人体科学27-(1):1-12,2018 人体科学27-(1):13-22,2018〈原著〉

圓光大博士学位論文、2014. 71) キムセファ、ファンドクサン、イジンム、 63) ペギョンミ:韓国人·韓国系アメリカ人·ア イギョンソプ、イチャンフン、チャンジュン 子供が語る胎内記憶によって誘発された霊的変容体験 メリカ人の産後風と産後調理に関する認識と ボク:流産後の産後風患者の一例に関する臨 実態調査、東義大博士学位論文、2010. 床報告、大韓韓方婦人科学会誌、第27券4号、 大 門 正 幸※(中部大学教授/バージニア大学客員教授) 64) チャンセラン、パクヨンソン、キムドン pp.97-108、2014. チョル:1 ヶ所の韓医大学付属韓方病院に産 72) チャンセラン、キムドンチョル:産後の 後風で来院した患者104例に関する実態分析、 多汗と指の関節痛がある産後風の治療一例、 A Case of Spiritually Transformative Experiences Induced 大韓韓方婦人科学会誌、第23券3号、pp.192- 大韓韓方婦人科学会誌、第28券 3 号、pp.128- 204、2010. 135、2015. by a Child's Prenatal Memories 65) ピルガムメ、ペジェリョン、チャンサンチョ 73) キムピョンファ:韓方治療を受けた産母の Masayuki OHKADO(Chubu University, ) ル、ノジュヒ、パクソヒ:産後病の治療例に 産後 6 週間の症状に関する前向き観察研究、 見る積極的産後管理のための韓医学の方法論 又石大修士学位論文、2017. 的研究、大韓医療気功学会誌、第15券 1 号、 74) パクギョンソン、イジンム、イチャンフン、 要旨:近年、臨死体験やお迎え体験、臨死共有体験、悟り、故人との邂逅、神秘体験、過 pp.23-43、2015. チョジョンフン、チャンジュンボク、イギョ 去生記憶の想起といった、人生観を一変させるような現象を霊的変容体験(Spiritually 66) ソンヨンフン、ユドンヨル:韓方治療で好 ンソプ:産後身痛で痛がる一部産母の骨密度 Transformative Experience, STE) として包括的に記録・調査・研究しようという機運が 転した産後風患者の治療二例、大田大学韓医 の分析、大韓韓方婦人科学会誌、第23券4号、 高まり、そのための組織が設立されたり、いくつかの先行研究が発表されたりしている。 学研究論集、第20券1号、pp.111-117、2011. pp.109-116、2010. 本稿では、日本人の子供が話した特異な胎内記憶について報告し、子供が語る胎内記憶の 67) チョヒェスク、イインソン、イスンファ 75) パクギョンソン、イユンジェ、ファンドク 中には、親の霊的変容を誘発する場合があることを示す。また、体験の影響を測る方法と ン:産後汗出過多を伴う産後風に関する例 サン、イジンム、チョジョンフン、チャンジュ して、先行研究で臨死体験や神秘体験、退行催眠時の「死の体験」の影響の強さの計測に 証報告、東医生理病理学会誌、第25券 3 号、 ンボク、イギョンソプ、イジャンフン:産後 用いられてきたLife Changes Inventory-Revisedを利用する可能性についても考察する。 pp.558-562、2011. 風患者の赤外線サーモグラフィ特性に関する キーワード:胎内記憶、中間生記憶、流産、霊的変容体験、双子 68) キムミリム、キムユンサン、イムウンミ: 研究、大韓韓方婦人科学会誌、第23券 2 号、 産後に甲状腺炎の診断を受けた産後身痛の治 pp.116-123、2010. Abstract: In recent years, it has been proposed that we should focus on common properties of 療一例、大韓韓方婦人科学会誌、第25券4号、 76) 陳自明:婦人良方大全、韓国学中央研究院 various life changing experiences such as near-death experiences, death-bed vision experiences, pp.125-133、2012. のホームページ参照「韓国民族文化大百科事 shared near-death experiences, enlightening, meeting with deceased people, mystical 69) キムナムフン、ファンドクサン、キムジン 典」最終検索日2018年4月10日 experiences, and the recall of past lives, and record, investigate, and analyze them within the ファン、パクスンヒョク、イジンム、イチャ http://encykorea.aks.ac.kr/Contents/Item/ same theoretical framework. In this new trend, these various life-changing experiences are ンフン、イギョンソプ、チャンジュンボク: E0024523 referred to as "spiritually transformative experience (STE)." 産後風と鑑別すべき出産後の関節リウマチ患 77) 裵元植:最新漢方臨床学、pp.678-680、ソ In this paper, I would like to report an intriguing case of two Japanese children who talked 者の一例報告、大韓韓方婦人科学会誌、第25 ウル:南山堂、1981.(37番 崔銀洙他、p.253. about their prenatal memories: One talked about "life-between-life" and "past-life memories," 券4号、pp.105-112、2012. より抜粋) and the other about "womb" and "life-between-life memories. Their words were life changing for 70) イヨンヒョ:少陰人産後関節痛患者、体形 〔受付日:2018年2月28日〕 the mother and hearing the children talk about these memories can be regarded as an instance 四象学会誌、第23券、pp.58-59、2013. 〔受理日:2018年5月12日〕 of spiritually transformative experiences. This paper also considers the possibility of utilizing the Life Changes Inventory-Revised developed by Bruce Greyson and Kenneth Ring to assess the effect of the experience. Keyword: Prenatal Memory, Life-Between-Life Memory, Miscarriage, Spiritually Transformative Experience (STE), Twins

※〒487-8501 愛知県春日井市松本町1200 中部大学人間力創生総合教育センター Tel. 0568-51-1111 Fax. 0568-51-1141 e-mail: e-mail: [email protected] ORCiD: 0000-0003-3294-7920 e-Rad: 70213642

