2021 年度予算案、https://budget.gov.au/2020-21/content/factsheets/download/tax_fact- sheet.pdf (2021 年 1 月 25 日閲覧)

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第 3 章 郵便貯金の概要

オーストラリアの郵便事業は 200 年以上の歴史があり、現在は、1989 年オースト ラリア郵便公社法(Australian Postal Corporation Act 1989)等により国営企業 (Government Business Enterprise)として設立された公社形態のオーストラリア郵 便公社(Australia Post)が運営している。

オーストラリア郵便公社は、金融関連業務として、公共料金(ガス、電気、電話、 税金、保険料)等の払込及び為替等送金業務、旅行保険や自動車保険の代理店業務等 を行っている。また、預金等の業務については、80 の他の金融機関からの受託業務 として提供している38。

1. 設立目的・沿革概要

オーストラリアでは、1809 年に初めての郵便局が開設され、1854 年には電信サー ビスが誕生し、その後、各地域で郵便及び電信サービスの普及が進んだ。1901 年に 当時 6 つあった英国の植民地が州となり、連邦制を採用するオーストラリア連邦国家 (Commonwealth of Australia)が成立した際、郵政庁(Postmaster General’s Department)と呼ばれる連邦機関が誕生し、6 つの植民地にあった郵便局と電信局が 全国的に統合された。

そうした中、郵便局における銀行サービスは 1912 年 7 月にビクトリア州の州都メ ルボルンにあったオーストラリア・コモンウェルス銀行が本店と州内 489 の郵便局で 提供を始めたのを皮切りに、翌年にはオーストラリアの全ての州都等の郵便局で同銀 行のサービスを展開した。

その後、組織としては、1975 年に郵政庁がオーストラリア郵便委員会(Australian Postal Commission)とオーストラリア電気通信委員会(Australian Telecommunications Commission)に分離された。また、オーストラリア郵便委員会 は 1983 年の郵便業務法(the Postal Services Act)改正により公的機関だけでなく民 間の業務も代理できるようになった。更に、1989 年オーストラリア郵便公社法に基 づきオーストラリア政府を唯一の株主とする公社形態のオーストラリア郵便公社とな った。

2. 組織形態

(1) 経営形態

オーストラリア郵便公社は、1989 年オーストラリア郵便公社法等に基づいて運営 されている公社である。同法は、第 26 条で商業的義務(Commercial obligation) (可能な限り健全な商慣行に沿ったやり方で運営すること)、第 27 条で社会事業的 義務(Community service obligations, CSOs)(ユニバーサルサービス)、第 28 条で その他の政府への義務(General governmental obligations)を定める39。CSO の達成 基準については、Australian Postal Corporation (Performance Standards) Regulations

38 オーストラリア郵便公社ウェブサイト http://auspost.com.au/money-insurance/bank-at-post.html (2020 年 12 月 25 日閲覧) 39 1989 年オーストラリア郵便公社法 https://www.legislation.gov.au/Details/C2020C00210

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2019 が規定しており、達成状況は会計検査院(Australian National Audit Office)に よる評価を受ける。

オーストラリア郵便公社については、公社化以降、民営化に関する議論が長く続い ている。2016 年 7 月に実施された総選挙の直前に行われた討論会で、ターンブル前 首相は、将来的には部分的な民営化の可能性は排除できないが、次期政権期間におい ては民営化を検討しないと発言していた40。2020 年には、郵便物数の減少と Covid- 19 の影響への対応として雇用調整や賃金削減を目的にオーストラリア郵便の民営化が 進められる可能性に対する懸念から、郵便労働組合はフレッチャーインフラ・交通・ 地域開発・通信相に対して、郵政民営化を否定する声明を発表するよう要請している 41。

政府所有の公社であるため、郵便事業に関してはオーストラリア全体で均一なサー ビス提供が求められており(オーストラリア郵便公社法 27 条)42、2020 年 6 月末時 点で全国にあった 4,330 の郵便局のうち、2,520 の郵便局は地方・遠隔地(rural and remote areas)に配置されている。店舗形態の内訳を見ると、2018 年 6 月末時点で公 社直営局(corporate offices)が 718 局、認可郵便局(licensed post offices, LPO)が 2,867 局、コミュニティ簡易局(community postal agencies, CPA)が 771 局となって いる43。地方・遠隔地の郵便局の多くは認可郵便局、コミュニティ簡易局である。な お、2020 年時点の郵便局の数は 4,330 であるが、店舗形態別の数は、2019 年からオ ーストラリア郵便公社の年次報告書には記載されていない。

認可郵便局及びコミュニティ簡易局とは、オーストラリア郵便公社と契約を締結し 営業する郵便局である。認可郵便局が振込や預金などの金融業務も提供するのに対し て、コミュニティ簡易局は、約 9 割が雑貨店など他の業務を営む店によって運営され、 郵便物の窓口交付や引受業務のみを取扱っており、金融サービスは提供していない。 認可郵便局には契約期間の定めはない。また、自分の保有するライセンスを他者に販 売することもできる。コミュニティ簡易局の契約は 2 年ごとに更新される44。2019 年 1 月からは過去 26 年間で初めて認可郵便局の報酬体系を大幅に改定し、最低委託料 の 25%引き上げ、数種の取扱手数料の 50%引き上げを実施した。オーストラリア郵 便は狙いとして、郵便網維持に不可欠である認可郵便局のネットワークを維持するた めだとしている。この改定によって認可郵便局への支払い額は年間約 3,400 万豪ドル 上昇した。

業務としては、郵便事業の他に、750 を超える民間企業や政府機関から受託した商 品・サービスを提供しており、預金や保険の取扱いや、公共料金等の払込、パスポー ト申請、運転免許証の更新等の受付けを行っている。

また、近年の動向として、2017 年 10 月にオーストラリア郵便公社の最高経営責任 者(CEO)に就任したクリスティン・ホルゲート(Christine Holgate)氏のもとでは、

40 2016 年 5 月に行われたテレビ討論会での発言に基づく。 https://www.afr.com/news/politics/election/election-2016-live-leaders-debate-20160512-gou37y (2020 年 12 月 25 日閲 覧) 41 “Return to sender: Labor to fight government’s Australia Post delivery service changes”, https://thenewdaily.com.au/finance/consumer/2020/06/10/australia-post-jobs-changes/ 42 第 27 条第 1 項に“Australia Post shall supply a letter service”とあり、第 3 項には“at a single uniform rate of postage”が、 また、第 4 項には“reasonably accessible to all people in Australia”とある。 43 オーストラリア郵便公社「アニュアルレポート(2018 年)」 https://auspost.com.au/content/dam/auspost_corp/media/documents/annual-report-2018.pdf (2020 年 12 月 25 日閲 覧) 44 https://auspost.com.au/about-us/operating-as-a-post-office

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宅配事業の拡大が進められた。その一環として、2018 年 2 月からは米インターネッ ト通販大手のアマゾン・ドット・コムから配送事業の受託を開始した45。

図表 9:オーストラリアの郵便局数

年 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 直営局 863 857 846 831 827 810 786 778 761 740 728 722 720 718 - - 認可局 2,979 2,975 2,969 2,977 2,969 2,963 2,948 2,934 2,924 2,915 2,899 2,886 2,880 2,867 - - 簡易局 632 630 634 645 637 642 685 716 744 762 779 784 779 771 - - 計 4,474 4,462 4,449 4,453 4,433 4,415 4,419 4,428 4,429 4,417 4,416 4,392 4,379 4,356 4,343 4,330 (注) 各年 6 月末。 (注) 過去の認可局数には、フランチャイズ(franchised post office)を含む。フランチャイズ局は、郵便公社側が郵便 サービスに必要な設備を整備してフランチャイズするもので、提供するサービス内容は郵便公社所有の郵便局と同 等である。営業時間は通常、月曜~金曜は 9~17 時、土曜が 9~12 時である。フランチャイズの期間は 10 年で、 都市部にあることが多い。 (出所) オーストラリア郵便公社 「アニュアルレポート(2005 年~2020 年)」を基に作成(2020 年 12 月 25 日閲覧)

(2) 金融サービス提供の形態

預金等の金融サービスについては、金融機関からの受託業務として行っている。郵 便局での受託金融商品・サービスは、その取扱いがシンプルなものであることが第一 の条件である。また、業務委託をする金融機関は、オーストラリアの銀行許可を得て いる金融機関であることが前提で、郵便局がその金融機関の信用格付に基づいて審査 を行い、郵便局と当該金融機関間で受委託契約を締結した後、郵便局のネットワーク を通じて金融関連サービスが提供される。オーストラリア郵便の子会社 Australia Post Services Pty Ltd が ASIC から取得した金融サービスライセンス(Australian Financial Services Licence)を所有しており、郵便局で提供する金融サービスに対し て責任を持つ。

提供している金融サービスは、受託業務として、預金業務や保険業務、独自のサー ビスとして送金・決済業務(公共料金等の払込を含む)などを行っている。

預金業務については、80 の金融機関から業務の委託を受けており46、地方や遠隔地 にある 1,800 以上の郵便局を含む、全国の 3,500 超の郵便局で提供している。預金業 務を取り扱う郵便局には「Bank@Post」というロゴが表示されており、利用者は郵便 局に設置されている ATM 及び窓口で預入や引出等ができる。80 の金融機関のうち、 9 割以上の金融機関が預入、引出を提供している。原則として利用者に対して Bank@Post 利用による追加手数料は発生しないが、2019 年以降は利用者に対して手 数料を課す金融機関が出てきている。なお、2018 年に、4 大銀行のうちコモンウェル ス銀行、ナショナル・オーストラリア銀行、ウェストパック銀行の 3 行は同サービス を 3~5 年間更新することで合意した一方、オーストラリア・ニュージーランド (ANZ)銀行は契約金額の面で合意に至らず、2019 年 1 月 15 日から Bank@Post で のサービスを停止している47。オーストラリア郵便は前年に Bank@Post 事業で 4,800

45 https://jp.reuters.com/article/australia-amazon-com-idJPKCN1GB064 (2020 年 12 月 25 日閲覧)。 https://www.nna.jp/news/result/1682318、https://www.nna.jp/news/result/1696936(2020 年 12 月 25 日閲覧) 46 https://auspost.com.au/money-insurance/transfer-money/bank-at-post (2020 年 12 月 25 日閲覧) 47 オーストラリア・ニュージーランド銀行ウェブサイト https://media.anz.com/posts/2018/11/update-on-bank-post- ?adobe_mc=MCMID%3D75708814272297219856107743574585734039%7CMCORGID%3D67A216D751E567B20A490 D4C%2540AdobeOrg%7CTS%3D1557360000 (2020 年 12 月 25 日閲覧)

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万豪ドルの損失を出しており、地方における金融サービス維持のために主要 4 行に対 して料金値上げを求めていた48。新契約は 1 回あたり 2.5~3 豪ドルの取扱手数料に加 えて 2,200 万豪ドルの基本料金を新たに課すもので、他の主要 3 行はこれに同意した 49。ANZ 銀行は他主要行より Bank@Post での取扱量が少ないため、新契約のもとで は 1 回の取引にかかるコストが他主要行の 3~4 倍かかることになり、取扱手数料の 値上げには同意可能だが基本料金導入には応じられないと ANZ 銀行のエリオット CEO は述べている50。ANZ 銀行が Bank@Post で 2019 年度に処理した銀行取引は 100 万件弱であった。

この Bank@Post 新契約により、前述した認可郵便局への委託手数料引上げが可能 となった。

図表 10:オーストラリア郵便が受託している金融機関一覧

AMP Bank Australian Military Bank Australian Mutual Bank Australian Unity Bank Auswide Bank AWA Alliance Bank Bank Australia Bank of Heritage Isle Bank of Bank of Sydney Bank of Us Bank SA Bankstown City Unity Bank BankVic BCU5 BDCU Alliance Bank Bendigo Bank Border Bank6 Central West Credit Union Circle Alliance Bank Citi Australia Commonwealth Bank of Coastline Credit Union Community First Credit Union Australia (CommBank, CBA) Credit Union Australia (CUA) Credit Union SA Defence Bank Dnister Ukrainian Credit Co- Endeavour Mutual Bank Family First Credit Union Operative Firefighters Mutual Bank First Option Bank G&C Mutual Bank Gateway Bank Goldfields Money Health Professionals Bank Heritage Holiday Coast Credit Union HSBC Bank Australia Illawarra Credit Union IMB Bank Indue Ltd ING Latitude Financial Services Macquarie Credit Union ME Bank MOVE Bank MyLife MyFinance MyState Bank National Australia Bank Northern Inland Credit Union P&N Bank Peoples Choice Credit Union Police Bank QBank Queensland Country Bank RACQ Bank RAMS Reliance Bank Resimac Rural Bank Service One Alliance Bank St George Bank Summerland Credit Union Suncorp Sydney Mutual Bank The Mutual Bank Transport Mutual Credit Union UniBank Unity Bank Woolworths Employees Credit Westpac Union