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でご主人のダイスケさん(ナツキちゃん・コウ Ⅰ.はじめに キ君の父親、1975年7月生まれ)に話を聞いた。 近年、臨死体験やお迎え体験、臨死共有体 面談(Skypeでの面談を含む)は録音・録画を、 験、悟り、故人との邂逅、神秘体験、過去生記 電話インタビューは録音を行い、書き起こした 憶の想起といった、人生観を一変させるような ものを元データとした。また、本調査の協力者 現象を霊的変容体験(Spiritually Transforma- であるマキコさんはナツキちゃんとコウキ君 tive Experience, STE)として包括的に記録・ の発言について、発言時に記録を取り、その一 調査・研究しようという機運が高まっている。 部をFacebookの記事として公表しているので、 この流れは、2009年のAmerican Center for the インタビューの際にはそれらについても内容を Integration of Spiritually Transformative Expe- 確認した。 rience(ACISTE) 1)の設立や、2012年のEternea: 霊的変容体験を誘発する現象は多様であり、 The Convergence of Science & Spirituality for 体験そのものを統一的に測るのは容易でないと Personal & Global Transformation2) の設立に 考えられる。しかし、体験後の人生観や生き方 つながった。2012年には代表的な研究者の一人 の変化に焦点を絞れば、多様な体験に見出され である Nancy Clarkが関連する体験を集めた る共通性を明らかにする尺度を開発し、この分 Divine Moments: Ordinary People Having Spiritually 野の研究を発展させることが可能になると考え Transformative Experiencesを出版し3)、2012年 と られる。本論文ではそのような尺度の開発につ 2013年、2014年には、International Association いて詳しく考察する余裕はないが、尺度候補の for Near-Death Studiesの機関誌であるJournal of ひとつとしてLife Changes Inventory-Revised Near-Death StudiesにおいてACISTEの大会に関 を取り上げ7)、参考までに調査対象者の数値を する特別号が出版された4)-6)。 提示したい。 本稿では、日本人の子供が話した特異な胎内 記憶について報告すると同時に、子供が語る胎 Ⅲ.結果 内記憶の中には、親の霊的変容を誘発する場合 マキコさんの実家は月命日に僧侶を呼び講話 があることを示す。本稿における「胎内記憶」 を聞いたりする信心深い家だったので、本人も は「過去生記憶」、「中間生記憶」、「狭義の胎内 幼い頃から仏教の教えとしての輪廻転生には馴 記憶」、「誕生時記憶」の総称である。特に指定 染みがあった。しかし、実体験というよりは一 が必要な場合には総称としての「胎内記憶」で 般的な知識としての認識であり、過去生記憶や はなく「過去生記憶」、「中間生記憶」のように 中間生記憶、また人が使命を持って生まれてく 呼ぶことにする。 るといった概念には全く馴染みがなかった。 大学で政治学を学んだ後、マーケティングの Ⅱ.調査対象と調査方法 分野で働き始めたマキコさんは銀行員の夫と結 対象は、女児ナツキちゃん(2010年10月22 婚後、シンガポールで生活をしていた。二回の 日生まれ)と男児コウキ君(2013年 1 月 9 日生 流産の後、2010年10月に長女のナツキちゃんが まれ)の母親のマキコさん(1980年 4 月生ま 誕生。ビジネスの分野で順調な業績を上げてい れ)。ナツキちゃんとコウキ君の語る「胎内記 たマキコさんは、出産・子育てに関しても明確 憶」の調査の一環として、マキコさんから話を なビジョンを持っており、子どもは親がしつけ・ 聞いた。2017年5月にメールおよびFacebookの 教育すべきものであると信じていた。 messengerで何度かやり取りをした後、5 月13 ところが、母乳の出が悪かったり、感受性が 日にコウキ君と一緒に面談を行った。また、翌 強く一度泣き出すとなかなか泣き止まないナツ 日 5 月14日にSkypeを通して、ナツキちゃんと キちゃんの対応に苦慮するなど、思い描いてい 一緒に話を聞いた。さらに5月18日には、電話 た子育てのパターンに合わない毎日にイライラ