48 “Regional ANZ customers 'disgusted' and 'furious' over loss of Bank@Post services”, https://www.abc.net.au/news/2019- 01-14/anz-customers-lose-banking-service-at-australia-post/10713156 49 2019 年度は計 74 の金融機関が複数年の Bank@Post 新契約にサインした。オーストラリア郵便「Annual Report 2019」 p.8 50 “ANZ chief says Australia Post access fee is unfair”, https://www.afr.com/companies/financial-services/anz-chief-says- australia-post-access-fee-is-unfair-20181022-h16yfl

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加入者管理型の年金基金である自己運用ファンド(self-managed super fund, SMSF)を管理する個人に対しては、2014 年 7 月より雇用者からの拠出金や各種通知 受領のためにオンライン窓口の設置が義務付けられているが、オーストラリア郵便公 社では有料でこの IT サービスを提供している51。なお、一部金融機関では資産信託業 務と合わせたパッケージとして電子窓口を提供している例も見られるが、オーストラ リア郵便公社は窓口サービス(gateway service)に特化している。

(3) 窓口取扱時間

設置場所に応じて営業時間が異なるが、多くの郵便局が平日午前 9 時から午後 5 時、 土曜日の午前 9 時から 12 時までとなっている。加えて、大都市やショッピングセン ターにある大きな局では祝日にも営業している局が一部存在する52。

なお、小売業店と併設している窓口は、その小売業の開店時間に合わせて営業時間 を設定しているケースも多い。例えば、ショッピングセンターに併設している窓口は、 一部の曜日に限り午後 9 時まで営業しているものもある。

3. 主な業務内容

(1) 預金業務概要

金融機関(80 機関が参加53)からの業務委託として、預金については 「Bank@Post」というロゴマークがある全国 3,500 以上(うち半分以上が、地方 (rural and remote)に配置)の郵便局で提供している。Bank@Post で、現金の預入 れ、引出し、銀行口座の残高照会などが出来る。但し、口座がある金融機関によって サービス内容に制限がある。

(2) 資金運用方法

オーストラリア郵便公社自体は金融機関ではないので、資金運用業務は行っていな い。

(3) 貸出業務概要

オーストラリア郵便公社自体は金融機関ではないので、貸出業務は行っていない。

51 オーストラリア郵便公社ウェブサイト ‘Self-Managed Super Fund (SMSF)’ https://auspost.com.au/money-insurance/self-managed-super-fund 52 オーストラリア郵便公社ウェブサイト https://auspost.com.au/about-us/corporate-information/public-holiday-services (2020 年 12 月 25 日閲覧) 53 オーストラリア郵便公社ウェブサイト“Bank@Post”、https://auspost.com.au/money-insurance/transfer- money/bank-at-post

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(4) 送金・決済業務概要

送金・決済業務については、公共料金支払等の Pay a bill(Post Billpay)、支払管 理の Digital Mailbox、代金回収の Cash on Delivery、郵便為替の Money orders、売掛 口座の Charge accounts と様々なサービスが提供されている54。

Post Billpay では、ガス・電力・電話料金、税・保険料等の支払いが出来る。1,000 を超える種類の料金支払いに対応し、3,200 を超える金融サービス取扱郵便局の窓口 で当サービスの利用が可能である。また、24 時間利用可能なサービスとして電話、 インターネットからの支払いに加えて、携帯電話・タブレットであれば、モバイルア プリを介して、バーコードをスキャンすることで簡単に支払いが行えるようになって いる55。Digital Mailbox では、インターネット上で個人の支払い管理が出来るサービ スを無料で提供している。自動的にメールなどから請求書を見つけ出してくれる機能 や、登録された小売店での購入履歴をデジタルレシートとして閲覧することができる。 また、専用サイトを通じて請求書の支払いも可能となっている56。Cash on Delivery は、業者が顧客の注文した商品を自分の近くの郵便局に持ち込むと、それを顧客の近 くの郵便局に配達するとともに顧客に連絡し、顧客が商品を受け取る際に代金を回収 するサービスである。代金は以下に紹介する Money Orders を通じて販売元に送金さ れる仕組みとなっている。手数料は発送側が負担する。郵便為替(Money orders)で は、全国の 3,800 を超える郵便局窓口で購入する方法がある。以前は、インターネッ ト上で郵便為替を購入する方法もあったが、2019 年 6 月 15 日より、窓口のみの取り 扱いとなっている57。売掛口座(Charge accounts)では、ビジネス顧客のために簡単 に売掛口座が開設できるようになっており、承認されれば各種郵便サービスを信用払 い口座で利用することができる58。

(5) 国際業務概要

海外への送金業務については、米ウェスタン・ユニオン社(Western Union)の送 金網を通じて、200 以上の国・地域の 55 万近くの代理店に送金できる。郵便局カウ ンターでの最大送金額は 7,500 豪ドルで送金国によって異なる。支払いは現金もしく は EFTPOS59が使用出来る60。一部の国では、送金先の名前と携帯電話の番号があれ ば、携帯電話のモバイルウォレット機能を通じた送金も可能となっている。

外貨の取扱いについては、店頭で 58 通貨(ニュージーランドドル・米ドル・英ポ ンド・ユーロ・香港ドル・日本円・加ドル・スイスフラン・南アランド・シンガポー ルドル・フィジードル・タイバーツ・インドネシアルピア・マレーシアリンギット

54 オーストラリア郵便公社ウェブサイト、https://auspost.com.au/money-insurance/banking-and-payments (2021 年 1 月 26 日閲覧) 55 https://auspost.com.au/money-insurance/banking-and-payments/pay-bills-with-post-billpay 56 https://auspost.com.au/mypost/how-to/digital-mailbox.html 57 オーストラリア郵便公社ウェブサイト https://auspost.com.au/money-insurance/banking-and-payments/domestic-money-transfer-money-orders (2019 年 8 月 1 日閲覧)(2021 年 1 月 26 日時点で確認不能) 58 オーストラリア郵便公社「Post charges 28 September 2020」 https://auspost.com.au/content/dam/auspost_corp/media/documents/post-guides/post-charges-guide-ms11.pdf (2021 年 1 月 26 日閲覧) 59 EFTPOS (Electronic funds transfer at point of sale, エフトポス)とは、オーストラリアとニュージーランドで普及してい るシステムで、銀行口座の残高内で決済や店頭でのキャッシュアウトに使用できる決済システムである。国際ブランド よりも加盟店手数料が低い。 60 オーストラリア郵便公社ウェブサイト、https://auspost.com.au/money-insurance/banking-and- payments/international-money-transfer-with-western-union (2021 年 1 月 26 日閲覧)

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等)の外貨現金の販売を行っている。配送は 1~2 営業日で、最低両替額は 400 豪ド ル相当、最高は 5,000 豪ドル相当である61。また、オンラインでも 58 の通貨を購入 できる。配送に 2~3 営業日を要するが、郵便局での受領が可能である。最低・最高 両替額は店頭と同一である。

また、以前は、海外旅行者向けに、チャージ式の外貨プリペイドカードである、 Load&Go Travel card(Visa、5 通貨まで)、Load&Go China card(Union Pay、中国 元と豪ドル)、Cash Passport Platinum Mastercard(MasterCard、11 通貨まで)など のトラベル・カードを販売していたが、Load&Go card は 2018 年 8 月 1 日時点で新 規発行を終了している62。Cash Passport Platinum Mastercard は 2019 年 6 月 20 日を もって新規発行を終了している63。

(6) 付随業務概要

保険については、損害保険会社の代理店として、旅行保険、ペット保険を取り扱っ ている。生命保険は取り扱っていない。旅行保険は Zurich Australian Insurance Limited 社、ペット保険は The Hollard Insurance Company Pty Limited 社の商品をそ れぞれ販売している。なお、ペット保険とは、ペットの医療費用の最大 80%を補償 するものである64。自動車保険と家財保険は取り扱いを停止したが、既存顧客の補償 とサポートは継続される。

また、その他の付随業務として、パスポートや納税者番号の申請や免許証の更新サ ービスなども取り扱っている。

4. 会計基準と財務諸表

オーストラリアでは、2002 年に IFRS(International Financial Reporting Standards)の導入が決定され、2005 年から強制適用されている。IFRS は民間企業 のみならず、非営利企業や政府等の公的機関にも適用され、オーストラリア郵便公社 にも適用される。

なお、オーストラリア郵便公社は、金融機関から委託を受けて金融サービスを提供 しているため、その委託手数料は取扱手数料と共に一括して記録されており、金融部 門単独の財務諸表は作成されていない。

61 https://auspost.com.au/money-insurance/organise-travel-money/foreign-cash (2021 年 1 月 26 日閲覧) 62 https://transferwise.com/au/blog/australia-post-currency-exchange (2021 年 1 月 26 日閲覧) 63 https://auspost.com.au/money-insurance/organise-travel-money/cash-passport-platinum-mastercard 64 https://auspost.com.au/pet-insurance (2021 年 2 月 3 日閲覧)

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図表 11:オーストラリア郵便公社の連結損益計算書(2020 年 6 月期)

Consolidated ($m) 2020年 2019年 2018年 2017年 2016年 2015年 Revenue Goods and services 7,389.6 6,879.3 6,730.8 6,619.5 6,451.6 6,257.8 Interest – – 18.6 6.3 6.1 5.3 7,389.6 6,879.3 6,749.4 6,625.8 6,457.7 Other income Interest 8.6 8.0 Rents 38.4 37.5 39.4 41.8 41.8 42.5 Other income and gains 62.6 65.0 88.2 139.6 62.7 73.5 109.6 110.5 127.6 184.0 104.5 116.0 Total income 7,499.2 6,989.8 6,877.0 6,807.2 6,562.2 6,373.8 Expenses (excluding finance costs) Employees 3297.7 3171.9 3,051.0 3,007.3 2,908.7 2,784.2 Suppliers 3508.2 3377.8 3,219.7 3,202.5 3,116.3 3,104.9 Depreciation and amortisation 466.5 283.3 304.2 348.6 330.3 340.1 Other expenses 120.9 83.1 150.7 81.6 131.1 465.7 Total expenses (excluding finance costs) 7,393.3 6,916.1 6,725.6 6,640.0 6,486.4 6,694.9 Profit/(loss) before income tax, finance costs and share of net profits of equity-accounted investees 105.9 73.7 151.4 167.2 75.8 (321.1) Finance costs (54.2) (34.2) (32.0) (47.6) (34.5) (31.3) Share of net profits/(losses) of equity-accounted investees 1.9 1.6 6.3 6.5 (0.3) 0.3 Profit/(loss) before income tax 53.6 41.1 125.7 126.1 41.0 (352.1) Income tax (expense)/benefit (10.7) (0.5) 8.5 (30.7) (4.6) 130.4 Net profit/(loss) for the year attributable to equity holders of Australian Postal Corporation 42.9 40.6 134.2 95.4 36.4 (221.7) Net profit/(loss) for the year attributable to: Owners of the parent 42.9 40.9 136.5 97.0 36.5 (221.7) Non-controlling interest – (0.3) (2.3) (1.6) (0.1) – Other comprehensive income Items that will not be reclassified to profit or loss Remeasurements of defined benefit plans (161.7) (25.3) 246.6 349.0 (172.8) 531.1 Other items 0.1 (0.5) 10.4 – 5.2 – Income tax on items that will not be reclassified to profit or loss 48.5 7.6 (76.5) (104.2) 50.2 (159.3) Total items that will not be reclassified to (113.1) (18.2) 180.5 244.8 (117.4) 371.8 profit or loss, net of tax Items that may be reclassified subsequently to profit or loss Other items – (4.7) 10.3 (17.1) 9.4 (0.5) Reclassifications to profit or loss 2.8 (1.4) Income tax on items that may be reclassified to profit or loss (0.3) 1.7 (2.9) 4.4 (3.1) – Total items that may be reclassified to 2.5 (4.4) 10.3 (12.7) 6.3 (0.5) profit or loss, net of tax Other comprehensive income for the year (110.6) (22.6) 190.8 232.1 (111.1) 371.3 Total comprehensive income/(loss) for the year attributable to equity holders of Australian Postal Corporation (67.7) 18.0 325.0 327.5 (74.7) 149.6 Total comprehensive income/(loss) for the year attributable to: Owners of the parent (67.7) 18.3 327.3 329.1 (74.6) 149.6 Non-controlling interest – (0.3) (2.3) (1.6) (0.1) – (注)単位は百万豪ドル。 (出所)オーストラリア郵便公社、Australia Post Annual Report 202065