― 14 ― 人体科学27-(1):13-22,2018 大門:子供が語る胎内記憶によって誘発された霊的変容体験

でご主人のダイスケさん(ナツキちゃん・コウ し、「母親失格」という思いすら抱くほどであっ Ⅰ.はじめに キ君の父親、1975年7月生まれ)に話を聞いた。 た。 近年、臨死体験やお迎え体験、臨死共有体 面談(Skypeでの面談を含む)は録音・録画を、 そんな2012年春、夫の仕事の関係で家族は日 験、悟り、故人との邂逅、神秘体験、過去生記 電話インタビューは録音を行い、書き起こした 本に戻ることになった。帰国後も仕事を続けよ 憶の想起といった、人生観を一変させるような ものを元データとした。また、本調査の協力者 うと考えたマキコさんは就職活動を行い、仕事 現象を霊的変容体験(Spiritually Transforma- であるマキコさんはナツキちゃんとコウキ君 が決まりかけた頃に予定外の妊娠が判明した。 tive Experience, STE)として包括的に記録・ の発言について、発言時に記録を取り、その一 馴染みのあるビジネスの世界に戻れると思って 調査・研究しようという機運が高まっている。 部をFacebookの記事として公表しているので、 いたマキコさんは「なぜこのタイミングで!」 この流れは、2009年のAmerican Center for the インタビューの際にはそれらについても内容を と大きな衝撃を受けた。病院でエコー検査を受 Integration of Spiritually Transformative Expe- 確認した。 けた時(2012年5月28日)の医師の診断は「三 rience(ACISTE) 1)の設立や、2012年のEternea: 霊的変容体験を誘発する現象は多様であり、 つ子のようにも見えるが、自然妊娠で三つ子と 図2 2012年6月4日のエコー写真 (双子が写っている) The Convergence of Science & Spirituality for 体験そのものを統一的に測るのは容易でないと いうのも珍しいし、もう少し様子をみましょ Personal & Global Transformation2) の設立に 考えられる。しかし、体験後の人生観や生き方 う」というものであった。この時のエコー写真 つながった。2012年には代表的な研究者の一人 の変化に焦点を絞れば、多様な体験に見出され が図1である。 である Nancy Clarkが関連する体験を集めた る共通性を明らかにする尺度を開発し、この分 Divine Moments: Ordinary People Having Spiritually 野の研究を発展させることが可能になると考え Transformative Experiencesを出版し3)、2012年 と られる。本論文ではそのような尺度の開発につ 2013年、2014年には、International Association いて詳しく考察する余裕はないが、尺度候補の for Near-Death Studiesの機関誌であるJournal of ひとつとしてLife Changes Inventory-Revised Near-Death StudiesにおいてACISTEの大会に関 を取り上げ7)、参考までに調査対象者の数値を する特別号が出版された4)-6)。 提示したい。 本稿では、日本人の子供が話した特異な胎内 記憶について報告すると同時に、子供が語る胎 Ⅲ.結果 図3 2012年6月11日のエコー写真 内記憶の中には、親の霊的変容を誘発する場合 マキコさんの実家は月命日に僧侶を呼び講話 があることを示す。本稿における「胎内記憶」 を聞いたりする信心深い家だったので、本人も んはその診断に喜ぶと同時に「もう一人(ある 図1 2012年5月28日のエコー写真 は「過去生記憶」、「中間生記憶」、「狭義の胎内 幼い頃から仏教の教えとしての輪廻転生には馴 (矢印は池川明博士による追加) いは二人)が流れてしまったのは妊娠が分かっ 記憶」、「誕生時記憶」の総称である。特に指定 染みがあった。しかし、実体験というよりは一 た時に『なぜこのタイミングで!』と思ってし が必要な場合には総称としての「胎内記憶」で 般的な知識としての認識であり、過去生記憶や 産婦人科医で胎内記憶研究の第一人者である まったためではないか」と罪の意識を抱き、残っ はなく「過去生記憶」、「中間生記憶」のように 中間生記憶、また人が使命を持って生まれてく 池川明博士によれば、矢印部分が胎嚢に見えな た一人は何としても無事に出産しなければと決 呼ぶことにする。 るといった概念には全く馴染みがなかった。 くもないが、博士自身の判断としては内膜の出 意した。 大学で政治学を学んだ後、マーケティングの 血もしくは構造の乱れではないか、ということ しかしながら、不育症との診断を受けたた Ⅱ.調査対象と調査方法 分野で働き始めたマキコさんは銀行員の夫と結 である(私信、2018年1月)。 め、マキコさんは実家に戻り、ナツキちゃんの 対象は、女児ナツキちゃん(2010年10月22 婚後、シンガポールで生活をしていた。二回の その後、少し出血があり何かおかしい、と感 世話を両親に頼り、治療を受けながらの妊娠期 日生まれ)と男児コウキ君(2013年 1 月 9 日生 流産の後、2010年10月に長女のナツキちゃんが じていたマキコさんだったが、次の検査(2012 を過ごした。 まれ)の母親のマキコさん(1980年 4 月生ま 誕生。ビジネスの分野で順調な業績を上げてい 年6月4日、図2)では双子との診断が下され、 治療の甲斐あって、2013年1月、長男のコウ れ)。ナツキちゃんとコウキ君の語る「胎内記 たマキコさんは、出産・子育てに関しても明確 「一人は流産してしまったのかも知れない」と キ君が無事誕生した。 憶」の調査の一環として、マキコさんから話を なビジョンを持っており、子どもは親がしつけ・ の思いを抱いた。 しかし、コウキ君の誕生後もナツキちゃんと 聞いた。2017年5月にメールおよびFacebookの 教育すべきものであると信じていた。 ところが検査の後に激しい出血があり、状況 の関係は相変わらずぎくしゃくしたままであっ messengerで何度かやり取りをした後、5 月13 ところが、母乳の出が悪かったり、感受性が を重く見た医師は手術による中絶を提案した。 た。 日にコウキ君と一緒に面談を行った。また、翌 強く一度泣き出すとなかなか泣き止まないナツ 医師を説得し数日の猶予を得たマキコさんが そんな2014年5月15日、幼稚園に行くのを嫌 日 5 月14日にSkypeを通して、ナツキちゃんと キちゃんの対応に苦慮するなど、思い描いてい 週明け(2012年 6 月11日、図 3)に検査を受け がって大泣きするナツキちゃん(3歳6 ヶ月) 一緒に話を聞いた。さらに5月18日には、電話 た子育てのパターンに合わない毎日にイライラ ると「一人残っている」とのことで、マキコさ に対してマキコさんは感情を爆発させ、思わず

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こう訴えてしまった:「ママはね、ナッちゃん う一人は流産してしまった胎児を、「もう一人 が生まれて来る前からずっとママのところに来 の女の子」は三つ子が疑われた時に存在してい てくれるのを待ってたんだよ!」これに対して、 たであろう胎児を指しているように思われた。 「ナッちゃんもね、空の雲の上からずっとママ この発言の3日後、ナッちゃんは雲の上の様子 見てたの。ママ大好きだよーって、ジャーンプ の絵(図4)を描いているが、そこには二人の したの。それでね。ママのとこにきたの。でも コウちゃんとナツキちゃん、そして女の子が描 1 回戻ったんだ。2 回来たんだよ!」との返事 かれている。また、雲の上には「かみさまとや が返ってきた。もちろん、ナッちゃんが生まれ くそくする場所」があり、そこで生まれた後に る前に二回流産していたことは伝えていなかっ 何をするかちゃんと約束できた人が母親のとこ た。「1回戻ったんだよ。2回来たんだよ!」と ろに来ることができるのだと言う。 いう言葉に、ナツキちゃんが心底自分を愛して それから19日後の 6 月 4 日、3 歳 6 ヶ月のナ 生まれてきてくれたんだと感動して泣くマキコ ツキちゃんはさらに次のような印象的な話をし さんに対して、ナッちゃんは「ママ泣かなくて ている。 もいいよ。ナツキがいるよ、大好きだよ」と ・ 生まれる前は「ニホンバラ」という場所で、 語った。 死んだ人を助けていた。 次の日(5 月16日)、雲の上の話について訊 ・ 前世では病院で命を助けていた。人を助ける ねてみると、「雲の上にはね、コウちゃん(弟) ために生まれてきた。 とコウちゃんがいて、一緒にママのとこ行こう ・ 前世ではママのおかあさんだった。自分の子 ね、ってゆってたの。あとね、もう一人女の子 供(今のママ)が心配で心配で来た。 がいたよ」との返事が返ってきた。 ・ 弟のコウキ君が「ナッちゃん先にどうぞ」と この言葉は、マキコさんにとってさらなる衝 言ったので、先に生まれてきた。 撃であった。ナッちゃんが述べた「コウちゃん ナツキゃんの上記の発言によって、自分の子 とコウちゃん」の一人は弟のコウちゃんを、も 供観・人生観は180度変わった、とマキコさん

図4 3歳6 ヶ月のナツキちゃんが描いた雲の上の様子 (文字はマキコさんが記入)

― 16 ― 人体科学27-(1):13-22,2018 大門:子供が語る胎内記憶によって誘発された霊的変容体験

こう訴えてしまった:「ママはね、ナッちゃん う一人は流産してしまった胎児を、「もう一人 は語っている。肉体を超えた世界があり、子ど は三つ子のうちの二人)のことを思い出して落 が生まれて来る前からずっとママのところに来 の女の子」は三つ子が疑われた時に存在してい もはその世界から目的を持って親の元にやって ち込むことが多かった。2017年 4 月 6 日、マキ てくれるのを待ってたんだよ!」これに対して、 たであろう胎児を指しているように思われた。 くる独立した魂であり、親が何かを教え込む必 コさんとナツキちゃん、コウキ君が居間にいた 「ナッちゃんもね、空の雲の上からずっとママ この発言の3日後、ナッちゃんは雲の上の様子 要はなく、むしろ、子どもの方が自分に何かを 時のことである。流産のことを思い出したマキ 見てたの。ママ大好きだよーって、ジャーンプ の絵(図4)を描いているが、そこには二人の 教えようとしてくれている。今では臨死体験や コさんが自分を責める気持ちになっていると、 したの。それでね。ママのとこにきたの。でも コウちゃんとナツキちゃん、そして女の子が描 過去生記憶といった霊的変容体験の個別例にあ 一人遊びをしていたコウキ君が目も合わせずに 1 回戻ったんだ。2 回来たんだよ!」との返事 かれている。また、雲の上には「かみさまとや る程度の知識を持つようになった現在のマキコ こう発言した。「ママ、あのね、あの女の子は が返ってきた。もちろん、ナッちゃんが生まれ くそくする場所」があり、そこで生まれた後に さんに、それらを包括する霊的変容体験という ね、僕に訊いたんだよ。お姉ちゃんと仲良くで る前に二回流産していたことは伝えていなかっ 何をするかちゃんと約束できた人が母親のとこ 概念を説明した後、「ご自身の体験をspiritually きる?って。それでね、僕できるよ、って答え た。「1回戻ったんだよ。2回来たんだよ!」と ろに来ることができるのだと言う。 transformative experienceと 呼 ん で も い い で たの。そしたら、行っていいよって代わってく いう言葉に、ナツキちゃんが心底自分を愛して それから19日後の 6 月 4 日、3 歳 6 ヶ月のナ しょうか」と訊ねたところ、英語に堪能なマキ れたの。女の子はまた空に戻って行ってね、他 生まれてきてくれたんだと感動して泣くマキコ ツキちゃんはさらに次のような印象的な話をし コさんは「まさにその言葉がぴったりの体験で のお母さんのところに行くから大丈夫だよって さんに対して、ナッちゃんは「ママ泣かなくて ている。 した」と返答している。 ゆってたよ。」さらに、コウキ君の発言を聞い もいいよ。ナツキがいるよ、大好きだよ」と ・ 生まれる前は「ニホンバラ」という場所で、 マキコさんが持つようになったこの新たな人 たナツキちゃんが、発言し、二人の間で次のよ 語った。 死んだ人を助けていた。 生観を強化する役割を果たしたのが、「胎内記 うな会話が交わされた。 次の日(5 月16日)、雲の上の話について訊 ・ 前世では病院で命を助けていた。人を助ける 憶」をテーマにした映画『かみさまとのやくそ ねてみると、「雲の上にはね、コウちゃん(弟) ために生まれてきた。 く』であった8)。「 お か あ さ ん を 選 ん で / 使 命 を ナツ キちゃん:「2 人の女の子は、弟くんと とコウちゃんがいて、一緒にママのとこ行こう ・ 前世ではママのおかあさんだった。自分の子 持って、生まれてきた」と語る子どもたちの姿 私が仲良くしているのを見れるのが嬉し ね、ってゆってたの。あとね、もう一人女の子 供(今のママ)が心配で心配で来た。 に接したマキコさんは、自分に何を伝えようと いからいいんです、ってゆってたね。」 がいたよ」との返事が返ってきた。 ・ 弟のコウキ君が「ナッちゃん先にどうぞ」と しているのだろう、という観点から子ども達の コウ キ君:「1 人しかこれなかったけどね。 この言葉は、マキコさんにとってさらなる衝 言ったので、先に生まれてきた。 言動に注意を払うようになったという。 代わってくれて、よかったね。」 撃であった。ナッちゃんが述べた「コウちゃん ナツキゃんの上記の発言によって、自分の子 一方、弟のコウキ君の方も大変印象的な発言 ナツ キちゃん:「1 人しかこれなかったけど とコウちゃん」の一人は弟のコウちゃんを、も 供観・人生観は180度変わった、とマキコさん をしている。 ね。代わってくれて、よかったね。」 2015年 3 月 4 日、お風呂に入っている時に 2 コウ キ君:「うん、嬉しかった。その女の子 歳1 ヶ月のコウキくんは「コウキ、ママのおな たちはママの中で死んじゃったけど、ま かいたよ」と「狭義の胎内記憶」について話し た空に戻ったら会えるんだよ。」 始め、「トンネル、くぐってきたの」と「誕生 時記憶」について語り、「雲からきたの」と「中 「ママの中で死んじゃった」という表現にマキ 間生記憶」について語った。さらに「ママ、心 コさんが動揺すると、それを察したかのように なかったからきた。心に入れなかった」と続け ナツキちゃんが「ママのおなかで死んじゃった たが、「心なかった/心に入れなかった」とい というかね、そういうことになってたの。」と う言葉は特にマキコさんの胸を打った。と言う コメントした。 のも、コウキ君を身ごもった時、ナツキちゃん マキコさんが二人の発言について、二人の了 との関係に悩んでいたマキコさんはまさに「心 解の上でFacebookでシェアしたところ、投稿 のない状態」にあり、コウキ君はそんな母親を を読んだ何人かからお礼の言葉が届いた。マキ 心配してやって来てくれた、と思わずにはいら コさんが二人に対して「ナッちゃんやコウちゃ れなかったからである。 んのお話を読んだ人が『ありがとう』ってお礼 さらに、コウキ君は、4歳3 ヶ月の時に次の を言ってくれたよ」と告げると、二人からは「な ような発言をしてマキコさんを驚かせている。 んでありがとうなの?」の返事。マキコさん 2017年になって、マキコさんは双子、あるい が「おなかで死んじゃった子の話なんて聞くこ は双子の親と知り合う機会が何度もあり、流産 とないから、聞けてママも嬉しかったし、そう 図4 3歳6 ヶ月のナツキちゃんが描いた雲の上の様子 (文字はマキコさんが記入) してしまった子供(双子のうちの一人、あるい 思う人もいるんだと思うよ」と言うと、二人は