65 オーストラリア郵便公社ウェブサイト、https://auspost.com.au/content/dam/auspost_corp/media/documents/2020- australia-post-annual-report.pdf (2020 年 12 月 29 日閲覧)

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図表 12:オーストラリア郵便公社の貸借対照表(2020 年 6 月期)

Consolidated ($m) 2020年 2019年 2018年 2017年 2016年 2015年 Assets Current assets Cash and cash equivalents 775.3 628.0 592.2 442.7 547.6 415.3 Trade and other receivables 786.9 788.5 747.2 722.3 698.3 483.4 Prepayments 153.0 126.5 120.0 117.0 116.5 158.4 Inventories 62.8 53.0 50.7 50.2 50.2 97.6 Income tax receivable - 16.9 - - - - Other current assets 6.0 13.6 16.2 11.1 16.4 48.2 Asset Held for Sale - 211.4 138.2 - 2.5 Total current assets 1,784.0 1,626.5 1,737.7 1,477.9 1,429.0 1,205.4 Non-current assets Finance lease receivable - 96.7 96.7 96.8 Net superannuation asset 626.9 850.3 918.7 700.4 403.6 612.9 Property, plant and equipment 1,784.2 1,758.9 1,599.3 1,559.8 1,525.8 1,595.3 Intangible assets 708.5 734.1 741.5 859.0 950.2 938.9 Right-of-use assets 1,032.2 - Investment property 161.8 181.5 168.9 169.0 213.2 200.0 Deferred tax assets 653.1 356.3 386.5 400.4 387.1 413.5 Equity-accounted investees 7.8 5.9 11.4 247.9 2.2 Other non-current assets 26.8 29.2 25.1 26.2 35.4 31.6 Total non-current assets 5,001.3 3,916.2 3,851.4 4,059.4 3,614.2 3,889.0 Total assets 6,785.3 5,542.7 5,590.9 5,537.3 5,043.2 5,094.4

Liabilities Current liabilities Trade and other payables 1,055.0 1,016.5 957.0 1,099.8 1,023.8 947.4 Employee provisions 768.8 743.9 749.7 772.0 745.0 653.0 Interest-bearing liabilities 249.9 - - - 285.3 - Other provisions 19.3 12.1 16.7 29.4 35.2 58.9 Current lease liabilities 183.5 - Income tax payable - - 36.3 85.2 43.4 18.4 Other current-liabilities - 19.6 13.6 - - - Total current liabilities 2,276.5 1,792.1 1,773.3 1,986.4 2,132.7 1,677.7 Non-current liabilities Interest-bearing liabilities 467.4 713.5 703.0 702.7 423.2 713.7 Employee provisions 263.7 249.9 236.3 272.9 292.8 353.2 Other provisions 47.5 47.5 46.2 44.2 52.8 54.0 Non-current lease liabilities 947.4 - Deferred tax liabilities 579.2 357.9 393.2 356.4 249.6 320.7 Other non-current liabilities 0.5 68.7 70.4 44.8 53.2 61.6 Total non-current liabilities 2,305.7 1,437.5 1,449.1 1,421.0 1,071.6 1,503.2 Total liabilities 4,582.2 3,229.6 3,222.4 3,419.4 3,204.3 3,180.9 Net assets 2,203.1 2,313.1 2,366.7 2,117.9 1,838.9 1,913.5

Equity Contributed equity 400.0 400.0 400.0 400.0 400.0 400.0 Reserves 19.3 16.8 21.2 4.9 17.1 7.2 Retained profits 1,783.8 1,896.3 1,945.5 1,713.0 1,421.8 1,506.3 Equity attributable to equity 2,203.1 2,313.1 2,366.7 2,117.9 1,838.9 1,913.5 holders of the parent (注)単位は百万豪ドル。 (出所)オーストラリア郵便公社、Australia Post Annual Report 2020 (2020 年 12 月 29 日閲覧)

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第 4 章 金融セクターにおけるリテール金融機関の特徴

オーストラリアのリテール金融機関として、オーストラリア郵便公社、住宅金融 組合・信用組合、金融会社・金融業者などが挙げられる。

1. オーストラリア郵便公社

(1) オーストラリア郵便公社の特徴

オーストラリアに郵便貯金制度は存在しないが、民間の商業銀行が郵便局を活用し て預貯金業務を実施している。現在、インフラ・交通・地域開発・通信省 (Department of Infrastructure, Transport, Regional Development and Communications66)と財務省(Department of Finance)の二つの省が共管するオー ストラリア郵便公社が、郵便事業のほか、商業銀行や信用組合等金融機関等から金融 サービス等を受託し、郵便局を通じて実施している。

金融業務については、ユニバーサルサービス(community service obligations, CSOs)の提供義務は特に定められていないものの、オーストラリア郵便公社では地 方・僻地では郵便局が重要な役割を果たしていると自任している67。前述のとおり、 郵便事業についてはオーストラリア全体で均一なサービス提供が求められているため、 郵便局数等については下記の図表のような達成基準が定められている。都市部では少 なくとも 90%の居住者が郵便局の 2.5km 圏内、地方・遠隔地では少なくとも 85%が 7.5km 圏内に位置するよう郵便局を配置している68。

オーストラリア郵便公社によれば、全国に設置する 4,330 の郵便局のうち Bank@Post を行う郵便局が 3,500 局以上ある。最近では実店舗だけでなく、オンラ インサービスにも力を入れている。金融業ではネット上で公共料金の支払や請求書の 管理ができるようになったほか、郵便業務についても MyPost Account に登録すれば、 オンラインで郵便物の追跡や送付住所の変更などが行える。2017 年 6 月時点では MyPost Account の登録者は 500 万人以上であったが、2020 年 6 月時点には 1,000 万人以上に増加した69。

図表 13:オーストラリア郵便公社の CSOs 達成状況(2020 年 6 月)

拠点数 目標 実績 郵便局 4,000 4,330 うち、地方・遠隔地 2,500 2,520 郵便ポスト 10,000 15,036 都市部における 2.5km 圏内人口 90.0% 93.7% 地方・遠隔地における 7.5km 圏内人口 85.0% 88.8% (出所) オーストラリア郵便公社、Australia Post Annual Report 2020 ページ 13970

66 モリソン首相の政府組織改革により、それまでの規制体の 1 つであった通信芸術省(Department of Communications and the Arts)とインフラ・交通・都市・地域開発省が統合されて 2020 年 2 月 1 日に設立された。 67 オーストラリア郵便アニュアルレポート 2019 および 2020 68 “Australian Postal Corporation (Performance Standards) Regulations 2019”, https://www.legislation.gov.au/Details/F2020C00432 69 オーストラリア郵便公社ウェブサイト、https://auspost.com.au/content/dam/auspost_corp/media/documents/2020- australia-post-annual-report.pdf (2020 年 12 月 28 日閲覧) 70 オーストラリア郵便公社ウェブサイト、https://auspost.com.au/content/dam/auspost_corp/media/documents/2020- australia-post-annual-report.pdf (2020 年 12 月 28 日閲覧)

21

(2) オーストラリア郵便公社の競争力

前述のとおり、オーストラリア郵便公社自体は金融機関ではなく、金融機関と受委 託契約を締結し、郵便局のネットワークを通じて、金融関連サービスを提供している。 それゆえ、金融機関とは競争状態にあるわけではない。

また、前述のとおり、金融部門単独の財務諸表は作成されていない。

2. 住宅金融組合・信用組合

住宅金融組合、信用組合も、商業銀行と同じ銀行法のもとで管理されオーストラリ ア健全性規制庁(APRA)の監督を受け、商業銀行と同様に預金、貸付等の業務を実 施している。資産規模では、認可預金受入機関(ADIs)の 1%程度71だが、地域に根 差し、会員のための金融サービス提供機関として重要な役割を果たしている。取扱金 融業務の殆どが個人向け小口金融である。

会員の住宅購入や建築時の貸付を行う住宅金融組合は、会員からの預金が主な原資 である。また、信用組合も同様にその原資は組合員からの預金である。

3. 金融会社・金融業者

金融会社・金融業者については、ADIs としてライセンスを取得していないため、 預金業務を行うことはできず、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)の監督の下、 主に個人向けや中小企業向けの融資を行っている。資産規模は、2,577 億豪ドル72と ADIs と比較すれば大きいとはいえないが、最近では一部のフィンテック企業も金融 会社・金融業者として活動しており、徐々にサービスの幅を広げている。

4. 家計金融資産・負債の動向

(1) 家計金融資産

オーストラリアのリテール金融は、家計金融資産の大半を占める預金と年金の存在 感が徐々に大きくなっている。2006 年から 2020 年の 14 年間で、個人金融資産の保 有残高総額は 2 兆 3,264 億豪ドルから 2 倍以上となる 5 兆 7,409 億豪ドルへと膨らん だ。その構成比を見ると、株式・その他証券が 28.0%から 18.6%に減り、現金・預 金が 16.7%から 21.4%へ、強制加入の私的年金であるスーパーアニュエーションが 52.5%から 57.9%へと伸びている。

スーパーアニュエーションは、事前積立方式で、当初は確定給付型(DB)だった が、今はほとんどが確定拠出型(DC)年金である。被雇用者は全員加入、自営業者 は任意加入である。拠出は、雇用主が給与額の一定比率の拠出義務を負い、加えて雇 用主・加入者ともに任意で追加拠出ができる。資金の運用先については、加入者に幅 広い選択権が与えられており、米国の 401(k)プランや日本の確定拠出年金と同様 である。雇用主からの拠出金や給与天引き型の追加拠出金には、所定の範囲で個人所 得税の計算上 15%の軽減税率が適用されている。運用益には上限 15%の軽減税率が適 用されるが、非課税とはならない。なお、60 歳を超えての引出については所得税の 課税は行われない。

71 「第 2 章第 1 節第 4 項」参照 72 「第 2 章第 1 節第 5 項」参照

22

この年金制度は、1993 年スーパーアニュエーション産業(監督)法 (Superannuation Industry (Supervision) Act 1993)によって規制されており、資 産残高は 2020 年 9 月末で約 2 兆 9,318 億豪ドルとなっている73。銀行や保険会社が 運用を担っており、スーパーアニュエーション基金に資金を提供するリテールファン ドのほとんどが大手 4 行と大手保険会社の AMP で占められている。

図表 14:家計金融資産の推移

(10億豪ドル) 6,000

5,000

4,000 その他金融資産

スーパーアニュエーション 3,000 株式・その他証券

2,000 現預金

1,000

0 2006 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 (年)

(注) 各年 6 月末。 (出所) オーストラリア統計局(Australian Bureau of Statistics)5204.0 - Australian System of National Accounts, 2018-19, Table 41. Household Balance Sheet74を基に作成(2021 年 1 月 21 日閲覧)

図表 15:家計金融資産の構成比の推移

100%

90%

80%

70%

60% その他金融資産 スーパーアニュエーション 50% 株式・その他証券 40% 現預金

30%

20%

10%

0% 2006 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 (年)

(注) 各年 6 月末。 (出所) オーストラリア統計局(Australian Bureau of Statistics)5204.0 - Australian System of National Accounts, 2018-19, Table 41.Household Balance Sheet を基に作成(2021 年 1 月 21 日閲覧)

73 オーストラリア統計局(Australian Bureau of Statistics) 5655.0-Managed Funds, Australia https://www.abs.gov.au/statistics/economy/finance/managed-funds-australia/latest-release 74 オーストラリア統計局ウェブサイト https://www.abs.gov.au/statistics/economy/national-accounts/australian-system-national-accounts/latest-release

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(2) 家計金融負債

2020 年 6 月時点で、家計の金融負債額は 2 兆 5,136 億ドルと、金融資産と同様に 2006 年対比で 2 倍以上の大きさに膨らんでいる。金融負債の内訳は、主に銀行借入 によって占められている。

別統計で、家計部門の銀行借入の構造をみると、住宅ローンや住宅投資向けの貸出 が家計債務増の要因となっている。この背景として、長らく中央銀行が低金利政策を 維持してきたことや、海外からの投資が増加傾向にあったことなどを受けて、住宅価 格の上昇が続いてきたため、家計部門の債務負担が増大したことなどが挙げられる。