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驚いた様子で「え? 聞けないの? 知らない に消失しつつあることを垣間見る出来事であっ の?」と答えた。二人にとっては、肉体を失っ た。 た存在との交信は珍しいことではなく、それが できない人がいる、ということが驚きであった Ⅳ.体験後の影響 ようである。 II節で述べたように、霊的変容体験を誘発す 筆者がマキコさんを通してコウキ君にインタ る多様な現象自体を統一的に測るのは困難であ ビューを依頼した時も、コウキ君は同様の「驚 るが、体験後の人生観や生き方の変化に焦点を き」を表明している。マキコさんがコウキ君に 絞れば、多様な体験に見出される共通性を明ら 「大学の先生がコウキ君の知ってる雲の上の話 かにする尺度の開発は可能ではないかと考えら を聞きたいって言ってるんだけど、お話しして れる。本節では、そのような尺度候補のひとつ くれるかな」と尋ねたところ、コウキ君は「先 としてLife Changes Inventory-Revisedを取り

7) 生なのに(雲の上の話を)知らないの!?」と 上げ 、参考として、マキコさんに回答しても 驚いたそうである。 らった数値を提示する。 このような明確な胎内記憶を有する子供たち Life Changes Inventory-Revisedは、Bruce も、その多くは就学期頃を境に急激に記憶を失 Greyson博士とKenneth Ring博士によって、臨 くしていくことが多い9)。筆者はSkypeを通し 死体験による人生観・生き方への影響力の大き てのインタビューの際に、ナツキちゃんの記憶 さを測る尺度として開発された7)。しかし、臨 が薄れつつあることを示す場面に遭遇した。図 死体験を測る尺度としてだけでなく10)、神秘体 4を見せながら、雲の上でかみさまとやくそく 験の影響を測る尺度として用いられたり11)、退 してからこの世に生まれてくる、と説明してく 行催眠時における「死の体験」の影響を測るた れるナツキちゃんに対して、筆者は「じゃあナ めの尺度として用いられており12)、多様な体験 ツキちゃんは何を約束して生まれてきたの?」 によって誘発された霊的変容体験を測る尺度候 と尋ねた。「ナツキはねぇ」と元気よく答えか 補として有望であると思われる。 けたナツキちゃんであったが、はっとした表情 マキコさんによるLife Changes Inventory- になり、驚いた様子のまま小さな声で「忘れ Revisedの各項目への回答および集計結果は、 ちゃった」と呟いた。それまでは「人を助けに それぞれ、表1、表2に示す通りである。なお、 来た」、「命を救いに来た」、「ママが心配で来た」 Life Changes Inventory-Revisedの質問項目は などと元気よく語っていたが、その記憶が急激 英語であるが、マキコさんは英語に堪能である

表1 Life Changes Inventory-Revisedの各項目に対する回答 1. My desire to help others has Increased 2. My compassion for others has Increased 3. My appreciation for the “ordinary things of life” has Strongly Increased 4. My ability to listen patiently to others has Increased 5. My feelings of self-worth have Strongly Increased 6. My interest in psychic phenomena has Increased 7. My interest in organized religion has Decreased 8. My reverence for all forms of life has Increased 9. My concern with the material things of life has Increased 10. My tolerance for others has Increased 11. My sensitivity to the suffering of others has Increased 12. My interest in creating a “good impression” has Increased 13. My concern with spiritual matters has No Change 14. My desire to achieve a higher consciousness has Strongly Increased 15. My ability to express love for others openly has Strongly Increased

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驚いた様子で「え? 聞けないの? 知らない に消失しつつあることを垣間見る出来事であっ 16. My insight into the problems of others has No Change の?」と答えた。二人にとっては、肉体を失っ た。 17. My appreciation of nature has Strongly Increased 18. My competitive tendencies have Decreased た存在との交信は珍しいことではなく、それが 19. My religious feelings have Increased Ⅳ.体験後の影響 できない人がいる、ということが驚きであった 20. My spiritual feelings have Increased ようである。 II節で述べたように、霊的変容体験を誘発す 21. My concern with the welfare of the planet has No Change 22. My understanding of“what life is all about” has Strongly Increased 筆者がマキコさんを通してコウキ君にインタ る多様な現象自体を統一的に測るのは困難であ 23. My personal sense of purpose in life has Strongly Increased ビューを依頼した時も、コウキ君は同様の「驚 るが、体験後の人生観や生き方の変化に焦点を 24. My belief in a higher power has Increased き」を表明している。マキコさんがコウキ君に 絞れば、多様な体験に見出される共通性を明ら 25. My understanding of others has Increased 26. My sense of the sacred aspect of life has Increased 「大学の先生がコウキ君の知ってる雲の上の話 かにする尺度の開発は可能ではないかと考えら 27. My ambition to achieve a higher standard of living has Decreased を聞きたいって言ってるんだけど、お話しして れる。本節では、そのような尺度候補のひとつ 28. My self-acceptance has Strongly Increased くれるかな」と尋ねたところ、コウキ君は「先 としてLife Changes Inventory-Revisedを取り 29. My desire for solitude has No Change 7) 30. My sense that there is some inner meaning to my life has Increased 生なのに(雲の上の話を)知らないの!?」と 上げ 、参考として、マキコさんに回答しても 31. My involvement in family life has Strongly Increased 驚いたそうである。 らった数値を提示する。 32. My fear of death has Strongly Decreased このような明確な胎内記憶を有する子供たち Life Changes Inventory-Revisedは、Bruce 33. My concern with the threat of nuclear weapon has No Change も、その多くは就学期頃を境に急激に記憶を失 Greyson博士とKenneth Ring博士によって、臨 34. My desire to become a well-known person has Increased

9) 35. My tendency to pray has Strongly Increased くしていくことが多い 。筆者はSkypeを通し 死体験による人生観・生き方への影響力の大き 36. My openness to the idea of has Increased 7) てのインタビューの際に、ナツキちゃんの記憶 さを測る尺度として開発された 。しかし、臨 37. My empathy with others has Strongly Increased が薄れつつあることを示す場面に遭遇した。図 死体験を測る尺度としてだけでなく10)、神秘体 38. My concern with ecological matters has No Change 39. My involvement with my church/religious community has No Change 4を見せながら、雲の上でかみさまとやくそく 験の影響を測る尺度として用いられたり11)、退 40. My interest in self-understanding has Strongly Increased してからこの世に生まれてくる、と説明してく 行催眠時における「死の体験」の影響を測るた 41. My inner sense of God’s presence has Strongly Increased れるナツキちゃんに対して、筆者は「じゃあナ めの尺度として用いられており12)、多様な体験 42. My feelings of personal vulnerability have Strongly Decreased 43. My conviction that there is a life after death has Increased ツキちゃんは何を約束して生まれてきたの 」 によって誘発された霊的変容体験を測る尺度候 ? 44. My interest in what others think of me has Decreased と尋ねた。「ナツキはねぇ」と元気よく答えか 補として有望であると思われる。 45. My concern with political affairs has No Change けたナツキちゃんであったが、はっとした表情 マキコさんによるLife Changes Inventory- 46. My interest in achieving material success in life has No Change 47. My acceptance of others has Increased になり、驚いた様子のまま小さな声で「忘れ Revisedの各項目への回答および集計結果は、 48. My search for personal meaning has Increased ちゃった」と呟いた。それまでは「人を助けに それぞれ、表1、表2に示す通りである。なお、 49. My concern with questions of social justice has No Change 来た」、「命を救いに来た」、「ママが心配で来た」 Life Changes Inventory-Revisedの質問項目は 50. My interest in issues relating to death and dying has Increased などと元気よく語っていたが、その記憶が急激 英語であるが、マキコさんは英語に堪能である 表2 Life Changes Inventory-Revisedの集計結果

表1 Life Changes Inventory-Revisedの各項目に対する回答 Value Cluster 本調査 Goza et al.(2014) Ohkado & Greyson Schneeberger (to appear) (2010) 1. My desire to help others has Increased Total* 1.1 1.07(±0.36) 1.13(±0.55) NA 2. My compassion for others has Increased Appreciation for Life 1.5 0.77(±1.00) 1.15(±0.76) 1.28(±0.38) 3. My appreciation for the “ordinary things of life” has Strongly Increased Self-Acceptance 2.0 0.50(±0.79) 1.30(±0.69) 1.14(±0.63) 4. My ability to listen patiently to others has Increased Concern for Others 1.1 0.43(±0.86) 1.15(±0.70) 1.22(±0.53) 5. My feelings of self-worth have Strongly Increased Concern with Worldly 0 -0.25(±0.57) -0.36(±0.86) -0.48(±0.53) 6. My interest in psychic phenomena has Increased Matters 7. My interest in organized religion has Decreased Concern with Social 0 NA 0.38(±0.68) 0.81(±0.67) 8. My reverence for all forms of life has Increased Values/Planetary Values 9. My concern with the material things of life has Increased Quest for Meaning/Sense of 1.5 0.57(±0.91) 1.26(±0.69) 1.17(±0.63) 10. My tolerance for others has Increased Purpose 11. My sensitivity to the suffering of others has Increased Spirituality 1.2 0.73(±0.97) 1.14(±0.83) 1.16(±0.70) 12. My interest in creating a “good impression” has Increased Religiousness 0.5 0.40(±1.20) -0.48(±0.98) 0.01(±0.92) 13. My concern with spiritual matters has No Change Appreciation of Death 1.3 NA 1.12(±0.65) NA 14. My desire to achieve a higher consciousness has Strongly Increased Others 0.4 NA NA NA 15. My ability to express love for others openly has Strongly Increased