図表 16:家計金融負債の推移

(10億豪ドル) 3,000 その他 2,500 証券化事業者借入 銀行借入 2,000

1,500

1,000

500

0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 (年)

(注) 各年 6 月末。 (出所) オーストラリア統計局(Australian Bureau of Statistics) 5232.0 - Australian System of National Accounts, TABLE 34. Financial Assets and Liabilities of Households ($ million), September 202075を基に作成(2021 年 1 月 21 日閲覧)

図表 17:家計金融負債の構成比の推移

100% 90% 80% 70% 60% その他 50% 住宅投資向け 40% 住宅ローン 30% 20% 10% 0% (年) 2006 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 (注) 各年 6 月末。 (出所) オーストラリア準備銀行, Money and Credit Statistics, Bank Lending Classified by Sector – D576を基に 作成(2021 年 1 月 20 日閲覧)

75 オーストラリア統計局ウェブサイト、https://www.abs.gov.au/statistics/economy/national-accounts/australian- national-accounts-finance-and-wealth/latest-release

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5. 金融セクターにおけるリテール金融機関の位置付け

預金取扱業務は、1959 年銀行法により認可された預金受入機関が担っている77。認 可預金受入機関(ADIs)には銀行、住宅金融組合、信用組合等があり78、銀行は更に、 国内銀行と外国銀行に分類される。一方、金融会社・金融業者は、ADIs としてライ センスを取得していないため、預金業務を行うことはできない。

オーストラリアには、43 行の国内銀行があるが、ビッグ・フォー()と称 される大手 4 行が、5.2 兆豪ドルに上る ADIs の総資産の約 73%を占め(2020 年 9 月 末)79、残る 39 行はその他国内銀行(other domestic banks)として位置付けられて いる。国内銀行以外の ADIs には住宅金融組合と信用組合があり、いずれも個人向け 小口金融に特化している80。40 の住宅金融組合・信用組合は総資産 481 億豪ドルを保 有している。外国銀行は、7 の現地法人(Foreign Subsidiary Banks)と 48 の支店 (Branches of Foreign Banks)がある(2020 年 9 月末)81。金融会社・金融業者は、 2,577 億豪ドルの資産を有する(2020 年 9 月末)。

預金受入額の規模では、住宅金融組合と信用組合のプレゼンスは預金全体の 1.7% 程度(2020 年 9 月時点)である82。貸出全体に占めるシェアは、住宅金融組合・信 用組合が 1.3%、金融会社・金融業者が 6.1%(2020 年 9 月時点)であり、これらリ テール金融を総じて見れば一定数の規模となる83。

【参考情報:ルーラル銀行(Rural Bank)】84 農業ビジネスへの融資を強みとするルーラル銀行は、ベンディゴ・アンド・アデレード銀行グループ (Bendigo and Adelaide Bank Group)の 100%子会社であり、オーストラリアの主要銀行が撤退した地 方・僻地においてニーズの高い銀行サービスを提供するという使命を持って設立された85。同行は、2000 年、ベンディゴ銀行(Bendigo Bank)と農業ビジネスを専門に扱う投資会社エルダーズ(Elders)社が 50%ずつ出資しエルダーズ・ルーラル銀行(Elders Rural Bank)として銀行免許を取得し、開業した。ル ーラル銀行という名称に変更したのは 2009 年であり、エルダーズ社が出資持分をベンディゴ銀行へ売 却、翌年にはベンディゴ・アンド・アデレード銀行グループの 100%子会社となった。今日、他金融機関 とのパートナーシップも含め、国内約 400 か所でルーラル銀行の商品やサービスが提供されている。 地方部での金融サービス提供を行うルーラル銀行では、“Relationship Manager”と呼ばれる担当スタッフ を配置して、顧客の借入相談や融資業務を実施している。このポジションには、農業ビジネスの経験者、 或いは知見や理解、関心のある専門家を起用している。こうして、他行では提供できない専門的な知識を 持った職員が、顧客の細かい要求にも応えられる体制が整備されているため、高付加価値のサービスを提 供できる点がルーラル銀行の強みである。

76 オーストラリア準備銀行ウェブサイト、https://www.rba.gov.au/statistics/tables/ 77 1959 年銀行法 Section5. https://www.legislation.gov.au/Details/C2021C00088 78 オーストラリア健全性規制庁ウェブサイト ‘List of authorised deposit-taking institutions covered under the Financial Claims Scheme’ https://www.apra.gov.au/list-of-authorised-deposit-taking-institutions-covered-under-financial-claims-scheme 79 オーストラリア健全性規制庁「Quarterly Authorised Deposit-taking Institution statistics」 https://www.apra.gov.au/quarterly-authorised-deposit-taking-institution-statistics 80 2013 年 12 月のヒアリングに基づく。 81 オーストラリア健全性規制庁、Quarterly Authorised Deposit-taking Institution Statistics (2020 年 12 月 15 日閲覧) 82 「第 2 章第 1 節第 4 項」参照 83 オーストラリア健全性規制庁、“Quarterly ADI Performance”、オーストラリア準備銀行 ”Finance Companies and General Financiers – Selected Assets and Liabilities(Publication date: 04-Jan-2021)”、”Financial Aggregates” に基づ く。 84 2013 年 12 月ヒアリングに基づく。 85 ルーラル銀行ウェブサイト ‘Our History’ https://www.ruralbank.com.au/about-us/about-rural-bank/our-history

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第 5 章最近の金融動向と今後の展望

1. 最近の金融動向

(1) 金融制度改革の動向

オーストラリアの金融制度全体については、2013 年 9 月に政権を獲得したアボッ ト政権により、約 1 年をかけて様々な角度からレビューが実施された。オーストラリ アでは 1997 年以降、長らく大規模なレビューがなされてこなかったために実施され たものであり、2014 年 12 月 7 日に報告書が公表された86。

同報告書では、金融制度の破綻を防ぐこと、また、万一の破綻時にそのコストを下 げることを目的に、44 の項目を提案した。その中で、銀行制度については、レバレ ッジ比率の導入、事前に資産を確保しない政府保障型の預金保険制度の維持、休眠口 座扱いとする年限の 3 年から 7 年への引上げ、認可預金受入機関(ADIs)と金融会 社(Finance Companies)等によって提供される投資商品の区分の明確化等が求めら れている。また、銀行制度以外の分野では、スーパーアニュエーションの競争促進、 クラウドファンディングの制度整備等が提案された。その後、銀行の自己資本比率の 引き上げなど、既に提案された内容の一部が実施されている。

また、相次ぐ金融機関の不正行為をきっかけに、金融機関の監査機能の見直しが行 われている。2014 年ごろから、4 大銀行などで、顧客のサインの偽造や提供していな いサービスに対する手数料を顧客から徴収するなどの不正行為が相次いで発覚した。 この事態を受けて、最大野党の労働党から批判の声が高まり、2017 年 12 月 14 日に は金融業界の不正行為を調査する王立委員会(Royal Commission into Misconduct in the Banking, Superannuation and Financial Services Industry)が設置された。この王 立委員会は、委員長のケネス・ヘイン判事と 5 人の補佐で構成される。王立委員会は、 オーストラリアにおける公的調査委員会の中で最も権力を持ち、証人の召喚や証拠の 請求ができるほか、委員会への出席を拒否したものを拘留したり、証拠提出を拒否し たものに刑罰を与えたりすることも可能となっている87。

同委員会の設置以降、国内金融機関の調査が行われ、新たな不正行為が次々に明ら かとなった。王立委員会は、発足以降、10,323 件の不正行為に関するパブリック・コ メントを受け付け、そのうち、61%が銀行関連、12%がスーパーアニュエーション関 連のコメントが寄せられた。2019 年の 2 月 1 日には一連の調査の結果を報告書とし てまとめ、最終的には 76 件の改革案を提示した。その報告書には、金融機関による 手数料の徴収方法の改善や ASIC や APRA といった規制機関の権限の強化などが含ま れた88。

オーストラリア政府は、当初この 76 件のうち 75 件の提案については採用する意向 を示した89。採用の意向が示されなかった住宅のブローカーに対する規制については、 貸し渋りを引き起こす可能性があり、市場の競争を損なうとした。その後、最終的に は 76 件全てに何らかの施策を行う意向を示している。

86 “Financial System Inquiry Final Report” https://treasury.gov.au/publication/c2014-fsi-final-report 87 王立委員会法。https://www.legislation.gov.au/Details/C2019C00290 (2020 年 12 月 28 日閲覧) 88 金融業界の不正行為を調査する王立委員会 “Final Report” https://financialservices.royalcommission.gov.au/Pages/reports.html (2020 年 12 月 28 日閲覧) 89 フィナンシャル・レビュー紙ウェブサイト、https://www.afr.com/business/banking-and-finance/banking-royal- commission-coalition-rules-out-broker-crackdown-20190203-h1aszv (2020 年 12 月 28 日閲覧)

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2019/2020 年度の予算では、監視体制の強化などのため、ASIC や APRA に 5 億 500 万ドル以上の支援を行うことが発表された90。

(2) 「金融包摂/排除(Financial Inclusion/Exclusion)」の現状

金融排除とは銀行や保険などの金融サービスから排除される状態を指し、金融包摂 とは金融排除に陥っている人々を金融サービスにアクセスできるようにすることを意 味する。

オーストラリア最大のマイクロファイナンス機関である Good Shepherd Microfinance によれば、オーストラリアでは成人の 17%が金融排除の状態にあり、 300 万人が借り入れ、取引口座、保険といった金融サービスを受けられない状況にあ る91。

このような状況から脱するため、オーストラリア政府は 2015 年に G20 金融包摂行 動計画(G20 Financial Inclusion Action Plan)や国連の持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals)に合意し、金融包摂に向けた取り組みを行ってい る。この一環として、オーストラリア政府は Good Shepherd Microfinance の協力の もと金融包摂行動計画(Financial Inclusion Action Plan , FIAP)プログラムを始動し た92。

FIAP は、銀行など他の機関とともに、全ての人が金融包摂の恩恵を受けることが できる環境作りを目指している。金融包摂完了までの道筋(ロードマップ)を「①基 礎作り(Establish & Engage)」、「②金融包摂に向けた不可欠要素の確立(Critical Mass)」、「③地方への拡大(Community-led)」、「④金融包摂の常態化 (embedded in society)」の 4 つのフェーズに分け、フェーズごとに参加企業や金融 包摂の恩恵を受ける人数の目標を掲げ、その目標達成に必要な取り組みを設定してい る93。

現在、このプログラムには 4 大銀行を含む 40 機関が参加しており、第 1 フェーズ では 580 以上の取り組みが実施された。具体的には、コモンウェルス銀行は 600 人 以上の難民に対し口座開設の支援を行ったほか、ANZ 銀行は貯蓄や消費といった資 産管理の方法などを学ぶ「MoneyMinded」というプログラムを通して、金融リテラ シーの向上に貢献している。

FIAP が掲げるロードマップが達成されれば、毎年①GDP を 29 億ドル、②政府の 貯蓄を 5 億 8,300 万ドル、③家計資産を 118 億ドル押し上げることができると試算さ れている。

90 https://www.budget.gov.au/2019-20/content/services.htm (2020 年 12 月 28 日閲覧) 91 Good Shepherd Microfinance ウェブサイト https://goodshepherdmicrofinance.org.au/about-us/ (2021 年 1 月 6 日閲覧) 92 Good Shepherd Microfinance ウェブサイト http://goodshepherdmicrofinance.org.au/services/financial-inclusion-action-plans-fiap/ (2021 年 1 月 6 日閲覧) 93 Good Shepherd Microfinance ウェブサイト, “Program Report March 2018 Part One”, https://goodshepherdmicrofinance.org.au/assets/files/2018/04/FIAP-Program-Report-Part-One-March-2018-WEB- 180423.pdf および”Program Report July 2019”, https://goodshepherdmicrofinance.org.au/assets/files/2019/07/FIAP- AR-2019-Part-A-Portrait-v9-LOWRES.pdf (2021 年 1 月 6 日閲覧)

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図表 18:金融包摂に向けたロードマップ

フェーズ 目標 ・参加企業:30社 基礎作り(Establish & Engage) フェーズ1 ・雇用人数:25万人 (2015~2018年) ・包摂人数:200万人

必要不可欠要素の確立 ・参加企業:100社 フェーズ2 (Critical Mass) ・雇用人数:35万人 (2019~2024年) ・包摂人数:170万人

・参加企業:750社 地方への拡大(Community-led) フェーズ3 ・雇用人数:150万人 (2024~2029年) ・包摂人数:250万人

金融包摂の常態化 フェーズ4 ・全ての人々が金融包摂の状態 (Embedded in Society)

(注)フェーズ 1、3 の目標値は 2018 年時点、フェーズ 2 の目標値は 2019 年時点。 (出所) Good Shepherd Microfinance “From Foundations to Actions: Program Report March 2018 Part One”およ び”Program Report July 2019”を基に作成(2021 年 1 月 6 日閲覧)

銀行サービスへのアクセスに関しては、10 万人あたりの銀行支店数が 28.2 店、 ATM 数は 146.1 台(2018 年時点)であった。高所得国平均(20.1 店、63.5 台)を大 幅に上回っており、基本的な銀行サービスに対するアクセスは比較的確保されている と評価される。

図表 19:銀行支店数(左)と ATM 数(右)

180 60.0 160 Australia 50.0 140 120 Japan Italy UK 40.0 100 Japan China 80 30.0 Australia 60 New Zealand New Zealand 20.0 40 Sweden Sweden 20 Germany 10.0 0 2004 06 08 10 12 14 16 18 2004 06 08 10 12 14 16 18

(出所)World Bank, “Commercial bank branches (per 100,000 adults)” 、“Automated teller machines (ATMs) (per 100,000 adults)”

(3) マイクロファイナンス等ソーシャルファイナンスの現況94

オーストラリアにおいては欧州ほどにはソーシャルファイナンスが盛んではないも のの、近年は注目すべき取組みが見られる。

教会系の慈善団体である「Good Shepherd」は、ナショナル・オーストラリア銀行 (NAB)とパートナーシップを結び、「NILS (No Interest Loan Scheme)」という無

94 2013 年 12 月のヒアリングに基づく。

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利子融資制度と、「Step Up Loan」という低金利ローン、「Adds Up(追加貯蓄制 度)」という貯蓄促進プログラム、「Speckle」というオンラインを通じた小額融資 を提供してきた。

1863 年に仏グッドシェパード教会のシスターがメルボルンの女性を対象に生活支 援や住居の提供を始めたことを起源に、それ以降、社会的に立場が弱い女性や若年層 の支援を行ってきた。1976 年に、地域活性化や金融包摂の促進を目的に「Good Shepherd Youth & Family Service(GSYFS)95」を設立した。1981 年には、NILS を 開発し、低所得層の個人及び世帯に、融資を行ってきた。2012 年には NILS やその他 金融サービスの推進のため、「Good Shepherd Microfinance」を設立した。現在の NILS の融資内容としては、冷蔵庫や洗濯機、家具、家電、パソコンといった必需品 や、医療手続きなどのサービスについて、最高 1,500 豪ドルまで利用可能である。返 済期間は 12 カ月から 18 カ月に設定され、少額での返済が可能である。NILS を受け る要件として、保険証または年金カードを持っており、年間収入が 45,000 豪ドル未 満、現住所に 3 か月以上居住していることが求められる一方で、信用調査は求められ ない。現金、家賃滞納、借金、請求書などの支払に対する貸出は行っていない。 NILS は、オーストラリアの 625 の地域の 160 の地域社会団体が提供を行っている。 NILS の利用者の 66%が女性である。平均借入金額は 904 豪ドルであり、完済率は 95%にも及ぶ。これまでの延べ利用者は、20 万 5 千人である96。

2004 年 3 月に、Step Up Loan は GSYFS と NAB の共同の取組みとして、メルボル ンで開始された。Step Up Loan は、800 豪ドルから 3,000 豪ドルまでの融資を年利 5.99%で提供しており、返済期限は 3 年以内に設定されている。この融資は、保険証 または年金カードを持っている人や、家族支援給付金(Family Tax Benefit A)の受給 者を対象としている。また、融資には信用調査が必要となる。Step Up Loan は、 GSYFS と 13 のコミュニティ機関を通じて、すべての州で提供されている。貸出の用 途には、主に車の修理、中古車、医療費や職業教育費等がある。NILS と同様に現金 や借金、請求書の支払に対する貸出は行っていない。

GSYFS と NAB は 2009 年 5 月に、Adds Up(追加貯蓄制度)と呼ばれる特徴的な 貯蓄プログラムを開始した。Adds UP は NILS または Step Up のローン完済後に利用 することができる。Adds Up はローン債務者の返済を支援し、さらに完済により債務 者が貯蓄習慣を習得することを目的としている。Adds Up に対する需要が想定以上に 多いため 2017 年 4 月 30 日に Adds Up のサービス提供が停止されたものの、一部プ ログラムの内容を改良した上で、2019 年に再開される予定であった97が現在は利用不 可能となっている98。このような取り組みもあって、これまでのマイクロファイナン スの貸出件数は 15 万に達し、貸出額は 1.7 億豪ドルに及んでいる。

なお、GSYFS は 2014 年に「Rosemount Good Shepherd Youth & Family Services」 と合併し、現在の「Good Shepherd Australia New Zealand(GSANZ)」に統合され た。

Speckle は、2018 年 2 月に Good Shepherd Microfinance と NAB が共同で開始した 新たなサービスで、インターネットを介した 2,000 豪ドル未満の小額融資を行うもの

95 主として女性向けのコミュニティサービス活動を行っている。 96 Good Shepherd Microfinance ウェブサイト、https://goodshepherdmicrofinance.org.au/services/no-interest-loan- scheme-nils/ (2021 年 1 月 7 日閲覧) 97 https://www.nab.com.au/content/dam/nabrwd/documents/reports/financial/2018-financial-resilience-research.pdf 98 https://goodshepherdmicrofinance.org.au/media/addsup-makes-rays-dream-visiting-family-possible/ (2021 年 1 月 18 日閲覧)

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である99。課税前所得が 30,000 豪ドル以上(政府からの給付を除く)あることが条 件となり、運転免許証やパスポートなどの詳細や過去 90 日間の銀行預金残高証明書 を、インターネットを介して提出することで、融資を受けることが可能となる100。

図表 20:マイクロファイナンス貸出件数の推移

(万件) 提供開始 Adds Up提供開始 3 Step Up

2

1

0 2003 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年)

(出所) ナショナル・オーストラリア銀行(NAB) “Financial Inclusion Action Plan 2017”を基に作成(2021 年 1 月 8 日閲覧)

また、最近では政府機関と共同で実業家の支援を行う「Launch me」というサービ スを提供している。同サービスは、一部地域(ビクトリア州、南オーストラリア州、 ダンデノン及びドブトン、ラトローブ・バレー)の在住者を対象に、融資だけでなく、 スキルの育成や事業計画の立案などを支援するものである101。

また、同じく教会系の慈善団体である「Brotherhood of St Laurence102」はコミュニ ティセクターの金融機関と共同で「Saver Plus」という教育向け資金提供プログラム を 2003 年から行っている。このプログラムは、ANZ 銀行とのパートナーシップの下、 低所得者がプログラムを通して貯蓄習慣を身に着けることを目的としている。このプ ログラムの参加者は、資産管理を学ぶワークショップに参加した上で、自身が設定し た目標額に応じて 10 カ月以上の期間で貯蓄を行う。その目標が予定通り達成されれ ば、ANZ 銀行から最大で 500 豪ドルの資金が提供される。この資金は、学校の制服、 教科書、パソコン、スポーツ用品といった教育資金に充てることを目的としている。 プログラム参加者の 87%はプログラム達成後 3~7 年後でも以前以上の貯蓄を続けて おり、参加者の 78%は不測の事態に備えた貯蓄をするようになったとされる103。

(4) コミュニティ銀行(Community bank)の設立104

ベンディゴ銀行は、独自のビジネスモデルであるコミュニティ銀行を展開し、地域 に根差した金融機関として成功している105。コミュニティ銀行は、まず 100 万ドルを

99 https://news.nab.com.au/nab-backs-small-loan-alternative-speckle/ (2021 年 1 月 8 日閲覧) 100 https://www.speckle.com.au/our-loan/ (2021 年 1 月 8 日閲覧) 101 https://goodshepherdmicrofinance.org.au/services/launchme/ (2021 年 1 月 8 日閲覧) 102 主として貧困層向けの支援を行っている。 103 Brotherhood of St Laurence ウェブサイト、https://www.bsl.org.au/services/money-matters/saver-plus/ (2021 年 1 月 8 日閲覧) 104 2013 年 12 月のヒアリング及び以下ベンディゴ銀行ウェブサイトに基づく。 https://www.bendigobank.com.au/community/community-bank (2021 年 1 月 12 日閲覧) 105 銀行の成長の前に地域の成長を、というモットーを掲げ、コミュニティベースの銀行=Community Bank を次々と設立 している。

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上限に地域団体が設立資金を集め、設立する銀行の持ち分を保有することで銀行のオー ナーになるという形で設立される。コミュニティ銀行で得た利益の 50%が地域の再投 資に充てられ、地域の発展のために使われる。1998 年に設立されて以降の再投資は、 累計 2 億 5,000 万豪ドルに上る。これらの資金は主に、地域向けのスポーツ、教育、 インフラ整備の投資等に使われてきた。コミュニティ銀行は認可預金受入機関ではなく、 ベンディゴ銀行の取扱商品を提供する代理店という位置づけである106。なお、当該ビジ ネスモデルは、ベンディゴ銀行が開発したものであり、特許登録済である。

2. 最近のリテール決済の動向

(1) キャッシュレス化の動向

世界銀行が行った調査「グローバル・フィンデックス」に基づけば、オーストラリ アの 15 歳以上人口のクレジットカード保有率は近年ほぼ横ばいで推移しており 2017 年時点で 59.7%となっている。一方、デビットカードの保有率は年々増え続け、その 割合は 90%にも及んでいる。クレジット・デビットの保有率いずれも、OECD 加盟 国平均(クレジットカード:56.8%、デビットカード:84.2%)を上回っており、世 界的にみても普及率が高いと言える。

図表 21:デビットカード、クレジットカード保有率の推移

デビットカード保有率 クレジットカード保有率 (%) 100% 88.9% 90.0%

7 9.1% 80%

64.2% 58.6% 59.7% 60%

40%

20%

0% 2011 2014 2017 (年) (出所)世界銀行, “ The Global Findex Database 2017”を基に作成 https://globalfindex.worldbank.org/(2020 年 5 月 13 日閲覧)

先述の通りクレジットカードの保有率と決済金額は横ばい状態にあり 2019 年時点 では 292 億豪ドルに達する。デビットカードについては 345 億豪ドル(2019 年時 点)まで増加しており、クレジットカードを上回る金額まで膨らんでいる。

106 コミュニティ銀行は、ビクトリア州の小さな村(village)で、大手商業銀行の最後の支店が閉鎖されたことをきっかけ に、村が独自の銀行を創設したことが設立の起源。今日では 324 以上のコミュニティ銀行が設立されている。ベンディ ゴ銀行は、同行のモットーである、地域コミュニティの発展を推し進めるためのツールとして、商品・サービスやノウ ハウ、人事制度に関わる知見をコミュニティ銀行へ提供している。

31

図表 22:デビットカード、クレジットカードによる決済額の推移

(10億豪ドル) 70

60

デビットカード 50 クレジットカード

40 合計

30

20

10

0 1995 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17 19 (年)

(注) 各年 12 月末。 (出所) オーストラリア準備銀行(RBA)“Statistical Tables”を基に作成 https://www.rba.gov.au/statistics/tables/ (2020 年 12 月 28 日閲覧)

オーストラリア準備銀行(RBA)が市場調査会社「Roy Morgan」に委託して行っ た調査によれば、2019 年にデビットカードが決済回数で現金を上回り、最も頻繁に 利用されている決済方法となった。決済金額でも 3 割以上を占め、クレジットカード と合わせると決済総額の 6 割がカード、9 割が非現金決済で行われている。また、モ バイル決済の決済額も 2019 年に現金を上回った。特に最近では、レジに備え付けら れた読み取り機にカードをかざすだけで決済が可能な非接触(Contactless)決済機能 を具えたクレジットカードやデビットカードの普及が進んでいる。また、店舗販売に おける全決済数のうち、非接触決済カード・端末での支払いの割合は、2013 年時点 が 1 割程度だったが、2019 年時点では 6 割弱まで拡大している107。こうした非接触 型決済の普及により、少額決済における現金使用がカードに置き換わった。

キャッシュレス決済が普及した一つの背景として、小額でもカード支払いを受け付 ける店が増えたこと、公共交通機関のカード払いが可能となったこと、タクシーのラ イドシェアが進んだことなどが挙げられる。