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ため、原文のまま回答してもらった。 を送るべく模索中である。その軌跡は、臨死体 表2では、本調査の結果に加え、先行研究 験をはじめとするSTEの経験者の多くが社会的 における臨死体験10)、退 行 催 眠 12)、神 秘 体 験 11) 成功を目指す人生から霊的に意義のある人生へ の数値を挙げてある。表1における回答の の転換を志向するようになるという変化を思い "Strongly Increased" に は "2 点" が、"Increased" 起こさせる。本研究で紹介した事例は、我が子 には"1点"が、"No Change"には"0点"が与えら が語る「胎内記憶」に接した親が体験する人生 れる。一方、"Strongly Decreased"には"-2点"が、 観・価値観の変化を一種のSTEとみなすべきで "Decreased" には "-1 点" が与えられる。Totalは、 あることを明確に示していると思う。 絶対値のみを考慮した場合の平均点であり、数 ここで、STEの引き金に関する問題について 値は"0"から"2"の間に収まる。Appreciation 付記しておきたい。STEは必ずしも臨死体験の for Lifeは 項 目 3、8、17、26の 平 均、Self- ような肉体的な極限状態によって引き起こされ Acceptanceは 項 目 5、28、40の 平 均、Concern るわけではない。STEに関する報告をまとめた for Othersは 項 目 1、2、4、10、11、15、16、 Nancy Clark博士によれば、STEが生じた状況 25、37、47の 平 均、Concern with Worldly は、休息中、仕事中、遊んでいる時、祈ってい Achievementは 項 目 9、12、18、27、34、44、 る時、瞑想中、運転中、テレビを視聴中、電話 46の 平 均、Concern with Social/Planetary で話をしている時、など雑多であり3)、子供と Valuesは21、33、38、45、49の平均、Quest for の対話という状況はSTEの引き金として考えら Meaning/Sense of Purposesは項目22、23、30、 れないものではない。 48の 平 均、Spiritualityは 項 目13、14、20、24、 およそ1万人の女性を対象に行ったインター 41の 平 均、Religiousnessは 項 目 7、19、35、39 ネット調査において、子供が語る胎内記憶につ の平均、Appreciation of Deathは項目32(逆転 いて多くの母親が親子関係にとって肯定的な影 項目)、43、50の平均、その他は項目6、29、 響があった、と答えているが 9)、その中にはお 31、36、42の平均である。 そらくマキコさんが体験したような劇的なもの 合計点(Total)より、臨死体験や退行催眠 も含まれていると思われる。実際、筆者がこれ 時の「死の体験」における平均点の変化と同様 まで調査・報告した中の二事例(ユメリちゃん の「体験後の変化」が観察される。また、先行 の事例とココちゃんの事例)では一種の精神的 研究同様、世俗的な事物への関心(Concerns 極限状態で子どもが語った胎内記憶によって with Worldly Matters) に関する数値と他のク 母親の人生観・世界観が大きな変容を遂げてお ラスターの数値との間に差がある点も、他の体 り13), 14)、本論文で紹介した事例と同じような事 験の平均と類似している。一事例の数値を他の 例であったと推察される。したがって、今後、 先行研究の数値と同列に論じることはできない 本研究で示したような方法を用いて、霊的変容 が、今後、子供が語る胎内記憶によって生じた 体験という観点からも胎内記憶について探求し 霊的変容体験の影響を大規模に調査する際に利 ていくことが必要であろう。 用する尺度候補としてLife Changes Inventory- 最後に、胎内記憶を霊的変容体験として統 Revisedを検討する価値があると言えるのでは 一的に扱う際の課題について一点付言してお ないかと思う。 きたい。霊的変容体験の代表例のひとつであ る臨死体験については、Bruce Greyson博士に Ⅴ.考察と結語 よるNear-Death Experience Scale15)やKenneth マーケティングの分野で活躍・成功を収めて Ring博 士 に よ るWeighted Core Experience きたマキコさんは、子ども達の胎内記憶に接し Index16)のように、体験そのものの特徴や深さ たことで人生観を大きく変え、自分が地球に生 を測る尺度が考案され、研究に利用されている。 まれて来た使命について考え使命に沿った人生 同様に、神秘体験については、体験の内容・深