107 オーストラリア準備銀行“Consumer Payment Behaviour in Australia: Evidence from the 2019 Consumer Payments Survey”, https://www.rba.gov.au/publications/rdp/2020/2020-06/full.html(2020 年 12 月 28 日閲覧)

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図表 23:決済方法の内訳(左:決済回数、右:決済金額)

100% 100% その他 その他 90% 11 90% 9 10 12 10 10 14 小切手 小切手 80% 19 22 19 80% 15 10 11 8 9 22 70% PayPal 70% 23 PayPal 16 60% 24 インターネット/ 60% 28 25 インターネット/ 30 31 50% 44 モバイルバンキング 50% モバイルバンキング BPAY 21 BPAY 40% 40% 27 69 クレジットカード クレジットカード 26 30% 62 30% 22 36 47 デビットカード デビットカード 20% 37 20% 38 27 29 現金 10% 現金 10% 18 18 11 0% 0% 2007 2010 2013 2016 2019 2007 2010 2013 2016 2019

(出所) オーストラリア準備銀行(RBA)“Consumer Payment Behaviour in Australia: Evidence from the 2019 Consumer Payments Survey”を基に作成

(2) モバイル決済の動向

モバイル決済とは、スマートフォンなどの携帯端末を用いて、財・サービスの購入、 送金、請求支払いなどの決済を行う手段で、キャッシュレス決済の一つとして位置づけ られる。

オーストラリアにおいて、店舗での支払いにおけるモバイル決済回数の割合は 3%程 度(2019 年時点)にとどまるものの、徐々にモバイル決済サービスを取り入れる金融 機関は増加している。

2016 年 4 月には、ANZ 銀行が他行に先駆けて Apple Pay の提供を発表したほか 1082017 年 2 月より投資銀行大手マッコーリー・グループとオランダ大手銀行 ING グル ープなども Apple Pay をオーストラリア国内で提供するようになった109。ANZ 以外の 大手 3 銀行は当局の承認が得られていない状態が続いたものの110、2019 年にいずれの 銀行も同サービスの提供を開始した111。また、4 大銀行は、スマートフォンに独自のア プリケーションをインストールすることでモバイル決済が可能となるサービスのほか、 Google Pay や Samsung Pay といった支払いサービスも提供している。

先述の通り商品への支払い手段としては、モバイル決済の普及は未熟だが、最近で は個人間の送金手段としては活用され始めている。例えば、自分が使用している銀行に 関わらず、スマートフォンに「Beem It」というアプリをインストールし、Visa や Mastercard のデビットカードを登録すれば、個人間での送金や食事の際の割り勘など も簡単に行うことができるようになっている。2018 年 2 月 13 日にスタートした (NPP)は 24 時間年中無休で即時支払いが可能なシステムで、相 手の携帯電話番号やメールアドレス(PayID と呼ばれる)が分かれば口座番号や支店名

108 Sydney Morning Herald, 20 June 2016, “ Deposits lift on Apple Pay, says ANZ Bank” http://www.smh.com.au/business/banking-and-finance/deposits-lift-on-apple-pay-says-anz-bank-20160617- gplpfs.html 109 ロイター,2017 年 3 月 31 日付 https://jp.reuters.com/article/apple-australia-idJPKBN17207H(2020 年 12 月 28 日閲覧) 110 Reuters、2017 年 2 月 13 日「豪銀 4 行、アップルペイ巡る集団交渉方針を修正 当局に許可求める」 https://jp.reuters.com/article/apple-pay-australia-banks-idJPKBN15S0AI 111 ナショナル・オーストラリア銀行、ウェストパック銀行、コモンウェルス銀行ウェブサイト(2020 年 12 月 28 日閲覧) https://news.nab.com.au/news_room_posts/apple-pay-arrives-for-nab-customers/ https://www.commbank.com.au/guidance/newsroom/cba-apple-pay-201901.html https://www.westpac.co.nz/bank-accounts/ways-to-pay/apple-pay/

33

が不明でも支払いが可能である。4 大銀行や大手外国銀行など 100 以上の金融機関が対 応している(2020 年 10 月 26 日時点112)。先述した RBA の調査によれば、個人間に おける支払は、未だ現金の手渡しが大半であるものの、個人間の支払に占めるモバイル 決済の割合は 2013 年の 10%から 2019 年には 40%まで拡大している。

RBA は同レポートで、現時点では、モバイル決済に関する知識がまだ十分に浸透し ていないことや、対応店舗が少ないこと、携帯電話が決済機能を備えていないことが、 モバイル決済の普及を妨げていると分析している。しかしながら、これらの課題に関し ては、技術の進展や上記に示したような金融機関の取り組みによって徐々に改善してい くと見られ、今後はモバイル決済の利用も拡大していくものと見られる。

図表 24:個人間での送金における支払い手段

(注)モバイル決済の定義は 2019 年とそれ以前で異なる。2013 年と 2016 年調査時はスマートフォン・SMS を用いたオン ライン上の送金が対象。 (出所)オーストラリア準備銀行, “Consumer Payment Behaviour in Australia: Evidence from the 2019 Consumer Payments Survey”を基に作成(2020 年 12 月 28 日閲覧)

(3) インターネット経由の買い物の状況

パソコンやスマートフォンの普及に加えて、ネットバンキングやキャッシュレス決 済などオンラインでの決済手段が多様化していることを受けて、近年ではインターネッ ト経由での買い物が盛んになっている。2017 年 12 月より、米通信販売大手の Amazon がオーストラリア市場に進出し、物品の販売だけでなく、インターネットを介して音楽 や映画を提供するサービス(アマゾンミュージックリミテッド、プライムビデオ)を展 開している。その他にも、Uber eats(米国系)、Deliveroo(英国系)といった出前代 行サービスの進出も相次いでいる。

オーストラリア郵便公社もこれらのビジネスに対抗するために 2017 年 10 月に会員 制でオンラインショッピング向けの無料配送サービス「シップスター」を開始したもの の、ユーザーが伸び悩み、2019 年 7 月末に同サービスを終了した113。

112 https://nppa.com.au/wp-content/uploads/2020/11/NPP-Roadmap-October-2020.pdf 113 シップスターウェブサイト https://auspost.com.au/shipster/ (2020 年 12 月 30 日閲覧)

34

先述したグローバル・フィンデックスにおいて、オーストラリアで「過去 1 年間でイ ンターネットを経由して支払いまたは買い物を行った」と答えた人の割合は、2014 年 の 68.2%から 2017 年は 75.6%に着実に上昇しており、OECD 高所得国の平均(2014 年:54.1%、2017 年:69.8%)よりもインターネット経由の買い物が盛んであると評価 される。

ただし、消費者決済に占めるオンライン決済比率の伸びは横ばいで、回数では 1 割、 金額では 4 割弱の状況が 2013 年以降続いている。

オーストラリア郵便公社のレポートによれば、インターネット経由の買い物は、百 貨店や雑貨店からの衣料品やブランド物の取り寄せや、ファッション関連のシェアが大 きくなっている。一方で、各商品の伸び率をみると、美容・健康の項目が拡大している。 ネットユーザーは若年層が多いこともあって化粧品やビタミンなどのサプリメントが人 気のようだ。全体の成長率は 2018 年が 20%、2019 年が 17%で高成長が続いている。

図表 25:消費者決済に占めるオンライン決済割合とオンライン決済に占めるモバイル・アプリ利用割合

(%) 消費者決済に占めるオンライン決済割合(金額) 50 消費者決済に占めるオンライン決済割合(回数) オンライン決済に占めるモバイル・アプリ利用 40

30

20

10

0 年 年 年 年 年 2007 2010 2013 2016 2019 (注)9,999 豪ドル超の支払い、送金、自動振替、交通カードは除く。 (出所)オーストラリア準備銀行, “Consumer Payment Behaviour in Australia: Evidence from the 2019 Consumer Payments Survey”を基に作成 (2020 年 12 月 30 日閲覧)

35

図表 26:オンラインショッピングで購入した商品の内訳(2019 年)

(%) 40 35 30 シェア 25 前年からの伸び 20 15 10 5 0 雑 フ 家 健 趣 メ 飲 貨 ァ 庭 康 味 デ 食 店 ッ ・ ィ シ 用 美 ・娯 料 ョ 品 ア 品 ン 容 楽 ・家 グ 電 ッ ズ (出所)オーストラリア郵便公社“Inside Australian Online Shopping 2020 eCommerce Industry Report”114を基に作成 (2020 年 12 月 30 日閲覧)

(4) フィンテック関連政策の動向

2016 年にオーストラリア政府は、世界的なフィンテックの潮流をオーストラリア にも取り込むべく、FinTech Advisory Group を創設した。FinTech Advisory Group は フィンテック分野の専門家を集め、同分野における政策へのアドバイスを行うほか、 産業育成に向けた計画立案のサポートを行う115。

2016 年 12 月にオーストラリア証券投資委員会(ASIC)は、フィンテックの振興に 向けて、金融業への進出における規制緩和(FinTech regulatory sandbox)を行って いる。この規制緩和により、最大 12 カ月はテスト期間としてライセンスを取得しな くても事業が行えるようになった。2020 年 9 月 1 日からは、後継として Enhanced regulatory sandbox(ERS)に置き換わり、テスト期間が最大 24 カ月に延長されたほ か、生命保険や退職年金関連のサービス等も対象となった116。

また、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)はフィンテックの更なる進展を目 指し、2017 年 6 月には、日本の金融庁とフィンテックに係る協力枠組みを構築した117。 これにより、フィンテック企業の紹介、また紹介した企業へのアドバイスやサポート を求めることができるほか、ASIC と日本金融庁の間での規制や産業動向などの情報 交換が容易になった。その他にも、ASIC は、中国証券監督管理委員会、香港証券先 物委員会、マレーシア証券委員会といった海外機関とフィンテック分野における協力 関係を結んでいる。

114 https://auspost.com.au/content/dam/auspost_corp/media/documents/2020-ecommerce-industry-report.pdf 115 https://www.directory.gov.au/portfolios/treasury/department-treasury/fintech-advisory-group (2021 年 1 月 12 日閲 覧) 116 オーストラリア証券投資委員会(ASIC)ウェブサイト https://asic.gov.au/for-business/innovation-hub/enhanced-regulatory-sandbox/ (2021 年 1 月 12 日閲覧) 117 https://www.fsa.go.jp/inter/etc/20170623.html (2021 年 1 月 12 日閲覧)

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2018 年 5 月にオーストラリア政府は、個人に金融サービスの利用情報を管理する 権利を与える制度「オープン・バンキング」を導入すると発表した118。この制度が導 入されることにより、利用者の合意の上で、金融機関、金融商品の比較サイト、フィ ンテック企業などで個人情報の共有が可能となる119。情報共有が容易となることで、 利用者は、複数機関のクレジットカードや住宅ローンといった金融商品の契約状況を オンラインで一括して確認することができるほか、金融商品のプランを銀行間で比較 し、必要に応じて契約内容を変更することも可能となる見込みだ120。

オーストラリア議会は 2019 年 8 月 1 日に消費者データ権(Consumer Data Right, CDR)に関する法案を可決した。まずは銀行業界、続いてエネルギー業界、電気通信 業界が導入する予定だ。

主要 4 行を中心に段階的なオープン・バンキング導入が進められる。まずはクレジ ットカード、デビットカード、預金口座、取引口座のデータへ、その後 2020 年 2 月 までに住宅ローンのデータへ、第三者がアクセスすることを可能にする予定であった。

しかしオーストラリア自由競争・消費者委員会(Australian Competition and Consumer Commission, ACCC)が「CDR にかかわるシステムのさらなる確認が必 要」と判断したため、実施が 2020 年 7 月まで先送りされることが決定した。CDR 実 施の先送りはこれが 2 度目である。

2019 年 12 月、タイムテーブルが更新された。クレジットカード、デビットカード、 預金口座、および取引口座については 2020 年 7 月 1 日以降、住宅ローンおよび個人 ローン口座については 2020 年 11 月 1 日以降から、消費者は自らの個人情報を特定サ ービス提供者に共有することを銀行に指示できるようになる121。

オーストラリア健全性規制庁(APRA)は、預金取扱市場の安定性を維持しながら も新規参入者の参入を容易にして競争を促進するため、2018 年 5 月 4 日に ADI ライ センス取得の新たなルールである制限付き認可預金受け入れ機関(Restricted ADI, RADI)を導入した122。新たに創設されたライセンス取得ルートでは、ADI ライセン ス取得を目指す企業は、2 年間 Restricted ADI ライセンスを付与され、その間本格的 な銀行業務を始めるために必要な健全性フレームワークを満たし、リソースと機能の 構築を進める。RADI ライセンス期間中に提供できるサービスは、低リスクで限定的 なものに限定され、預金受入合計金額は 200 万豪ドルに制限される。金融請求権ス キーム(Financial Claims Scheme)では ADI と同様 25 万豪ドルまで保証される。2 年間の付与期間中に健全性フレークワークを満たすことが出来なかった場合は、銀行 業界から撤退する必要がある123。