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ため、原文のまま回答してもらった。 を送るべく模索中である。その軌跡は、臨死体 さを測る尺度としてRalph W. Hoodが開発した Having Spiritually Transformative Experiences. 表2では、本調査の結果に加え、先行研究 験をはじめとするSTEの経験者の多くが社会的 Mystical Scale(Research Form D)17), 18)が使わ Fairfield, IA: 1stWorld Publishing, 2012. における臨死体験10)、退 行 催 眠 12)、神 秘 体 験 11) 成功を目指す人生から霊的に意義のある人生へ れている。過去生記憶については、Jim Tucker 4 ) Journal of Near-Death Studies 31(2), Special の数値を挙げてある。表1における回答の の転換を志向するようになるという変化を思い によってStrength of Case Scale19)が考案されて Issue: Inaugural Conference Papers of the "Strongly Increased" に は "2 点" が、"Increased" 起こさせる。本研究で紹介した事例は、我が子 いる。 American Center for the Integration of Spiritually には"1点"が、"No Change"には"0点"が与えら が語る「胎内記憶」に接した親が体験する人生 本研究の調査対象となった、子供の語る胎内 Transformative Experiences, Part 1, 2012. れる。一方、"Strongly Decreased"には"-2点"が、 観・価値観の変化を一種のSTEとみなすべきで 記憶によって誘発された霊的変容体験について 5 ) Journal of Near-Death Studies 32(3), Special "Decreased" には "-1 点" が与えられる。Totalは、 あることを明確に示していると思う。 も、今後事例を集めた上で、いずれは体験を測 Issue: Inaugural Conference Papers of the 絶対値のみを考慮した場合の平均点であり、数 ここで、STEの引き金に関する問題について る尺度を構築していくことが必要であろう。 American Center for the Integration of Spiritually 値は"0"から"2"の間に収まる。Appreciation 付記しておきたい。STEは必ずしも臨死体験の Transformative Experiences, Part 2, 2013. for Lifeは 項 目 3、8、17、26の 平 均、Self- ような肉体的な極限状態によって引き起こされ 謝辞 6 ) Journal of Near-Death Studies 33(3), Special Acceptanceは 項 目 5、28、40の 平 均、Concern るわけではない。STEに関する報告をまとめた 本稿の内容は、DOPS Meeting(2017年 8 月 Issue: 2013 Conference Papers of the American for Othersは 項 目 1、2、4、10、11、15、16、 Nancy Clark博士によれば、STEが生じた状況 29日、於バージニア大学)および人体科学会 Center for the Integration of Spiritually Transfor- 25、37、47の 平 均、Concern with Worldly は、休息中、仕事中、遊んでいる時、祈ってい 第27回年次大会(2017年10月21日、於上智大 mative Experience, 2014. Achievementは 項 目 9、12、18、27、34、44、 る時、瞑想中、運転中、テレビを視聴中、電話 学)での口頭発表に大幅な加筆修正を加えた 7 ) Greyson, B. and K. Ring: The Life Changes 46の 平 均、Concern with Social/Planetary で話をしている時、など雑多であり3)、子供と ものです。発表の場で貴重なコメントをいた Inventory-Revised. Journal of Near-Death Valuesは21、33、38、45、49の平均、Quest for の対話という状況はSTEの引き金として考えら だいたBruce Greyson博士、Jim Tucker博士、 Studies, 23(1), pp. 41-54, 2004. Meaning/Sense of Purposesは項目22、23、30、 れないものではない。 Edward Kelly博士、小野早希恵さん、マキコ 8 ) 荻 久 保 則 男( 監 督 ): か み さ ま と の や く そ 48の 平 均、Spiritualityは 項 目13、14、20、24、 およそ1万人の女性を対象に行ったインター さんを紹介してくださったMichiko Bakerさん、 く(映画)、2013. 41の 平 均、Religiousnessは 項 目 7、19、35、39 ネット調査において、子供が語る胎内記憶につ エコー写真に関して専門家の立場から助言をく 9 ) Ohkado, M.: Children's Birth, Womb, の平均、Appreciation of Deathは項目32(逆転 いて多くの母親が親子関係にとって肯定的な影 ださった池川明博士、本論文に対して貴重なコ Prelife, and Past-Life Memories: Results of 項目)、43、50の平均、その他は項目6、29、 響があった、と答えているが 9)、その中にはお メントをくださった2名の匿名査読者、そして an Internet-Based Survey, Journal of Prenatal 31、36、42の平均である。 そらくマキコさんが体験したような劇的なもの 調査に全面的にご協力いただいた、マキコさん and Perinatal Psychology and Health 30(1), pp. 合計点(Total)より、臨死体験や退行催眠 も含まれていると思われる。実際、筆者がこれ とご家族の皆さまに感謝申し上げます。 3-16, 2015. 時の「死の体験」における平均点の変化と同様 まで調査・報告した中の二事例(ユメリちゃん 本研究は、中部大学倫理審査委員会の承認 10) Goza, T. H., J. M. Holden, and L. Kinsey: の「体験後の変化」が観察される。また、先行 の事例とココちゃんの事例)では一種の精神的 を受けています(「出生前記憶を語る子どもの Combat Near-Death Experiences: An 研究同様、世俗的な事物への関心(Concerns 極限状態で子どもが語った胎内記憶によって 実態に関する研究」、承認番号:260100、およ Exploratory Study. Military Medicine, 179 with Worldly Matters) に関する数値と他のク 母親の人生観・世界観が大きな変容を遂げてお び「Spiritually Transformative Experienceに (10), pp. 1113-1118, 2014. doi: 10.7205/ ラスターの数値との間に差がある点も、他の体 り13), 14)、本論文で紹介した事例と同じような事 関する研究」、承認番号:280114)。本研究の一 MILMED-D-14-00051 験の平均と類似している。一事例の数値を他の 例であったと推察される。したがって、今後、 部は中部大学の特別研究費(29IL206A) および 11) Schneeberger, S.: Unitive/Mystical Experi- 先行研究の数値と同列に論じることはできない 本研究で示したような方法を用いて、霊的変容 Helene Reeder Memorial Fund for Research ences and Life Changes(Unpublished Doctoral が、今後、子供が語る胎内記憶によって生じた 体験という観点からも胎内記憶について探求し into Life After Deathの助成を受けています。 Dissertation), University of Northern Colo- 霊的変容体験の影響を大規模に調査する際に利 ていくことが必要であろう。 rado, Greeley, CO., 2010. 用する尺度候補としてLife Changes Inventory- 最後に、胎内記憶を霊的変容体験として統 【引用文献】 12) Ohkado, M. and B. Greyson: A Comparison Revisedを検討する価値があると言えるのでは 一的に扱う際の課題について一点付言してお 1 ) American Center for the Integration of of Hypnotically-Induced Death Experiences ないかと思う。 きたい。霊的変容体験の代表例のひとつであ Spiritually Transformative Experience: and Near-Death Experiences, to appear る臨死体験については、Bruce Greyson博士に https://aciste.org/ in the Journal of International Society of Life Ⅴ.考察と結語 よるNear-Death Experience Scale15)やKenneth 2 ) Eternea: The Convergence of Science Information Science. マーケティングの分野で活躍・成功を収めて Ring博 士 に よ るWeighted Core Experience & Spirituality for Personal & GLobal 13) 大門正幸:過去生退行催眠療法による症状 きたマキコさんは、子ども達の胎内記憶に接し Index16)のように、体験そのものの特徴や深さ Transformation: http://srgiesemann.wixsite. 軽減効果と類似した特徴を示す自然発生再生 たことで人生観を大きく変え、自分が地球に生 を測る尺度が考案され、研究に利用されている。 com/sept3suzanne/eternea/ 型事例.『中部大学全学共通教育部紀要』第2号, まれて来た使命について考え使命に沿った人生 同様に、神秘体験については、体験の内容・深 3 ) C l a r k , N . : Divine Moments: Ordinary People pp. 9-21, 2016.

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14) 大門正幸: 誕生前・誕生時記憶を語る子供 Scientific Study of Religion, 14, pp. 29-41, 1975. たち~日本における三つの事例.『中部大学 18) Hood, R. W.: Dimensions of the Mysticism 全学共通教育部紀要』第3号, pp. 13-27, 2017. Scale: Confirming the Three-Factor Structure 15) Greyson, B.: The Near-Death Experience in the United States and Iran. Journal for the Scale: Construction, Reliability, and Validity. Scientific Study of Religion, 40(4), pp. 691-705, Journal of Nervous and Mental Diseases, 171(6), 2001. pp. 369-375, 1983. 19) Tucker, Jim: A Scale to Measure the 16) Ring, K.: Life at Death: A Scientific Strength of Children’s Claims of Previous Investigation of the Near-Death Experience, New Lives: Methodology and Initial Findings,” York: Coward, McCann & Geoghegan, 1980. Journal of Scientific Exploration 14(4), pp. 571- 17) Hood, R. W.: The Construction and 581, 2000. Preliminary Validation of a Measure of 〔受付日:2018年2月20日〕 Reported Mystical Experience. Journal for the 〔受理日:2018年5月22日〕

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