118 オーストラリア財務省ウェブサイト、https://treasury.gov.au/publication/p2018-t286983 (2021 年 1 月 12 日閲覧) 119 KPMG ウェブサイト https://home.kpmg/au/en/home/insights/2019/03/open-banking-customer-strategic-opportunities.html (2021 年 1 月 12 日閲覧) 120 オーストラリアン紙ウェブサイト、”New laws will 'open banking'”(2019 年 8 月 1 日付) https://www.theaustralian.com.au/nation/politics/new-laws-will-open-banking/news- story/1066e1bb63edae3b65bb367fa1a7c470 (2019 年 8 月 4 日閲覧) 121 ACCC “Consumer Data Right timeline update” https://www.accc.gov.au/media-release/consumer-data-right-timeline-update (2020 年 5 月 13 日閲覧) 122 https://www.apra.gov.au/news-and-publications/apra-finalises-new-restricted-authorised-deposit-taking-institution- licensing 123 “Information paper: ADI licensing: Restricted ADI Framework”, https://www.apra.gov.au/sites/default/files/information-paper-adi-licensing-restricted-adi-framework-20180504.pdf

37

(5) フィンテック企業の取り組み

2018 年以降、オーストラリアでは 4 つのリテール向けネオバンクが形成されてき た。Up Bank はオーストラリア最初のネオバンクであり、2018 年 10 月に Bendigo and Adelaide Bank のライセンス供与を受ける形でサービスをスタートした。自身で フルライセンスを獲得した最初のネオバンクである は 2018 年 5 月に RADI、2019 年 1 月に ADI ライセンスを取得している。2019 年には「86400」と Bank も ADI ライセンスを取得しバンキングサービスを開始した。これらのネ オバンクは口座手数料が無料でありながら、大手 4 行よりも普通金利が高く設定され ており、ATM 引出手数料がかからないなどの特徴がある。

しかし、2020 年から 2021 年にかけてネオバンクは苦境に陥っている。Xinja Bank は 2020 年 12 月に ADI ライセンスを返還し銀行業から撤退すると発表し、47,000 超 の口座閉鎖と 5 億豪ドル超の預金返還が 2021 年 1 月に完了した124。Xinja は Covid- 19 によって資金調達が困難になったことを理由として挙げているほか、高い預金金利 を補う貸付商品を提供していなかったことも指摘されている125。2021 年 1 月には NAB が 86400 を 2 億 2,000 万豪ドルで買収することを発表した。NAB は買収によ って自社のデジタル専業銀行ブランドである UBank のサービスを強化する。86400 には 2021 年 1 月中旬時点で 85,000 超の顧客、3 億 7,500 万豪ドルの預金があった。

オーストラリアで営業するフィンテック関連企業数は 750 社以上ある126。大手国際 会計事務所の KPMG は、「世界を牽引するフィンテック TOP100(The Fintech100)」報告書において、世界各国のフィンテック企業から「成功している 50 社(Leading 50)」と「注目の新興企業 50 社(Emerging 50)」の計 100 社を選 定している。オーストラリアには有力 FinTech 関連企業が多く、2017 年は世界 100 社中 10 社が選定され 2 位、2018 年、2019 年の調査では、順位を落としたが依然 7 社がランクインして世界 5 位となった。Leading 50 には支払いを簡単に分割後払いに できる AfterPay Touch やクロスボーダー決済に特化する Airwallex など 3 社が、 Emerging 50 には住宅ローンの早期返済サービスを提供する Athena Home Loan や銀 行アプリと連携した電子領収書サービスを提供する Slyp など 4 社が選出されている。

なお、2017 年の報告書で Leading 50 に選出された中小企業向けのオンライン融資 を行うオーストラリア企業「Prospa」が 2019 年 6 月 11 日にオーストラリア証券取引 所に上場を果たすなど、同報告書で選出された企業の成功事例も散見されている127。

124 https://xinja.com.au/press/2021/media-release-xinja-successfully-completes-return-of-deposits/ 125 Reuters, https://jp.reuters.com/article/xinja-bank-australia/australias-xinja-bank-to-give-up-banking-license-return- deposits-idUKL1N2IV2WB 126 https://australianfintech.com.au/directory-all/ (2021 年 1 月 14 日閲覧) 127 https://www.prospa.com/about-us/in-the-news/prospa-lists-on-the-asx (2021 年 1 月 14 日閲覧)

38

図表 27:「世界を牽引するフィンテック TOP100」に選出された企業数

(社数) 20 18 18 16 15 2019 14 12 2018 11 11 12 10 10 8 7 7 8 6 5 6 4 4 4 4 4 3 3 3 3 4 2 2 2 2 2 2 1 0 米 英 中 イ オ ド シ ブ フ 日 イ 韓 イ 国 国 国 ン ー イ ン ラ ラ 本 ス 国 ン ド ス ツ ガ ジ ン ラ ド ト ポ ル ス エ ネ ラ ー ル シ リ ル ア ア (出所) KPMG“2019 FINTECH100”を基に作成(2021 年 1 月 14 日閲覧)

投資分野では、利用者に投資がより身近に感じる工夫がなされている。例えば、新 興企業の Moneysoft 社は、日々の支払いで生じるお釣りを自動的に投資に回してくれ る投資アプリ(Round-ups)を開発した。また、Macrovue 社は、「人工知能」や 「次世代自動車」といった 20 以上の流行りのテーマの中から投資したい分野を選ぶ だけで、マーケットの専門家が厳選したポートフォリオへの投資ができるサービスを 提供している。金融機関もフィンテックの技術をサービスに取り入れる動きがみられ る。4 大銀行は先述したような携帯電話によるモバイル決済に加え、腕時計型の端末 (スマートウォッチ)を使った決済サービスを開始している。また、コモンウェルス 銀行(CBA)傘下のバンクウエスト(Bankwest)は防水機能が付いた指輪型端末 (Bankwest Halo)も提供しているほか、ウェストパック銀行もオーストラリアのデ ザイナーと共同で、アクセサリー型の決済サービス端末(PayWear Accessories)の 開発に着手している。

このような企業努力もあり、フィンテックは徐々に身近なものになっている。2019 年にアーンスト・アンド・ヤング(EY)が発表した「EY フィンテック導入指標(EY Fin Tech Adoption Index128)」報告書によれば、オーストラリアにおけるフィンテッ クの普及度合いは 2017 年の 37%から 58%に上昇した。ただし他国の伸びが著しいた め、順位としては後退している。

128 同調査は 27 カ国約 27,000 人のオンラインを活用している成人に対するオンライン・インタビューを取りまとめたもの で、5 分野 19 サービスのうち 2 つ以上の関連するサービス(例えば Online stock broking と Online investment advice といった形)を利用している場合にフィンテック導入者と定義付けている。全体の導入率は 64%で、日本は 34%にとど まっている。

39

図表 28:EY フィンテック導入指標

(%) 100 87 87 90 82 82 80 76 75 73 72 71 71 67 67 67 67 70 66 64 64 64 64 58 60 50 40 30 20 10 0 中 イ ロ 南 コ ペ オ メ ア イ ア 香 シ 韓 チ ブ ド ス ス オ 国 ン シ ア ロ ル ラ キ イ ギ ル 港 ン 国 リ ラ イ ウ イ ー ド ア ン ー ゼ ガ ス フ ビ ン シ ル リ ジ ツ ェ ス リ ダ コ ラ ス ン ポ ル ー ト カ ア ン チ ー デ ラ ド ン ル ン リ ア (出所)アーンスト・アンド・ヤング“EY FinTech Australia Census 2019”を基に作成(2021 年 1 月 12 日閲覧)

アーンスト・アンド・ヤング(EY)のオーストラリア版の調査結果(2019 年)を みると、オーストラリアでは資産運用、データ分析・ビッグデータ、融資といった分 野でフィンテックが活用されていることが分かる。特に、資産運用については、2018 年対比でみても活用の度合いが上昇している。

図表 29:フィンテックの用途

(%) 35

30 2019 25 2018 20 15 10 5 0 資 融 金 保 ビ デ 支 ビ ピ (個 資 産 ッ ー 資 払 ジ ア 産 融 険 運 グ ネ 人 規 タ 、 ・ 間 管 用 デ 財 ス ト 理 制 分 ゥ 決 ー 析 布 ツ 、 管 / ・ タ 機 ー ピ 済 取 理 能 ル ア 等 引 ) (出所)アーンスト・アンド・ヤング“EY FinTech Australia Census 2019”を基に作成(2021 年 1 月 12 日閲覧)

(6) リテール決済等に関する規制の状況

消費者向けの融資やリースについては、National Consumer Credit Protection Act 2009(NCCP Act)に基づき、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)などが管轄し 129、決済に関する規制は、Payment Systems (Regulation) Act 1998 に基づき、オース トラリア準備銀行(RBA)が管轄している130。

オーストラリアでは、融資や決済などの金融業務を行う事業者は、原則はライセン スの取得が必要だが、フィンテック分野においては、2016 年 12 月にオーストラリア

129 https://www.legislation.gov.au/Details/C2009A00134 (2021 年 1 月 14 日閲覧) 130 https://www.legislation.gov.au/Details/C2004A00318 (2021 年 1 月 14 日閲覧)

40

証券投資委員会(ASIC)が、一定の基準を満たせば 12 カ月はテスト期間としてライ センスを取得しなくても事業が行えるよう規制を緩和し(FinTech regulatory sandbox)、2020 年 9 月からはテスト期間が 24 カ月に延長された(Enhanced regulatory sandbox)。一方で、RBA のブロック総裁補(金融システム担当)は、 2018 年 7 月に中国で行われた会合での講演で、フィンテック企業の拡大は、金融業 におけるシステミックリスクを増幅させかねず、当局による規制強化の重要性を訴え ており、今後当該分野における規制について議論が進められる模様である。

仮想通貨については、アンチマネーロンダリング(AML)やテロ資金対策(CTF) のため、2018 年 4 月より国内の仮想通貨取引所は、オーストラリア取引報告分析セ ンター(AUSTRAC)に登録し、政府が定める AML と CTF の遵守と報告義務が課せ られている131。また、2018 年 5 月に ASIC は、仮想通貨を使って資金調達を行う手法 であるイニシャル・コイン・オファリング(ICO)を行う企業の監視を強化していく と表明した。ASIC は、投資家を欺く、または誤解を招くような企業や、ライセンス を取得していない疑いのある企業に対して質問状を発行することなどで、悪質業者の 是正を図っている。この質問状に基づき、既に ICO 停止や改善を行った企業もある132。

最近では、仮想通貨を利用した悪質な脱税が増加している。オーストラリア国税庁 (Australian Taxation Office, ATO)は、仮想通貨の指定サービスプロバイダー (DSPs)から仮想通貨の取引データを取得し、不正の状況を調査する方針であり、 今後取締りを強化する見込みである133。

現金での決済について、オーストラリア政府は 2018/19 年度予算案の中で、1 万豪 ドルを超える財・サービスへの支払いにおいて、現金での決済を禁止する意向を発表 し、2019 年 7 月 1 日から同規制が適用されている。この規制の発効により、上限を 上回る支払いは、クレジットカードやデビットカードなどの電子決済、もしくは小切 手で行う必要がある。この規制は、税逃れやマネーロンダリングの取り締まりを狙い としているが、個人や企業のキャッシュレス化の後押しとなるとの意見も出ている。 なお、同規制については引き続き議論がなされており、違反者には懲役や罰金を科す 法律の制定も検討されていた134が、この罰則案は 2020 年末に上院で否決された135。

その他のリテール金融における規制については、オーストラリアでは、2013 年ご ろからの住宅価格上昇に伴い、家計債務の増加が問題視されており、最近では住宅ロ ーンの抑制策が打たれてきた。2014 年には APRA は金融機関に住宅投資向けローン の伸び率が前年比 10%を超えないよう通達を行った。また、一定期間は利息支払い のみを返済するインタレストオンリー(IO)ローンが増加していたことから、2017 年 3 月には ASIC は、認可預金受入機関(ADIs)に対して、新規住宅ローンに占める IO ローンの割合が 30%を超えないよう求めた136。主要銀行も IO ローンの貸出金利 の引き上げを行った。

131 http://www.austrac.gov.au/media/media-releases/new-australian-laws-regulate-cryptocurrency-providers (2021 年 1 月 14 日閲覧) 132 https://www.asic.gov.au/about-asic/media-centre/find-a-media-release/2018-releases/18-122mr-asic-takes-action-on- misleading-or-deceptive-conduct-in-icos/ (2021 年 1 月 14 日閲覧) 133 オーストラリア国税庁(ATO)ウェブサイト、https://www.ato.gov.au/Media-centre/Media-releases/ATO-receives- cryptocurrency-data-to-assist-tax-compliance/ (2020 年 5 月 13 日閲覧) 134 ABC ウェブサイト、https://www.abc.net.au/news/2019-08-20/transacting-$10,000-or-more-in-cash-could-make-you- a-criminal/11429230 (2021 年 1 月 14 日閲覧) 135 https://www.abc.net.au/news/2020-12-07/cash-ban-law-10000-dollars-abandoned-amid-covid-crisis/12951720 136 APRA ウェブサイト、https://www.apra.gov.au/media-centre/media-releases/apra-announces-further-measures- reinforce-sound-residential-mortgage

41

足元では、徐々に住宅価格の上昇が一服しつつあることから、2018 年 4 月には APRA が実施した住宅の投資向けローンの貸出キャップを、2018 年 12 月には IO ロ ーンの貸付上限を廃止している137。これらの規制緩和もあって、2019 年の後半より、 住宅価格は持ち直している。

図表 30:住宅価格の推移

(2010年=100) 150

140

130

120

110

100

90 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 (年) (出所)オーストラリア統計局, 6416.0 - Residential Property Price Indexes: Eight Capital Cities, Sep 2020,Table 7. All Index Numbers を基に作成(2021 年 1 月 20 日閲覧)

図表 31:銀行借入の動向

(兆豪ドル) 2.0

その他 1.5 住宅投資向け 住宅ローン 1.0

0.5

0.0 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20(年)

(出所)Reserve Bank of Australia “Statistical Tables”(2021 年 1 月 20 日閲覧)

(7) 銀行の支店網縮小の動き

近年では、オンラインバンキングの普及により、4 大銀行など一部の商業銀行では 実店舗をともなう支店の閉鎖が相次いでいる。ANZ 銀行は 2016 年時点で 760 支店を 有していた一方、2019 年には 600 店舗以下まで縮小した。同銀行の CEO であるエリ オット氏は、現地のラジオ番組で、今後もこのような支店の閉鎖が続き、雇用者も減 少する可能性を指摘している138。このほか、ウェストパック銀行は 22 の支店を閉鎖 する方針を示している。オンラインチャネルの普及により過去 12 カ月間の支店にお

137 ガーディアン紙ウェブサイト https://www.theguardian.com/australia-news/2018/dec/19/bank-watchdog-lifts- restrictions-on-interest-only-loans-as-house-prices-fall (2021 年 1 月 20 日閲覧) 138 3AW693 News Talk ウェブサイト https://www.3aw.com.au/job-cuts-and-further-branch-closures-ahead-anz-ceo-says/ (2021 年 1 月 15 日閲覧)

42

ける取引が 2%未満であったことを理由として挙げている139。また、一部報道ではコ モンウェルス銀行についても約 3 割の支店や雇用者の削減を検討していると報じられ ている140。

3. 今後のオーストラリア郵便公社の動向

(1) オーストラリア郵便公社の経営形態

過去には、地方部で閉鎖された銀行支店が多かったため、政府系の郵便貯金を作る べきではないかという声が議会で出ており141、オーストラリア郵便公社が国営銀行を 創設するのではとの見方も一部あったが、同社は銀行業務を始めるだけの資金・人材 がないとして、これを否定し、今後も受託業務として金融サービスを提供していくと 明言している。オーストラリア郵便公社は、国営銀行となって金融機関と競合関係に 陥るよりも、オーストラリア全土で広く国民にサービスを提供できる機関として、金 融機関の提供サービスを補完する立場でありたいとし142、2014 年 6 月には地方郵便 局の維持をサポートするプログラムを開始している143。

(2) オーストラリア郵便公社の郵便関連業務

他方、本業である郵便関連業務については、今後郵便物数は減少すると見込んでお り、収益構造の変革にも取り組んでいる144。

金融業務については、重要な収益源として投資を集中させている。特に最近では、 実店舗にとらわれず、ネット上でも公共料金の支払や請求書の管理ができるほか、送 金もオンラインで申し込めるサービスを提供している。

郵便事業については、2016 年 11 月にはオーストラリアの小売り大手 Woolworths と、24 時間小包が受け取り可能なロッカーを 500 台以上設置することで合意したほ か、2017 年には自動運転技術を利用した宅配サービスの試験を行うなど、効率的な 小包配達ネットワークの構築に取り組んでいる145。

2016 年からは普通郵便の切手額を 70 セントから 1 豪ドルへ値上げするとともに、 通常配送の所要日数を長くし、優先配送区分(1.5 豪ドル)を新設するなど収益改善 に取り組んでいるが、郵便事業を黒字化するのは構造的に不可能とのコメントを発表 し、郵便事業には見切りをつける姿勢を鮮明にした146。なお、優先配送区分は 2019 年度に郵便量の約 9%を占めており、2 億 8,100 万豪ドルの収益を上げた147。郵便物

139 3AW693 News Talk ウェブサイト https://www.3aw.com.au/westpac-confirms-closure-of-22-bank-branches/ (2021 年 1 月 15 日閲覧) 140 ブルームバーグウェブサイト https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-04-11/commonwealth-bank-working-on-plan-to-cut-10-000-jobs- australian 141 Asia Pulse, Nov 1, 2010, ”Opposition MP calls for Australia Post to get into banking” 142 Australian Banking & Finance, 2012 年 2 月 15 日付 143 オーストラリア郵便公社「アニュアルレポート(2014 年)」 http://auspost.com.au/annualreport2014/assets/downloads/AusPost_AR14_Full_report.pdf 144 2013 年 12 月のヒアリングに基づく。郵便事業は縮小していく方向だが、郵便公社がそれを理由に地方部の郵便局数を 閉鎖する考えはないということであった。 145 Woolworths Group, https://www.woolworthsgroup.com.au/page/media/Latest_News/woolworths-and-australia-post- partner-for-easy-parcel-pick-ups 146 Australian Financial Review, 26 February 2016, “Dead letter day for Aussie Post” http://www.afr.com/news/economy/dead-letter-day-for-aussie-post-20160226-gn4ihd 147 “Australia Post - Answers to question taken on notice at public hearing in Canberra, 8 July 2020, and additional written questions provided 10 July 2020 (received 17 July 2020)”,

43

数が減少する一方でネットワーク維持のコストが膨らんでいるため、郵便事業は 2019 年度に 1 億 9,170 万豪ドル、2020 年度に 2 億 4,100 万豪ドルの損失を計上して いる。また、ユニバーサルサービス提供コストは、2019 年度が 3 億 9,220 万豪ドル (うち、地方・遠隔地 48%)、2020 年度が 3 億 9,330 万豪ドル(同 51%)であった。 財務体質の改善と小包・金融など成長セクターへの投資資金を確保するため、オース トラリア郵便公社は、総額 3 億ドルとも評価される歴史的価値の高い各州都の 7 つの 中央郵便局(General Post Office, GPO)の土地や建物の不動産信託ファンドの組成を 通じた部分売却148、並行して国内外での資金調達を模索中であった149が、2016 年後 半に協議が打ち切られた後、2017 年 5 月にシドニーGPO の所有権が 1 億 5,500 万豪 ドルでシンガポールの不動産デベロッパーに売却されることが発表された150。シドニ ーGPO の郵便局はサブリース形態で引き続き運営される。

また、デジタル技術の活用も進めている。2017 年には Digital iD という携帯用アプ リの提供を開始した。パスポートや運転免許証などの個人情報や指紋を登録すること で、郵便物の受け取りの際や政府が行っているサービスを受ける際の本人確認の証明 として提示ができるようになった。一部の州ではこのアプリを利用して、アルコール を購入する際の年齢の証明を行うことができるようになっている151。

近年は E コマースの普及が進み小包宅配業の収益は拡大したものの、郵便業は値上 げを行った影響もあり需要が減少した。前 CEO クリスティン・ホルゲート氏152は、 値上げ以外の方法での収益建て直しを目指してきた。具体的には、輸送効率の高い電 動三輪バイクの導入や自動区分センターの強化などを行っている153。

2020 年度は Covid-19 により配達頻度の緩和策などがとられているが、雇用を削減 することなく、成長を続けている小包配送事業などに人員を転換することで雇用を維 持する方針を示している。また、金融機関の支店閉鎖が続く中で、特に地方・遠隔地 において必要不可欠な金融・住民サービスを今後も提供していくとしている。大規模 自然災害や Covid-19 への懸念から現金需要が高まり、2020 年春以降に高額紙幣発行 は急激に伸びた。こうした中で現金供給機関が Bank@Post しかないコミュニティも 地方・遠隔地では存在した。2019 年度には Bank@Post の新契約による増収などを受 けて、金融事業と本人認証サービス(パスポート、Digital iD、運転免許証の更新等) の収益は合わせて 5 億豪ドル以上に上った。

金融事業については、より多様な金融サービスを郵便局で提供する方針を示してい る。オーストラリア郵便公社は 2020 年 11 月 2 日に中小企業向けローン事業を展開す る Valiant 社とパートナーシップを締結し、金融機関へのアクセスが難しい地域など で中小企業経営者の資金調達を支援していくとした。また、ホルゲート前 CEO は将

https://www.aph.gov.au/Parliamentary_Business/Committees/Senate/Environment_and_Communications/AustraliaP ost/Additional_Documents 148 Australian Financial Review, 30 May 2016, “Australia Post offloads suburban retail property for $7.4m” https://www.afr.com/real-estate/commercial/sales/australia-post-offloads-suburban-retail-property-for-74m- 20160530-gp72dt 149 Bloomberg News, 7 July, 2016 “Australia Post to Meet with Debt Investors in Australia, Asia” 150 “Australia Post confirms sale of historic Sydney GPO, seeks heritage listing”, https://www.smh.com.au/national/nsw/australia-post-confirms-sale-of-historic-sydney-gpo-seeks-heritage-listing- 20170726-gxj2pu.html 151 https://www.digitalid.com/personal/ (2021 年 1 月 21 日閲覧) 152 同氏は、2018 年にコモンウェルス銀行、ウェストパック銀行、NAB 銀行との Bank@Post 受託契約を自社に有利な形で 更新することに成功した社内幹部へ高級時計を贈与したことが問題となり、2020 年 11 月に辞任した。 153 シドニー・モーニング・ヘラルド紙ウェブサイト(2019 年 2 月 19 日付) https://www.smh.com.au/business/companies/australia-post-letters-delivers-bad-news-despite-parcels-boom- 20190219-p50yui.html (2021 年 1 月 19 日閲覧)

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来的に中小企業に両替サービスを提供し、郵便局で銀行口座の開設・解約の代行を目 指す方針を示していた154。

154 https://www.afr.com/companies/financial-services/australia-post-threatens-to-cut-off-anz-customers-20181015-h16nfs

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<出所資料一覧>

【中央銀行・監督官庁等・協会等ウェブサイト】 ・ オーストラリア政府ウェブサイト https://www.australia.gov.au/ ・ オーストラリア準備銀行(RBA)ウェブサイト https://www.rba.gov.au/ ・ オーストラリア健全性規制庁(APRA)ウェブサイト https://www.apra.gov.au/ ・ オーストラリア証券投資委員会(ASIC)ウェブサイト https://asic.gov.au/ ・ オーストラリア統計局ウェブサイト https://www.abs.gov.au/ ・ オーストラリア国税庁ウェブサイト https://www.ato.gov.au/ ・ 会員協働金融機関組合ウェブサイト https://www.customerownedbanking.asn.au/

【論文・雑誌・業界紙等】 ・ 野村亜希子(2013)、「オーストラリアのスーパーアニュエーション -1.6 兆豪ドルの私的年金の示唆-」、『野 村資本市場クォータリー』、2013 年秋号、所収。 ・ 松島吉洋(1993)、「オーストラリアの金融自由化政策の経験」、伊東和久・山田俊一編『経済発展と金融自由 化』、アジア経済研究所、1993 年、所収。

【郵便公社ウェブサイト】 ・ オーストラリア郵便公社ウェブサイト https://auspost.com.au/

【民間金融機関等ウェブサイト】 ・ ルーラル銀行ウェブサイト https://www.ruralbank.com.au/

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